#配信兄者と笑わない馬鹿
長期連休が終わると何が起こるか。
当然、両親の帰宅だ。
当然か?
普通は毎日帰ってくるもんなんだろうけどな。
芸術家とは名ばかりの自営業のため、親父の業務は際限がない。
個展を開くこともあればデザイン関係の話を地方でしてくることもある。
そんな事実上の住所不定で無制限職務な親父のスケジューリングとマネジメントを一挙に担うおふくろは余計に気味が悪い。
一応、いい意味で。
そんな最高にイカれた夫婦が帰って来た。
といっても俺の生活は大して変わらん。
「兄者〜、パパは〜?」
「寝た」
「はやっ!え〜おみやげは〜?」
「キッチンのテーブルに山積みだったぞ」
「いえ〜い!あけてくる〜」
ドアからひょっこりと半端に出していた首を引き抜き、愚妹は階段を降りていく。
多忙故、我らが親父は大体帰ったら寝てる。
ただ娘溺愛のバカ親もとい親バカだからな。
毎度こうして行った先々の土産でキャリーケースを圧迫して来るわけだ。
一方おふくろは買い物だ。
さすがに帰ってきた時くらいは休めとも思うが、親としての最低限の責任は果たすと言われては返す言葉もない。
お言葉に甘えて平日の夕方からゲーム三昧だ。
LIME
おふくろ『欲しいものある?』
愚妹『プリン!』
おふくろ『もうカゴに入ってる』
俺『置いてこい』
おふくろ『冷蔵庫のプリン少なくなかった?』
俺『普通の冷蔵庫にプリンは二桁もない』
おふくろ『他には?』
愚妹『甘いジュース』
俺『バニラ的な何か』
おふくろ『コーラとアイスね』
愚妹『それ〜』
俺『エスパーかよ』
俺のはともかく、愚妹のは定義上ジュース無限択だぞ。
あとおふくろ、天狗のスタンプは腹立つからやめろ。
付き合い=年齢の親だが、よく分からん人だ。
何考えてるか分からないあたり、流石は愚妹の母と言える。
……いや、愚妹は何も考えてないわ。
その日の夜は久しぶりのおふくろの味を口にした。
といっても、鍋に家庭の味とかあんま無い気がするが。
やかましい父と愚妹の会話の隣で、おふくろに最近どう?などと初歩も初歩なトークデッキを振られた。
あまり話さない知人かな?
当たらずとも遠からず。
「特に何も」
「へぇ」
「なんだよ」
別に、最近は何も無い。
愚妹がテレビ出たかと思えば音無と知り合い。
姉御に宣戦布告されたかと思えばバンドを組み始め。
気が付けば企業Vによる歌謡祭で何故かドラムを叩き。
ゴールデンウィークはほぼ全てが夜斗とゲームするか配信に出るかの二択だったが、語るようなことはない。
つい一昨日には寝不足でP.Sの兄貴分とか要らぬ称号まで送り付けられたが、まあこの理不尽はいつも通りといって差し支えない。
よって、特に何も。
じゃねぇな。
なんだこのハードスケジュール。
俺はバトル漫画の主人公か?
つか姉御もいつの約束覚えてんだよ。
ほぼ1ヶ月空いた話だし、その間に配信じゃなくリアルで飯とか食ってんぞ。
まぁ、俺が逃げ回ってたんだがな。
そんなこと知る由もないおふくろは、意味ありげに笑う。
「だって、最近楽しそうじゃない」
「は?何をい──」
「さあね?兄者」
「…………」
なん……だと……?
【ストーリーウルフ】これは騙し合いのゲームだ!【甘鳥椿、春風桜、八重咲紅葉、兄者】
「とりあえず、主催者をぶっ潰すってことで趣旨あってるか?」
「合ってないッスね!何にも合ってないッス!」
コメント:敵は運営
コメント:このゲームには必勝法がある定期
コメント:兄者の秋山感は異常
例によって前情報のないゲームが始まる。
まずはそれぞれ用意した話をする。
その話は嘘でも本当でもいい。
会議の後、投票で嘘の話をしているプレイヤーを多数決で決める。
吊られた奴の話が嘘ならそいつの負け、本当ならそいつの勝ちだ。
つまり絶妙に嘘っぽいストーリーが必要になる。
ただの実話では指名すら入らないからな。
ちなみに一人一つ以上ウソをつかなければいけない。
その辺は読み合いもある。
「待ておい。どう考えても事前準備要るじゃねぇか」
「そのくらいのハンデは欲しいッス」
「ハンデってか無理ゲーだよな。即興で何を語れと」
「何とかしてくれるって、ツバキは信じてるッスよ!」
「ま〜兄者だしね〜」
「よし、ある事ない事暴露してやろう」
「兄者さん、やるんだな!?今!ここで!」
「……八重咲、それ負けフラグだからやめろ」
コメント:ラ〇ナー!!!
コメント:勝負は今ここでつける!
コメント:負け覚悟の暴露は怖すぎるw
コメント:試合に負けても勝負に勝つ男
コメント:すでに兄者が勝ってて草
そんな訳で一回戦。
クズ、オタ、バカの後に俺が来る。
要約すると、前回のプリズムシフトは──
甘鳥、頑張って親子丼作ったのに炊飯器がないとかいうポンコツをやらかす。
愚妹、初めてのお使いでメモを忘れ、諦めて好き放題お菓子を買って来る。
八重咲、ネタがディープ過ぎでオタクに引かれる。
以上の豪華3本だ。
よくもまぁこれだけリアルなのに嘘くさい内容を持ってこれたもんだ。
「さ、次は兄者さんです」
「兄者って意外とウソヘタだったりするし〜楽勝かな〜」
「そうなんッスか?」
「なんか、けっこうわかるよ〜?」
「その割に騙されてる気がしますけどね」
「とりあえず一個思い出したから話すわ」
「では、兄者先輩!どうぞ!」
これは俺が学生時代の話だ。
強制でやらされる部活が長引いて、その日の帰り道はやけに暗かった。
嫌な曇り空のせいもあっただろう。
ただ一番の理由は、いつもとは違う道を選んでいたからだ。
用事があったわけじゃなく、なんとなくそういう気分だった。
少し遠回りになるから、途中で何か買おうと思った。
丁度見つけたコンビニで悩みもせずにコーラを購入。
散々走ったあとだったから、すげぇ喉に染みたのを覚えてる。
寄り道ってのは案外楽しいもんで、意外な発見も多かった。
まぁ細かく何がとは思い出せないけどな。
それからしばらくして、またふと回り道したくなった日があった。
別の道を選んでも良かったが、今日は明るいし前とは違う景色が見れるかもとか思ってな。
あの日と同じ道を帰った。
まぁ、結局特に何かを見つけたってことはなかったけど。
「ただ、一つだけ不思議なことがあったんだよ」
「不思議なことですか?」
「ああ。んで気になって色々調べてみたんだが──」
「「「…………」」」
「俺が入ったはずのコンビニは、存在しなかったんだよ」
「「きゃああああああああああ!!!」」
「わあああ!ビックリしたぁ!」
コメント:ぎゃあああああああ
コメント:耳が……
コメント:音が、消えた
コメント:あれ?イヤホン壊れた?
コメント:ほん怖かよ!
「なんなんッスか!?なんで急に怖い話するんッスか!?バカなんッスか!?」
「テーマはフリーだったろ」
「兄者さんのバカ!誰がホラーも可って言いました!?この鬼!鬼〇覇!」
「最終的にただの強いクリーチャーになったぞ」
「死ね兄者〜ば〜か〜!」
「死ねとか人に言うな。そんな風に育てた覚えはねぇ」
「それ兄者先輩が言うんッスか」
「俺がそういうこと普段から言ってるってか?死ね」
「言ってるッスよ!今はっきりと!」
コメント:いつもの
コメント:ヘッドは強い
コメント:口悪い兄妹
コメント:親の顔が見て見たい
コメント:これは兄者が悪い
コメント:兄者が悪いな。いいぞもっとやれ
その後もギャーギャー喚く二人を無視して進行し、俺に1バツがついた。
ネタばらしでもないが、作り話だからな。
何セットかまだあるし、残りで勝てば問題ない。
「次は兄者先輩から話して貰うッスよ!あんなふざけた話考える時間あげないッスから!」
「ホラーで天丼は受けねぇだろ」
「ホラーはそもそも受けませんから!!!」
「んじゃ、この前音無と飯食いに行った時の話でもするか」
「え、いつ行ったの〜?」
「結構前だな。んで、ラーメン食いに行ったんだが」
「女の子連れてラーメン行くの〜兄者だな〜」
「黙れ歩くチャーシュー」
「アタシお肉じゃないから〜!」
「俺の好きな店でいいって言われて、半分冗談で連れてったんだが、あいつ普通に入るんだよな」
「多分それ、入るしかないだけですね。杏ちゃん、一人じゃ逃げられないので」
「逃げれんついでに俺と同じメニューにしたんだよな、音無。ちょっと引いたわ」
「え……あの、兄者さん?まさか……」
「大盛りの硬め濃いめ多めニンニクマシマシ野菜大チャーシューダブル」
「クソ兄者さん!正気ですか!いや正気じゃなくてもやっちゃダメですよそれは!」
「え、何この呪文〜……」
「食わせたんッスか?音無先輩に、二郎系を……!」
「あれは引いたな」
「引いてるのはこっちッスけどね!」
「結構ドン引きですよ兄者さん!?」
「ね〜、意味わかんない呪文の説明してよ〜」
「待て、最後まで聞け。というのもだな、音無のやつ、完食したんだよ」
「なん……だと……!?」
「有り得なくないッスか!?その注文の品をッスか!?」
「だから説明してよ〜!なんでテンション上がってるのかわかんないんだけど〜!?」
コメント:うそだろ
コメント:明らかにおかしい話
コメント:一周まわって本当っぽい
コメント:兄者ならもっとマシな嘘をつく……?
コメント:マジかなっしー
コメント:大盛りで野菜増しだぞ?そんなバカな
コメント:音無ちゃん大食いだっけ
コメント:兄者がド畜生過ぎるw
「んで、次は誰だ?」
「じゃあ逆順で、桜先輩お願いしまッス!」
「ラーメンの話まだよくわかってないんだけど〜」
「安心しろ。説明してもお前には分からん。絶対に」
「なんで絶対を強く言った〜!」
「いいから先進めっての」
「む〜。ま、いっか〜」
「いいんッスね……」
「切り替えの速さが凄いんですよね、桜ちゃん」
「前に国語のテストで0点取ったんだけどさ〜」
「嘘だろってならねぇな」
「ならないッスね」
「うん、これはならないです」
「でもね〜これひどいんだよ〜。アタシはちゃんと答え書いて0点にされてたんだよ〜」
「まぁ、だろうな」
「でしょうねって感じッスね」
「まぁ、続き聞きましょうか」
「違うくて!ちゃんと合ってたの!なのにね〜アタシの名前の漢字が間違ってたから0点にされたの〜!」
「解説の兄者先輩、どう思いますか?」
「やりかねん」
「そこまで酷いことありますか!?」
「ね〜ひどいよね〜」
「お前の頭がな」
コメント:これはひどいw
コメント:義務教育の敗北
コメント:そんなことあるwww
コメント:本名『薔薇』とか?
コメント:姫なら桜書けなくても納得する
コメント:名前白紙でゼロはわかるが……
コメント:ひらがなで書いてさえいれば
「次は八重咲だが」
「これはわたしの友だちの話なんですが──」
「ダウト」
「まだ何も言ってないじゃないですか!」
「と言われてもな……」
「その入りで嘘じゃないわけないッスよね!」
「そういうテクニックですよ!ブラフですよブラフ!」
「いや、ブラフってか……」
「兄者〜、もしかしてカン〜?」
「勘も何も、お前、とも──」
「やめましょうか!やめましょうね!やめてください本当に!それ以上言ったらどうなるか分かりませんよ!わたしが!!!」
コメント:それ以上はいけない
コメント:やめて!八重咲のライフはゼロよ!
コメント:鬼か
コメント:だって八重咲……友が……
コメント:イマジナリーフレンドがいるかもしれないだろ!
コメント:その幻想をぶち殺す
コメント:誰も信じてないwww
結局、配信の裏話を語った。
最初からそう言えよ。
内容自体は他愛のないもので、アキネーターに真偽を聞かれたらどちらとも言えないと答えるような話。
甘鳥のは、いいか。
興味ないね。
「どうするか。一番本当っぽいのが愚妹の話になってしまった」
「常識的には嘘すぎてもうわかんないッス」
「杏ちゃん、そういえば結構食べますよね……」
「兄者でしょ〜」
「根拠はなんだ」
「なんとなく〜」
「お前このゲーム向いてねぇわ」
「投票終わったッスね。吊られるのは、桜先輩ッス!」
「え〜マジ〜!?」
「それでは、この話は嘘ッスか?本当ッスか?」
「これはウソだよ〜」
「そうか。それはよかった」
「流石にでしたね」
「ほぼ賭けだったッスよ」
「0点にはされてないよ〜。赤ペンでバツってして直されたけど〜」
「「ウソなのそっち!?」」
「はぁ…………このアホは……」
コメント:そっちかいwww
コメント:くそデカため息w
コメント:ほぼ実話じゃねぇか!
コメント:なんでやねん
コメント:そうじゃねぇだろ普通!
コメント:0点ってこと盛らなくてもいいわ!
コメント:桜くらい書けてくれ……
コメント:小学一年生の話だよな!そうだよな!
コメント:もうひらがなだけで生きていこうか
ちなみに音無ラーメン暴食事件も嘘だ。
あいつとラーメン行ったことない。
行ったとしても勧めねぇよ。
その後数回の対戦を経て、一番嘘を見抜かれて負けたのが甘鳥となった。
八重咲は終始安定したデッキを持ってくるし、愚妹はアホすぎてもう分からんからな。
俺も安全策で以降は嘘ついてない。
結果、実はまともなサイコパスが負けるのは自然だな。
今回罰ゲームは決めてない。
まぁしかし、事前準備必須の枠に飛び入り参加させたお前を俺は許さない、とだけ思っておこう。
今日も平和にコラボは終わった。
先日、身バレをした。
と言ってもおふくろにだけだが。
世間の流行とかYouTubeの話題はめちゃくちゃチェックしてるらしく、そこに引っかかったらしい。
その辺親父は抜けてるからな。
まぁそれ以前に、口座を管理してる段階で愚妹のVTuber活動もバレているようだが。
リアルで会うリスナーには身バレしていない俺だが、おふくろ曰く、モードで態度も声もはっきり変わるから知らないと分からないもの、だそうだ。
俺はフォルムチェンジ型らしい。
LIME
音無『前に配信で言ってたラーメンっておいしいの?』
俺『教えたら俺が姉御に殺される』
音無『なんで!?』
まぁ、倫理的に。