#陰キャ少女とドS男
時は平日、今は昼。
ラーメンを啜りながら、いつものように目も合わせずに俺は言う。
「倉元、例えば俺の幼馴染が超有名人になったとして」
「いきなり超設定だな」
「懐かしのあの人は──みたいな番組に呼ばれたらそれは副業だろうか」
「さすがに違うだろー。うちのはアルバイトとか他社の社員になる以外は基本おっけーだし」
「そうか」
「なんだー?もしかしてそういう予定がー」
「ほら、備えとくに越したことはないだろ」
「確かになー!」
ソーダヨナー、セーフダヨナー。
予定どころか経験になってしまったが、まぁどうにかなっている。
例のコラボ案件のことだが。
確かメンバーのガチャ実装は来週からだったか。
流石に全員集合は無理なようで、スミレさん・音無・愚妹の三人がプレイアブルでガチャに出るらしい。
詳しくは俺も知らんが、固有ストーリーの中で他のP.Sメンバーも声の出演はしているとか。
夜斗と甘鳥は収録してたのにキャラ実装無し。
なんか、いつも通りの扱いだよな。
まぁ今回の収益次第では続々と他メンバーも出るんだろう。
P.Sコラボ第一弾ってのが裏でのタイトルっぽい。
心が広いなスカファン運営。
まぁ素人を公式番組で司会に使っても、拍手喝采でスタンディングオベーションする会社だ。
面構えが違う。
双方に続編希望があるのか、はたまたキャラクターの兼ね合いかは知らんが、P.Sの代表共も登録者が上位のメンツだしな。
元気と清楚と陰キャを出しておけば一通りのオタクは釣れる。
一人は元気というより馬鹿だけど。
最後のチャーシューを飲み込んだところで、噂の馬鹿から連絡が来た。
LIME
愚妹『今度のゲーム勝ったらこれ買って』
写真。
ケーキ?
何、誰の誕生日だよ。
普通のショートケーキかと思ったが、なるほどプリンがサンドされてるのか。
どんだけ好きなんだよ。
こいつは死んで幽霊になってもプリンを要求してくるに違いない。
前衛に立たせてタンクに使おう。
俺『どうでもいいけどお前が負けたら罰ゲームだからな』
愚妹『次はマジで勝つから』
愚妹『首を長くしてくくってろ』
俺『それただの首吊り』
腹を括らせたいのか待たせたいのかはっきりしろ。
まーた、なんか余計な自信があるな。
馬鹿なりに考えた策があるだけ、厄介だよな。
運ゲーされたら基本勝てんし。
まぁ、考えてる時点で負けてるとも言えなくはないが。
【プ〇セカ】音ゲーで兄者をボコれる日が来たぞ!【春風桜、八重咲紅葉、音無杏、兄者】
「いえ〜い!なっしーと紅葉ちゃんと今日こそ勝つぞ〜!」
「絶対にタイトルがおかしい気がする……」
「ついに音無すら騙して呼んだのか」
「人聞きが悪いですね!わたし達が今までいつ?誰を?どうやって?騙して呼んだって言うんですか」
「お前ら罰ゲームあんの覚えてんだろうな」
コメント:草
コメント:開幕からバチバチ
コメント:兄者ゴリラを倒せるビジョンが浮かばない
コメント:目隠し耳栓の姫ならワンチャン勝てる
「今日は、音ゲーを教えてもらえるって聞いて来たんだけど」
「それ、音ゲー初心者ということでは?」
「プ〇セカはした事ないよ。ゲーセンのはそもそも見た事もあんまりないし」
「ということでですね。今日は杏ちゃんに音ゲーを教える配信です」
「タイトル設定おかしいが」
「でね〜。最後は兄者を倒してもらう〜」
「馬鹿なのか?馬鹿だよな?馬鹿だったわ」
「バカバカ言いすぎ〜!」
コメント:音ゲーじゃなくて無理ゲー
コメント:心折れちゃうよ
コメント:チワワ対ゴリラ
コメント:正気の沙汰じゃねぇw
音ゲーって慣れと数なところあるんだが。
運指とかも見れねぇだろうにどうすんのか。
『プ〇セカ』は主にボカロを主体としたアプリの音ゲー。
操作も割とスタンダードで親指二本でちゃんと遊べるし、音無はそっち関連の曲も詳しいらしいからな。
入りやすくはあるだろう。
難易度はeasy、normal、hard、expert、masterの5段階。
masterはexpertをある程度の精度で出来ないと解放されない。
初期で選べるのは下から4段階だ。
「つか、誰が教えんだ?」
「それは兄者さんに決まってるじゃないですか」
「何その鷹の目システム。俺はいつ大剣豪になった」
「流石にお兄さんを倒すのは無理だと思うけど」
「そんなに嫌ならわたしが主体で教えていきますよ。兄者さんは所々で口を出していく形でどうですか?」
「まぁどっちでもいいが。つかどんだけ段取り決まってねぇんだよ」
「桜ちゃんの企画って大体こんな感じですし」
「その方が楽し〜じゃん。なんか全部決まってるとテンパるし〜」
「すまんな、音無。あとでこいつらには焼き土下座させるから許してくれ」
「や、焼き……?」
「兄者さん。それはまだ履修してないです」
コメント:利根川で草
コメント:姫焼かれるw
コメント:他は履修してるのかアンちゃん
コメント:最近オタ修行してたな
コメント:ビーストさんって音ゲーうまいの?
カ〇ジはまだ見せてなかったか。
そこは八重咲教官の訓練メニュー次第だろうし、近々習うだろう。
オタ修行ではなく音ゲー修行については、さっきの通り基本的に八重咲主導で教えることになった。
一応、愚妹も一緒に。
画面では上下で愚妹と音無のノーツ画面が映っている。
音ゲーの腕の話をするなら、八重咲は普通に上手い方だと思う。
少なくとも最難関をフルコンくらいはできるだろう。
オールパーフェクトは流石に曲次第か。
そんな訳で、八重咲の仕切りで練習が始まる。
「今から音ゲー訓練を始める!ゼロからみっちり基礎を叩き込んでやる!」
「お〜!……え、紅葉ちゃんどしたの〜?」
「何故か鬼教官してんな」
「返事はイエス・マムだ!」
「い、イエス・マム……」
「いえすまむ〜」
「声が小さい!」
「「イエス・マム!」」
「よし。いいか!貴様らは音ゲーの出来ないウジ虫だ!いや、ウジ虫以下だ!」
「え、ひど〜」
「そんなウジ虫共はまず設定画面を開け!そしてノーツ速度を8にしろ!」
「あの、紅葉ちゃ──」
「わたしの事は八重咲軍曹と呼べ!」
「や、八重咲、軍曹……」
「どうした!音無三等兵!」
「いきなり速度を上げても大丈夫なの?」
「わたしに質問するな!」
「えぇ……」
コメント:ひでぇw
コメント:なぜ海兵隊w
コメント:YESma'am!
コメント:最後のは軍隊ですらないw
コメント:不死身のライダーがおる
コメント:知らないのか八重咲は死なん
コメント:音無三等兵もそら困惑する
「おい待て八重咲軍曹」
「なんですか兄者総督」
「そこは元帥とかじゃねぇのかよ。いや説明くらいはしろって話なんだが」
「了解しました。いいか!基本的に音ゲーは難易度が高くなるほどノーツの隙間が狭くなる!それで速度が遅いと、もはやノーツの隙間は無いも同然!塊が降ってくることになるのだ!」
「な、なるほど……」
「紅葉ちゃん〜そもそもノーツってなに〜?」
「軍曹と呼べ!音に合わせてタップする表示と考えて問題ない!」
「は〜い」
コメント:八重咲ノリノリやん
コメント:兄者もノリノリやん
コメント:姫は音ゲー経験あるだろうに
コメント:質問のレベルが未経験のなっしーより低いて
コメント:既出の単語だぞ姫!
コメント:兄者総督w
コメント:判定設定はマイナス設定に慣れると楽だよな
コメント:今から慣れろの精神w
コメント:ガチの音ゲー修行で草
判定設定。
ノーツを叩いたタイミングと読み取りのタイミングをわざとズラすものだ。
ラグとか感覚を補正するものだが、どちらかと言えばパーフェクト判定になるように合わせるためのものだな。
ある程度は慣れでカバーできるし、比較的パーフェクトになりやすいマイナス補正からスタートするのは割とあり。
まぁ、人によりけりだが。
「よし!設定が終わったらまずは難易度expertの──」
「おい待てオタク軍曹」
「なんですかドS総督」
「いやドSはお前。なんでいきなりなんだよ」
「もちろん簡単な曲は選びますよ」
「そこじゃねぇって。難易度が理論値最大だろ」
「桜ちゃんは一応経験者ですし。あと、杏ちゃんなので」
「理由を語れよ」
「とりあえずドS総督。お手本をお願いします」
「まぁ、いいけども」
とりあえず、やる。
expertで難易度レベルも低めなら特にミスることもない。
普通に一曲叩いた。
ルール説明がてら、長押しとフリックについて軽く触れておく。
コメント:当然のようにAPすんなw
コメント:エキスパートだしまぁ
コメント:ゴリラだわ
コメント:これくらいは誰でも出来る
コメント:初心者にやらせるものか?
「と、こんな感じだな」
「あの、お兄さん総督」
「総督は別に要らんが」
「なんで、喋りながらできるの?」
「なんでって、まぁ簡単なやつだし」
「いいか貴様ら!音ゲー巧者のことを界隈ではゴリラと呼ぶ!これは決して悪口ではなく、人間を辞めた者への敬意の表れだ!」
「なぁ、その解説今必要だったか?ビースト軍曹」
「必要ですよ。ゴリラ総督」
「ここは動物園か」
「ゴリラお兄さん……」
「ゴリラってか〜普通にキモいよね〜」
「よし表に出ろ。頭をリンゴのつもりで握ってやる」
「潰れるじゃん!」
「潰せるの!?」
「いや、やったことはねぇから知らんが」
コメント:動物園w
コメント:兄者はゴリラだよ
コメント:ゴリラ総督はもう別人w
コメント:ゴリラお兄さんwww
コメント:決して悪口ではありません
コメント:ゴリラは褒め言葉
コメント:人間辞めてるもんね(魔王)
コメント:ドSでゴリラな総督
誰がドSなるゴリラの魔王の総督だ。
ヌルふふふとか笑うのかそいつ。
愚妹の腕前は普通に一般人の下位。
それでも普通に完走は余裕でできる難易度だが、音無は初なんだよな。
教官はいけるとか思ってるぽいが、任せようか。
コメント:なっしー?
コメント:え
コメント:初心者?
コメント:は?
コメント:初プレイだよな?
……できた。
普通に叩けてる。
まだ判定の抜けがあってオールパーフェクトではないが、多分普通にフルコンするぞこれ。
音ゲー自体がほぼ初なのに、これ?
この子、何者?
「おいなんでも知ってる軍曹」
「なんですか兄じゃじゃ総督」
「どうなってんのこれ。コソ練した?」
「杏ちゃんって、こういうセンスとかバグってるんですよね」
「リズム感ってことか」
「それもありますし、絶対音感とかもあるって言ってましたよ」
「あのコミュ障は制約と誓約かよ」
「あと少し練習して慣れれば、多少ムズい曲も普通にできると思うんですよ」
「おい。これはもうバケモンとかの領域だろ」
短所と長所のバランスが取れてねぇ。
電波塔絶対壊すマンのテロリストがブチ切れるレベルだろ。
なんでこんなところでVやってんの。
お手本を見せたおかげか、曲の要所でもつまずく事無く叩けてる。
愚妹は案の定ミスってたが。
「で、できた!やった!」
「いや、うん。そうだな」
「なんか引いてる!?」
「うん。ぶっちゃけ引いてる。ドン引きだわ」
「え、どうして?あの、お兄さん……?」
「いや、さ。なぁ、どう思う教官」
「音無三等兵!もう教えることは無い!さらばだ!」
「八重咲軍曹!?」
「どうよ兄者〜。なっしーは凄いだろ〜」
「すげぇよ。本当にすげぇよ。本当に教えることねぇもん」
「え、あ、あの……企画、倒れ……?」
「ある意味放送事故だろ。まだ15分も経ってねぇのに」
コメント:ヤバすぎるw
コメント:masterやってほしい
コメント:消失やろう
コメント:兄者が手放しで褒めるレベル
コメント:これが初プレイと誰が信じるのだろう
「よ〜し、じゃあなっしー。兄者倒してこ〜」
「待って。流石にムリだよ」
「まぁ、もう何曲か練習はした方がいいな」
「そうですよねゴリラお兄さん」
「ゴリラは二度と付けるな」
「はい!ごめんなさい!」
「ちょっと気になったが、プレイ中はどの辺を見てる?」
「指の近く、とか?」
「なんでそれで叩けるのか謎だが。判定設定の時八重咲も言ってたが、基本的には画面の中央から奥にかけてを見た方がいい。反応遅れて精度下がってたから勿体ねぇ」
「あぁ、そうだった。忘れてた」
「兄者〜アタシは〜?」
「そうだな。目でも瞑れば?」
「なんも見えないじゃん!」
「まぁ、勘で打てるだろ」
「兄者さん。それはもう別ゲーです」
そんな訳で音無の成長を見届ける会が始まった。
途中から愚妹も飽きて見学組に混じってる。
しかし、すげぇな。
5曲目でexpertの難易度詐欺してる鬼曲クリアしてるし。
この子、怖いんだけど。
フルコンとかAPに関しては音ゲー特有の動きを覚えないと出来ないとは思う。
指がついてこないとか、初心者あるあるだろう。
それでもこれだけ叩けてるってのは、抜かされる日も近ぇなこれ。
その後、10曲くらい高難易度曲を回して今回は終了になった。
直接勝負という形は結局取らなかったが、同じ曲をmasterでAPしてるからまぁ結果は見えてるだろう。
三ヶ月後はどうなるか知らんが。
そんな訳で、今回は罰ゲームも無しだ。
勝負じゃなく教育だったからな。
罰ゲームと音無誘拐は別件である。
よって某後日。
【アドベンチャー・オブ・フィットネス】音ゲー修行(荒行)【春風桜、兄者】
「ぜぇ……はぁ……」
「よし10秒後休憩終了」
「みじ……かい〜……!」
「ほれ、次。全曲全難易度プレイするまで終われねぇんだから早くしろ」
「鬼〜……」
「まぁ俺は寝るけど。アーカイブ見るからサボんなよ」
「クソ兄者〜!!!」