#VTuberの無駄づかい
ポンかまして更新話数間違えた...
「兄者〜明日ひま〜?」
「中古屋に行くくらいしか用事はないな」
「買うの?」
「売るの」
「あ、じゃ〜これとか売れるかも〜」
「なんでイヤホンとかこんなあんだよ」
「無くした〜って思って買ったらあったりしてた」
「そのお飾りの眼球を換金してもらえ。ああ、ゴミは売れねぇか」
「誰がゴミだぁ!あ〜、あともらい物もいっぱいあるんだよね〜」
確かに、色々貰うよなお前は。
主に人間関係と職業柄。
それでお古は売却か。
理にかなってるし、使えるのはもったいない気もするが使わないのならゴミと変わらん。
ばっさりと売り払おう。
「で、何の用だ?」
「あ〜、そうそう。明日ね〜車で送ってほしい」
「どこまで?コンビニ?」
「テレビ局まで」
「なんで」
「アタシ、テレビ出るから」
「……まぁ、YouTubeをテレビで見るやつもいるわな」
「じゃなくて〜、地デジ化?に出るの〜」
「それはかなり前に終わった儀式だ。地上波な」
「そうそれ〜」
「いや、は?」
「え、何〜?」
「お前何言ってんの?」
「テレビ出る」
「いや、は?」
「兄者、ちゃんと聞いてる〜?」
「お前何言ってんの?」
「無限ループなんだけど〜!?」
地上波にVTuberが出る時代か。
まぁネットの影響力と若者のテレビ離れはこういうメディアにも変化を強要してくるのだろう。
とはいえ、数あるVTuberの中で愚妹とその他P.Sメンバーが選ばれるというのは、攻めすぎでは?
もっと考えた方がいいと思うぞディレクター。
この場合は監督か?
朝は10時頃。
VTuberという職業的には朝早すぎて死んじゃう時間帯。
愚妹も大学生である以上例に漏れないが、むしろ一時間早く送り付けた。
早い分には時間を潰せばいいし、俺の休日を減らしたくないし、何かやらかされるよりマシだからな。
一応テレビ局に確認を取ると既に控え室は空いてるらしく、愚妹はマネージャーに連れられて行った。
後ろ姿は宇宙人と手を繋ぐエージェントだな。
どっちがどっちかは言うまでもない。
「で、何の用だ、ボス」
『今回ばかりは本当に申し訳ない』
駐車場から出る寸前、俺に電話をかけてきたのはボスことP.S社長だった。
彼女には珍しく、その声には焦りを感じる。
『君にもう一人、送迎を頼みたいんだ』
「送迎?P.Sのライバーって事ですか」
『ああ。本当はマネージャーが車で送り届ける予定だったんだが、そのマネージャーが今朝発熱してしまった。体調がかなり悪く、連絡が遅れたらしい』
「はぁ、それで?」
『今日はサクラ、夜斗、それからもう一人出演予定なんだ』
「確か、二期生の、音無 杏……でしたっけ」
『知っているのかい?』
「愚妹に聞きました」
『なら話は早い。彼女を迎えに行って欲しい。往復でも間に合うはずだ』
「いや、タクシーとか頼めばいいでしょう」
『それは、彼女の都合があってね』
都合……?
あぁ、身バレか。
普通はタクシー運転手くらいにバレても問題はないだろうし、誰かが追ってる訳でもないはずだが。
本人の都合ってことは、それなりに込み入った事情があるということだろうか。
ボスから待ち合わせの位置情報を貰う。
距離的に結構ギリギリかもしれない。
会社から車を出していたら確実に無理だろう。
「まぁ、友人の頼みなら仕方ないですね」
『すまない。今度、また飯にでも連れて行くよ』
「俺の事を本人には?」
『あくまでぼかして伝えてある。身バレについてこちらからはしていない』
「ありがとうございます」
『いや、礼を言うのはこちらの方だ。本当に、ありがとうございます』
だいぶ前に、ドッキリを仕掛けられたことがある。
この人演技上手すぎてマジでわからなかったと思う。
けれど今回は事態が事態だ。
テレビ局という多方面まで迷惑をかけるドッキリなんてないだろう。
もしドッキリだったら渾身の男女平等パンチを撃たざるを得ない。
帰り道と真逆の方角へ車を走らせる。
20分程で目的地にたどり着いた。
その公園の入口には一人、黒髪ロングにヘッドホンをした少女がいた。
地味目の格好で、背はかなり低い。八重咲と同等かそれ以上。
ボスから聞いた特徴と一致する彼女の前に車を停める。
「え……」
「社長から頼まれた者です。君をテレビ局まで送ることになってます」
「ひぃ……」
「……あまり時間がないんで、早く乗ってくれませんか」
「あ、え……はい……!」
おどおどとした少女は慌てたように後部座席のドアを開ける。
慌てすぎて首まで下げようとしたヘッドホンを地面に落としてもいた。
余裕はないけど、そこまで焦るか?
シートベルトをした彼女は、借りて来た猫よりはるかに大人しくガチガチになって座っていた。
ミラーでそれを確認し次第すぐに車を出す。
「…………」
「……」
俺たちは初対面だ。
それに互いに裏の顔に近いものを持っている。
チラリとミラーごしに見た彼女は、あ……あ……と小さく声を出そうとしては俯いている。
根はいい子なのだろうが、コミュ障か。
スミレさんのように上手く話せなくなるタイプじゃなく、純粋に話せなくなるタイプだな。
気を遣わんでもいいのに。
「音楽とか聞いてていいですよ」
「え、あ……はい……」
さっきはついそう表現したが、彼女は少女ではない。
小柄だし声も高くて幼い印象だが、俺より年上だ。
詳しい年齢は知らないが、愚妹がそう言っていた。
だから多分年上。
リアル音無杏はこちらの様子を伺いながらヘッドホンを耳にかけた。
「……へ?え、あれ……え……?」
「……どうかしましたか?」
「あ、えっと……ヘッドホンが……壊れちゃって……」
「さっき落とした時か」
「はい……多分……」
「替えは?」
「あ、い……家に……」
「そうですか。じゃあこっちで適当に流すんで」
消音にしていた車内サウンドを再度有効にする。
ヘッドホンがあるなら自前のを聞くと思ってたから切っていたが、まさか壊れるとは。
知らん曲とか多いかもしれんが、無音よりもまだ居心地はいいだろう。
数曲のアニソンを聞き終えたところでテレビ局に着いた。
思っていたより道が空いていたのは愚妹の所持品を多めに積んでいるからだろうか。
時間にも間に合ったし、これはいい肉を奢って貰うしかないな。
だが、後ろの席から音無杏は動こうとしない。
「あの、着きましたけど」
「あ……えっと……あたし……」
鏡に映る彼女の目は、酷く脅えていた。
「何かあったんですか?」
「あ……その、えっと……これ……ないと……」
「ヘッドホン?」
「音楽……その……聞いてないと……だめで……怖くて……」
集中用アイテムか、もしくは親の形見?
あるいは精神安定剤みたいなもんか。
どっちにしろかなりテンパってるし、音楽が聞けないとまともに活動できないのか。
大丈夫なのそれ?
大丈夫じゃないな。
だからこうなってるし。
てかそもよくそんな子をテレビに出そうと思ったな。
ボスさん一回脳みそメンテに出せよ。
「……ヘッドホンにこだわりとかあるのか?」
「あ、いえ……特には……」
「じゃあそこのバッグに入ってるやつ、適当に持ってってくれ」
「え……あ、これ……これ?」
「ああ。どうせ捨てようと思ってたヤツだから、貰ってくれていい」
「え、いや……でも……あの……」
「時間がないから早くしてくれ」
「はい……!」
ピシッと軍隊のごとく敬礼でもしそうな勢いで返事をすると、音無は一番上にあったヘッドホンを持って車を降りていった。
局まで入る足取りはかなり速い。
ほとんど逃走だな。
二十数年生きてきたが、ここまで重度のコミュ障と会ったのは初かもしれない。
まさかとは思うが、タクシー呼べなかったのってそういう理由じゃねぇよな。
そういや最後の方、うっかり敬語抜けてた気がする。
何なんだろうな。
あの人の末っ子感とでも言うのだろうか。
接してると、まだまともに感じられた頃の妹と話してる気分になる。
いかんな。
これじゃ俺もかなり危ないヤツの思考だ。気をつけねば。
ヘッドホンは売るよりも捨てるつもりだったと言った方が受け取りやすかっただろう。
変な気を遣いそうだったし、できるだけ気にしないで貰いたいものだ。
残りの中古品もさっさと売ってしまおう。
……コミュ障を抜きにしても、俺と会話すること自体にかなりビビられていた気がする。
俺、そんなに怖い顔してる?
それから約半日後、夕飯前に愚妹を迎えに行った。
番組はおバカなVTuberとタレントが色々な映像を見ながらコメントするだけのシンプルな内容だったらしい。
夜斗が愚妹をどれだけフォローできたかだな。
「兄者〜!おわった〜!」
「そうか。さっさと乗れ」
「あ〜い」
「そういや、音無はどうするんだ?」
「アタシのマネちゃんが送ってくって〜」
「そうか。いやお前も送ってもらえよ」
「マネちゃん遠回りだから大変じゃん〜」
「俺は遠回りどころか無駄足だからな?」
「別いいじゃん兄者だし〜」
「よーし、殴るぞー」
「兄者〜!はやく帰ろ〜!はやく〜!今すぐ〜!」
愚妹はいつも通りだっただろうし、夜斗もまぁ予想はつく。
音無杏は、アレでどうにかなったのか?
まぁ関係ないか。
収録日からしばらく経ち、愚妹と例の番組をリアタイすることになった。
地上波ということもあってVTuberという存在自体は弄られていたが、本人たちの深い部分への追求はあまりなかった。
そのせいか、リアクションやノリも作られたもの感が出ている。
コンプラが厳しいんだろうな。
もともとの台本もあるだろうし、地上波に関しては完全なる素人ってのもあるだろう。
こいつらになら変にテーマやるより適当に振って雑なトークさせた方が面白いだろうに。
「そういえばね〜」
「あん?」
「アンちゃんがめっちゃ元気だったんだよね〜」
「元気?……あれで?」
「そうそう〜。待合室でもさ〜、なんかヘッドホン新しくしたらめっちゃ運良くなった〜って」
「そんなことあるのか」
「さ〜?でも拾ったカギが偉い人のやつで、お礼にたまたま持ってた何かのチケット貰ったって〜」
「それただの布教じゃねぇの」
「でもそれ要らないから夜斗くんにあげてたんだよね〜」
「やっちゃうのかよ」
「そしたらお返しでチョコボール貰って〜、開けたら金のエンゼルだったって〜」
「夜斗からのって時点で相当な運だな」
どんなわらしべ長者なんだか。
いや、この場合本人よりも愚妹の中古ヘッドホンに驚くべきか。
まさか豪運が物にまで宿るとは。
それもう異能力バトルとかの域じゃん。
運だよりだけどチート級に強いキャラとかいるし。
「てか、お前とか夜斗とはまともに話せるんだな」
「あ〜アンちゃんのこと〜?話したこと多い人とは話せるって言ってた〜」
「お前らそんな会ってたのか」
「アタシと夜斗くんはね〜、イベントとか番組多いし〜」
「なるほどな」
別に音無杏という一個人に興味があるわけではない。
ただアレだけ限界そうだった彼女がどうなったかは聞いてみたかった。
無事で何よりだし、絶好調なら御の字だ。
しかし、キャスティングどうなってんだろうな。
夜斗と愚妹は分かるが、なぜ彼女が?
大人しめの子を下さいとか注文があったとか。
それならスミレさんでも……やめといた方がいいな。放送事故を起こしかねん。
愚妹はノリと運でどうにかできる気がするし、夜斗は撮れ高を取るラックは高いからな。
ただし本人の不幸度数は除く。
「愚妹、充電器借りていいか?」
「兄者のそこにあるじゃん〜」
「いいから貸せ」
「なんで〜。ま〜いいけど〜」
充電モードのまま、ガチャを引いた。
ピックアップ最高レア度を2枚抜きだと……?
FG〇で……!?
八重咲に自慢したら放送コードに引っかかるレベルの罵倒が飛んで来た。
俺でもそうしたわ。