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#四月はVの嘘

 3月がもうすぐ終わる。

 それは新年度の始まりを意味し、始まりに備える最後の期間をより意識させる。

 にもかかわらず、我らが愚妹はなんら変わらない。

 ということでスマホを没収し、祖父母の家へ送り届けた。

 友人関係にはしばらく返信できない旨伝えてあるから問題は無い。

 これで終わらなかったらもう知らん。


 両親だけでなく愚妹もいない、一人暮らしのような日々は存外悪くない。

 何か問題を起こすこともないし、配信に出ることもない。

 一般人として平和な時間を謳歌できる。

 それも明日で最後だが、だからこそいつも通りゲームをしよう。

 とっくにできあがっている覚悟を再認識したも束の間、俺のスマホが鳴り響いた。

 ……八重咲かよ。


「何用だ。今0時過ぎなんだが?」

『何って、Twitterの件に決まってるじゃないですか!』

「いや、俺Twitterしてないけど」

『兄者さんのじゃないですけど、兄者さんのですよ!』

「お前何言ってんの?」

『もしかして見てないんですか!?』

「だから、Twitterやってねぇし」

『桜ちゃんのツイート見てください!』


 愚妹のスマホもパソコンもここにあるんだが?

 それに祖父母宅でそういうことはできないはず。

 見る専の誰にも認知されていないアカウントを使って検索。

 出てきた最新のツイートには一言。


『兄者、デビューするって』


 その日、(じんるい)は思い出した。

 愚妹(ヤツ)にぶち壊された日常を。










「ということで、第二回企画会議だ」

「何がということでなんだ!?」

「だから、愚妹のツイートに関することだ」

「その説明をしろよ兄者!」


 まさかこんなものを開くことになるとは思っていなかった。

 昨夜は現実逃避に眠ったが、俺の勘違いでもなければ時間が解決する案件でもないようだ。

 結果、ベテラン枠として夜斗、便利枠として八重咲を家に呼んで前回と同じく対策を練ることになった。

 なんと手間のかかることを……。


「兄者さん、スミレさんは呼ばないですか?」

「あの人の場合、まず事の重大さに気付いてない説があるからな」

「ツバキを呼ばなかったのはなんでだ?」

「事態を悪化させかねん。あとうるさい」

「後半の方が本音じゃねぇか!」


 本日0時と同時に、愚妹が予約した核爆弾ツイートが投下された。

 現在も愚妹のTwitterは大いに盛り上がっている。

 盛り上がることは別に問題ではない。

 何せ人気依存の職業、話題性があるのはいいことだ。

 問題なのは、時期。

 もっと細かく言うと、今日が3月31日であるということである。


「本当に、やりやがったなあのミラクルスペシャルウルトラスーパーメガトンバカ」

「なんの必殺技だ!?」

「サタンですね」

「え、悪魔?」

「悪魔の方がまだ可愛げがあんぞ」

「これ、どう考えてもエイプリルフールネタですよね」

「まぁ?時期的にそうだよな」

「それを前日にぶっ込むのがあのアホなんだよな」

「ならよ、明日送る日間違えた〜とか言っとけばいいんじゃねぇか?」

「お前、明日何日か分かってんの?」

「あぁ……4月1日だな」

「いっそ明日も同じ文章をツイートしてやろうか」

「この最高にフェスティバってるリスナーが納得しますかね」

「一部の過激派が暴れそうな気もするぜ?」

「マジでめんどくせぇ……」


 なんだこの、どう行動しても詰んでるやつ。

 負け確シナリオか?幼少期にゲマでも出てきたんか?

 文殊の為に三人集めたのに、意味ねーじゃん。

 冗談はエイプリルフールだけにしとけよー。

 マジで。

 今すぐお前の席ねぇからしてやろうか。


「なら、もういっそデビューしたらどう──やめろ!わかった!だから目潰ししようとすんな!」

「配信者の弱点は喉か肺だ」

「潰すのそっちかよ!」

「夜斗先輩って波紋使いだったんですね!」

「分かんねぇわ!というか助けろよ!」

「夜斗を潰すのは後にするとしてだ」

「後にもすんな!」

「お前にやることはただの八つ当たりだから問題ない」

「何も解決してねぇ!」

「夜斗先輩って蟻だったんですね!」

「それは本当に意味わかんねぇな!」

「おい、ふざけてないで真面目に考えろ」

「どう考えてもふざけてんのお前らだろ!」

「現実逃避くらいさせろよ。今ドラッグオ〇ドラグーンのエンディングくらいは絶望してんだから」

「それは死ねるな」

「よく聞きますけどDODってそんなに酷いんですか!?」

「あれはもう製作者に人の心がないとしか言えん」

「唐突に音ゲー始めるしな。初見クリアとか絶対無理だわ!」


 ホントだよな。

 鬼畜すぎる上にセリフに被らせてノーツ飛んでくるとかクリアさせる気ねぇ。

 制作理念が理不尽over the Worldだわ。

 つか、なんの話ししてんだ?

 ふざけたことを言い始めた夜斗をしばこうとしたら、それ以上に世界がふざけてるって分かったんだっけか。

 いや、ふざけてんのはあのバカだな。

 あのバカが全て悪い。


「もう他の人の意見とかも聞きませんか?」

「一応、意見だけは貰ってる」

「お、さすが兄者だな!」


 LIME


 甘鳥『ついにデビュー!待ってました!』


「殴っていいか」

「落ち着け兄者」

「これは、確かにここに呼ばれないですね……」


 菫『兄者くんもコメントしてみたらどうかな?』


「わー緊張感ないですねー」

「この人に状況説明してる余裕はない。というかこの人マジでアホなんじゃないか?」

「なぁ、ボスとかどうだ?こういう時、案外いいアイデアくれるんじゃねぇか?」

「あのボスがですか?」

「まともな回答が来る気全くしないが」

「一応聞いてみようぜ」


 ボス『面白いことになってるね!』

 ボス『You出ちゃいなyo!』


「ぶん殴っていいか」

「落ち着け兄者!」

「対岸の火事だと思いやがって。いっそ全て焼き尽くしてやろうか」

「兄者さん、リアルに魔王みたいなセリフになってます」


 なんでこうも俺の周りにまともなやつがいない。

 こいつら全員ギャグ漫画の世界観で生きてるだろ。

 恐らく爆発や十万ボルトくらいじゃ死なんな。

 世界を焼け野原にしても更地になった部屋から雑談配信する絵すら想像できる。

 人間やめてからしばらく経ってるメンタルだなそれ。


「百歩譲ってですけど、兄者さんがコメントするのは割とありじゃないですか?」

「ネタにしてしまえってことだろ?けどだいぶ経ってんぞ」

「確かにテンポは大事だよな。今から変に否定しても照れ隠しにしか見えねぇ」

「それはお前の目が腐ってるだけだ。周りが腐る前に早く捨ててこい」

「誰の目がリンゴだこら!」

「それに、変にアカウントを公開してみろ。それこそ本末転倒だろ」

「鍵垢にすればいいじゃないですか」

「火に油だ。更に変な方向に飛び火しかねんし」

「兄者、アカウントバレ……めっちゃ伸びそうなワードですね!」

「なんでウキウキしてんの?舐めてんの?」


 邪推なんてのはネットじゃ珍しくない。

 ソースのない噂が巡り巡ってトレンド入りすることすらザラにある。

 下手に俺個人が反応すると面倒事が増えかねない。

 かといって何もしなければ、……ん?


「これ何もしなくても愚妹が叩かれて終わるのでは?」

「めちゃくちゃその通りですけど!それをしない為に今悩んでるんじゃないんですか!?」

「いや、最近やれデビューしろだのボイス出せだのスパチャを投げさせろ言われて麻痺ってたけど」

「どう考えても一般人が言われる内容じゃねぇな……」

「よくよく考えたらこれ、俺に直接ダメージねぇな」

「考え直しましょう兄者さん!間接的にダメージはありますよ!多分!」

「力強く予防線張ったな」

「ほら、想像してみて下さいよ。実の妹が炎上ってキツくないですか?」

「自業自得で草」

「超他人事ですね!」

「ひでぇ兄だな……」

「転んでできた傷には自分で絆創膏を貼れと教わって来たからな」

「どんな家訓ですか!?」


 尚、そんな家訓はない。

 教育方針は似たようなもんだったが。

 つーわけで自己責任だな。

 散れ、愚妹。




















 ──と、まぁ切り捨ててもよかったんだが。

 生憎と『兄者』の存在は今も変わらずグレーゾーンを黒寄りに進んでいる。

 これ関連で問題を起こすとP.Sという一企業との戦争にすらなりかねない。

 まぁ、容認している辺りはあっちの落ち度ではあるが。

 責任を割合的に出せば9割9分9厘愚妹が悪いのだが、そもそも『兄者』がいなければ存在しないツイートであるという見方もできなくはない。

 だから9割強の内の1厘くらいは請け負うのもやぶさかではない。

 そういうわけで、上がった熱が点火しないよう燃やし放題のフィールドで戦わせてもらおう。


【デビュー配信】魔王始めました【サイサリス・夜斗・グランツ、??】


「えー、よくぞきたなおまえらー。げんだいによみがえりしまおうにしてー、P.S1きせいー、サイサリス・やと・グランツだー」


 コメント:くっそ棒読みwww

 コメント:口上すら適当やんw

 コメント:兄者やんけ

 コメント:兄者の棒読み久々

 コメント:兄者じゃん

 コメント:兄者だw

 コメント:ついに乗っ取られてて草

 コメント:敗北者定期


「ん?兄者?だれだそれー?しらんなー?」


 コメント:寄せる気すらなくて草

 コメント:白々しいw

 コメント:夜斗はクビ?

 コメント:なんつーエイプリルフールネタw

 コメント:冗談じゃなくてもいいw

 コメント:今日初見のやつめっちゃ困惑してそうw


「おいどうする?開始2秒でバレたぞ」

「似せる気すらなかったよな!てか兄者ならもっとうまくできただろ!」

「しらんなー?」

「んな喋り方した事ねぇわ!」


 コメント:本人登場

 コメント:新年度早々笑った

 コメント:兄者の雑ヤト癖になるw

 コメント:しらんなー?w


「どうせやるならちゃんとやれよ!」

「お前のテンションだるいんだよ」

「誰がダルいって!?」

「うるさい、声量がでかい。居酒屋のアルバイトか」

「知らねぇよ!」

「そこは、しらんなー?だろ」

「だから言ったことねぇわ!」


 な?誰も傷つかない世界の完成だろ?

 魔王は合法的に、タイマンでも一方的に倒せるレベルの集団でタコ殴りにしてもいい相手だからノーカン。

 これで、VTuberとしてデビュー配信をするという体裁は守った。

 まぁこれがデビュー配信かと言われたら何とも言えんが、エイプリルフールネタとしてやっていることが伝われば正直なんでもいい。

 あとはさりげなく愚妹のツイートがフライングでネタバレしてるとか愚痴っぽく言えばいい。


「そういやボスに聞いたんだけど」

「お、なんだ?」

「最近事務所でめちゃくちゃプリン食ってるってマジか?」

「食ってるっていうか、貰っていったっていうのが正しいな」

「家で食ったと」

「焼きそば食べるために甘いものを大量に用意したんだよ!」

「それは効果あるのか?」

「ねぇよりはマシな気がするぞ!気持ち的にな!」

「そうか。がんば」

「誰のせいだと思ってんだ!」

「なんだかんだパート8まで来たんだろ。もうちょっとじゃねぇか。諦めんなよ」

「だから、兄者が言うセリフじゃねぇだろ!」


 コメント:マッチポンプw

 コメント:ただのドS

 コメント:兄者のおかげであの神企画が見れるのか

 コメント:1000円 おかわり代


「おいやめろ!変な理由つけてスパチャ投げんな!」


 そして、大量のおかわり代が投下された。

 延長戦するんだろうな。

 そして一枠分、夜斗と雑談するだけの誰得配信はつつがなく幕を閉じた。



















【DOD3♯1】兄者のオススメゲームやるぞ〜【春風桜】


「みんなおはる〜。ドラッグオ〇ドラグーンやってくぞ〜!」


 コメント:兄者w

 コメント:これはw


「そう〜、なんかこれ兄者にめっちゃ勧められたんだよね〜。なんかエンディングがいっぱいあるらしくてさ〜。最後のやつはめっちゃ泣けるって言われたからね〜、頑張ってやってこ〜!」


 散々煽った上で渡したゲームだ。

 何だかんだ意地でもラストまで行くだろう。

 リスナーもいるしな。

 一応、嘘は言ってない。

 最後のは泣けるだろうな。

 鬼畜すぎて。


おまけ

各メンバーのエイプリルフールネタ


パイセン

『お酒って度数が低すぎると逆に飲めないんだよね』

コメント:実は嘘じゃない説


八重咲

『実は僕、男の子です』

コメント:あ、だから胸が……


甘鳥

『カップルチャンネルつくります!兄スミチャンネル♡本日20時〜』

コメント:マジでつくってくれ


夜斗

『今夜、俺の真の姿を見せてやろう』

コメント:転生したらスライムだった件


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― 新着の感想 ―
[良い点] DODの仕込みがきちんと最後で使われてるところ [一言] 兄者と妹の仁義無き戦い… 基本兄者が勝つんだろうけれど、天然にしか出来ない誤爆のせいでたまに困る兄者が楽しい。
[一言] スライムになったらパワーアップしちゃうじゃないか(そりゃもういろんな意味で)
[一言] DODの音ゲーは本当に鬼畜だった。 兄貴が諦めて当時中学生の自分が夏休みを削って死に覚えでクリアーしたのは今でも耳に残るトラウマ あの連弾が寝ようとすると聞こえてくるんだ…
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