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#ホラゲ配信はオフコラボとともに

「はーい、みんなおはるー。P.S二期生、春風桜だよー。そしてー」

「どうも。同期の八重咲紅葉です」

「はぁ……」

「はぁ……」

「今日は予告した通り、ホラゲやっていきまーす」

「はぁ……」

「はぁ……」


 コメント:テンションひっくw

 コメント:五秒に一回ため息つくなw

 コメント:相当嫌なんだろな

 コメント:真昼間からホラゲ配信してる時点でお察し

 コメント:いつもとテンション違いすぎて誰だ感

 コメント:何をするんだー?ってタイトルで知ってるけど


「はーい。今日は、『蒼鬼』ってゲームやってくよー。……クリアまで。はぁ……」

「兄者さんが持ってたゲームだね……一応、そんなに怖くないって言ってたし……」

「そーそー。兄者は3時間くらいで終わるって言ってた。……だから4時間くらいかな……」

「……ねぇ、今からでも違うゲームしない?」

「兄者、ルールとか約束事とかに厳しいんだよねー……」

「はぁ……」

「はぁ……」


 コメント:逃げ場がねぇw

 コメント:クリアできるか?

 コメント:怖がって最初から動けん説

 コメント:ところで兄者はおらんの?

 コメント:監視役はどこだ


「あー、兄者はねー。どっか行った。用事あるーとか言って。まー、オフコラボ嫌だってだけだと思うけど」

「わたし、嫌われてる?」

「そんなことないと思うよー。アタシと紅葉ちゃんどっちが大事って聞いたら八重咲って即答すると思う」

「そうなんだ。なんかごめん」


 コメント:テンションが低いんじゃ

 コメント:お通夜ムード全開

 コメント:500円 香典

 コメント:誰の葬式やw

 コメント:500円は安すぎw

 コメント:落とされ続けたカ○ビィの供養を

 コメント:一ヶ月忌


「……やろっか」

「そうだね……」

「「はぁ……」」














 時刻は3時。無論、午後である。

 昼の12時から妹と八重咲のオフコラボが始まるので、それより先に家を出た。

 ブラブラと時間を潰して、俺は約束の場所へと向かう。

 何それかっこいい。どっかの勇者みたい。

 まぁ、俺の称号はドSゲーマーDV魔王だけど。

 泣ける。


 どデカいビルの一角にあるカフェテリア。

 社内喫茶とでも言うのだろうか。

 そこで待ち合わせになっている。

 なんで俺は他社の喫茶店に来たのか。

 理由はこの人だ。


「初めまして、というには知りすぎてるんだけどね。こんにちは、兄者くん」

「初めまして、社長さん」


 P.S事務所社長。

 高身長にラフな格好。長い髪は後ろで一本にまとめられているまさに美人。

 敏腕の変人女社長様だ。


「いいよ、硬っ苦しいのは嫌いだから。私のことはボスと呼んでくれ」

「自分は御社の社員ではないんですが」

「硬っ苦しいなぁ。まいいよ。話は簡潔だから。──僕の下で働いてみないか?」

「丁重にお断りします」


 まぁ、そういうことだ。

 愚妹の配信に乱入してからはや一ヶ月。

 ついに本元の大元からお声がかかったのだ。


「そっかー残念」

「そこをなんとか、とか言わないんですね」

「そりゃね。無理はできないよ。無理はよくない。やる気がないならやらせないよ」

「なんというか、意外です」

「そうかい?まーそうかな。私は凡人だけど、君たちみたいな子には変に見えるんだろうね」


 あの妹を制御してVTuberとして成立させてる化け物が何を言っているのだろう。


「あなたは十分に天才に見えますよ」

「世辞はいいよ。本当の天才は、どうしようもなくおかしいからね。私は常識人だよ」

「うちの愚妹をVTuberにしたあなたがですか」

「彼女だって天才さ。天才は変人だ。長所より遥かに大きな短所を抱えている。けれどその長所を生かせると、変人は天才と呼ばれるんだよ」

「うちの愚妹が……?どうですかね」

「君だってそうだ。君は手加減する癖があるようだけど、それは君が君自身の長所を怖がっているから。と私は思うよ」


 配信は見たことがあるらしい。

 妹とも連絡を取ると言っていた。

 彼女は間違いなく敏腕の女社長。人を見る目はあるだろう。

 そんな人から褒められるのは、うれしくもある。

 でも、こんなお世辞で調子に乗るほど馬鹿じゃない。


「あなたに何が分かるんですか」

「分かるよ。いつも変人と一緒だったからね。私は変人を天才にしてあげたいだけさ。そのために長所を生かせる場所を作ってあげたいだけ。君も気が向いたら声をかけてくれ。いつでもウェルカムだよ」


 変人か。

 ん、変人?

 変人で思い出したわ。失礼だな。

 この人、ママにそっくりじゃん。


「あの……」

「おや?電話が鳴ってるようだけど」


 失礼、と席を外してスマホを開く。


「もしも──」


『あぁにぃじゃァァァ!!!』


 グッバイ、右耳。

 マジで鼓膜がお亡くなりになるわ。

 間違いなく号泣している愚妹からのコールだった。


「でけぇ声出すな。何、ゴキブリでも出た?」

『ゴキブリよりやだぁ!鬼怖いぃ!』

「いやそういうゲーム」

『もう無理ぃ!先行きたくないぃ!おうちかえるぅ!!!』

「おうちってそこお前の家、お前の部屋、Your room、OK?」

『のぉおぉ〜!!!』


 どうやら限界らしい。

 既に配信して3時間は経っている。

 コメント見て攻略するのもありと言ってある。

 それでこの電話。

 ……まさか、まだスタート地点とか言わねぇよな。


「ちなみにどこまで進んだ?」

『台所ぉ……鬼、出るとこぉ』

「序盤も序盤じゃねぇか」


 このゲーム、『蒼鬼』はオーソドックスなホラゲーだ。

 鬼から逃げながら館からの脱出を目指す。

 鬼からは一定時間館内を走り回ってれば逃げられる。

 八重咲もいるから大丈夫だと思ってたが、まさか謎解きが進まない以前の問題だとは……。


「八重咲に代われる?」

『……、……あぁにぃじゃァさぁん!!!』

「ダメだこれ」


 実は得意、なんてこともなかった。

 愚妹と同レベとはさすがに想定外。

 これはちょっと申し訳ねぇ。

 いや罰ゲーム決めたのはあっちだけども。

 放ったらかしはやりすぎたか?


「わかった、そっち行く」

『あぁにぃじゃァさぁん!』

「八重咲、落ち着け。取り敢えず深呼吸しような」


 収まる気配なかったので切った。


「すみません、急用ができました」

「ああ、いいよ。わざわざ土曜に呼んですまないね」

「いえ。あの、最後にひとついいですか?」

「なんだい?」

「もしもうちの妹がやらかしたら、どうします?」

「基本的には任せるよ。逃げるも抗うも応援する。でも本当に大変なら、守ってあげるさ」


 何このイケメン。俺が女だったら惚れてたかもしれん。

 こんな人が撮れ高ヨロシク☆とか言ってんの謎。



 帰宅してすぐ、妹の部屋へと向かう。

 帰りにざっと飲み物と菓子を買ったし、気が紛れてくれるといいんだが。

 トントンと二回ノック。


「「きゃあァァァ!!!」」


 そんなジャストタイミングで悲鳴上がるか。


「大丈夫かー?」

「バカ兄者ァ!!!ビックリするじゃん!」

「だからノックしたんだけど」

「ノックする前に知らせてよ!」

「んな無茶な」


 コメント:何のためのノックw

 コメント:あれ?ミュートになった?

 コメント:音なくね?

 コメント:マイク落としたんかな

 コメント:ここまで鼓膜破裂ニキ


 理不尽極まりない愚妹を無視していると、マイクの前で震えている少女と目が合った。

 八重咲、か?

 随分と小柄で、見た目だけなら中学生でも通じそうだ。愚妹よりちっちゃいな。もちろん背が。

 てかさっきから声も出せないほど怯えてんだけど。


「俺、そんな怖い顔してる?」

「怖いからぁ!顔も怖いしやってる事も酷いし、これクリアとか無理だからぁ!」

「後半俺関係ねぇ」

「兄者のバカ!鬼!蒼鬼!」

「ただの罵倒じゃん」


 なんで呼ばれて来たのに罵倒されてんの俺。

 てか、なんやかんやでこれオフコラボ成立してないか?

 折角トラブル防止でリアルでは会わんようにしたんだが。


 怯える八重咲が俺の顔に慣れる(涙)までしばらく待ち。

 俺がゲーム操作して二人が観覧する形になった。

 ゲームが進まない理由は、鬼が出た段階で二人ともパニクって逃げられずにゲームオーバーになるからだそうで。

 出るって分かってんだから慣れろよ。

 極度のホラー虚弱体質の二人にはどうしようもない不治の病らしい。


 そんなわけで、ゲームはほぼ強制的に進行していく。

 これゲームか?


「あ、鬼来た」

「「きぃゃぁァァァ!!!」」

「耳が……」

「来るなら来るって言ってって言ったじゃん!!!」

「分かった分かった」

「もうやだ……怖いぃ……」

「八重咲ー、頑張れー、あと少しだ」

「あとどれくらいですか……?」

「あと、二時間くらい」

「兄者バカなん!?バカ兄者!アホ!鬼!」

「鬼畜!ドS!魔王!」


 コメント:紅葉ちゃんにすら罵倒されてんの草

 コメント:むしろご褒美

 コメント:兄者そこ代われ

 コメント:助けに来たのに散々な言われようの兄者

 コメント:ほぼ強制的に話進むから逃げられない桜紅葉

 コメント:姫虐に次ぐ八重虐……

 コメント:2000円 紅葉ちゃんに罵られると聞いて

 コメント:ドMニキ帰ってどうぞ


 俺はMじゃないんだが。

 前にこのゲームはプレイしてるし、流れも凡そ分かっている。

 出るのを予告して鬼が来ても何も面白くないと思うが、まぁいいか。


「鬼来るぞー」

「「いぃやぁァァァ!!!」」

「結局かよ」

「遅いから!!!心の準備とかできないじゃん!」

「これそういうゲーム……」

「兄者のバカ!鬼!蒼鬼!」

「外道!悪魔!冷血漢!」

「八重咲、やめてくれ。愚妹の語彙のなさが露見してる。可哀想だ。俺が」


 コメント:姫のボキャブラリーの無さw

 コメント:身内の恥は痛かろう

 コメント:紅葉ちゃんホラーよわよわなのすこ

 コメント:兄者そろそろ耳やられて聞こえてないのでは

 コメント:お前らイヤホン外しとけよ

 コメント:手遅れ

 コメント:マイク越しではなく間近で聞いてる兄者のメンタルどうなってんの

 コメント:真のドS

 コメント:この状況を楽しめるのはSなのかMなのか

 コメント:間とって魔王じゃね?

 コメント:どうとったw


「もうちょい早めに言えばいいんだな」

「兄者さん……できれば止まって欲しいです……」

「わかった。あ、鬼」

「「きゃあァァァ!!!」」

「こっちの声にビックリするわ」

「言ってて言ったばっかじゃん!」

「いやこれランダム出現」

「それ見越して言っといてよ!兄者のバカ!鬼!きちく!」

「無理難題……。あとそれさっき覚えたろ」

「イオク・〇ジャン!伊〇誠!ガ〇ンドロフ!」

「個性的な悪口だな。いやガ〇ンは悪口じゃねぇだろ」


 コメント:罵倒の癖がすごいw

 コメント:ガ〇ンドロフは草

 コメント:やーいやーいお前の兄ちゃんガ〇ンドロフー

 コメント:兄ちゃんガ〇ンドロフはパワーワードすぎ

 コメント:ランダム先読みとか無理だろw

 コメント:ずっと来るかも状態じゃん

 コメント:それはそれで悲鳴あげそう

 コメント:どうしろとw


 その後も阿鼻叫喚のゲーム配信は続いた。

 午後6時、無事(?)配信は終了。

 愚妹と八重咲は完全に意気消沈していたため、立ち絵すら貼られていない俺がスパチャを読むことになった。

 ファンのみんな、ごめんよ。コメントでもいいよってことだから読ませてもらうわ。


 ただ、スパチャ以外にも個性的な名前はあるから、時折気を引かれてしまうこともある。


 吹雪菫(ふぶきすみれ):楽しそうな配信でしたね。私もコラボしたいです。

 コメント:本物やんけ

 コメント:スミレパイセンじゃん!


 なん、だと……!?


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― 新着の感想 ―
[良い点] 会話が面白いから全部面白いとか反則だwww [一言] 妹ちゃんの兄者容姿評は身内だし、見慣れてるだしで微妙に真に受けてなかったが。 八重咲の反応で俄然兄者の容姿に関心が。めっちゃ視覚情報で…
[一言] コメントに「あれ、急に静かになったぞ?」が出てきそうw
2022/11/23 13:43 退会済み
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[一言] イオク・クジャンw
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