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#無遠慮のハイシン・ワールド

「お邪魔しまーす。いや、茶とかいいから、寝てろよ。風邪ひいてんだろ」


「いいっての。寝とれ。あとキッチン借りる。飯、まだだろ?」


「おう、お粥でも作るわ」


 ──────。

(コトコトと料理する音が聞こえる)


「おーい、できたぞー。起きれるか?」


「あいよ。食えるか?そうか。ちゃんと冷ませよ」


「……は?食わせろと?俺が?」


「ダルいのは分かるが……はぁ。ほれ、スプーンかせ」


「ん。……いや、口開けろよ」


「んな糖尿確定ラブコメイベントやってらんねぇっての。ほれ、さっさと口開けろ。熱いまま突っ込むぞ」


「飲み込めそうか?うまいか。そりゃよかった」


 ──────。

(キッチンで食器を洗う音)


「完食するとはな。案外元気なんじゃねえの」


「熱は?8度2分、か。症状は?咳、と頭痛な」


「とりあえず、薬飲んで寝とけ」


「よいしょと……あん?まぁ、寝付くまではここにいるつもりだが」


「おう。だから寝ろ」


「いや、病人に添い寝は意味わからんっての」


「手を?まぁ、そんくらいは」


「……熱いな」


「気にすんな。弱ってる時くらい、わがまま言っても誰も責めん」


「いや添い寝はしねぇ」


「他にねぇのか」


「……お前、自分が風邪ひいてるって分かってる?」


「しねぇよ、風邪伝染んだろうが」


「伝染したら治るとか、都市伝説だろ。ってか、そういうのは普通、看病する側が言うもんじゃねぇの。知らんけど」


「じゃあ、じゃねぇから。何がじゃあなんだよ」


「ったく、……動くな」


 ──────。

 ────。

 ──。


「最高ッスね!!!」

「これはもう自信作ですよ!!!」

「よし、動くな。今からシバく」


 土曜はもうすぐ正午。

 愚妹に呼ばれた甘鳥と八重咲によく分からん台本を渡された。

 なんかの企画かと思って目を通してわかったのは、明らかにシチュエーションを決めたボイス作品的なセリフってことだ。

 それも、どう見ても『兄者』の。

 自称舎弟(非公式)にして自称P.Sオタクの狂人が企画したものを、妄想創作なんでもござれの高スペックアニオタが形にしてしまったようだ。

 なんつー特級呪物創り出してんだこいつら。


「こう、あれッスよね。何だかんだ叶えてくれる的な!」

「口ではキツそうな言い方なんですけどちゃんと優しくしてくる感じがいい!」

「そうなんッスよ!ツンデレな兄者先輩がもう!」

「絶対にやってくれるんですよこういう時兄者さんは!」

「黙れツインクレイジーズ。そして帰れ」

「ちょ、酷くないッスか!?ツバキ達が一週間かけて作った努力の結晶ッスよ!」

「その努力と労力を何故まともな方向に使えない」

「めちゃくちゃまともですよ、兄者さん。これはもう全国百万人の兄者ファンが喉から手をゴムゴムの〜してでも欲しがる秘宝です!」

「俺にとっては悲報でしかねぇよ。そんなロジャーの財宝は今すぐ捨ててこい、置いてくな」


 海賊もドン引くくらいのイカレコンビは、目を離すとこういうことを平気でしてくる。

 今回に至っては本当にライン超え始めてるし。


「ぶっちゃけた話ッスけど、マジで売れると思うッスよ?」

「嬉しくねぇし、売らねぇよ」

「でも、売ること自体はできるじゃないッスか」

「理論上はできるが、感情的にやりたくねぇんだよ」


 実際のところ、ボイス作品を作って販売することはできる。

 うちの会社は副業禁止ってことになってるが、定義上は他企業との契約を結んではいけないという一文で成立している。

 したがって、個人的に物を売ることに関してはグレーだができなくはない。

 というか『兄者』の版権とかってP.Sか油取り神さんが持ってるのでは。

 そうなると俺が勝手にそういうことしていいのか分からんし、それをすることは副業に分類されるのか。

 そもそもしないが、複雑だわ。


 愚妹がこの二人を呼んだのは愚妹がそうしたかったから。

 俺の用事は既に昨日の配信で終わっている。

 昨日までの分は、であるが。




















【公開処刑】ボイス作品同時視聴会【八重咲紅葉、甘鳥椿、兄者】


「さて、始めようか」

「いやッス!帰りたいッス!なんッスかこの地獄!」

「まー、こうなりますよね……」

「まぁ知ってるやつらも多いと思うが、こいつらがまたやりやがった」


 コメント:そろそろデビューしてくれてもええんやで?

 コメント:あれかw

 コメント:兄者デビュー化計画w

 コメント:つばきちが復活させたやつな

 コメント:甘党はこの活動を支援しています

 コメント:落ち葉はこの活動を支援しています


「よしお前らも敵だな。甘党と落ち葉は駆逐してやる」

「最近進撃ネタ多いですね!」

「最近読み返してな。さーて、さっそくやるか」

「本当に、やるんですかこれ」

「やるっていったしな」

「ここは、先輩、お先にどうぞ!」

「それは気遣いでもなんでもないんですよね!」

「どっちからでもいいぞ。幼馴染、クリスマス、バレンタイン、ハロウィン、どれからいきたい?」

「え、あの……一個じゃないんですか……?」

「ひとつ15分くらいなんだろ?二枠くらい使って完全制覇しようぜ」

「嫌ッスよ!というか兄者先輩、全部買ったんッスか?」

「いや、たまたまP.S社長(ともだち)が偶然全部持ってたから借りた」

「どう考えてもボスッスね!」

「職権乱用じゃないんですか!」

「俺の職権じゃないからいい」

「横暴ッス!」


 コメント:兄者のコネクション強すぎるw

 コメント:社長の職権持ってんのやばいw

 コメント:バレンタインがおすすめ

 コメント:最新のヤツしかない……

 コメント:これはやばいな

 コメント:何時間でも付き合うぜ


 押し付け合いという名の時間稼ぎをさっさと終わらせ、公正なるじゃんけんで甘鳥スタートとなった。

 コメ欄で多かったバレンタインボイスを準備し、イヤホンを片耳に装備する。


「今更だが、こういうの聞くの初なんだよな」

「兄者先輩のはじめてを貰えるのはありがたいッスけど今からでもそのイヤホンを外して欲しいッスね〜」

「いくぞー、さーん、にー、いーち、はい」



 ────。

 ガラガラと扉を開ける音がする。


(お、いたいた。ウィッス!先輩〜)


(どうしたんッスか〜?放課後に一人で机に突っ伏して)


(もう下校時間ッスよ)


(寝てた。そうッスか)


(へぇ〜)


(あ、もしかしなくても先輩、今日貰えなかったんッスか?チョコ)


(なるほど〜。別に期待はしていなかったと)


(で、ゼロなんッスね?今年ももれなく貰えなかった可哀想な先輩だったわけッスね?)


(も〜しょうがないッスね〜。この超優しい後輩が先輩を慰めてあげるッスよ〜)


(あ、もしかして、今、期待しました?チョコが貰えるとか思っちゃったッスか?)


(あっははは!そんな怒んないで下さいよ〜)


(安心してくれていいッスよ。ちゃんとあるんッスから)


(はい、先輩。ギリッギリの義理チョコッスよ)


(さーて。先輩、帰りましょうよ。チョコのお返しに夕食奢って下さい!)


(え〜、ホワイトデーまで待てないッスよ〜)


(……え?)


(いやいや、義理ッスよ?手作りなんてツバキがするわけないじゃないッスか〜)


(あ〜、……や〜、ま〜、ツバキの手作りより買った方が美味しいだろうな〜とは思うッスけど〜)


(ぅ…………)


(……だ、だから、ギリギリの義理チョコッス)


(嘘なんか言ってないッスよ〜)


まだ(・・)義理チョコなんッスよ、それ)


 ──────。

 ────。

 ──。


「……ハッ」

「なんで鼻で笑うんッスか!」

「いやー、甘いこというなー」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あれな、本命よりの義理ってやつな」

「解説すんじゃねぇッス!」

「甘鳥ちゃん、口悪くなってますよ」


 コメント:あまーい!

 コメント:これすこ

 コメント:攻撃力全振りだから攻められると弱いタイプ

 コメント:解説たすかる

 コメント:うざい系後輩すき

 コメント:このあとつばきちをいじり倒したい

 コメント:つば虐

 コメント:これが序章という恐怖w


「こういうので甘党が増えるわけか」

「さきさき先輩、これやばいッス。想像の10乗はしんどいッス……」

「うん、だよね。これがあと1時間半続くんですよね……」

「次は八重咲か」

「まー、わたしはツバキに巻き込まれた側なんでお手柔らかにお願いしたい所存なんですが……」

「何からやる?」


 コメント:クリスマスがいいぞ


「だそうだ。いくぞー」

「あぁ、帰りたい……」




 ────。


(どこもかしこも、リア充ばっかり……ホント、爆散してほしいですよね)


(まー、わたし達の日常はクリスマスだろうと世界最後の日だろうと変わりませんよねー)


(部屋に篭って、くだらない話して、漫画読んでゲームして、ごろごろしちゃうんですよねー)


(あ、彼氏作らないの?とかなしですよ。それをされたら、こっちも彼女作らないんですか?という鬼札を切らざるを得ないですから)


(そーそー。だからあなたは、そこでいつもどーり、ゲームしてて下さいよー)


(…………)


(といいますか……わたし達って、その、付き合ってない、ですよね?)


(そうですよね、付き合ってないですよね)


(でもですよ。毎日家来て、毎日一緒に遊んで、毎日ご飯食べて帰るって、それ、カップル、じゃないですかね?)


(あ、違います?)


(あ、そうですか。そうですか……)


(すぅ……あのー、じゃあ、ってことじゃないんですけどね?)


(えっと、付き合い、ません?)


(いや、買い物とかじゃなくてですね)


(その……男女交際的な?意味で?)


(いや?え、いやって、嫌なんですか?)


(嫌では、ないんですね。じゃあ、えっと、付き合いませんか?)


(あ、いいんですか。それじゃあ、末永く、よろしくお願いします)


(……じゃあ、これからは、恋人同士、と、言うことで……)


(あー、どうしましょうか)


(いや、改めてその、恋人同士とか言うと、緊張してきまして……)


(あ、なら、ケーキとか、買いに行きますか?)


(その、クリスマス、ですし)


(特別なこと、したいじゃないですか)


(クリスマス、ですし……恋人ですし?普段はしないこと、しません?)


 ──────。

 ────。

 ──。



「さー、何をするんだろうなー」

「もう殺せぇぇぇ!!!」

「めちゃくちゃ甘いじゃないッスか〜、さきさき先輩〜」

「この煽り覚えといて下さいよこのサイコ鳥……」

「なんか、一回断られてる風なのがリアリティあるな」

「どういう意味ですか!」


 コメント:一回断るのは分かる

 コメント:付き合ってって言わせるまで絶対にこっちからは言いたくない

 コメント:恋愛頭脳戦

 コメント:あまりにも距離近すぎて恋人感ないのが八重咲

 コメント:俺なら即OKする

 コメント:肝心なところで攻めるの苦手なの解釈一致


 宣言通り、二時間使って計六個のボイスを聞き尽くした。

 不思議な感覚を味わった。

 本来は甘いセリフとキュンとくるシチュエーションのはずなのに、こいつらが言ってると思うと笑ってしまう。

 これが芸人補正か。

 二人とも相当恥ずかしい思いをしたはずだ。

 これに懲りてくれればいいが。





















 で、懲りずにこいつらは人体錬成ばりの禁忌に触れようとしている。


「まぁ、閑話休題ってことで。お前ら、なんで今日呼ばれたか分かってるか?」

「はっはー!もう心当たりがあり過ぎてなんの事か分かんないッスね!」

「開き直ってんじゃねぇ」

「開き直ってなかったらこんな台本渡しませんよ」

「なんでお前ら誇らしげなんだよ」

「散々言ってるじゃないッスか!さっさとボイス出しましょうよ兄者先輩。民意はこっちにあります!」

「知るか。んで出すか」

「桜ちゃんからは、お昼ご飯食べに来てって言われてるんですが」

「今、愚妹がキッチンにいる」

「「…………」」

「愚妹はたこパをすると言って材料を大量に買い込んでいた」

「「スゥ──…………」」

「じゃ、あとは頑張れよ。お残しは許さんからな」

「「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] あー……うん。 買うわ。なんならクラウドで支えますが? 言うわけ無い。台本だと思っても、ネタが割れるまで楽しめたぜwww
[良い点] 最後忍たま○太郎のネタは懐かしいなw [一言] お残しは許しまへんでぇぇぇーーー!!!
[一言] 世の中には、料理本という神器があってな? あ、あれ、文字で書いてあった……………ww←ひどっ
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