#お酒は夫婦になってから…?
土曜はもうすぐ夕暮れ時。
両手に持ったエコバッグを車から下ろす。
ついにこの日が来たか……。
「たでーまー」
「おかり〜。どこ行ってたの兄者〜?」
「買い物、とゲーセン」
「めっちゃ久々じゃん。ど〜したの?」
「甘鳥格ゲーでボコって来た」
「あ〜、なんかそんな話してたね〜」
先週、甘鳥が愚妹への罰ゲームで何故か俺を巻き込んだ。
んで、甘鳥のLIME既読スルー強制強調週間を実施。
三日目にして泣き寝入りみたいになり、ゲームの相手に付き合うということで手を打った。
ちなみにその辺は先輩方の助言らしい。
別に怒ってるわけじゃねぇけどな。
ただ二度と俺を巻き込むなという戒めを込めただけで。
そんなわけで、今日は捨て身に来た甘鳥をご期待通りにボコってきた。
「てか兄者〜、何買ってきたん〜?」
「酒とつまみ」
「あ、アレ今日だっけ?」
「ああ。P.Sの酒豪に付き合わにゃならん」
「兄者、パイセンのことも扱いひどくなってんね〜」
「あの人たまに倫理観とか常識飛ぶんだぞ。今回もオフで飲もうとしてたし」
「パイセンそういうとこあるわ〜」
「常時常識ないお前が言うのもなんだけどな」
「うっざ〜!兄者うっざ!ポテチもらう!」
「文章構成能力クソザコかよ。のり塩はやらん」
「コンソメ〜げっと〜」
「夕飯はちゃんと食えよ」
「わかってる〜」
ポテチの代わりに焼きプリンを強奪した。
【晩酌配信】兄者くんと飲む【吹雪菫、兄者】
コメント:夫婦配信か
コメント:すでにてぇてぇ
コメント:サムネがもうエモい
コメント:ただの夫婦定期
スミレさんと兄者がちゃぶ台挟んで酒を飲んでる図だな。
パッと見、某ウルトラなセブンのメトロン星人みたいになっとるぞ我。
誰だこのイカれたイラスト描いたの。
まぁ、あのイカれ絵師だろうな。
ちなみにと言うか、スミレさんのママさんもあの油取り神さんらしい。
なんだその姉妹関係。
家庭環境がフェルマーの定理レベルで複雑だわ。
「夜分遅くにこんばんは。P.S一期生、吹雪菫です。みなさん、ついに来ましたよこの日が!」
「既に飲んでるだろあんた」
「飲んでないよ?」
「シラフでこのテンションなのかよ」
「兄者どーん、だね。兄者くんと晩酌配信が、できる!」
「あーはいはい。一応、トークテーマはマシュマロとかコメントから拾ってく感じでいいんですよね」
「うん。今日はじゃんじゃん飲もうね」
「おいマジでシラフか?テンションぶっちぎってんぞ」
コメント:パイセン飲み仲間に飢えてるから
コメント:誰かと飲みたい衝動強め
コメント:飲む度兄者誘いたい言うてたし
コメント:雪精公認夫婦
コメント:パイセン幸せに
コメント:ここは式場か?
コメント:酒飲みながら挙式は草
この人も大概拗らせてんな。
八重咲が常識人に分類されてる職場だもんな。納得。
挨拶もそこそこに乾杯となる。
スミレさんは日本酒、俺は度数控えめにチューハイで優勝を目指す。
マシュマロ
『兄者ファンの呼び名ほしい』
「トークテーマってか、ただの要望じゃねぇか」
「兄者くんのファンネームって無かったんだ」
「何故ある前提なんだよ」
「あ、いやほら、もうすっかり配信ではお馴染みだから」
「最近、P.S2.5期生とまで言われてんだよなそういや」
「あはは。どうかな、いい機会だし、ここで決めてみたら?」
「公式でもないのに公式回答したくないんですよ……。付き人でいいだろ付き人で」
「それは春ちゃんのファンネームだから」
「俺、その付属品みたいなもんですし」
「うーん、ここはちゃんと兄者くんのファンって名前が欲しいと思うんだよ」
「知らねぇ……そもそも公式Vでもねぇし、勝手に名乗れ」
「勝手に名乗っていいんだ!?あ、リスナーさんに聞くって言うのはどうかな?」
コメント:弟者
「おとうとじゃ?長ぇな」
コメント:子分
「それはファンネームとしてどうなんだ?」
「盗賊とかのボスを兄貴って呼ぶからかな?」
「俺が悪であることが確定してるんだが」
コメント:手下
「だからなぜ反社会的な組織になろうとしてんだよ」
「大喜利みたいな空気になってきちゃったね」
コメント:下僕
「まだ下がんのかよ」
「あははは……」
コメント:奴隷
「もうダメだろ色々と」
「兄貴じゃなくて女王様みたいになっちゃった」
「性別は変えなくてもいいと思いますが」
コメント:舎弟
「おいどうすんだ。前のがアレ過ぎてまともに見えて来たぞ」
「ファンの皆を呼ぶ時、おい舎弟、ってなるのかな」
「その論法で行くと兄者ファンがドM集団になるんだが」
コメント:むしろS
コメント:虐待プレイすこ
コメント:虐めてこそ兄者
コメント:DVしてる兄者まじ推せる
コメント:これからもついて行きます
「違ったわ。ただの犯罪者予備軍だった」
「ま、まぁ、ほら、色んな人達がいるから」
「だとしても治安悪い。もう知らんわ。ファン名乗るなら最低限のマナーを守れ。俺は何も看過しないし認識してやんねぇけどな」
「これがSってことなのかな……?」
マシュマロ
『恋バナ』
「えらく雑なトークテーマ来たぞ」
「恋バナ……私はそういう経験ほとんどないんだ」
「俺もない。次」
「兄者くんも雑だね!?」
マシュマロ
『兄者チャンネル作らないの?』
「作らんっての」
「でもほら、VTuberじゃなくてもゲーム配信とかできると思うよ」
「なんでそっち側?」
「えっと、勧めてるとかじゃないんだけどね。兄者くん、VTuberにはならないっては言ってるけど、配信が嫌いって言ったことはないなって思ったから」
「好きでもないですが」
「そうなの?でも、今も配信してるよ?」
「まぁ、自分が主役じゃないんで」
「兄者くんが見たくて来てる人もいると思うけど」
「いやまぁ、自称舎弟みたいなのがいるのは分かりましたけど。俺の場合、ちょっと出てきて花添えるくらいがちょうどいいんだよ」
コメント:かっけぇ
コメント:ハードボイルド
コメント:マスターカクテルを兄者に
コメント:俺からもウォッカを
コメント:俺からもウィスキーを
八重咲紅葉:俺からもスピリタスを
コメント:ここBARちゃうw
「逆にじゃないですけど、スミレさんはなんで配信始めたんですか?」
「え?私?」
「言えないようなら聞きませんが」
「あ、ううん、大丈夫だよ。ただ、ちょっと恥ずかしいかな」
「まぁ、自分語りは誰でもそうでしょ」
「そうかも、ね。私、こう見えてドジっぽいところがあるんだよ」
「知ってる」
「あ、うん……。それに人見知りとかも凄いから、その、会社で働くっていうのが苦手だったんだよね」
「人間関係で、ってことですか」
「うん……。それでたまたま、P.Sで募集してるの知ってって感じかな」
「ここでもそれなりに人と会う機会はあるんじゃ」
「そうだけど、でも、こうやってコメントとかしてくれる人達がいるって分かるとね。なんて言うか、人見知りよりも嬉しいとか楽しいが先に出ちゃったんだよ」
わかる、とかそういうことは言えないな。
つか、思いのほか重いんだけど。話が。
ただまぁ、ドジとか人見知りと本人は言ったが、そういう人間関係トラブルってのは存外自分以外にもデカい原因があるもんだ。
合う合わないってのはどうしてもあるし、ここに来てそういうことがないってのは、そういうことなんだろう。
差し引いてもヤベェ奴ではあるが。
コメント:ええ話や
コメント:泣ける
コメント:これからも推す
コメント:10000円
コメント:25000円
コメント:5000円 涙拭いて
コメント:12000円
コメント:無言の赤スパやば
「コメ欄がちょっとした火の海になってるんだが」
「あ、ありがとうね。ありがとう、無理しないでね」
「無言で万札投げんなよ」
「兄者くん。だからね、ちゃんとお仕事できる兄者くんって凄いなぁって思うんだよ」
「まぁ、運がいいだけだ」
「そっか」
「あと、スミレさんも」
「え?どういうこと?」
「ちゃんと受け入れてくれる人が事務所にもここにもいるんだし、そりゃもう最高に幸運でしょ」
「……うん、そうだね。でもそれなら、兄者くんもじゃない?」
「俺はめちゃくちゃ運いいぞ。なんせ、あの運だけで生きて来たバカの身内だからな」
「酷い言いようだ……」
「だからまぁ、その前は運が悪かっただけなんだろ」
「その前……?」
「運が実力のうちだとは俺は思わないんだよ。何せその理論だと愚妹が神とかになりかねん」
「あははは……」
「なんで、運が悪いってのは、そいつが悪いって事じゃない。たまたまそうなっただけ。だから自分が悪いとか思う必要はない。と、俺は思う」
「……うん。……ありがとう」
「すまん、よく分からん持論語った。忘れてくれ。なんか恥ずい、酒のせいだわ」
「……うん、そうだね。……あ、待っててね、ちょっとおかわり取ってくるから」
「もうビン空けたのかよ」
コメント:兄者語り
コメント:かっけぇぜ兄者
コメント:これどゆこと?
コメント:パイセンは悪くない社会が悪い
コメント:あってるけど違ぇw
コメント:兄者イケメンやん
コメント:惚れる
コメント:こりゃパイセン惚れるだろ
甘鳥椿:てぇてぇ
コメント:切り抜き班急げー
コメント読みたくねぇ。
やめろ、別にカッコつけた訳じゃない。
ただちょっと酔って柄でもないこと言っただけだ。
くそ、これだから配信は。
やっぱ配信嫌い。
俺V向いてない。
ヤケ酒だちくしょう。
「──はぁ……え、っと、……これはつまり……そういうことだよね……多分──」
「ん?スミレさん?」
「──そっか……そうだよね……うん、あんまり……気にするなってことだよね──」
「スミレさん?音遠い、というか聞こえてない?」
「──はぁ……そういうこと、普通な感じに言うんだもんなぁ……兄者くんは……──」
「あー、これミュート忘れてんな」
「──はぁ、ふぅ……よし。おまたせ、ただいまぁ」
「あの、うん。ドンマイ」
「え?……あ」
コメント:惚れたな
コメント:あんまり気にすんな
コメント:ミュート忘れてる
コメント:これは照れスミレ
コメント:ドンマイw
コメント:めっちゃ効いてますやん
コメント:こりゃ響く
コメント:かわいい
コメント:かわいかった
コメント:乙女
コメント:乙
「んん────っ!んん────────っ!!!」
それはもう、声にならない声を出していた。
グループLIME 『兄者被害者の会』
甘鳥『最近、兄者先輩にめちゃくちゃ既読スルーされてるんです!』
甘鳥『助けて下さい!』
春風『ゲーム』
八重咲『ゲームする』
吹雪『ゲームかな』
夜斗『ゲームだな』
甘鳥『兄者先輩って意外と単純なんですか』
夜斗『ボコボコにされりゃ許してもらえるぜ』
甘鳥『捨て身すぎません!?』