補佐官見習いの日記
呪われた王国シリーズの4作目です。
※この国の男性王族は呪われています。学園に通う15歳から18歳の時期に『無邪気なヒロイン』に強制的に出会い結ばれる為の様々なトラブルに巻き込まれるという傍迷惑な呪いに。呪いに抗いながら幸せを模索する王族やその周囲人々を描いたシリーズです。
前作までの3人の王子の母である王妃が出てきます。
夫視点。
日記部分は妻(補佐官)視点。
今日、仕事が休みだったので気が向いて自宅の倉庫を掃除していたら、3年前に結婚した妻のメルダが俺の家に嫁入りしてきた時に大事そうに持ってきた木箱をうっかりひっくり返した。
大切なものが入っているって聞いていたからかなり焦った。
急いで元に戻したけど、ついつい気になってゆっくり中身を確認しながら箱へ戻したつもりだが、大丈夫だろうか。
多分何も壊れたりなくなったりしたものはないみたいだけど、妻が帰宅したら謝ろう。
ただ、日記も何冊もあって、駄目だとは思ったんだけど少しだけ読んでしまったのは、流石にまずかったと自分でも思う。
謝っても怒られるだけならいいけど、嫌われたら辛すぎるから墓場まで持っていこう。
とりあえず、やらかした自分に自己嫌悪しかないので、お詫びに今日の夕食は妻の好きなものばかりを準備した。
それにしても、うちの妻は日記さえ愛らしいなんてどういうことだ。
他の男にとられなくて良かった。
見る目のなかった周囲の連中に感謝する。
◆◆◆
〇年○月〇日
勤務初日!
今日からいよいよ王城勤務が始まる。緊張するけど頑張ろう。
配属は3ヶ月の研修が終わってから正式に配属されるみたい。
できれば医療・貧困問題や呪い対策に直接関われる部署に行きたいけど、難しいかな?
制服支給されたけど王宮女性官僚の制服ってやっぱり可愛い!
制服着ると気分が引き締まった気がする。
王城はやっぱり豪華絢爛で圧巻。
あれでも昔に比べたら控えめになっているらしい。
豪華さと広さに慣れるかなと少し心配したけど、考えてみたら王立学園も離宮もサクラ学園も、初めて行った日は豪華さにびっくりしたのを思い出した。
時間はかかると思うけど多分慣れるだろう。
久しぶりに遠目に見たフリーダ様は、相変わらず小柄で綺麗で愛らしかった。
目が合って、私に気付かれたようで軽く手を振ってくださった。
嬉しかったので手を振り返そうとしたら、隣にいたカルマーン第二王子殿下から恒例の冷気を感じたので微笑んでお辞儀を返しておいた。
別に恋敵じゃないので睨まないで欲しい。
◆◆◆
○年○月○日
配属先が決まった。
新人ではありえないって先輩たちにびっくりされたけど、王妃様付補佐官見習いになった。
王妃様からも直接お声掛け頂けて、光栄すぎて手が震えた。
震えていたら「手が震えているけど私はとって食べたりしないから、ね?」と微笑みながら両手を美しい手で包んでくださった。
近くで見たら美しさと色気と凛々しさがすごすぎて、正直鼻血がでるかと思った。
王妃様は公式の場以外は男装されていると噂では知っていたけど、美女の男装ってびっくりするぐらい破壊力があった。
倒れなかった自分を褒めてあげたい。
偉い!頑張った!
私がここに配属された理由を伺ったら、フリーダ様が私を推薦してくださったとのこと。
フリーダ様とは学園時代に一時期机を並べていたことはあったけど、まさか入学して間もない頃に私が語ったらしい夢の話を覚えていて下さったなんて思ってもみなかった。
王妃様が今力を入れていらっしゃるのが、医療・貧困問題なのだとか。
「フリーダからは優秀だと聞いてますよ。期待しています。メルダ、私を支えてくれるかな?」とまで言われたら全力で頑張るしかない。
出来ればフリーダ様にお礼を言いたいけど、正直第二王子殿下が怖いから手紙でお礼を書くことにしよう。
渡せるといいな。
◆◆◆
○年○月○日
今日は嬉しいことが沢山あった。
王妃様から、私がまとめた貧困地域での医療体制維持に関する資料が、とても分かり易いとお褒めの言葉を頂いた。
先輩方に参考文献なんかも教えて頂いたけど、頑張りをきちんと認めて頂けるなんて幸せ。
王妃様付補佐官には平民出身の方も数人いらっしゃるとはいえ、大半は王妃様と同年代でおそらく同級生なので少し緊張していたんだけど、思っていた以上に可愛がって頂いていると思う。
働き始めて改めて感じたのは、実は王族の方や高位貴族の方たちに、平民に対する偏見がほとんど無いということ。
身分による「区別」はあっても「差別」はないってことらしい。
貴族には特権もあるけど権利と義務は一体だとサクラ学園で学んだことは本当だったみたいだ。
しかも、王妃様から「公式の場以外ではリリアーネって呼んでね?堅苦しいもの」と言って頂けた。
恐れ多いけど、嬉しい。
昼食を先輩と食堂で食べていたら、隔離時期に担当してくださっていたロイド様をお見かけした。
距離があったのでお辞儀だけしたけど、軽く手をあげて微笑んでくださった。
嫌がられなくて安心した。
あの頃呪いのせいとはいえ、恥ずかしいところを何度も見られてしまっていたから、少し恥ずかしいけど同じ職場だから今後もお会いすることもあるだろうし。
ティータイムに王妃様にお出ししたお菓子が少し余ったので、先輩方と分けて食べた。
王城の菓子職人って天才じゃないと務まらないんだなぁと思うレベルで美味しかった。
私が王妃様でこのお菓子を出されたら、全部食べてしまいそうなぐらい美味しい。
あんなに美味しいお菓子や食事を食べて、三人もお子様産んでもあのスタイルって王妃様はすごすぎる。
おもわず先輩に王妃様の美しさの秘訣を聞いたら「陛下の愛情と剣術」だそうだ。
愛情をくれる相手はいないから、とりあえず私も剣術…は無理でも運動しようかな。
王妃様は今日も麗しくて凛々しかった。
◆◆◆
○年○月○日
国王陛下って怖い方だと思っていたけど、リリアーネ様と一緒にいると水飴みたいにデロデロな方だった。
それに、リリアーネ様からは「ジュジュ」なんて可愛い女の子みたいな愛称で呼ばれていた。
意外だと思ったけど、考えてみたら王子殿下方も妃殿下や婚約者様方とご一緒の時は二度見する勢いで別人だから、もしかしたらこれが愛している人といる時の標準、なのかな?
だとしたら、私の婚約者はどうなんだろう?
元々家は隣同士で幼馴染だったし、昔はもっと頻繁にデートしたり手紙くれたりしてたんだけど、1年前に所属部隊の配属先が南方砦になってから、一度も会えてない。
手紙も最初の2ヶ月は頻繁に届いていたけど、最近は短い手紙が月に一回来れば良いほう。
これって、まずいような気がする。
私からも明日手紙出してみよう。
リリアーネ様は今日も素敵だった。
◆◆◆
○年○月○日
バーカ!バーカ!!
マークなんてパンナコッタの角に頭ぶつけて死んじゃえ!!
◆◆◆
○年○月○日
婚約者だったマークから、婚約破棄したいって手紙が届いた。
最初はムシャクシャしたけど、即日こっちから婚約破棄してやった。
ざまあみろ。
マークのとこのおじさんとおばさんには謝りながら泣かれたけど、謝罪は受け入れたけどあいつは許すつもりはないので、結婚準備に使ったお金とか小額だけど慰謝料は分割で本人に払わせることにした。
私の両親は顔真っ赤にして怒ってた。
マークは南砦のある町で、運命の恋人に出会ったらしい。
「お前のことは妹みたいに思っていた」って本当に意味が分からない。
騎士学校に行く前に付き合いたいって言い出したのも、学園に入学する前に婚約したいって言い出したのもマークじゃないの。
私だって世話の焼ける兄みたいだと思ってたけど、仲の良い人に好き好き言われたから段々意識してきちゃってOKしたのにさ。
それが何?配属されて3週間って、あっちに行ってすぐってことでしょ。
私が新しい職場で頑張っている時にお前は何を頑張っていたんだと、ちょっと正座させて説教したいよ。
お腹に子供もいるから早く安心させてやりたい?寝言言ってるんじゃない。
運命の恋人だっていうなら、せめて私と婚約破棄してからアタックしろ!
婚約者がいるのに子供まで作るとか、どんだけ節操ないの?!
そもそも、結婚してない男女だよ?
婚前交渉するな!どうしてもするっていうならキチンとアレ着けろ!出したら抜け!
どうせマークのことだから、責めたら私が結婚するまで同衾しないって言ったのが気に入らなかったとか言うんだろう。
優しい優しいと思ってたけど、今思えば事なかれ主義で流されやすい人だったんだろうな。
他の女と子供まで作るような貞操観念の緩い男はこっちから願い下げだ。
あーあ、誰か浮気しない良い男いないかな。
◆◆◆
○年○月○日
王妃様から心配されてた!!
自分では普通にしてたつもりだったけど、やっぱりあの馬鹿の手紙が来た翌日は目がウサギみたいになってたらしくて、先輩たちも王妃様も心配してくださっていたらしい。
恥ずかしい。
私から相談されるのを待っていたそうだけど、誰かが事情を知っていたみたい。
誰にも話していないはずだけど、もしかしたら実家の近所に住んでる方でもいるのだろうか。
それか、先日教会に提出した婚約破棄の書類から?
◆◆◆
○年○月○日
原因はあの馬鹿だった!
こっちから婚約破棄されたのが気に入らなかったらしく、騎士団の同僚に愚痴っていたらしい。
愚痴の内容はやはり予想通り。
私がお堅すぎることと慰謝料が不満だそうだ。
愚痴を聞いた同僚の方が、こちらにいる友人に話したらしいけど、それを王妃様が伝え聞くってどんなルートなんだか。
「メルダが正しいから大丈夫。私達は貴女の味方よ」って言って頂けて嬉しかった。
優しく抱きしめてくださって、良い匂いとふわふわなお胸に鼻血が出るかと思った。
ありがとうございますって涙目でお礼を言ったら、何故か他の先輩方にも抱きしめられた。
リリアーネ様大好き!!先輩方も大好き!私、一生付いていきます!
昼食で食堂に行ったら、偶然ロイド様にお会いした。
久しぶりだねって声をかけて頂いて、デザートのプリンを貰ってしまった。
プリンは大好物だから、嬉しいけど申し訳ないからお断りしようとしたら「甘いものはあまり得意じゃないから」なんて笑って去ってしまわれた。
去り際に頭を軽くポンポンって叩かれた。
王立学園からサクラ学園に転校したころを思い出した。
勉強に躓いた時とか元気が無いときに、ロイド様からは良く頭をこうやってポンポンって叩くように撫でられていたっけ。
二個目のプリン食べてたら少しだけ涙が出た。
多分ロイド様も例の件をご存知だったんだろう。
私には味方になってくださる人が思っている以上に沢山いるのかもしれない。
◆◆◆
○年○月○日
今日、リリアーネ様からお見合いの打診があった。
ある方が私に婚約を申し出てくださったそうだ。
お相手のことはまだ聞いてないけど、私より5歳年上の26歳の公爵家の3男だそうだ。
近衛騎士団の中隊長をなさっている将来有望な方って、将来とか言わずに現状で既にかなりの優良物件なんだけど。
急なので親にも相談して一晩考えさせてくださいって思わず言っちゃったけど、不敬だったかな。
明日きちんと謝ろう。
もう馬鹿のことはなんとも思ってないから、お見合いするのはいいけどなんで私?公爵家の方が?
私なんて平民だし、特別美人でもないのに。
勉強はそれなりに自信あるけど、貴族のマナーは辛うじて身につけた程度だし、魔力はどの系統も平均値なんだけど。
もしかして、王妃様付だから王妃様に繋がり持ちたい人とかかな?
ああでも、リリアーネ様が打診されるってことは、そのあたりの問題はない方なんだろうな。
馬鹿と別れて恋人もいないから断る理由もないし、そもそも断れるのかも分からないけど。
貴族的な打算込みでもいいけど、浮気しないで私のこと大事にしてくれる人がいいなぁ。
サクラ学園にいた頃は、やたらと高位貴族の婚約者がいる子がいたけど、皆可愛いしめちゃくちゃ優秀な子が多かったから分からないでもない。
そういえば、婚約者の方ってその子を担当してた方がほとんどだった気がする。
やっぱり交流があったから距離が近くなりやすかったんだろうな。
ロイド様も最初の1年は色々気にかけてくださっていたけど、私に婚約者がいるってご存知だったからきちんと適切な距離で接して下さっていたんだよね。
あの頃はロイド様も特に決まった方はいないとおっしゃっていたけど、担当を離れてから4年もたってるし、流石に結婚してるんだろうな。
相手の気持ちを汲んで配慮してくださる素敵な方だもの。
お見合いの相手、ロイド様みたいな方だったら好きになれるんだろうけど、どんな方だろう。
高位貴族に嫁ぐとなると、平民である家族との付き合いは難しくなるかもしれない。
それを言ったら、両親からは私が幸せになれるならそれでも良いと言ってもらった。
まずはお相手の方にお会いして、お話を聞いてみよう。
期待半分。不安半分。
今日のリリアーネ様もお綺麗だった。明日も頑張ろう。
◆◆◆
○年○月○日
ビックリした!お見合いのお相手、ロイド様だった!
昨日の私、予言の魔法にでも目覚めてたのかな?
ロイド様が公爵家の方だってことも知らなかった。だって爵位は子爵だっておっしゃってたから。
公爵様が複数の爵位をお持ちだったから、次男と三男にそれぞれ伯爵と子爵の爵位を分けられたとか。
それで家名が公爵家のものじゃなかったらしい。
知らなかったといったら、ロイド様にもリリアーネ様にも笑われた。
しかも、ロイド様はリリアーネ様の甥なんだそうで、先日の不思議ルートはここにあったらしい。
私もまだまだ勉強が足りない。
ロイド様は私のことを以前から好ましく思ってくださっていたそうで、婚約者がいるから結婚したら諦めるつもりで見守っていたとのことだった。
以前の私のどこに好ましく思ってもらえる要素があったのかは分からないけど、そんな風に思ってくださる方と結婚できたら幸せになれるような気がしてしまった。
気が付いたらお話を承諾していて、改めてロイド様からプロポーズされてしまった。
跪いて指先にキスをされたから、顔がめちゃくちゃ熱くなってしまって、何故か何度も「はい!はいっ!」って言いながら勢いよく首を縦に振っていたら、リリアーネ様にも先輩方にも笑われた。
そういえば、職場の応接室だった。
ロイド様は恥ずかしそうに頬を掻きながら「失敗した。別の場所ですれば良かった」って笑ってた。
今度仕切りなおしをしたいと、デートに誘って頂いたから、今度こそ私もキチンと自分の気持ちを言葉でお返事しようと思う。
デートの帰りには私の家に挨拶に来てくれるんだって。
両親、卒倒しなきゃいいけど。
リリアーネ様と先輩方がデート服やアクセサリーや当日のメイクやヘアアレンジまで準備するのだと張り切っている。
持ってる服で行くつもりだと言ったら、先輩が寮の部屋まで付いて来てワードローブの中身にダメ出しされた。
年頃に戻ったみたいだと、皆さんウキウキしていたので、皆さんにお任せすることにした。
リリアーネ様は美しくて凛々しいのにやたら可愛い。先輩方も頼もしいのに可愛い。
私もこんな女性になりたい。
◆◆◆
○年○月○日
馬鹿が来た。しかも王宮まで。
私に緊急で会いたいと身内が来ていると言われて、外部との面会に使う応接室に行ったらマークがいた。
いや、婚約中ならともかく婚約破棄した今となってはあんたは身内じゃないからね?
むしろ通りすがりの知人より他人だから。
部屋に入った途端、今までの人生で初めてみたと断言できるほど華麗な土下座をされた。
マークの運命の恋人には去年まで南砦に駐屯していた部隊に夫がいたらしい。
私と婚約破棄したから結婚しようと言ったら、夫を追って別の町に引っ越してしまったんだとか。
まてまて、恋人でもなくて夫ってなんだ。
若い子と火遊びしたつもりが子供ができて慌てたんだろうけど、夫のところに行ったってことは夫も時々帰ってきてやることやってたんだろうね。
不潔!バッチイ!浮気菌がうつるから近寄らないで!!
騙されてたことには同情するけど、あんたも同じ浮気仲間じゃん。
しかもマークの言い訳が酷すぎて、部屋まで付き添ってくれた先輩も失笑してた。
部屋の入り口に立ってた騎士の方も、たぶん笑ってた。
「この国の呪いのせいだよ!メルダだって聞いたことあるだろう?!俺は本当はメルダだけを愛しているのに、あの女に惹かれてしまったのはそのせいなんだ!」
ってなんだよ。
マーク、あんたはいつから王族になったの?
その浮気女の夫とやらはまだ学生の王族の方なの?
心の中でツッコミが追いつかなかった。
「メルダは俺だけを愛してくれていたよね!俺が悪かった、もう一度婚約しよう!」
なんて寝言をいわれて、更に頭が混乱していた。
隣で先輩が何か言おうとしていたら、ドアから何故か息を切らせたロイド様が入ってきた。
その後ろには、時々お見かけする騎士団長様もいて。
私もマークもビックリしてたら、ロイド様が笑って言った。
「マーク・トレビス。メルダは私の大事な婚約者だ。君に名前を呼びすてにはされたくないな」
大事な婚約者!!!大事な婚約者だって!!
眩しい笑顔とその言葉で、馬鹿に削られてた心のダメージが一気に回復しちゃったわ。
そのあともマークは色々言ってたけど、勝手に任地を離れたこととか色々騎士団長様に絞られて、騎士団長に連れられて部屋を出て行った。
ロイド様はまた頭をポンポンと叩いて「もう大丈夫だよ」って言ってくれた。
先輩から肘で小突かれたけど、色々ありすぎて夕方には熱が出たので早めに寮に戻された。
ロイド様を呼んでくださったのはリリアーネ様らしい。
もう、リリアーネ様かっこよすぎる!!
ロイド様も……。
◆◆◆
○年○月○日
デート、素敵だった。
貴族っぽいデートは緊張するだろうって、お忍びデートだったけど、十分素敵だった。
庶民の男はエスコートなんてしないってこともあるだろうけど、庶民風の服装でもロイド様はかっこよかった。
通りを歩いてる女の子がチラチラ見てて、やっぱり目立つよねと内心苦笑した。
リリアーネ様たちの渾身の変身術(スゴ技のメイクとコーディネイト)で普段より格段に綺麗に見える、『メルダ・改』にしてもらってて良かった。
うっかりいつもの私で来たら、お忍び中の貴族青年とお付のメイドになるところだった。
ロイド様にそういったら、「メルダはいつも可愛いのに、君の部屋って鏡ないの?」って笑われた。
鏡ぐらいもちろんあります。覗いてもいつも平凡な小娘が映ってるだけです。
むしろロイド様の方がメガネを作った方がいいのかもしれない。
今度ロイド様に勧めてみよう。
一緒に公園を散策して、ボートにも乗ったけどシャツを捲くった腕の筋肉にドキッとしてしまって、うっかり見とれてしまった。
ランチは公園近くのテラス席のあるカフェでプレートランチを食べた。
香ばしいチキンや柑橘系のドレッシングがかかったサラダが美味しかったけど、デザートのキャラメルタルトが絶品だった。
ロイド様をみたら、タルトも幸せそうにパクパク食べてた。
「甘いものは苦手だったのでは?」って聞いたら、実は甘いもの好きなんだそうだ。
プリンを貰ったときの話をしたら、「実は甘いものは好きなんだ。あの時は甘いもの食べたら君が元気がでるかなと思ったから」なんて少し頬を染めて言うんだもの。
乙女としてはさ、胸がギュッてなるよね?
なんか落ちちゃうのは仕方ないよね?
だから、思わず口をついて出ちゃったのは仕方ないのよ。
「私も好きです」って。
もちろんタイミングが悪かったのは私なんだけどね?
ロイド様ったら「そうなんだ、一緒だな」なんて言うんだもの。
「甘いものじゃなくって、あの…ロイド様を、です」
なんて馬鹿みたいな訂正いれる羽目になってしまったから、二人で赤い顔が治まるまでコーヒーをおかわりして飲んじゃった。
10代でもないのに、スマートに告白もできないなんて恥ずかしい。
呆れられてないといいな。
午後は一緒に雑貨屋めぐりをして、お揃いの花びらを閉じ込めた綺麗なペーパーウエイトを買った。
あとは私の実家にと思ったら、通りに面した大きな宝飾店に連れていかれた。
購入するのかと思ったら既に購入してあったらしく、ロイド様の瞳と同じ淡いブルーグリーンの石がついた素敵な指輪をもらってしまった。
指のサイズもぴったりで、どうしてと尋ねたら情報源はやっぱりリリアーネ様だった。
個人情報保護はどうなってるんだと思わなくもないけど、やっぱり嬉しい。
実家で親と話しているときも、無駄に指輪を見せ付けてしまった。
弟から、姉ちゃんニヤけ過ぎで見てらんないって怒られた。
酷いいわれようだと鏡を見たら、確かに頬がユルユルだった。
明日、どんな顔して仕事に行けばいいかな。
とにかく、変身魔法について皆さんにお礼を言わないと。
きっと今日、自分の気持ちを素直に伝えられたのも『メルダ・改』にしてもらったからだと思う。
リリアーネ様一生付いていきます!先輩方も大好き!
ロイド様
大好きです。
◆◆◆
どうしよう。
さっきの日記を思い出したら、俺まで顔がユルユルになってるのが自分でも分かる。
俺の妻が可愛い。
あんなこと考えてたのかと思うと、たまらなくメルダに会いたくなる。
もうすぐ帰ってくるんだけど、待ちきれないから城まで迎えにいこうかな。
今度、初めてデートした公園に一緒に行こう。
あのカフェでランチ食べたら、またメルダからの告白が聞けるかな。
とりあえず、腕の筋肉は落ちないように明日は部下に稽古つけることにしよう。
あと大事な情報があったな。
職場の他の男共は警戒して牽制したけど、叔母上と補佐官室の皆さんがある意味一番のライバルだってことはよーく分かった。
end
5年も待てを出来ていたロイドは偉いのか、単に執着が酷いのかは微妙なところ(笑)
メルダは有能な官吏であると同時に補佐官室のマスコットガールです。
リリアーネ王妃はパーティー等の時以外は男装の麗人です。
もちろん、密かなファンクラブがあるのはご婦人方の公然の秘密です。
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