攻略編02
割とどうでもいい肩書きを考えていたら2日ほど経ってました。
一応1話ごとに推敲は何回もしてるんですが、思いつきの設定入れたりして後から他の部分の修正をする事態に…
また新しいアプローチで魔王城を攻略するという一報を聞きつけ、実行の日が来たのは俺が新天地に着いてその日のうちに適当に建てた新居を構えてちょうど七日後だった。それまでの間は、周囲の地形と潮の満ち引きを記録に着ける毎日だった。潮の満ち引きはやはり大きく、場所がなだらかな地形なのも相まって海がかなり近くなったり遠くなったりする。
さて、魔王城攻略の現場を確認すると魔王の庭から少し離れた場所になっていた。各々が自由な発想を生み出すためという口実で、攻略戦の事前情報は場所と日時以外はほとんど公開しない決まりとなっている。しかし結果は魔導情報システムによって全員に周知徹底され、スパイラルモデルでブラッシュアップしていく。
今回挑戦するのはヘイルバルという毛玉みたいな妖怪だ。なお、どうでもいい情報だがヘイルバルの肩書きは『襲い来る光からの守護者及び永遠の親友』だ。確かに人間の頭皮を太陽光線から守ってくれる人生においての長い友……また髪の話してる……。
「よお、マルホス。今回はかなり遠いが……なるほどな」
「ハゼル、今回はそういうことらしい」
マルホスと合流する。そしてマルホスと共に今回のアプローチ方法の意図を、着く前にわかるその外見で知る。
まだ現場にはついていないが、そこには魔王城まで真っ直ぐに地面を這う長い砲身とその側面に等間隔に多数付いている薬室ならぬ爆発室。前世では多薬室砲と言われたものがあった。そのヘイルバルとかいう変態の居住区がここの付近にあるのだが、まだ直接聞いてはいないが試作していたら巨大になりすぎてこの場から動かせなくなったというオチが待っていそうだ。
「魔王城を勇者で攻略するんじゃなくて勇者に持たせる武器をぶっ飛ばして魔王城を破壊するってことかね?」
「いや……そんな話は一切出てなかったはずだが……。調査するだけで破壊するなんて考えはないはず。……いや、確かに一部は破壊して資料として調べなきゃならないが完全破壊はしない決まりなんだが」
現場に着く直前までマルホスと話し合う。話し合えば話し合うほど、今回の攻略戦の意図がますますわからなくなっていく。ヘイルバルはすごい着眼点の持ち主なのかもしれない。
話し合っているといつの間にか現場に着いていた。そこではヘイルバルが毛を触手のようにして這いまわっていた。非常にキモイ。見なかったことにしてマルホスを生贄に捧げ、俺だけでも逃げようとしたがヘイルバルに見つかった。
「む、おっさんたちが今回の見学者か。すまんね、今回は機材が魔王城の近くじゃなくて。作ってたら動かせなくなった」
もう逃れられない! 触手を元に戻して丸いフワフワとした毛玉に戻ったヘイルバルが浮遊して近付いてきた。さっきの形態は意味があったのだろうか? そしてやはり動かせなくなったというオチが待っていた。
「いえ、構いませんよ。それで、今回の趣旨は……?」
さすがにこの世界で慣れているマルホスは全てをスルーして今回の攻略法を早速聞く。
「ああ、今回は魔王城に直でぶちかます!」
「魔王城を破壊すると?」
「いや、破壊はしない。勇者をこの『勇者砲』で発射して魔王城に突撃させる。計算上は到達できるはずだ。この前のブロースの攻略戦見て考えたんだが、おっさんはな、魔法弾が発射されるより早く魔王城に行けばいいと思ったんだ。革新的でしかも完璧だろ? まぁ……動かせなくなった問題はあったが、砲身を長くすることで解決した」
「……うん?」
「はぁ⁉ 勇者を発射する?」
一体何が完璧なんだろうか? 計算もガバガバだろ? このオッサンの計画によると勇者が砲弾となるという解釈になる。
「で、おっさんがここで操作するから魔王城に突撃できたか見れないんだ。おっさんたちのうちどっちか行って見てきてくれないか?」
ヘイルバルは自分のほうに毛で出来た触手をクネッと向けたり俺たちの方に触手をビシッと向けたりして一人称と二人称を使い分けている。まだ聞いていないがもしかすると三人称も『おっさん』なのだろうか? 新たな七不思議の誕生だ。それよりも、俺はここにいるのがキツイいのですかさず立候補する。
「じゃ、俺が魔王城に向かうぜ」
「そうだね、ハゼルのほうがすぐに着きそうだ。そっちは任せたよ」
こんな場所にいられるか! 俺はそこから魔王城の直線上に当たる魔王の庭外縁部に最短距離で到達する。元々そこまで距離は離れていないのですぐに着いた。コツは周りより高い岩を見つけて手で勢いよく自分を放り投げる。放り投げる先はまた周りより高い岩に向けておくことで高速な移動を可能にする。人間だったらできない、この体ならではの高速移動法だ。
さて、魔王の庭外縁部に到達したので、ここからはマルホスと俺の感覚を同期する。魔導情報システムはよくできたシステムだ。見たり聞いたりしているのを遅延なしで体験できる。アーカイブしておくことも可能だ。一体誰が構築したんだ……という疑問が残るが答えはディレクシオだ。俺の中では裏ボスに相応しい働きをしてくれている。
『到着した。観測はいつでもできる』
『わかった。すぐに開始しよう』
マルホスが開始の宣言をする。そういや勇者の姿が見えないが、もう砲身の中で待機中なのだろうか?
『そういや今回の勇者ってどこにいるんだ?』
疑問は解消しておきたいので聞いておく。
『まぁ待て待て。おっさんが今作ってる。心配すんなって』
今回の勇者は即席のようだ。即席麺感覚ですぐにできる……勇者とは一体。すっかり忘れていた……そうだ、この世界の勇者は使い捨てでスケルトンにリサイクルされる運命だった。
『ハゼル、どうやら砲身の中で勇者を作って即発射らしい』
マルホスが追加情報を言ってくる。確かに砲身を密閉できなければ悲惨なことになるだろうから理にかなっているが、生まれてすぐに発射される勇者の身を考えると複雑な気持ちになる。
『準備は整った。後はこの、勇者砲をおっさんが操作するわけだ。多分、計算上はいけるはずだ』
言うなりヘイルバルは砲身の爆発室全てに毛を伸ばして行き接続していった。なるほど、爆発の処理は自分でやるのか。完璧だと豪語するだけはある。
『勇者発射!』
ヘイルバルが言うなり、ドドドドド……と爆発室で砲台から先端にかけて順次爆発が起きているのが聞こえてくる。そしてついに砲塔の先端からドーンという重低音と白い煙と共にほぼ球体の勇者が飛び出てくる。今回の勇者はずんぐりむっくりか……本当に災難だと思う。勢いよくそのまま上空へと飛翔していく勇者。しかし一向に落ちてくる気配がない。
『ん? おい、このままだと魔王城通過するぞ!』
『あ、おっさんちょっと張り切りすぎたわ。精製魔水の量が多かったみたい。よーし、計算し直して次行ってみよー!』
そのまま落ちてくる気配もなく魔王城の遥か上空を更に高度を上げ飛んでいく勇者。そしてそのまま天空の彼方に点になって消えていった。魔王城は魔法弾を出すことなく、そのまま沈黙している。ヘイルバルは凝りもせずに次の準備に取り掛かっている。
『なぁ、マルホス……これ大丈夫なのかな』
『ハゼル……その、うん、何事も経験だ』
『そうだぞ。マルホスのおっさんの言う通りだ!』
その後、最初の勇者を含めて十人の勇者が発射された。発射されるたびにヘイルバルが計算し直し、ある者は魔王城からかなり横に逸れ、ある者は魔王の庭に届くことなく、またある者は砲身の中で詰まった。つまり、命中率が低すぎて今回の勇者は誰一人として魔王城に届いていないという結末が待っていた。
『今日はこれで切り上げないか?』
十人目……いや、十発目でさすがにこれはダメだと思い、声をかける。
『おっさんもそう思ってたとこだった』
『……次に活かそう。どうやら風の影響もあったみたいだ。これじゃ計算が狂って当たり前だ』
ヘイルバルとマルホスも賛成のようだ。
確かにスピードが重視されて空からのアプローチになると思っていたがこんな方法になるとは想定外だった。なお、勇者は最初に飛んだヤツは行方不明、三人が魔王の庭に入り殉職、残りの六人が魔王城から逸れたり届かなかったり中で詰まったりで残った。全てが終わった後、残った勇者たちが変形して人型になり、ヘイルバルの毛を毟っていたのが印象的だった。それくらいの権利が今回の勇者にはあるだろう。
今回は第二次世界大戦中、ドイツで開発されたV3 ロンドン砲をモチーフとした話となりました。