考察編03
説明(今後のフラグ&言い訳)回です。
なんでこの小説のジャンルが空想科学かという根本的な話になります。
この世界のことを調べていたら夜が明ける時間になった。この世界に来て三日目の開始だ。魔法があるから科学はそこまで発展していないだろうと高を括っていたが、その考えはすぐに打ち砕かれた。この世界で意識のある生命体が存在し始めてから百年も経っていないが、核分裂や核融合で人工的に作られた原子がこの世界では作られていた記録があった。単体を分離したものは全てわびさびを感じる魔導調査局の地下にサンプルとして厳重に保管されている。住民の数は千人ほどしかいないのに最先端の研究をしている。この世界の発展速度が早いのは全て魔法のお陰だ。
この世界では、前世の素粒子物理学の四つの力――強い力、弱い力、電磁気力、そして重力――の他に五つ目の魔力という他の四つの力よりも圧倒的に強い力が存在する。願えば制限はあるが大体何でも実現できる魔法の源、そして一歩間違えれば世界が崩壊しかねない諸刃の剣。しかし魔法はそこまで出来るわけでもなく、比較的小規模の事にしか現段階では使えない。
研究の一歩はまず、何かおもしろいことがしたい……そんな時は異世界ならではの魔法を使えば何でも解決の異世界面の出番だ。そして解決できなかった場合や計算と違う場合はなぜかという試行錯誤を繰り返して、徹底的に調べつくした結果がこの世界の科学の発展に繋がっている。コイツらは本物の探求者の集団だ。前世の一般人並みの知識しかない俺とは格が違う。知識チートなんてこの世界には通用しない。あのひどい見た目は伊達じゃなかったのだ。
さて、そんなすごく便利な魔力もデメリットが二つある。一つは純粋に魔力の密度を高めると、ある一定の密度ですぐに意識のある魔法生命体が誕生してしまう。つまり俺はそうやってこの世界に誕生した訳だ。二つ目は手の届く範囲でしか現段階では作用しない。魔力で棒を作ってほぼ無限に伸ばすことは可能だが、遠隔操作はできない。例えば地上で隕石落としをしようとしても不可能ということだ。
ところで、どうやって魔力を高密度に貯蔵するかというと、他の物質の原子と結合させておく。密度の高いオスミウムやイリジウムなどの金属物質が有利だが、この世界に大量に存在することや持ち運び及び使いやすさを考えた結果、純水が一番適しているという結論に至った。水なら金属と違い、入手も容易でしかもかなり低い温度で状態変化しやすい。気体になれば膨張して一気に体積が増す。真水に爆発の指向性を持たせた魔力を込めた水、精製魔水はこういった理由で作られていたのだ。
しかし、この世界の科学はスケールの大きいことになるとからっきしになる。何せ、前世では生き残るために科学が発達したが、この世界では死ぬことの方が大変だ。暦も最近になってようやく作られたばかりだ。そしてコンピューターがないため、全てを三つのK――気合や魔法や根性――で解決しようとして失敗する場合が多い。事前のシミュレーションもせずに全て実践投入という末期的状況。実践してから改良をしていけばいいという脳筋仕様……謎の多い魔王城攻略が今この段階だ。しかしそこに魔王城があるためその謎に挑んでいる。なまじ魔王城の存在が近いのも拍車をかけている。天文学の、星と星の間のように遠すぎるならまだ研究も慎重になる。しかしこの世界の謎は同じ星の上に、しかも魔法を使えば手が届きそうな距離にある。それを気に掛けるなというのは酷だろう。
あいにく今日は曇天で、かっこよく朝日を背に新天地に向かうことはかなわなかった。マルホスと共に親の顔より見た光景の魔導調査局の正面へと向かう。
「それじゃ、俺は場所探しをするぜ。またな、マルホス」
「ああ、そうだね。二日ほどの付き合いだったが楽しかったよ。魔王城攻略の時は呼ぶと思うかもしれない。その時は是非来てくれ」
「もちろんだ! 必ず行くぜ!」
マルホスとの再会を約束し、新天地を目指して出発する。どうせ魔導情報システム上でいつでもやり取りができる。このシステムは便利な一方、ある意味前世のインターネットよりすぐ反応できるだけタチが悪い。このシステムにかつての世界にいた自己顕示欲の塊が潜り込んだ場合は阿鼻叫喚の悪夢が待っているだろう。この世界では人数が少ないことや研究一筋の気質があるためか、今の段階では被害は確認されていない。その点に関してはこの世界は平和だ。
太陽もすっかり昇ったはずだが今日はかなり暗い。分厚い雲がかかっているせいだ。そういえばこの世界では天気予報が概念すらない。この世界の住民は純粋な魔力で体を構成しているので天気も特に気にするものではないらしい。俺の肩書きは爆発研究部長だがちょっとくらいなら別方面へ手を伸ばしてもいいか……多分、天気予報のシステム開発なら問題はないだろう。この先、魔王城攻略は天気との戦いにもなるかもしれない。実際、過去にも分厚い霧が出ていて魔王城の方向がわかりませんでした、なんて記録もあった。
魔導情報システム上で今までの記録から誰もいない位置を確認しつつ、この世界特有の暗い色の大地を進んでいく。一応の予定地は決めている。水が豊富な海を目指している。この星では月が近いせいか潮汐力が強く働いていて潮の満ち引きが激しい。そして地震も多いため津波も多い。そんな場所なのでさすがに海に近い海岸部周辺は人気がない。
「うーん、メガフロート構想か……あるいは空中に浮かせるべきか……?」
どちらにしても自己責任なので長い期間試行錯誤が繰り返されるだろう。
まず、メガフロートに関しては前世でも多少の構想はあっても俺が生きている間は人間の住まいとしては実現していなかったロマン仕様。せいぜい公園として採用されたくらいだった。このメガフロートの場合は材料の性質から構造、そして周辺の海流なんかが問題になってくるだろう。この世界で実際に作られた記録はあるが、数日で海の藻屑と消えたらしい。下手をすると流されて大海原を彷徨うことになる。長い年月がかかり手間のかかる本当にロマンしかない構想だ。
対して空中に浮かせるのならば天気次第では簡単だ。魔力で強力なヒモを作り、気球や風船を作ってヘリウムみたいな空気より軽いが反応しにくい気体を充填して地面に接続して浮かせればいい。なお、嵐が来たら墜落か飛ばされるかの二択になるだろう。実験は潮の満ち引きを考えて離れた試験場を作りそこでやることになる。万が一落ちてもこの体には問題ないはず……。いや、それも実験してみないとわからないな。もしかするとこの体は超弱い耐久性なのかもしれない。しかし、この案も魔王城攻略が空中からのアプローチを考える段階にならないとマルホスとの約束を反故にすることになる。多分これからはスピード重視になる。地上を高速で走るよりも空を飛んだ方がいいと思うようになる……はず。いや、ここの連中のことだし、もしかすると地中を削っていくという斜め下の発想も出てくるかもしれない。
「結局は長い時間がかかる……気楽にやっていこう」
それだけは確実だ。どうせ俺のこの黒い球状の靄の不思議な体、強風で飛ばされるわけでもないし、ましてや野ざらしでも問題はない。
風も強くなってきた所で海が見え始めた。この世界の海は塩分濃度もミネラル分も高すぎる。鉄分が多すぎて緑色をしている。今まで見てきた暗い色でごつごつしていた大地から、水の浸食を受けて少し明るい色になった砂や丸い石が散乱している地面へと変わっていく。今はこの辺で我慢するしかないか……とりあえずの広い場所は確保した。海に来ても相変わらず生物の痕跡はない。この星は魔物が支配する魔境なんだ……。
海水が来ない場所を確保し、近くにあった岩で簡易的に構築した、窓も扉もない仮の住まいを作ってちょうど七日後、次の魔王城攻略の知らせが届いた! 俺はすぐさま現場へと急行した。
一応今までの部分を推敲して誤字脱字や表現の修正を順次していってます。
中には書いては消してを繰り返してこれでヨシ!と自信満々だった部分が誤字になってて落ち込んだところもありました。
次はやっとまた兵器の話に戻ります。