考察編01
魔王城攻略戦が終わってすぐ、見るも無残な姿になった勇者の屍の脇で反省が始まった。参加者はマルホスとブロース、ついでに俺だ。
「まず、今回は魔王城に取りつくことができたという成果が得られた。僕はそこは評価できるし今後もこの路線で行くのが最も効率的だと思う」
マルホスがまず戦果を挙げる。そもそもこれまでは辿り着くことができなかったんだから一歩前進だろう。
「そうだな……最大のミスは行くことだけ考えて武器を忘れてたことか。うーむ、他には……魔法弾が発射されてから弾着までには時間がかかるからもっと速度を出すべきか?」
「なあ、勇者複数で物量戦はどうなんだ?」
すかさず根本的な疑問をぶちまける。
「これまでの耐久重視路線の時にやったことはあったんだけど……うん、また試してみようか」
「大量生産か。だが、それをやれば……」
どうなるんだよ? しばらく沈黙が続いたので心の中で突っ込む。
「……うーん……時間がかかりすぎるんだよね」
歯がゆい表情のブロースとマルホス。でもどうせ世界が滅亡する訳じゃないし、そもそもお前ら暇だろ?
「時間がかかるのもあるし、俺は同じの作ってると飽きるんだよなぁ。もっと心が躍るような違う方法見つけたくなるんだよ」
ブロースは飽きやすい子の様子。さらに今回の失態、うっかりさんでもある。そんなんで魔王攻略が務まるのかは怪しいが、以上で反省会は終了した。それにしても『勇者は作るもの』発言はいかがなものか。
勇者の屍は魔導調査局で葬儀を行うということで、ブロースがそのムキムキの右手で引きずって全員で帰る。こいつの右手はこうして鍛えられたのだろうか?
「ここでも葬儀ってあるんだな」
「魔王に挑んだんだ。その勇気を称えるためにもやるさ……僕も一歩間違えたら死んでたし、それくらいしなきゃ浮かばれないさ」
挑んだことのあるマルホスがぽつりと答えた。だが、諦めるという選択肢はないのがこの世界の住人達。
その後、全員無言のまま魔導調査局へ着いたのは夕方になる手前という頃だった。昨日は動くものの気配が全くなかったが、今日はディレクシオやヨーマ、そして――。
「なあ、マルホス、ここにいるヤツらって?」
「魔王城攻略の技術者グループだ」
そう、他にも異形の魔物の群れがいた。頭から足しか生えてないヤツ、触手が多数あるヤツ、毛玉にしか見えないヤツ、足が八本あって高速でカサカサ動き回るヤツ等……見た目は様々、まるで百鬼夜行だ。
「今回もダメだったが成果はあった。次は必ず仕留めてみせる!」
魔導調査局の前で魑魅魍魎に囲まれつつ、ブロースは魔王城の方へ頭だけ向け吐き捨てるように呟く。すごく意気込みを感じるセリフではあるが、うっかり武器を渡し忘れたヤツの言うことではない。
「ああ、まずは今日散った勇気ある者の……いや、勇者を弔おうか」
「そうだな。あいつの雄姿……しっかりとこの目に焼き付いているぜ」
「今まで成し遂げられなかった栄誉だぜ!」
「今日のデータを生かして、魔王攻略伝説を俺たちが成し遂げてみせるぜ!」
「ケッ、あのスピード感……グッドジョブだったぜ!」
勇者を称える魑魅魍魎……そうさ、俺もその中に入っている……冗談じゃねぇ……。
さて、ブロースが勇者の屍をさらに引きずって魔導調査局裏にあるガラクタが散乱している場所――要するに、俺の現住所――に魑魅魍魎が集まった。白い地面に佇む勇者の屍の周りを囲んでいく魑魅魍魎たち。揃ったところでブロースが静かに、しかし全員に語り掛けるような低い声で語りだした。
「こいつは俺に今回の魔王城攻略のヒントを与えてくれたヤツだった……。こいつを生み出して最初の言葉が『この地上で一番速いチューニングで頼む』だった」
唐突に語られる出生秘話。もしかしてあいつも前世持ちの一人だったのか? しんみりした雰囲気が辺りを包む。
「俺はその時は頑丈さこそ重要だろと返したが、その後もあまりにも速さに拘るうるさいヤツでな。仕方なくどうやって速く移動するか話し合ってあの形になったんだ」
つまり俺も外装はなんとかできる可能性があると……クリエイトで人型のロボット作ってそこに搭載する形にするのもカッコイイかもしれない。
「そこに精製魔水の情報がきてロケットエンジン開発が始まったんだ……。いつもは大量生産なんて面倒だったが、あいつが速く転がって楽しんでる姿を見たら俺まで楽しくなってきてよ、ついついロケットエンジンだけ大量に作って車輪にどれくらいの数つけるのかとか、どの角度でつけるかとかで盛り上がったのを今でも覚えてるぜ……」
ブロースはゆっくりと中心にある勇者の屍に歩いて行き、右手で慈しむように撫でる。
「今回は俺の失態でこんな目にあわせてしまったが、次の開発ではお前の遺志を継ぐような素晴らしいチューニングのヤツにしてやる!」
これは大量生産もあり得るかもしれない。魔王の庭を覆いつくす無数のパンジャンドラムを頭の中で描く……ひどい光景だ。しかし魔王の庭は舗装された道路でもない。悪路でも高速で疾走するならあの形がいいのか? 俺もこの世界に毒されてきているのかもしれない。色々考えたがやっぱりナシだ。
「以上、帰ってくる時に思いついた感動しそうな話でした」
おい、感動を返せ。騙されたじゃねーか!
「いい出来だったと思うぜ」
「ああ、ここ数年で最高に感動したぜ!」
「コイツも喜んでるだろうな」
「いや、もう少し捻った話にしてもよかったんじゃないか?」
魑魅魍魎がブロースの作り話にそれぞれ思い思いに感想を語る。絶賛する者あり、改善の余地ありと様々だ。ブロースが帰り際に無言だったのはこんなしょーもない話考えてたせいだったのか! くそう、油断してた!
そんな時……その異変は突如として始まった。勇者の屍がサラサラと砂にでもなったのかのように形を崩していく。風は少しあるのに風に流されている様子はない。すぐ近くにいたブロースは走り、離れていた魑魅魍魎たちは更に距離を置く。そして全員がその様子に注目する。今度は何が始まるのか……そう思っていると今度は崩れた形をした粒子がだんだん白くなっていく。
「ハゼルは初めて見るよね。あの現象は各々で好き勝手に呼称してるんだけど、僕はあれを死骸化と呼んでいる」
いつの間にか横にいたマルホスが俺に解説する。全てが崩れ去り白くなった後、今度は山のように盛り上がり始めて徐々に形を整えていく。そこにいたのはかつての姿ではなく――。
「人型の……スケルトン……」
この世界に来て初めてこれぞ王道、といった感じのスケルトンがそこに立っていた。
「僕らは魔力でできていると言っただろう? 魔王の魔法弾を食らったり魔力がなくなるとこうなるのさ」
「なるほど……じゃあブロースのあの作り話は何か意味があったのか?」
マルホスは少し悩みつつ答える。
「いや、あれは困ったことにブロースの趣味なんだ。僕としてはは少し思うところはあるけど……価値観が違うと早めに割り切ったよ」
作り話に特に意味はなかった!
「しかし今回はまた……うーん、普通だなぁ。たまにすごい形になるのもいるんだけど」
「うん? 違うのも出るのか?」
「ああ、人型じゃない時もあるし、何体か分かれてて組み立てなきゃいけない場合もあるんだ。その時の状況によりまちまちだね。でも意思はないのが共通項だね。命令は聞いてくれるんだけど……謎な存在だね」
この世界では死者が出るとスケルトンが運次第で出る。これを俺は心の中で妖怪ガチャドクロシステムと名付けることにした。この世界の超高度なリサイクル精神には思わず脱帽せずにはいられない。なお、価値があるかは判断基準がないため誰にもわからない。しかし生み出されるのは命令さえしておけば四六時中働ける無限機関だ。そして技術者も寝ず食わず休憩せずで働ける。こんなシステムが前世にあったなら……いや、やめよう……大惨事にしかならない。
以降は1話ごとに書きあがり次第で17時投稿の予定です。
小説書くのは初めてで推敲はかなりしてるんですが、すでに設定ガバガバです。オチに直結するので計算違い等のネタばらしは全て書き終わってからになります。
今後ともよろしくお願いいたします。