攻略編01
正式に俺がこの世界の住人になった日、新方式で魔王に挑むことになっていた。そんな訳でマルホスと共に魔王攻略部隊に合流することになった。魔王攻略部隊と言っても俺たちの他に一人くらいらしい。俺も魔王がどういう存在か知りたくなったから参加だ。もちろん危ない『魔王の庭』の範囲内には立ち入らない。遠くから眺めるだけだ。今までの方式はどうだったかといえば、魔王の放つ魔法弾に耐える装甲で魔王城までたどり着くという脳筋ものだった。
「魔法弾は魔力を打ち消すからね。さすがにやり方を変えなきゃいけないと気付いたんだろう」
移動中、これまでの説明をした後マルホスは他人事のように呟く。
「さて、今日はブロースが挑戦することになっている。新方式とやらがどういう方向性なのか見させてもらおう」
「ブロース?」
「攻略の方向性の違いで少し前に部門が大きく分かれてね。えーと、ブロースは特徴としては左右非対称だけど地味な見た目をしてる……と言っておけば多分わかるはず」
この世界で地味とは一体なんぞやという問いが生まれる。比較的まともな見た目でいて欲しいが左右のバランスが崩れているのは確定だ。期待しないでおく。
さて、移動は歩きということで集合場所に辿り着く前に、マルホスの提案で大気中にある魔力を吸収しておく。結果、俺の姿は球体状の暗く黒い靄に光る目が二つあり、本体と同じく黒い靄のかかった両手が独立して現れた姿となった。この両手は本体の近くならどの角度でも生やすことができる。浮遊できる現状、特に意味はないような気がするが気にしたら負けのような気分だ。
「便利じゃないか? とりあえず作業はできるんだろ? 後は……そうだな……掴まるのに使えるだろ?」
と、マルホスから慰めの言葉を頂いたが、クリエイトを使える以上やはり出番はそこまでなさそうだ。
移動しつつ、見渡す限りのごつごつとした暗い大地とオレンジ色の空を眺める。昨日も見たが、まるで他の星にテラフォーミングしてきたみたいだぜ、テンション上がるなー……いや、異世界だったと心の中で一人心の中で突っ込みをする。生命体も炭素を主成分とした生命体ではなく、魔力でできた……魔法型生物と俺の中で分類する。この先に待ち受けている魔王はどんなヘンテコ生命体なのか気になる。
そんなことを考えているうちに集合地点に着いたらしく、マルホスが立ち止まる。
「少し早く着いたみたいだ。ハゼルがここまで早くこの世界に馴染むとは思ってなかったから多少余裕を持って移動してたんだ。そしてあの先が魔王の庭さ」
確かにすごくわかりやすい。今までは岩場ばかりで暗くごつごつしていた大地が、とあるところから赤茶色の真っ平な大地になり、そしてその先には……水色に輝いてはいるが二股に別れたビルのようなものがポツンと建っていた。この世界に来て初めて見るすごく立派な建物……あの中に引きこもりの魔王がいるのか。年甲斐もなくワクワクしてきてしまう。この世界の住人の気持ちがなんとなくわかってしまう。
「マルホス、思ったより早かったじゃないか」
後ろから声がかかり振り返ると、そこには右腕が異常に太い男がいた。マルホスと同じローブ姿だがローブの右腕部分がなくノースリーブになっており、右腕だけ鍛えすぎたのかはわからないが筋肉モリモリだ。なお、右腕と違って顔は温厚そうだ。地味と言ったのは多分、この世界の暗い大地の色と同化するかのような肌の色のせいだろうか。確かにこの世界では地味だが……十分異形だと思ってしまうのは前世の感覚がまだまだ残っているせいか。そして確かに地味だ……後ろにあるもののインパクトのせいで霞んでしまう。
「やあ、ブロース。新人さんがいてね……余裕を持って早めに来たんだ」
「そういうことだったか。で、そっちのが?」
そう言うとブロースは俺に向かってくる。
「ハゼルです。今日からよろしく」
「おう、俺はブロースだ。しかし……少しばかり話は聞いていたが爆発生命体か……ヨーコも考えたもんだな」
「いや、記録によるとヨーコの精製魔水作成の手順ミスでたまたま生まれたみたいなんだ。ヨーコはそこまで考えてないと思うよ」
「え、マジ⁉ そんなの聞いてないぜ!」
今、真顔のマルホスによって知らされた驚愕の事実。薄々感じてはいたが事故により俺は誕生したらしい。俺の驚きをスルーしてマルホスは話を変える。
「さて、ブロースの後ろにあるモノが気になって仕方ないんだが、新型とやらのコンセプトはつまり……」
「そうだ。今回からは要は魔法弾を避けて素早く魔王城に行くかがキーポイントだ。こいつは回転式疾走兵器の試作機、ロール君だ!」
そう、そこにはパンジャンドラムとしか言いようがない兵器が鎮座していた。パンジャンドラムが一番有名だが、他にもローリングボム、タイヤ爆弾と前世では似たような兵器が試作されたが、異世界でもその発想に辿り着いたヤツがここにいた。もう失敗する予感しかしないが試作機なら仕方がない。成り行きに任せる。
「なるほど……ところで、今回の魔王に挑む勇気のある者の姿が見当たらないけど……どこに?」
「勇気のある者……略して勇者か……」
思わず呟く。魔王に挑むのは勇者、これはファンタジーモノのお約束。この世界でも蛮勇を振るっているヤツはいる。例えばこの珍兵器を作ったコイツ。
「ふむ、略して勇者……採用。今まで勇気ある者とか被験者とか色々呼ばれてたけどしっくりくるね。いいと思うよ」
「俺も今までよりは短くていいと思うぜ」
「ワイもそう思います」
マルホス達から採用通知のお知らせ。というか、三人目の変な声がしたがどこからだ?
「で、その勇者だが……驚くなかれ! 兵器そのものが勇者だ!」
「ども、ワイがロールです」
中心付近の円筒型が突然左右に分かれ変形し、人の顔だけが現れる。生命体を兵器にするとか胸糞案件だが悲しいかな、ここは異世界……倫理観が違う。俺なんて爆発物だしな!
「コイツが魔王城まで自動で出力をコントロールして突っ込む!」
ドヤ顔でハイテンションのブロース。自動とか言っているがそれは手動だ。
「なるほど、かなり綿密ですね。それじゃあそろそろやりましょうか」
「おう、俺の研究成果……よーく見ておけよ!」
魔王の庭の外縁にロールが移動し、魔王城攻略戦がついに始まる。
「位置ヨシ! 精製魔水満タン! スタートだ!」
ちなみに精製魔水は爆発する性質を持つ、この世界のロケットエンジンに必須のものだ。バババ、と盛大な音を立ててロールの車輪に搭載されたロケットエンジンが点火していき、ついに魔王城に向けてゆっくりと動き出した。その後、順調に加速していくロール。コントロールがきちんとされている分、軌道は安定している。
「そろそろ魔法弾が飛んでくるぞ……フェイントを使いつつ上手く避けてくれよ……!」
よく見ると魔王城の二股に分かれた部分から光弾が発射された。あれが魔法弾だろう。
その後も加速し続ける勇者。ついに魔法弾が放物線を描いて地面へ落ちてくる場面になりジグザグに軌道を変える勇者。魔法弾も若干ブレた動きをし始める。どうやら魔法弾には追尾機能があるらしい。
「ィヨォッシ!」
魔王城まで後三分の一といった所で勇者のスピードが勝ち、魔法弾は少し逸れた場所に着弾した。そのまま加速し魔王城までの距離は残り少なくなり、ブロースの横顔はドヤ顔だ。魔法弾がまた発射されたがもう間に合わないだろう。
「取りついた!」
ついに魔王城まで辿り着いた。
「おお、これは歴史的瞬間ですな」
これにはマルホスも感嘆の声を上げる。
しかし、取りついたはいいものの様子が変だ。
「しまった! 武器を持たせるのを忘れていた! 自爆用の精製魔水も使い切った!」
ブロースが悲痛な叫びを上げる。この後、数発目の魔法弾が発射され、魔法弾が当たる度に押し出されて行き、取りついてからそう経たないうちにロールは魔王の庭の外にその屍を晒していた。
個人的に6月中にどうしても投稿したかったためここまでとなりました。