終末編04
――そんな約四十億年前の出来事など風化し忘れ去られ、今日もこの星の知的生命体たちはそれぞれの物語を紡ぐ――。
俺は幼少の頃から、この世界そのものに対して何か違和感を感じていた。その違和感はハッキリとはしない。何かにつけてモヤモヤとするのだが、もしこの違和感を言葉にしようとしても、当の俺でも何とも説明が難しいので、いつもその感情を心の奥に潜ませている。今日は学園の修学旅行だ。古来から何でも願いが叶うとかいう、地元でもなんとも胡散臭い観光スポットの見学の日程が組まれている。天気は快晴、観光日和だ。今日も青空の下、いつも通り色とりどりの国や企業、団体の国旗が様々な場所で翻っている。もちろん身に着けている者も少なくはない。
「はぁ、何か変な気がするんだけどなぁ」
つい、歩きながらボヤいてしまった。
「何か言った? ハゼル君? いつもの発作?」
俺の横を歩いていた、クラスでもイケメン度の高いディルス君が俺の言葉に反応する。俺のようなニワカオタク感半端ない男の理解者であり親友、ありがたい存在だ。ディルス君はいつも学園のネクタイを着用するだけに限らず、国旗を頭にも装着している根っからの愛国者だ。実際、そういう人たちは少なくはない。むしろ多数派だ。男子の頭ネクタイ着用はまだマシだ。女子になると、髪型にもよるが推しがすぐにわかるように二本、三本……あるいはもっと使うような猛者もいる。
「だから発作は勘弁してくれよ。……いや、強いて言えば行き先が胡散臭いなーとな」
違和感のことをディルス君は俺特有の発作と解釈している。面倒なので目先の話題に話をすり替える。
「あ? ああ、そうだな。こんな世の中になっても神頼みとかあり得ないよね」
「まぁ、どんなに科学が発展しても、何かに縋り付きたくなる人はいるってことなのかなー」
「はぁー、そもそも情報が溢れすぎていて、他人のいいところを見すぎなんだよ。たまたま他人が上手くいったのを見て羨ましがるなんて、非生産的だと僕は思うけどね」
そう言って、ディルス君は少し伸びた茶髪をかき分け、ヤレヤレと肩をすくめる。
「ディルス君、達観してるよなー」
「いや、ぶっちゃけ最近読んでる本の受け売りなんだけどね」
「受け売りかよ」
俺たちはそんな他愛もない話をしながら、クラス毎にまとまって、その胡散臭い観光スポットの中に入っていく。観光スポットと言っても広い森林地帯だ。散策コースもある。しかし一つだけ特有のものがある。巨大な水晶の塊が地下に埋まっているということだ。表面に出ていて、過去には掘り出された部分もある。しかし数十年前に、これほど巨大な水晶の塊は世界でもここしかないということで保護区とされている。ここの水晶を故意に傷つけたり持ち出した場合、立派な犯罪となる。
「はぁ、平日でも人多いよなー」
「あー、そうだね」
平日でもどこから湧いて出てくるのか、熱心に祈っている人々がいる。少し耳をすませば、『いい人と巡り合えますように』『子供ができますように』『合格できますように』『クソ上司、地獄に落ちろ』などという祈りが聞こえてくる。
「では、ここから自由行動! 十時半に集合ね!」
少し進み、ちょっとした広場にて引率の先生がそう言って自由行動となった。しかし俺はここにきて体調不良となっていた。頭痛がひどい。脂汗が滲む。
「ハゼル君、どうかした?」
「ああ……あ、頭が……頭が痛くてな」
そばにいたディルス君が、俺の尋常じゃない汗に心配して声をかけてきた。
「なるほど、頭痛か。うーん、ちょっと横になれるとこはないか……ああ、あの木陰とかどうだろ?」
「ハゼル君大丈夫?」
他のクラスメイトも声をかけてきてくれているが、俺はそれどころじゃない。ふらつくのでディルス君に肩を貸してもらい、なんとか近くの木陰に移動する。ディルス君は俺のカバンを枕代わりにするようにして、俺は木陰の草むらに横になる。
「よし、ちょっと先生呼んで来る!」
「うううぅ……」
その場で唸り声を上げることしかできない俺。これじゃせっかくの旅行が台無しだ。だが、頭痛がピークを迎えると不思議な記憶が思い出される。俺であって俺じゃない記憶。
「あ、そうだ……俺って車に撥ねられて死んだんじゃなかったか?」
前世の記憶と今生きている俺の記憶が混じってカオスな状態になっているが、それも一瞬だった。前世、俺は異世界学部の学生だった。そしてレポート提出をしようとしたら不慮の事故で死んだ……と思う。今の世界は前世とは地理も違えば歴史も違う。俺は異世界を学んでいたら異世界転生していたという、まさにミイラ取りがミイラになったような状態だ!
「ハゼル君? ディルス君から具合悪いって聞いてきたけど大丈夫?」
いつの間にか来ていたオバサ……いや、お姉さんの担任の先生が優しく語りかけ、俺の様子を覗き込むようにして確認している。肩にかかるくらいの深紅の髪がゆらゆらと風で揺れる。この世界の人々の髪は緑や青はないが、地毛で黒から茶色や赤、そして金や白と色とりどりだ。前世と比べると異世界チックだ。悲しいことに髪がない人もいるが。いや、それよりさっきの車に撥ねられた発言を聞いていなければいいのだが。誰かが聞いていたらただのヤバい奴って思われるかも……いや、学校に入る前って言えばワンチャンあるか?
「え、ええ。さっきはいきなり頭痛がきただけで、今はマシになりました」
「うーん、念のためもう少し休んでおく?」
「……そうしておきます」
そのままの状態で数分もすると、体調も元に戻ったので「もう大丈夫みたいです。ご心配をおかけしました」と先生に言って散策コースへと一人で行く。誰も近くにいなかったのでボッチは仕方ない。歩きながら、前世と今を比較して、転生していると断定する。でもこの世界に魔法はない。パラレルワールド……と考えるが、地理や歴史が違いすぎるしなぁ。そんなことを考えていた矢先だ。
「いつまでも一緒にいようね」
「ああ、そうだね。いつまでも愛してるよ」
散策コースに入ってすぐ、前方にカップルが……このイチャイチャ固有空間に遠慮せずに入るのは野暮ってものだ。散策コースから少し外れ、ちょうど木や水晶の影になるところへと身を隠す。傷をつけないように水晶に優しく手をつき、存在感を消しながら誰にも聞かれないように呟く。
「チッ、『異世界』――」
そうかー、異世界でもリア充はリア充か。ならば言うことは一つしかない。全身全霊を込め、前世の言葉でさっきのカップルを盛大に祝ってやるとしよう。
「――『爆発しろ』」
俺がそう言ったその瞬間、その世界は爆発した。
この小説では、
・小説を書くこと及び、完結させること
・ガバガバ生命起源論
・兵器の描写(パンジャンで始まりB-2登場で締める)
・ラストは爆発(執筆前は星だけの予定でしたが宇宙ごと爆破することに変更)
・ダークエネルギーとダークマターをこの小説上では魔力として扱う
ということを念頭に置いて執筆しました。
考古学の記事を読み漁り、同時に珍兵器の資料を集め……
ハイ、結果としては完結はしましたが描写不足が多々あり、そしてまともな人物がいないためにひどい有様という他ないと思いました。反面教師となる作品として次に活かそうと思います。