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終末編02

 猶予はそんなことがあってから十日ほどだった。小さな隕石は毎日のように降り注いでいるが、特に巨大なものが後に複数控えている。どれかが衝突してもおかしくはない。ひたすら各自が好き勝手に航空機を作り、魔力不透過物質のコーティング作業をしていく。問題はそのコーティング作業なのだが、複数のスケルトンが航空機の表面を這っていく様はちょっとしたホラー映画のような光景だった。心臓の弱い人にはオススメできない世界が広がっている。


『来るぞ……! 後、数時間でデカいのが近くに衝突する可能性が約九割だ! あ、残りの約一割はここに衝突する確率な』


 そんな中、誰かが魔導情報システム上でそう言った。多分、隕石の軌道解析しているのを生きがいに感じている研究者(変態)だろう。その発表を受けて全員が非常態勢に入る。衝突地点が近くでもここでも被害は甚大だ。各自が気に入った航空機に乗り込み、滑走路から飛び立っていく。その光景を眺めつつ、そういや俺が乗る機体がないことに気が付く。航空機の試験飛行のうち、何割かが設計ミスや操縦ミスで滑走路が傷つく。そのたびに滑走路を補修していたら自分の機体を作る時間がなくなっていた。まぁ、俺には陸地がなくなっても海を漂う能力はある。俺は問題ないから安心だな……などと現実逃避していると、ヘイルバルに声を掛けられる。


『ハゼルのおっさんよぉ、乗る機体がないならでいいんだが、おっさん(自分)の機体に乗ってかないか?』


『お? いいのか? ちょうど困ってたとこだった。ありがたい』


『もちろんだ。こっちに来てくれ。……ああ、そうだ。アレックスはもう乗り込んでるぞ?』


『兄貴、お先に乗って待ってるっすよー』


『……なんでアレックスがもう乗ってるんだよ?』


 ヘイルバルがいる場所へ向かいながら、疑問をぶつけてみる。


『いやー、ヘイルニキ(ヘイルバル)の作った機体、カッコいいから眺めてたら、さっきの警報で出撃だっていう話になったんすよ。この機体、すごくカッコいいっすよ!』


『ほぉー、なるほどな。おかげで俺はずっと補修作業だったんだが』


 納得するとともに、嫌味十割で返す。


『いやー、ホントにカッコいいっすよ! 兄貴も早く来るといいっす!』


 滑走路にアレックスの姿がないと思ったら、ヘイルバルのところにいたとは。それより俺だけ滑走路の補修作業を延々としていたという事実が発覚してしまった。気が付かなかった俺も俺だが、アレックスのことを考える暇もないほど忙しかったから仕方ない。嫌味も華麗にスルーされた……解せぬ。



 さて、心にモヤモヤしたものを抱えつつも、急いでヘイルバルのところへやって来た。そこにあったのは、真っ白でのっぺりとした無尾翼機……いや、全翼機だ。前進翼機も近未来的なデザインだが、全翼機もまた心が躍るデザインをしていると個人的には思う。前世では、確かめちゃくちゃ金がかかってギネス記録になっていたはず。あっち(前世)は真っ黒だが、こっちでは真っ白だ。真逆だが、ステルス性という方向では同じだ。


「お! ハゼルのおっさん、ようやく来たか!」


 近付いていくと、ヘイルバルが機体の真下から大声で呼びかけてきた。機体の格納庫で何か作業しているらしい。毛が真上にある機体の方へ伸びてわずかに蠢いている。


「時間がない。さっさと乗り込むぞ!」


「わかった。えーと、どこから乗るんだ?」


「……ちょっと待ってくれ、今ハゼルのおっさんを搭さ……ウォッホン! いや、乗り込めるスペースを降ろす。こっちに来てくれ」


「今、搭載って言おうとしなかったか? なんだか嫌な予感がするが、ここまで来て乗らない手はないか。……わかった」


 若干諦めつつも、ヘイルバルの近くへと向かう。その間に機体の格納庫から、どう見てもミサイルのような形状のものが降りてきた。これにはもう何も言うまい。これもまた、魔力不透過物質で出来ているようで真っ白だ。それよりも、格納庫を閉めるためのアームがどう見てもスケルトンの腕にしか見えない。ちょっと聞いてみることにしよう。


「な、なぁ、ヘイルバル。このアームなんだが、スケルトンの腕に見えるんだが」


「あ? スケルトンの腕に見えるも何も、スケルトンの腕だが……それがどうかしたか? 骨のある作りしてるだろう? まぁ、ほぼスケルトンで機体を作ったんだ。ヤワな設計はしてないぞ?」


「あ、ああ……そうだったのか」


 このおっさん……スケルトンで機体作りやがった! 二重の意味で骨のある機体だ。多分、この機体のパーソナルネームはスピリット・オブ・スケルトンになるはずだ。いや、俺が今そう決めた。この世界のステルス戦略爆撃機は超ローコストだなーと感嘆する。


「ほれ、さっさと乗ってくれ。ハゼルのおっさんが乗り込んでからおっさん(自分)が最終チェックして出発なんだ」


「わ、わかったよ……」


 どう見てもミサイルの、先端の方がパカッと開いたのでその中へ乗り込む。中は真っ暗で視界はない。乗り込むと程なくして機体に格納されるような浮遊感の後、ガチャッという固定されたような音がした。ヘイルバルの視界を借りてその後の様子を見る。ヘイルバルはチェックをした後、格納庫から機体に入り込んでスケルトンに指示を出し、格納庫を閉じる。そして前方へと向かっていく。そこはコックピットのようで、離陸のための準備をしている。そういやアレックスも乗っているはず……と思いアレックスに話しかける。


『えーと、アレックスはどこに乗ってるんだ?』


『ちょっと待ってくださいっす』


 やや時間を置いて確認し終えたようで、答えが返ってくる。


『あー、兄貴の隣っすよ? いやー、この中真っ暗っすよねー』


 アレックスもミサイルに乗ってるのかよ……。


『ハゼルとアレックスのおっさん、次に離陸許可が出たからもうそろそろ出発だぞー』


『離陸に許可なんて必要だったのか。そういや知らなかったな』


 とりあえず試作機を作ってはジャンジャカ飛ばしていたような記憶しかない。


『魔導情報システム上で捌いてもらってるんだ。今はそのシステムも空の上で旋回してるさ。いつ衛星が壊れるかわからんからな』


 魔導情報システムの本体って持ち運び可能なのか……。それは初めて知った。情報を探ってみると、俺が前回使った偵察機を魔改造して搭載しているようだ。現在は上空二万メートルで旋回して指示を出している。主に操縦しているのはディレクシオだ。サポートでマルホスも乗っているのが確認できる。


『うっし、離陸許可が出た。さぁ行くぞー』


『はえーな、オイ』


『大体もう飛び立っていった後らしいからな。ま、隕石も降ってくる数が多くなってるしなぁ』


 離陸の様子をヘイルバルの視界を借り(ジャックし)て眺める。相変わらず暗黒に包まれた空、天から降り注ぐ閃光が、隕石群が次々と落下していることを実感させる。天気は絶好の決戦日和だ。この世の終わりと言ってもいい光景の中、魔王城に向けてスピリット・オブ・スケルトンは離陸滑走を始める。


『よし、離陸速度だ……多分』


『えっ、多分?』


 しれっと怖い単語が飛び出してくるが、俺にどうすることもできない。そのまま離陸して滑走路の終わりでギアを()()()。少しでも機体を軽くするということと、もう戻ってこないという意思表示だ。


『ふぅー、問題なく離陸できた。一発勝負だったが……まぁ、なんとかなるもんだな』


『ええ? 実験すらしてなかったのかよ』


『作ってたら時間がなかったんだ。仕方ないだろ?』


『まぁいいか……なんとかなったし、もう後がないみたいだしな』


 巨大な隕石の衝突は後一時間後。予測の約一割とされた陸地に衝突するらしい。帰る場所がねえぜ。


『ええい、もう全部魔王のせいにして腹くくるか!』


『そうっすね、兄貴!』


『ああ、そのつもりでいってくれ(打ち出すぞ)!』


 今度こそ魔王城攻略だ!

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