開発編02
珍兵器と化した潜水艦がなさすぎる!
全部SLBMが悪いんです!(やつ当たり)
一応強襲揚陸潜水艦なるものがあったようですが、話に合わないのでどうするかかなり悩みました。
この世界では前例のない、巨大な航空機の製造にあたっての問題が一つある。広大な土地が必要になることだ。広大なスペースを占拠しての製造となる。このプロジェクトの重要性を理解してもらえるよう、必死に資料作りをしたのが功を奏したのか、内海に面した場所になんとかそのスペースを確保できた。中には期待してるぜと激励していったヤツもいる。この世界は厳しかったり優しかったり忙しい世界だ。
さて、俺とアレックスの偵察機を製造開始してすぐ、ブロースの潜水艦がお披露目となった。サイズの大きさが俺たちのものより小さいとは言え、製造スピードが早すぎる。この世界には魔法があるが、一体どんな魔法を使ったらそんなにポンポンと新兵器のアイディアを出して行けるのだろうか?
「やぁ、ハゼルとアレックス。ブロースが新作を作ったっていうから来てみたんだけど」
「ああ、マルホス。どうやらブロースはまだみたいだな。まぁ……俺はブロースが計画してた時にちょうど現場にいたから、多少の想像はつくんだがな」
「ちわっす、マルホスニキ!」
今回はアレックスとマルホスと共に内海に魔法で急遽建造された港で、ブロースが作成したものの見学に集まっている。集合直後、岸壁のすぐ近くの海面下からザヴァーンという音と共に波しぶきを上げ、何かが浮上してきた。
「ククク、よーく見ろよ……これが俺の海中艇だ!」
あいにく暗くてよくわからないが、ブロースの声だ。登場の仕方がダイナミックだ。俺が来る前から海中に潜って出待ちしていたのだろうか? そもそも船外で待っている意味はあったのだろうか? ブロースが自身満々にその潜水艦――ブロース曰く海中艇――の上に乗って登場した。確かに潜水艦かと言われると随分小さいサイズだ。二十メートルもなさそうだ。そもそも勇者とブロースが乗るだけなので、推進機関が関わる空間以外はほとんど空きスペースなのかもしれない。前世の潜水艦と比べると非常にコンパクトな仕上がりとなっている。
『ほへー……』
アレックスもマルホスも俺と同じようなリアクションだ。その半分以上が海中に沈んでいて全体像はわからないので、感想が適当になってしまう。
「なんだ? もっと驚くかと思ったがそうでもなかったみたいだな」
「いやー、すごすぎてね? イヤービックリシタナー」
「そ、そうだよなぁ!」
「そうっすよね! いやービックリしたっす!」
ビックリしたのは本当だ。それが新兵器じゃなく登場の仕方の方だっただけだ。マルホスが棒読みで擁護するのでそのノリに便乗する。
「まぁヨシ! お披露目も終わったし、ちょっくら行ってくる!」
「え、もう?」
「おう、こういうのは早さが大事だからな!」
そう言ってブロースはスッっと海中艇に今度こそ乗り込んで、海中艇はまた沈んでいく。沈んでからすぐに、ブロースの視界の情報が魔導情報システムで無理やり送られてくる。『嫌なら見るな』はこの場では通用しない。海中艇の中はモニター類もなく、ブロースの頭の部分が上から突き出した状態で進んでいくようだ。前世なら惨い拷問かな、と思うがここは異世界……呼吸なしでも問題ないのでこれが普通……いや、これがブローススタイルだ。
問題は内海から外洋に出るところで発生した。ゴォンという鈍い音があった。
『何か起こった! ちょっと外観検査だ!』
ブロースはすぐさま海中艇から出て、手探りで音の発生源である前方へ向かう。海中は濁っていてわかりにくい。しかし至近距離に行った時、その全貌が見えてきた。そこでは海底から突き出ていた岩に衝突して無残に穴の開いた外殻が!
「ああ、海底を調べるソナーがなけりゃ……そりゃこうなるよな」
俺は一人納得する。
『あああ! 海底の岩にぶつかるなんて考えてもいなかったぜ!』
そう言ってブロースはその場で修理して戻ってくる。ブロースは戻ってくると開口一番に「行き先の状態を調べる装置を作ってからだな。なぁに、すぐ終わる。ちょっと待っててくれ」と言って、そのまま改修し始めた。アイディア閃いてすぐ開発とか、行動力がありすぎる。
「んんー? 多分……これでいいと思う」
「多分?」
ブロースにしては妙に自信がなさげな様子。
「うっし、ちょっくら行ってくる」
そう言い残してブロースはまた潜行して行った。今度は送られてくる情報が増えた。前方の地形のデータを読み取っているのだろうが、ノイズが多い感じだ。海底だと思ったら次の瞬間には何もないは当たり前、その逆も然りというどうにも信頼できないデータが送られてくる。そして前回岩に当たった地点は超えたものの、その先は更にノイズが激しくなりUターンして戻ってきた。
「やっぱ……ノイズがひどくて安定しないな。スマンが今回は解散で」
「そ、そうか」
「ブロースニキでも上手くいかないことってあるんすねー」
アレックスはそう言ったが、ブロースは毎回何かしらやらかしてるんだが……。
「さっきの模様? なかなかよかったね。リアルタイムで模様が変わるか……ふむ、素晴らしい」
マルホスはそんな不穏な感想を述べてこの場は解散となった。
さて、そんなこともあったが俺とアレックスの偵察機の製造は進んでいる。観測機器の中にブロースが作ったソナーの概念を取り込み、改良を施して前方に障害物があれば警告する装置を一応作った。悪天候だらけだが、霰や雹が大量に作られているところを迂回できれば機体に傷がつく可能性は低くなるだろう。機体も最小限じゃなく余裕をもって設計したため置くスペースに困ることはない。精製魔水を入れるのは一つのタンクに集中するのではなく、ブロック化して分散配置した。搭載量が少なくなるが、揺れて重心が偏ったりしたら問題だ。今回の俺たちのプロジェクトは安全性を第一に考えている。無事にデータが収集するのが目的だ。主翼や胴体部分はこれで完成した。
「さて、機体はこれでいいとして残りはエンジンだな」
「そうっすねぇ……というか、俺がこのデカイ機体を操縦できるんすかねぇ?」
「そりゃあ訓練あるのみだろうよ」
エンジンは俺を複製して改良し、魔導情報システムを使って出力を制御できるようにするつもりだ。実際、これはかなり楽に作れたので、後は精製魔水を供給するパイプを繋げて完成間近となった。問題は精製魔水を流すポンプくらい……困った時は先人たちの知識を借りる。幸い、流体力学に自信ニキがいたので助かった。なんだか変な形をした逆流防止弁と各種制御用の小型の魔物の複製を作り上げて完成となった。なんだかんだで設計を終えてから三十日くらいで完成してしまった……前世だったら年単位でかかっているだろう。非常に感慨深い。
そしてまさに今、目の前には前世ではジェット旅客機を彷彿とさせる外観の航空機が鎮座している。
「兄貴……ついに出来上がったっすねぇ!」
「おう、なんとかなるもんだな!」
今の俺はやり切った後の全能感で一杯だ! 今なら魔王城攻略も出来そうな、そんな感じすらしてくる。
「ヨシ! 魔王城に攻め込むか! 今すぐ!」
「ええっ⁉ 調査が目的じゃないんすか⁉ あと、俺の操縦訓練も」
おっと……俺としたことが全能感を言葉に出してしまったらしい。慌てて訂正する。
「ああ、間違えた。そうだった……。ちょっとテンションが上がってしまった。そうそう、調査とアレックスの操縦訓練用だった。まぁ、すぐにできるようになるだろうよ」
「いやー、焦ったじゃないっすか……」
そうしているところに颯爽と現れた白いローブ姿のヤツ。
「やぁ、出来上がったようだね?」
「ああ、マル……いや、誰だお前⁉」
「誰ってマルホスニキに決まってるじゃないっすか」
アレックスは騙されているようだが……ローブの中身、一部が見えるネクタイは模様がいつもとは変わっている。マルホスの本体はネクタイ……つまりネクタイが変わってたらマルホスではないはず。
「お? バレないと思ってたけど、すぐに気が付くんだね?」
警戒をする俺に見えるようにローブからネクタイを取り出し、見せつけるようにする。よく見ると模様が動いている。
「いやいや、僕はマルホスに違いないよ? この前のブロースの技術を応用して、模様が動くようにしたんだ。カッコいいでしょ?」
おっほ……新発売、ゲーミングネクタイか……誰が得するんだ! やめんかい!
順調に執筆計画が遅延しております。