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考察編07

 あの悲劇から数日、ヘイルバルは未だに立ち直ることができていない。外見でも心なしか、いつもはモサモサしているヘイルバル(毛玉)が萎れている気がする。今まで数多の失敗をしてきたのに、何がそんなにショックだったのかは俺にはわからない。俺には理由がわからないが、ヘイルバルはただひたすら落ち込んでいるので俺にできることは思いつかない。きっと時間が解決してくれるであろうことを期待して、今はそっとしておくことにする。ブロースも、どこか過去を思い出すような顔をして『俺にもあんな経験がある。俺の場合はとあるきっかけがあって立ち直ったがな……』と語っていた。



 さて、見慣れた異世界の様子はというと、俺が宇宙に行っている間に様変わりしていた。まず、かつての魔王の庭と呼ばれていた区画は内海へと変わって実験場(遊び場)となっているのはわかっていたが、他にも陸地の大部分が変化していた。暗い大地はそのままだが、爆発の衝撃は凄まじかったらしく、以前よりもゴツゴツとしていない小さめの石や、衝撃で巻き上げられたであろう大量の塵が堆積している。そして建物は全て吹き飛んでしまったため、建物がない(0BEA)という光景が広がっている。地下にあったものは無事だが、小石や塵の堆積が多いために今でも発掘作業が続いている。さらに住民の大多数は衝撃で吹き飛ばされ、その半分以上は海まで吹き飛ばされたという。海に吹き飛ばされてもなんとか全員戻ってくることは出来たようだ。宇宙空間に放り出された俺も災難だったが、地上にいても災難が降りかかっていた。


「兄貴、昔やってた研究が今使えてよかったっすねぇ」


「そうだな。しかし、まさかこうなるとは思ってもいなかったがな」


 そんな訳で、今は波の穏やかな内海に船を浮かべて実験している。メガフロートの実験も一応やっておいてよかったとしみじみ思う。正確には小型の船を作って基礎実験だけしていたのだ。しかし、以前は波がひどくて気付いたら転覆して沈んでいたので、ロケットエンジンの開発を優先して手つかずになっていた。その眠らせていた計画を、この波の穏やかな内海で再開しただけだ。


「この内海で波が静かだから浮いていられるけど、外洋だとこうはいかんだろなぁ」


「そうっすねぇ」


 俺とアレックスは今現在、内海で俺がその辺の素材で適当に作った船……とは名ばかりの部材()の上にいる。内海では元気に今日も悪天候にも関わらず実験をしている住民(研究者)が多い。かく言う俺もその中の一人だが……。どういう訳か空は悪天候にも関わらず、海は静かだ。地上付近はほぼ無風で、上空になるにしたがって上昇気流が発生している。内海はクレーターが出来た時みたいに周辺が盛り上がっている地形になっていて、周囲からは風が吹き込んできている。まるで内海にずっと留まっている移動しない台風の目だ。ちなみにこの内海は西で外洋に繋がっていて、さすがにその周辺では波が高めだ。


「よぉ、ハゼルとアレックス。今日もいい実験日和だな!」


「ブロースニキ、チィーッス!」


「む? ブロースじゃんか。もう次の実験か? 推進方式の改善でも出来たのか? それとも今度は手漕ぎ式か?」


 フロートの実験をしていると、ブロースが近付いてきていた。今回も懲りずに、カヌーのような左右非対称の双胴船をムキムキの右手で漕いで操っている。いや、もう大きさ的にカヌーでしかない。どこか南国の匂いがするカヌーそのものだ。


「ああ、そうだ。何も魔法使わなくてもいいんじゃないかと思ってな。……あと、あれは二度とごめんだからな。でも手漕ぎ式じゃあないぜ!」


「あれって、そこまできつかったのか」


「そりゃもう大変だったぜ?」


「でも、その(カヌー)で外洋に出る訳じゃないよな?」


 さすがにカヌーで外洋に行くんじゃないぞ、という意味も込めて確認する。


「もちろんこんな適当なもので行くわけないだろ? 手で漕げる場所なんてここくらいのものだろう」


 いつものは適当じゃなかったのか……と心の中で思う。その場のノリで作りましたと言われた方が信憑性が高かったのだが、そうでもなかったらしい。ブロースは続けてトンデモ発言を繰り出す。


「俺は気付いちゃったんだよ……。海面を移動する必要なんてないってな……」


「うん。……うん? そうすると空か? まぁ、その方がまだ現実的だよな。気流が乱れてて制御難しそうだけど。あー、あと魔力の問題が大変そうだな。となると大型化する方向になるか?」


「フッ、違うぜ? 今度は水中を移動することにした!」


 そう言いうなり、ブロースの真下から何かが浮上してくる。その正体不明の物体に、カヌーから華麗に乗り込むブロース。正体不明の物体はメタリックな色をしていて、塗装されていない航空機を思わせる外観をしている。


「今回は前方についている、この三つのスクリューで潜水中は行動する! そして空を飛ぶときはロケットエンジンに切り替える! 潜水中は精製魔水も作れていいとこ取りの機体だ!」


「おー! いいっすねぇ! しかもカッコイイ!」


「お、そうだな」


 もう色々ツッコミどころ満載でお腹いっぱいなので一応肯定しておく。アレックスは目をキラキラさせながらカッコイイと連呼している。どこがいいのだろうか?


「そんな訳でさっそく実地試験に行ってくる!」


「今回は上手くいくといいっすね!」


「が、頑張れよ?」


「おう、この実験機の有用性を実証してくるぜ!」


 そう言って潜水していくブロースを乗せた機体。確かに俺たち魔物に呼吸は必要ない。一応理にかなってはいるのか? そのまま潜水を続けていく。


「……うーん、潜水するの長いな」


 問題はもう露呈した。潜水時間が長すぎる。


「そりゃなぁ、重し(バラスト水)の注水には時間がかかるのは仕方ないだろ……」


「……捨てる時も同じ時間かかるんだろ?」


「まぁ、そうなるな」


「その間に流されないか?」


「……そうかもな」


「やっぱ無理があるんじゃないか?」


「そう……かもな。まぁ、潜水中のデータ取りのつもりで行ってくるさ」


 ふとアレックスの様子を見る。さっきまでキラキラさせてた目が死んでいる。そしてすごくがっかりしている。



 かなり時間がかかりつつも完全に潜水した後、ブロースは外洋に出ていった。気になったので測位システムを使って位置を見てみると、完全に外洋に出ている。しかし――。


『クッソ! 水中も移動するのきついじゃねぇか! 海面よりはマシだけど!』


 外洋に出て、すぐに泣きごとが聞こえてきた。そして即、俺たちのところに戻ってきた。


「うーむ、大型化すればアリ……か?」


 戻ってきたブロースは開口一番にそう呟いた。


「でも大型化したら、もう空飛ぶどころじゃないような?」


「そうなんだよなぁ」


 潜水中の安定化のために大型化すれば、注水や排水だけで一日終わりそうな勢いだ。


「……いや、待てよ……そうだ。水中から勇者を発射すればいいか」


 さすがビックリドッキリメカの開発者。目の付けどころが違う。確かに前世の潜水艦は魚雷の他にもミサイルを積んでいた。


「なんでそうなる⁉」


「うん、そうに違いない。そうすると……ヨシ! スマンな、これから開発に入る……資材が必要だからまたな! ハゼルにアレックス!」


「ちょっ――」


 話を聞かずにそのまま陸地に向かうブロース。これから開発ということは設計はもう済んだのだろうか? 特に潜水する必要がないこの世界で、潜水艦という概念を作り上げたブロースはどこへ向かっていくのだろうか?


「一応聞くが……アレックス、さっきのブロースの案だが……どう思う?」


「カッコいいと思うっすよ! 」


「え?」


「え?」


 俺とアレックスは筏の上でしばし見つめ合うのだった……。

┌(┌^o^)┐┌(^o^┐)┐


飛行潜水艦というロマン溢れる機体…

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