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帰還編04

 俺の帰還する方法は前世の宇宙船と違って非常に単純だ。俺自身がどんな衝撃にでも耐えることができるため、黄水球の大気圏に突入する時はほぼ垂直に落下するような帰還方法をとる。つまり衛星から質量兵器を発射する時みたいなものだな。いや……かつての爆発のせいで、俺は一度宇宙空間に出ている。つまり今回のミッションはこの世界で初の『事実上の大陸間弾道ミサイル』と言えるかもしれない。



 相変わらずの適当計算により、自転のことを考えて巨大な渦の東から突入していくことになった。着陸(墜落)地点のことを考えて調整のために宇宙空間を移動することもあり、突入するのは夜中となった。夜の暗闇の中で眼下を見下ろすと、地上に近い部分では青白い雷光が雲を通して瞬いているのがはっきりと確認でき、超高層の宇宙空間に近い場所では瞬間的に赤い光(レッドスプライト)が時折出現する。


『今から帰還するぞ。そういえば確認していなかったが、海に落ちたらどうすればいい?』


 元々少なかった陸地がさらに減った訳だから、多分……というか確実に海に落ちることになるだろう。


『お、その時はおっさん(自分)の出番だな! 船で拾いに行く。おっさん(自分)も測位システム使えるようにしたからビーコンを出しておいてくれ!』


『はぁ? ヘイルバルがぁ⁉ 船を⁉』


 もうこの時点でものすごく嫌な予感がする。


『おう、そうだ。ブロースとの共同運用だ。なぁに、安心しろ。船はブロースが作った』


『ハゼル、()()()は俺の力作なんだ。魔王城偵察のついでに拾ってやる』


『そ、そうか……』


 ヘイルバルだけじゃなくブロースもタッグを組んでいるということは、ものすごく嫌な予感を通り越して、絶望的な未来が確定した。そして魔王城偵察のついでに救助という、俺をさらっとないがしろにしていくスタイルはさすがというべきだろうか。


『まぁ、なるようにしかならないか。降下を開始する!』


『ああ、待ってるぜ!』


おっさん(自分)も待ってるからな! 地点を割り出してすぐに向かうぞ』


 イマイチ信用できない二人だが、今更仕方ないだろう。五パーセントの魔力を使って真下に落下し始める。垂直に落ちて(突入して)いくにしたがって、次第に大気の密度が濃くなっていき、先端部――つまり俺――では空気が圧縮されることになり、かなり高温になっていることがわかる。宇宙空間と違い、大気があるためにソニックブームが発生し始めている。刻一刻と先端の温度は上がっていき、やがて周囲の空気がプラズマ化し始めた。強い光を発している俺はまさに今、流れ星(コメット)になっている!


「……って、しまった! チタンが反応し始めた!」


 俺を含む先端部分が高温になりすぎて、薄いチタンの酸化物の皮膜が少しずつ剥がれてきている。単体として分離したチタンが仇となった。チタンは高温だと反応しやすいことをすっかり忘れていた! なお、俺は熱さに影響がない体なので問題はない。次第に溶けていく俺以外の部分。ほんの一瞬で分解したのはそのすぐ後だった。そのまま多数の破片に分かれて本当に流れ星(コメット)になった俺。いや、分解したのは俺の乗ってきたロケット部分だけであって俺は無事だ。そのまま俺は自由落下することになった。


『あー、俺は無事だがロケットが分解した。現在は自由落下中だ』


 ロケットが分解しても今の俺は無敵だ。前世だったら即死してた。


『まじかー、分解原因は?』


『ロケットの構成部品の材質の問題だ……宇宙からの帰還も大変だな』


 呑気に事故原因を解説する余裕すらある。そのままあてのない旅というのもつまらないので、四つになった手を使って方向修正を試みるが大気の状態は不安定すぎるため、ただの悪あがきにしかならない。ついに気流がかなり乱れているであろう、雷が大発生している積乱雲の中に突入した。俺にも落雷するが、今の俺に雷が当たってもどうということはない。雲に入って視界がほとんどなく、上下左右がわからないため、もはや打つ手はほとんどない。使える手はブロースの測位システムからの情報を頼りに、どれくらい離れているかを眺めるくらいだ。



 乱気流にもまれ、さらにロケットが分解したことで落下地点は予想がつかない。ただ、測位システムの情報によると、当初の予想よりもかなり西にずれていることがわかる。さらに強い乱気流にもまれ、雷にも何回も当たっていると、今度は北東方向にずれてきた。しかし分厚い雲とプラズマ化した大気のせいで、相変わらず俺の視界には何も見えない。本当に測位システムの情報しか頼りにならない。


「本当にやることねぇなぁ……」


 自由落下しているので速度は増しているはずなんだが、なかなか雲の層からは抜けられない。いや、雲が分厚く薄暗いせいで海に衝突するまでわからないかもしれない。測位システムによると現在は予定していた地点のほぼ北を落下中だ。


『予想地点より北にずれてる。で、誰もいないよな? 俺に衝突したい奇特なヤツなら歓迎するが』


 念のため魔導情報システム上で俺の位置情報を送る。でも今の俺に誰か衝突したらどうなるんだろうかとふと考える。俺が異世界転生ロケットの役割を果たして、この世界から異世界転生するんだろうか? それとも合体することになるのだろうか? 少し気になる。 


『俺の船はまだ停泊中だ。ハゼルが海に衝突した影響で波もあるだろうしな』


 ブロースから返信が来る。魔導情報システム上で他のヤツらの位置情報を確認しても、内海はともかく、外洋に出ているヤツはいないみたいだ。問題なく墜落できる。そのまま大気を切り裂きながら落下していく俺。雷で一瞬海面のような反射が見えたと思ったら、勢いよくドボンと音を立てて海に墜落していた。ガス状なので俺の体は水より軽いせいなのか、そのまま海の上に浮かび始める。浮かぶと周囲は俺を中心とした波紋だらけだ。


『今、やっと海に落ちた。どういうわけか海の上で浮かんでいるから少しずつそっちに向かう。もちろんビーコンは出しておくぜ?』


『ハゼルって水より軽いのか……初めて知ったぜ。何か応用できないかな?』


おっさん(自分)もだ。……ハッ! 閃いた! 船をハゼルで作ればいいんじゃね?』


『いや、そうしたらお前らが乗るとこがなくなるだろ……まぁ、俺も水に浮くってのは初めて知ったけどな』


 俺を素材にしようとするヘイルバルに即ツッコミを入れる。この二人がタッグを組むとロクなことがない。変な計画を止めるヤツが必要だ。誰かそんなことができるヤツがいないものだろうか?



 さて、俺は測位システムの情報を基に海の上を移動する。この世界の俺は悲しいことに泳げない。なぜなら水より軽くて浮くからだ……。俺が衝突した波紋のせいなのか、かなり上下に揺れる。しかし海流を調べると東に向かっているというのに、普段移動するスピードよりも速くもなく遅くもなく……なんだか不思議な感覚だ。測位システムの情報によると、陸地は水平線の向こうの模様。だが暗すぎて水平線がわからない。この暗さでは、可視光線は機能しないので赤外線で物を見ることにした。赤外線なら海面と空がくっきりと判別できる。移動を開始してから何時間か経過した時、ブロースから船を出したという連絡が入った。


『ハゼル、ヘイルバルとそっちに向かっているところだ。少し南に向かってくれ』


 ブロースから向かって欲しい地点の情報が来る。


『ああ、来るのか。で、この地点か……でもなんでだ?』


『来る前に言っただろ? それにハゼルが帰ってきたんだ。魔王城の様子を見に行かなくてどうする?』


『ああ……そういえばそんなこと言ってたな』


 そんな、『大雨や台風が来てるから川の様子見に行く』みたいなこと言わなくてもいいのにな。しかしあの二人が来るんだ……やっぱり嫌でも付き合わされる。この体に腹はないが、腹をくくって付き合うしかないか……。南に進路を変えてさらに数時間後、ブロースの船が水平線から見え始めた。でもさすがブロースだ……左右非対称なのは当たり前のフォルム。双胴船と言われるものなのだろうが、ほぼ正面にいる俺から見ると左側が小さく右側が大きい。そして左側に鎮座する異様な物体……黄水球に戻ってきて少ししか経っていないが、この光景はキツイぜ!

左右非対称な双胴船…一体どんなSWAO 53なんだ…

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