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考察編06

 この異世界に来てから一年ほど経ったが、まさか更なる異世界である月に来るとは俺も思わなかった。しかし弁明させてほしい! この世界の月には大気があり、さらに色も少し黄色かったため間違えて到着してしまったのだ。地表の色も似ていたのが拍車をかけた。大気が薄いことと海がないことでやっと気が付いた。前世では通信は電波を使っていたが、こちらの世界では魔法により通信しているので時差がないやり取りができるのが幸いだ。


『そっちに帰還する方法を考える……いや、考えるまでもないな。活火山があるから後は噴出の時に勢いさえ確保すればすぐ宇宙空間に出れそうだ』


 地平線の彼方に噴煙が見られる。蓋して密閉すれば圧力が高まってすぐに宇宙空間だろう。もちろん俺の爆発スキルも併用して確実に月から脱出する。


『まさか似ている星がすぐ近くにあるとはね。この星も名前をつけておこうか』


 マルホスが今更ながらに居住している星の命名の提案をする。そういえば名前つけてなかったな……と今になって気付く。


『こっちから見ると黄色い球体なんだよなぁ……どう名前をつけるかな? こっちは全然海がないから違いはハッキリしているが』


『じゃあ、黄水球(おうすいきゅう)で決まりっ!』


 ブロースが横から入り込んでサクッと決めていく。確かに大地がほんのわずかしかなく、海ばかりなので前世のように地球とは言えない。この黄水球という命名は俺としても好都合だ。もし前世の地球がこの世界の生命体のように三百六十五日、二十四時間百鬼夜行ができる戦士達が集っていたらと思うとゾッとする。


『それでだ……ハゼル、ついでに黄水球の周りを周回してデータを取れるようなものを作ってくれ』


『は? 俺にそんなものを作る技術があるとでも?』


『設計は俺だ! 今から作り方を送る』


 さすが魔法の世界……冷凍食品をレンジでチンする感覚で新兵器の建造が行われる。そういった訳で俺がこれから宇宙空間に出るのは比較的簡単なのだが、ついでに今後の黄水球での活動のために偵察用の人工衛星をことになった。魔法で何でも解決するこの世界でも、黄水球(地球)の重力に魂を縛られるのは同じようだ。厳密に言えば縛られているのは重力ではなく魔王城になのだが……初期に習う物理学のように細かいことは気にしないこととする。


『しかし……簡単にできるな。量産しておくか』


『ああ、そうしてくれ』


 送られてきた設計図を基に魔力を集め、さらに近くにある物質をかき集めて構築していく。ソーラーパネルなんて必要ない……なぜなら宇宙空間でも魔力は豊富に存在するので動力は魔力。地上からでも魔法を使って遠隔制御できるので、隕石にさえ当たらなければほぼメンテナンスフリーで制御できる夢の人工衛星だ。最後に俺のミニモデルを作って軌道修正ができるようにする。


『一個作ってみたがかなり楽に作れるな』


『だろ? 実は前から考えていた案なんだ』


『ほー、でもなんで今なんだ? ロケットエンジンは……ああ、そうか』


『悲しいことに、まだきちんと打ち上げれるレベルじゃないんだよなぁ』


 そう、あれからロケットエンジンの技術は確実に進歩しているが、まだ安定したものはできていない。


『じゃ、これはかなり重要だな』


『そういうこった。一つ落下しても大丈夫なように二十個くらい作っておいてくれ』


 これからの魔王城攻略の要だ。重要な作業を任されてしまった。それから二個目、三個目……とドンドン人工衛星を設計図通りに作っていく。



 そういえば……と思い、作業しながらディレクシオに連絡をする。


『そういえば俺が宇宙空間に飛び出した原因、何かわかったことは?』


『いえ、物理的な衝撃がひどくて、まだほとんどわかっていませんね。あの爆発で魔王の庭が完全に消失しました』


『あの規模の爆発なら……まぁ、そうなるか』


 俺をものすごい勢いで宇宙空間に放り出すほどのエネルギーだ。この体じゃなければ木っ端みじんになっていただろう……。


『しかしあの爆発後、魔王の庭内部では魔力が急激に上昇しているので近いうちに調査が再開されるかと』


『む? 再調査? 危険じゃないのか?』


『もしかすると反魔力が空間を支配していたのではないかという疑いが強くなってましてね。そのせいで魔王城が飛び去った後、魔力がほぼなくなっていたのではないかと議論されています』


『反魔力……魔力の対になるような力だったかな?』


『発案者もまさか、という感じですね。いえ、その……まぁ、私がその発案者なのですが』


『あ、そうだったのか……』


 かつて俺が調査に行く前に、反魔力について熱く語るアレックスが無駄に魔法を使ってキラキラさせていた目が脳内再生される。外見はデカい猫なのでマシだった。人型になっていたら記憶から抹消したいくらいだ。



 人工衛星を作りつつもその議論をチラッと魔導情報システム上のアーカイブされた記録を垣間見る。盛大に爆発している状況をスローモーションで観測し、様々な角度から議論され、精製魔水と謎の液体が反応する前から実は少しずつ反応があったことが明らかになった。それと謎の液体の正体は地中のミネラルが溶け込んだただの水だったことがわかったらしい。



 他にも気になることがあったのでついでに質問する。


『それと、単位の話って結局どうなったんだ?』


『今、長さの単位を決めています。この星……黄水球の北から南の半円を基準に考えています。半円の一千万分の一が長さの単位になるかと――』


 その後も俺から話題を振っておいて後悔したほど、ディレクシオに長々と単位の話を聞かされることになった。ちなみに魔王ロボが移動した時の墜落事故では機首上げ後に対気速度が落ちたため墜落したとの見解が強まり、対気速度を測る方法の模索が始まっているとのことだ。長さの単位もそれを受けて早く単位化を急げという圧力が高まっているという。


「長さか……メートル原器だったか……」


 誰にも聞かれないように小さく呟く。思わず長さと聞いて、もはや懐かしさを感じる前世のメートル原器を思い出す。前世では原器が錆びたり、真空中での光の速さを基準に変更されたりしたが、魔法で作れば問題ないし、この世界で光速に基準を合わせても無意味だろう。魔法は光の速さなんて無視した通信を可能にするからだ。もはや星間通信において電波なんて使っていられない。前世では宇宙人を探すために他の星から出る電波を必死になって探していた人々もいたが、まさか宇宙人(異世界人)は魔法を使って通信していたとは夢にも思うまい。



 そんな前世を懐かしく思いつつ、俺は十八個目の俺特製人工衛星をパパっと作っていく。そしてすぐさまその場での動作試験に取り掛かる。全部同じように作ったので一個だけ確認すれば……と思うが間違いがあってはならないので全部確認する。


「うむむ……レンズなんてこの世界とは無縁だと思っていたが、まさかこの俺が作る羽目になるとはな」


 外見は長い寸胴鍋みたいな形の人工衛星が二十個並ぶ光景は圧巻の一言。これ……半日で作ったんだぜ……? 魔法文明のありがたみがわかる。こんなもの、設計図がすでにあったとしてもこんなにすぐには作れないだろう。材料の調達、工作機械の加工精度、ソフトウェアの開発……素人の俺でも少し考えただけで壁にぶち当たる。


『多分問題ないと思うが……ブロース、これでどうだろうか?』


 俺が確認したが問題なかったので、設計者のブロースに再確認してもらう。


『うーん? 少し待ってくれ』


 ブロースは俺の動作試験の様子を確認しているようだ。しばらくして結果が伝えられる。


『設計通りだな。問題はなさそうだな』


『なら後は打ち上げが問題だな……』


 正直なところ、宇宙に上がるのが俺だけなら問題はなかったんだが、この人工衛星もとなると話は少し変わってくる。打ち上げるためのロケットがないという状況になった。人工衛星を組み立てた後のやり切った感に浸ったのち、しばらくしてから俺はこの状況に後悔することになった。


『なぁ……ブロース、そっちのロケットエンジンの技術がないと俺、人工衛星抱えて月から出れないんだが……』


『こっちの重力よりはマシだろ⁉ ハゼルならドーンといけるんじゃないのか?』


 ブロースも詳しくは考えてなかったらしい。確かにドーンといけるが……それは俺が爆発する時の音だ。こうして俺の月面でのロケット開発がスタートした。重力が黄水球より小さい分、他のヤツらの設計したものに若干の改良を加えるだけでよさそうなのが幸いか……?

次はいつもよりも間が空くかもしれません。

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