表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/32

勇者編03

 中心部に進んだ俺はまず、魔王城の構成素材だったと思われる水晶の欠片を調査することにした。この水晶は実は未解明の物質でもある。魔力を付与した物質で、ある一定の硬度があれば破壊できるのはわかっているが、他の情報はない。そこそこの量はあるし、少量なら調査のために破壊して検査しても問題ないだろう。いや……日が暮れるまでに戻らねばならないことを考えると、ここで調べずに今は持ち帰るべきだと思いなおす。


『うーむ、どれくらいサンプルを持って帰るか悩むな……』


『とりあえずたくさん欲しい!』


 ブロースからの……いや、みんなからの要望だ。たくさんってどれくらいだよ……それともブロースの数え方は某一部の数字苦手な人のように一、二、たくさんなのか? しかし、そう思っていると魔導情報システムを通じて具体的な量が提示された。もちろん一度に運びきれないほどの量だ。


『他にもデータを取りたいから、持ち帰る分は後で確保する』


 水晶だけに構ってもいられないので今のところは観測を続ける。他にも何か重要なものがあるかもしれないので足元に注意しつつも周囲を見渡し、変わったものがないか注意して観察する。この跡地は形成されてから日が浅いものの、すでに池と言えるほどまでに謎の液体が満ちている場所がある。多分……水だと思うが実際はわからないので分析方法を考える。


『この液体なんだが、簡単に今知る方法ってあるか?』


 もちろん考えるのは俺じゃない。自分で解決できなかったり手間を省くためには外注に任せる……アレックスの件から全然成長してないと思われるかもしれないが、今は本当に時間がないので仕方ない。魔導情報システム上で調べるのも今は時間との闘いなのでやってられない。


『今すぐには無理だな……ハゼル、こっちで調べるからカプセルを作って俺にケーブルの中を通して渡してくれ』


 ブロースからカプセルの形状と作り方の情報が送られてくる。なるほど、カプセルは俺のアーマーの素材である魔力不透過物質をほんの少し使い、ケーブルより小さく作って一時的に精製魔水を逆流させてケーブル内を通すのか。しかし重大な問題がある。


『あれ、これって送るうちは俺に魔力が来ないってことになるんだが?』


『なぁに、送る前にかなり多めに魔力吸っておけば大丈夫だろ、少し装甲に圧力がかかるが……そんなヤワな作りにはしてないぜ?』


『なるほど』


 ブロースの考えはわかった。そんな訳で早速作業に取り掛かる。アーマー部分を少し削り、二つに分かれたカプセルを内部で作って一瞬で排出。問題の液体を中に閉じ込め密封しておき、次に精製魔水をアーマー内に充填していく。おかげで俺は水浸しだ。その後も圧が高まるアーマー内。


「あっ」


 そう声を上げるのとアーマーが破裂するのは同時だった。アーマーの薄くした部分が悲鳴を上げ、亀裂ができてその隙間から精製魔水が勢いよく外に噴出する。


「ちょっ!」


 それはまさに一瞬の出来事だった。噴出した衝撃で俺は逆方向に吹っ飛ばされる。さらに外に噴出した精製魔水が何かと反応し大爆発した。よく、大爆発というと盛大に炎が上がっている様子が想像されるだろうが、この場合は衝撃波しか出なかったので非常に地味。しかし威力は俺を天高く押し上げるには十分なエネルギーを持つほどだった。


「イヤッフーーーーー!」


 今も地上からどんどん遠ざかっているのがわかる。俺は音速を超えるスピードで、ものの数分でオレンジ色の空の下から闇が広がる空間へと超高速で移動。ちなみに俺が装備していたフルアーマーは地表での衝撃で粉々だ。


『爆発の余波で宇宙空間に吹っ飛んだ……か』


『すごい爆発だったっすよ! 兄貴ー! 大丈夫っすか⁉』


 俺を含む魔物はどんな衝撃を受けようとも即死しない限りは失神しない。あの一瞬に起きたことは全部覚えている。しかし……展開が早すぎて理解が追いつかない。地上を見ると、広がる衝撃波と共に魔王の庭を覆い尽くす赤茶色の煙が確認できる。


『なんとかな……しかし、一体何が……』


『おい、俺……空飛んでるんだが……何があったんだ?』


 ブロースも巻き込まれたらしい。普段は飛ばす側が飛ぶ側に変わっただけだから問題ないな! 俺は現段階でわかっていることを伝える。


『精製魔水が何かと反応したみたいだ。いやー、盛大に爆発したぜ』


『問題は何とどう反応したか……か』


 お互い、高速で移動しながらあの瞬間に起こった出来事について考える。


『あー、俺も確認したんすけど……これってあの場所にあった液体の池に精製魔水がかかった瞬間に爆発してるっすね』


『え、そしたらあの液体ってヤバいモノじゃないか……そこそこの量があったぞ?』


 宇宙空間に飛び出し、速度を一定に保ったまま星から遠ざかっていきつつも、俺もその一瞬をスローモーションで確認する。アレックスの今言った通りのことしか記録されていないが、これはまるで――。


『物質と反物質の対消滅に似てるな。でもそれにしちゃあおかしいことだらけだ』


 おかしな点はあの場にあった物質と反物質の対消滅なら星すら破壊していただろうということだ。一応物質と反物質の対消滅のデータも魔導情報システム上の記録にあるが、原子レベルの話でも相当なエネルギー量が得られていた。……作る方が大変なのと保管の難しさはこの世界でも同様で、作られたのも一瞬だったようだが。しかし、俺を宇宙空間に放り出すほどのエネルギーだ。魔法でもここまで不思議なことは起こらない。


『しかし……俺はマジでどこまで行くんだ?』


『あ、兄貴、いいニュースと悪いニュースがあるんすけど、どっちを先に聞きたいっすか?』


 アレックスが非常に嫌なお知らせの提案の仕方をしてくる。俺はどちらかというとおいしい物は最後にとっておくタイプなので悪い方からにする。


『じゃ、悪い方からで』


『兄貴はこの星からどんどん遠ざかっていってるみたいっす。このままだと多分帰ってこれなくなるっす』


 俺は考えるのをやめかけた。いや、まだいいニュースがあったはず! 期待を込めていいニュースを聞き出す。


『あー、それでいいニュースのほうは何だ?』


『水晶のサンプルがたくさん降ってきたっす! これで研究が捗るっすよ!』


 うーむ、この……なんだ? 確かに研究が捗る「いいニュース」だ。そして俺にとっては現段階ではどうでも「いいニュース」だ。俺は一人でこの問題に対処しなければならないのか⁉


『俺、どうやって帰ればいいんだよ……』


『何言ってるんすか、兄貴なら少し爆発してそれくらい調整できるじゃないっすか!』


『あ、そうか!』


 俺は自爆しても多分死ぬ訳じゃない。多分というのはこれまで俺自身で実験してなかったからだ。俺のミニモデルで爆発の指向性を持たせつつ、魔力を一部使うだけなら問題なかった。その方針で考えると星に近付くように爆発の指向性を持たせてやればいいはず!


「方向はこっちで……魔力を一割使って『爆発しろ』!」


 少し減速はした……と思いたいが、まだ離れていっている。このままだと宇宙を漂う塵になってしまう。魔力が尽きたら俺もこの世からサヨナラになってしまう。何か手は……と考えていたところ、宇宙空間でも魔力は満ちていることに気付く。なるほど、宇宙空間では魔力使い放題プランが用意されてるじゃないか。もちろんタダ乗りする。無法地帯だし誰にも非難はされまい。



 そして……何時間も悪戦苦闘しているうちに、俺は月面へと立っていた。見上げる先には黄ばんだ水の惑星が……俺はまぐれで月面到着という偉業を達成してしまった。もちろん月面にウサギはいない。


『どうしてこうなった……』


『どうしてなんすかねー?』


 こうしてこの世界の月には爆発物が生息しているということが今、常識となった。

アドリブしすぎで作者自身、どうしてこうなった……という気分です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ