勇者編02
思った以上に話が進みませんでした。
俺のフルアーマー化はその日の真夜中に終わった。俺に合わせた中空の白い球体に、前方の目の部分には特別仕様の透明な魔力不透過物質のパーツが組み合わされ、手を覆うアーマーを作っただけ……見た目は完全にマニピュレーターのついた目玉、あるいは砲身を取っ払った某ボールみたいだ。さらっと設計から製造までその日のうちに終わるなんて、魔法があるからできる力業だ。しかしそのまま行くことはしない。魔王の庭は魔力がないせいで、夜は暗黒の世界に包まれているせいだ。万能の力、魔法が使えないので主に視覚頼りでは詳しくデータの収集をすることができないからだ。
「ヨシ! これで日が昇ってきたら今度こそデータ収集に行くぞ! あああー、早く明るくならないもんかねぇ?」
「ブロースニキ、気合入ってるっすねー」
「俺はまだ何か見落としがないか心配だぞ……もうちょっと検証作業するわ」
ブロースがやる気になっている時こそ慎重になる必要がある。なぜなら毎回のようにやらかすヤツだからな……今回は俺が一番危険な役回りだから、徹底的に魔導情報システム上にアーカイブした記憶を何度も再生しておかしなところがないかを探す。具体的には魔力の減るタイミングの前後に何をしていたか、どこまで進んでいたかだ。その結果、やはり進むにつれて魔力が減っていくスピードが上がっているのは確認できる。
「うーむ、今までこんな急激な魔力の消費の記録はないよな。あの場所が異質なだけか?」
もちろん過去の記録も検索してみるが、あの状況にヒットする出来事はない。精々歴代勇者が突っ込んでいって魔王の魔法弾に当たったということくらい。魔王の魔法弾……と考えてふと思いつく。
「……もしかしてあの場が魔法弾と同じような効果を持つとかか?」
「でもそれにしちゃあ、あの魔法弾の独特な……ごっそり魔力がなくなる感覚とは違うよなぁ」
「ごっそりじゃなくてゆっくり抜けてく感じだったからな。これは余計わからんな」
「兄貴! これは観測手法がまだ確立されてない反魔力じゃないっすかね⁉ 魔王城が移動してもあの場にまだ漂い続けている……とか」
「いや、それお前が今作った憶測だろ?」
アレックスは魔法を使ってまで目を視覚的にキラキラとさせながら反魔力説を推してくる。そういや前世にもこういうヤツいたな……と頭が痛くなる。すぐ裏付けも十分にされていない陰謀論に乗せられるタイプだな。アレックスが前世にいたら情報にグルングルンと踊らされる側になっていただろう。
その後も記録の総当たりが続いたが、これといった進展がなかった。議論の間、アレックスはひたすら反魔力を推してきたので三度目あたりからブロースと共にスルーに徹した。結局調査再開を知らせる、日の出の時間となってしまった。しかしこの日は薄い霧が出ているので少し出発は後らせる。気象システムは西側が魔王ロボ移動の際に破壊されたため、ほとんど機能していないので天気は出たとこ勝負となる。しかし元々陸地が狭く、海洋が大半を占めるこの星で天気を予測するには人工衛星が必要になりそうだ。
「そういやこの装備付けたまま移動ってしてないな」
今更ながら肝心なことに気付く。フルアーマー化されている最中からずっと移動してない。
「へ? 浮遊してるんだから動けるはずだろ?」
「ちょっと移動の試験してみる」
動こうとするが上手くいかない。浮遊だけはできている。
「動かないぞ……これ!」
驚愕の事実が明らかになった。イヤー、ホント参ッタナー。
「なら手で移動だ!」
「こんな短い手で移動できるか!」
「じゃあ足つけてやる! さらに改造だ!」
そんな困難をさらりと解決するブロース。俺は動けないのでそのまま改造を受け入れる。あっという間に足を作り、俺の頭の上に装着される。なぜ頭の上なのかわからないが、非常にキモイ見た目になったことは鏡を見なくても確かだろう。
「なぁ、なんで足が頭の上から生えてるんだ?」
「手が下から生えてるのと、重心考えたらこうなった。いや、しかし動くときは手が使えんな……まぁいいか。どうせ手なんてあっても飾りだろ?」
「兄貴、それで動けるんすか?」
手を手の装甲から抜いて足のパーツに接続し動作試験をしてみる。手で足を動かすなんて初めてのことだから慣れない感覚だ。
「ンギャッ……確かに……動いたけど……ちょっと……練習させてくれ……グエッ」
上下にひどく揺れるのでこの世界に来て、初めて乗り物酔いみたいな感じになる。ひたすら歩行訓練をしてスムーズに動けるようになった時には霧は晴れ、絶好の調査日和になってしまっていた。俺にはもう少し時間が欲しいところだが早く行けと魔導情報システム上での圧力がかかり、絶望的な気分に浸りながらケーブルを接続し、魔王城の跡へと向かうことにした。
「はぁ……じゃ、行ってくる。アレックスはまた精製魔水の供給よろしくな」
「ヨシ! 安心して行ってこい! 俺が保証する!」
「兄貴、任せてくださいっす!」
なんだかブロースの「安心して行ってこい!」が「安心して逝ってこい!」と受け取れるのは俺だけだろうか?
そのまま魔王の庭を進み始める。昨日も見たオレンジ色の空と赤茶色の大地。違いがあるとするならば、真っ直ぐにタンクとケーブルが続いていることだろうか。俺の後ろではまたしてもブロースが着いてきている。俺に繋がっているケーブルとタンクの接続を一定の距離で変えるためだ。俺はフルアーマー化されているせいか、昨日よりも魔力の消費が激しい。手で必死に足を動かしているせいだ。当たり前の話だが、いつもはこんな移動方法をしないためゆっくりな移動になった。ゆっくりだが確実に、昨日魔力が減り始めた地点へと到達する。
『確か……昨日はここから魔力が減り始めたんだったな』
脚を動かすための手の操作で俺はもう疲労感があるが一度立ち止まって確認する。
『ブロース、ここから先は俺だけで行く。後はケーブルを伸ばすだけでいい』
『問題ないぜ? 俺も穴の外まではついていく』
『は?』
後ろを見るとそこには右腕だけ太い異形のロボが……! いや、中身はブロースだった。
『いつそんなの用意したんだよ?』
『ハゼルの装甲化のついでに作っておいた。こんなこともあろうかとな!』
『そんな急ごしらえで大丈夫か?』
『多分問題ないだろ? で、タンクはかなりギリギリまで設置するぜ?』
『そ、そうか……じゃあ頼むぜ』
なぜこんな時だけ準備がいいんだろうか? そして俺が魔王の庭に侵入した時にはあんな姿はしていなかった。いつフルアーマー化したのかは疑問だが、いつも材料がどこかから出てきてたし考えるのも面倒なのでそのままスルーすることにした。
そのまま進んで魔力を確認するが、魔力は減る気配がない。これはフルアーマー化によって問題が解決したと見ていい。
『魔力は問題ない。そしてここが……』
すぐに巨大なすり鉢状に凹んだ中心部へと到達する。穴の中も魔王の庭と同様、赤茶色の大地が広がっている。しかし魔王城の外壁のような水晶の欠片が散乱しているのが他とは違うポイントだ。
『ブロース、そっちでケーブルを抑えておいてくれ。穴の中に入ってみるからゆっくりケーブルを伸ばしてくれ』
『ああ、任せろ!』
ケーブルを命綱に、俺は穴の中に入っていく。なお、このケーブルが切れると俺も終わるオワタ式になっている。穴の外にいるブロースと共同で、慎重な作業により無事絶壁を超え、なだらかな傾斜へと至る。幸いケーブルが切れて落下することもなく、ここまでは問題なかった。
『しかし、魔王城の外壁がこんなに落ちているとはな……そして問題は中心の白い変な靄か。水蒸気でも噴き出してるのか?』
よく見ると、中心部の近くで液体が噴き出している部分があった。この情報を基に魔導情報システム上ではいろいろな憶測が飛び交い、議論が更にヒートアップしている。俺はまず、周辺の撮影作業をしつつ更に中心部へと向かうのだった。
公開した後で全然考察になってない…ということでサブタイトルのみ変更です。