攻略編04
前回キリが悪かったので
浮遊し始める魔王城。もちろん俺たちは見ていることしかできない。
「な、なんだありゃ……」
「あ、兄貴ぃ……」
言葉を失う俺たち。
『こんな現象は初めてだ! ハゼルたちは退避の準備をしてくれ!』
マルホスの撤退要請の声が聞こえる。ここにいるのもマズイ感じがするので、またアレックスの首に掴まり距離を取ることにする。
「アレックス、少し離れるぞ!」
「りょ、了解っす」
少し動揺しているアレックス。魔王城に背を向けて走り出すが、地響きがまだ続いているためその足取りは遅い。
少し距離を稼いでから魔王城の方向を確認すると、魔王城から近い地面は地割れが起き、魔王城の地下部分がゴゴゴゴ……と重低音を出しながらどんどん姿を現していく。魔王城の地下の構造部分はかなり大きく、地上部と同じか少し巨大なものが埋まっていたのがわかる。魔王城の周囲の地表はどんどん崩落していく。幸い魔王城の近くだけで魔王の庭全体には影響はなさそうだ。魔王城の様子も確認したいのでこれくらいの退避が限度だろう。
「アレックス、もういいだろう。ここから魔王城の様子を見よう」
「そうっすね。了解っす」
時間経過と影響範囲の小ささから、アレックスの調子も元に戻ってきたようだ。
地響きが収まり、完全に地面から分離した魔王城は空中にその全体像を浮遊させている。二股に分かれた塔と未だくっついている地面が剥がれ落ち続けている地下構造部分。剥がれるたびに土埃が舞い、詳細な全貌はまだ見えてこない。地表に落ちる欠片が大きかったのか、衝撃波が土埃の中から現れている。
『ハゼル、これは一体……』
『俺も何がなんだかって感じだな』
ドゴゴッと先ほどの衝撃波の時に発生したであろう音が聞こえてきた。さらにその衝撃も空気を伝わってやってきた。俺は魔王城が浮遊した時からずっと魔導情報システムから魔王城の記録を虱潰しに探っているが、同じような事件は起きたことがないことが確認できる。記録上は前例のない、全く予想外の事件が今起きている。
ボーっと見ていると薄くなってきた土埃の中、いきなり魔王城がその場で斜めになっていく。そのまま斜塔を超えて横倒しになる魔王城。徐々に勢いを落とし、完全に地下と地上部分が反転した。反転後は何かバキバキと音を立てて変形していっているようだ。土埃が更に薄くなってきたので全体像が見やすくなる。
「魔王城って巨大ロボットだったのかよ……にしてもバランス悪いだろ」
そこに現れたのは全体が水晶で出来たかのような質感の巨大ロボ。しかし下半身が先細りのため、見た目が不安になる。それよりも魔王城改め魔王ロボは地面に上半身が埋まっていたというイマイチかっこ悪い状態で、記録が付けられ始めたこの百年を過ごしていたということになる。そして更に考えれば、魔法弾は魔王ロボの尻から出ていたことになる。食らったことのある勇者が哀れに感じてきた。そう言えばマルホスは食らったことがあったな……今度マルホスと会った時は若干距離を開けようと心に決める。
「おったまげたっすねぇ! 兄貴! 魔王城が人型になったっすよ!」
「ああ、そしてこれからどうなるんだかな……」
アレックスはなぜかテンション爆上がりの様子。男の子だもんな、変形……と多分、合体、ドリルはロマンだろう。全ての物事を縛る、抗うことのできない自然の法則だ。あるいは変形したことで、魔王城にアレックスは一種の同族意識が芽生えたかもしれない。
やがて魔王ロボは西へと向きを変える。
「こいつ……まさか動くのか⁉」
向きを変えると、浮遊したまま西へと進んでいく。幸いこの狭い大陸は魔王城を中心に考えると、大体の住人は南東方向にいるので被害はほぼないだろう。それよりも向きを変えたことで魔王ロボの背中が明らかになり、巨大なブースターを備えているのがわかる。その時、唐突に第三者の声が聞こえてくる。
『魔王が移動中だってな! これは俺の出番だな!』
この声は……久しく聞いてなかったがブロースの声だ。
『何か秘策でもあるのか⁉』
反射的に声をかける。
『今機体にエンジンを取り付けた! すぐに偵察に向かう! ……ホントは俺直々に行きたいところだがまだ試験中だから勇者のボナールが向かう!』
『俺がボナールだ! 俺に任せとけ!』
俺の予想ではきっと新造航空勇者である、ボナールの声も届く。ブロースの見ているものを共有すると、これぞ航空機というものがブロースの目の前にあった。しかしエンジンの位置が右主翼の下に一基だけという本当にエンジンを取って付けた代物だった。とうとうコイツは自分自身だけじゃなく勇者まで左右非対称にしやがった。すぐにボナールはブロースが作ったであろう滑走路から発進し、十分に加速したのち離陸する。そんな変態仕様で、しかも取って付けたエンジンできちんと飛べるのか不安だったが、案外安定した飛行をしているようだ。
『あんなんでホントに飛びやがった!』
『何を言っているんだ? 何でもエンジン取り付ければ飛ぶもんじゃねの?』
俺の驚きにブロースが反論する。確かに最初は飛びはするだろうが飛び続けられるかが問題だぞ?
一方、魔王ロボの進路は変わらない。移動しながら西の魔王の庭外縁部の各種観測所を尻から出る魔法弾で木っ端みじんにしつつ、西へとどんどん移動していく。その先には海しかないが果たしてこれからどうなるか、俺も魔王ロボを追いたくなる。西の観測所以外被害がないことから一定範囲内に入らなければ魔法弾は飛んでこないはず。もし撃ってこられたらその場合は俺がこの世からおさらばするので十分距離は取る……というより今から追ったところで魔王ロボが止まらない限り追いつけない距離が開いている。
「よし、俺たちも一応追うぞ! アレックス、また移動頼む」
「行くんすか……任せましょうよ」
なぜか乗り気じゃないアレックス。
「とりあえず行くだけ行ってみようぜ? な?」
「ロケットエンジン用の精製魔水足りないんすけど……歩きになりますぜ?」
「ああ、頭になかったわ。やっぱ任せよう」
これにはさすがの俺も手のひらドリルで任せることにする。
さて、魔王ロボはそのまま西へ西へと向かっていく。俺たちからはどんどん遠ざかっているのでだんだん小さくなっていっている。魔王ロボの背中を見送っているとボボボボボボボ……とエンジンの音が聞こえてくる。音するの方向へ視線を向かわせると小型の航空機が近付いてくる。あれが多分ボナールの飛行形態だろう。右主翼にエンジンが一基しかないことに目を瞑れば普通の外観だ。今日は風があるだけで雲がほとんどないのが幸いした。視界がなければ平衡感覚が狂って墜落不可避だろう。
『魔王城はまだ進撃してるようだ。……というよりも俺も出来るだけ速度は出してるんだが、なかなか追いつけない!』
『西からの風があるせいで追いつけないだけかもしれない。そう考えると魔王ロ……魔王城は風の影響がないのか?』
危ない、うっかり魔王ロボって言うとこだった。対外的には一応魔王城と言っておかねば。
とうとう海に出た魔王ロボは更に速度を増し、西の海の水平線へ消えていく。浮遊しているのでかなり遠くまで移動したようだ。
『だめだ! どんどん遠ざかってる! 高度を上げてみる!』
この高度だと見失うと、ボナールは機首を上げ、高度を上げようとする。しかし高度は一旦上がったものの、今度は上がるどころか下がってくる。
『なんで下がっていってるんだ⁉ クソォ、何が起こってるんだ⁉ こんなの嘘でしょ……!』
そのまま速度を落とし失速、陸から近い海に落ちる航空機。機体が腹打ちするような墜落だった。体が頑丈な勇者じゃなければ即死だっただろう。しかしこの後、勇者ボナールは変形して自力で海から帰還した。航空機の技術も未熟だから、墜落原因はこれから解明されるだろう。そして結局のところ魔王ロボの追尾は不可能になり、俺たちは魔王城がどこに行ったのか理解できずにこの日を終えたのだった。
意味深な見た目の建物って変形してロボットになるんじゃないかと思いません?
……思うのは僕だけですか。そうですか。
当初Bv141を出す予定でしたが、アレはレシプロ機だからこその特性だったのでBvP178になりました(この小説上ではまだロケットエンジンの出力が出てないため)