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攻略編03

 各々でロケットエンジンの開発と改良が進行する中、魔王城攻略を再開したのが毛玉みたいなヤツ、ヘイルバルだった。前回は散々な結果だった勇者砲は、傍目でしか見ていないがまだ現役バリバリだと、まだまだ改良を続けているように見える。



 一応俺もロケットエンジンを開発中だ。ロケットエンジンはかつてブロースが回転式疾走兵器(パンジャンドラム)に大量に着けていたが、あれは地上を疾走するために作ったものだし、空中を飛ぶためには圧倒的に出力が低いために再設計か新開発するしかない。俺は猫形態のアレックスにロケットエンジンを背負わせて、なだらかな地上で低出力での加速試験を始めている。たまに爆発するがアレックスは弟子という名の被験者……人型になった時の見た目は某勇者のロボみたいだから多分問題はない。勇気と気合と根性でなんとかしていそうだ。


「兄貴! 今回の爆発原因は何すかね?」


「そりゃ、低出力でやれって言ってたのに、いきなり出力ドカンと上げたからだろ……」


「いやー、どうなるかわからんかったんでつい……すぐ修理するっす!」


 毎回大体こんなやり取りになっている。アレックスは背中のロケットエンジンが爆発してもケロッとしていて、すぐに修理や問題解決と改良に着手するので扱いが楽だ。人型になれば、いかついニーチャンに猫の頭部を模した胸部装甲がついているだけなので、動物愛護団体もニッコリだろう。胸元に派手な()……性別を変えれば、どこかいつかの大阪のオバチャン感がある。



 俺はロケットエンジンの開発において、エンジン部品は軽量性と耐久性を考えて全てチタンを使っているが、製造方法は魔法で地中から分離して形作ったので非常に扱いやすい。なにせ、魔法がなければ非常に面倒な精錬から始まることになったので魔法バンザイである。設計図も外見から中身のパーツまで頭の中で明確にイメージしたものを魔導情報システムを利用してアレックスと共有している。



 そんな日々を過ごしているとヘイルバルが魔王城攻略に乗り出すという日を指定してきた。俺は今度はどんなビックリドッキリメカを出してくるのかワクワクしつつその日を迎えた。



 生憎その日は少し風が強く、これは攻略日和じゃないから日を改めると思っていたが、ヘイルバルは問題ないから決行するという謎の自信を表明した。そんな訳でまたもや勇者砲の砲台にマルホスと共に来た。今回はアレックスも同行しているのが前回との変更ポイントだ。猫形態なら見た目はマシ……人型になった時の舎弟(チンピラ)感が半端ないため、どうしようもない時以外は人型に変形はするなと厳命している。


「やぁハゼル、またここに来ることになるとはね」


「ああ、そうだな。しかし……前回よりも短くなってるな」


「うーん、そうだね。前と比べて大体半分程度……かな? なんだかスッキリしているね」


 前回と同様、途中でマルホスと合流し外観の変化を話し合う。長さは約半分に、そして側面に大量に着いていた物がなくなりスッキリとした見た目になっている。最大の変更点は上半分がすっかりなくなり、砲身とは言えなくなっている。つまりこれは――。


「カタパルト……だろうか?」


 思ったことを呟く。実際、最近は似たようなものを見かけるようになっている。


「前回とは別物だと思った方がよさそうだね」


 真相を確かめるためにあのオッサン(ヘイルバル)がいるところを目指して進む。前回とは違ってその進む先にはガラクタが散乱していて、さながらスクラップ置き場の様相を呈している。この一年、様々な可能性を探求して試行錯誤を繰り返していた痕跡がそこにはあった。



 そんな感慨深い光景の先に今回の挑戦者、ヘイルバルがいた。あのオッサン(ヘイルバル)はカタパルトの根本で、エンジンと思わしき円筒形を横にしたものに取って付けたかのように羽が付いた異形の物体の横で最終チェックをしているようだ。今度は(勇者)じゃなくてエンジンそのものを飛ばすのかよ……もう嫌な予感がする。


「ヘイルバル、調子はどうだい?」


 ヘイルバルがひと段落したようなのでマルホスが声をかける。


「ああ、ちょうど今準備が整った。問題ない」


 俺からするとその兵器の見た目が問題しかない。


「ここに呼んだのは他でもない、まずはおっさん(自分)の今回の試作機を見て欲しかったからだ。どうだ? この完璧な出来は?」


「ああ、見た目からしてほぼ完璧にエンジンだけだよなぁ」


 直球すぎて感想がそれしか出ない。


「今回はおっさん(自分)がこの目で、前もって飛ぶのを確認している。問題ないだろう」


 俺にはヘイルバルの目があるようには見えない。どこについているのかのほうが疑問だ。


「それで、だ。今回も勇者の外観を確認したら魔王の庭に向かってくれ。おっさん(自分)がこの目で見たいが発射するのはここだからな」


「ああ、やっぱそうなるか。また俺が行こう」


「兄貴! 俺も行きますぜ!」


「んじゃ、アレックスも追加で」


「ハゼルとアレックス、そっちは任せたよ」


「ああ、任せとけ!」


 外観を見たがエンジンに申し訳程度に羽つけましたという外観……勇者はどこだ? まさかまたこれ自体が勇者か?


「なあ、勇者ってどこなんだ?」


「んあ? おっさん(ハゼル)、どこに目が付いているんだ? コイツが勇者に決まってるだろ?」


「そ、そうか」


 俺からすればどこに目が付いてるのがわからないヘイルバルのほうが気になる。



 外観をじっくり見たが見れば見るだけ『こんなの高度経済成長期の特撮番組に出てきたよなー』という感想しか出てこない。もう特撮感が半端ないのでさっさと魔王の庭方面に行くことにする。


「よし、これくらいでいいか。俺たちは魔王城の方で見物とするよ。じゃあな」


「あ? もういいのか? おっさん(自分)の最高傑作なんだがなぁ……技術的に言うとこいつの推進方式はこれまでと違ってな、空気を取り入れて――」


「――いや、後で確認させてもらう。説明聞いてたら日が暮れそうだ」


 おっさん(ヘイルバル)の長くなりそうな話をスルーし、アレックスと共に魔王の庭外縁部へ向かう。いや、アレックスは背負わせているロケットエンジンを使い、俺より高速で移動できる。試験のついでに使うことにしよう。


「アレックス、首に掴まるからロケットエンジン使って移動しよう」


「了解っす!」


 アレックスがロケットエンジンで加速したところで俺は後悔した。


「うおおおおおぉぉぉ! ヤバイヤバイヤバイ!」


「兄貴ー、これでもまだ低出力なんすよ」


 地面が近いためスピード感がすごくあり、俺は悲鳴を上げるしかなかった。アレックスの試験の様子は共有しているが、自分で乗ってみると非常に怖い。走りやすいところを通るために迂回することもあったが、前回よりも格段に早く目的地に着いた。一息ついてから準備ができた報告をする。


『こっちは準備できたぜ。いつでも始めてくれ』


『よし、じゃあ勇者発進だ!』


 前回同様、マルホスの見ている景色を俺も見る。エンジンと化している勇者は徐々に出力を上げ、カタパルトから今か今かと発進するのを待つ。やがて十分な出力が得られたのかあのおっさん(ヘイルバル)がカタパルトから勇者を発進させた。その途端勢いよくカタパルトから打ち出される勇者。ヘイルバルがあれほど豪語するだけあって、打ち出された後はしっかりと軌道を安定させているように見える……が、今日は西からの風が強いせいで、地上で見ていると機首が若干風上(西)の方へ向いて空中でスリップしているように見える。


『やっぱり風の影響はあるじゃねぇか……まぁ、安定はしているか』


『ハゼルのおっさんよぉ、おっさん(自分)は真っ直ぐ魔王城に突っ込ませるわけじゃないぜー』


 徐々に魔王城の西へと機首を向け、魔王城から逸れていく勇者(エンジン)。どうやら魔王城の風上(西)から魔王城へ侵入していく予定のようだ。なるほど……と納得する。



 やがて侵入方向の修正を終えたのか、魔王城へ西から突撃していく円筒形(勇者)が見える。魔王の庭に侵入し、少しすると魔王城の二股に分かれた部分から魔法弾が発射される。しかし現在の勇者のスピードであの魔法弾を避けることなど造作もない。というよりも魔法弾が発射されたあたりで既に勇者は魔王城と目と鼻の先という状況。そのまま急激に地上部へ向かって急降下する勇者は一瞬で変形して人型になり、魔王城に対魔王城兵器()の一撃を与える!


「やるじゃないか」


 思わず呟く。魔王城の外壁が割れ、そのまま魔王城の中へ突撃する勇者。傍目から見ると一人百姓一揆だ。その後、辺りはしばらく沈黙が支配した。一体中で何が起こっているのか全くわからない。しかし、しばらくそのまま固唾をのんで見守っていると、突如として地響きが鳴り響き、魔王城が少しずつ浮遊し始めた! 一体何が起きているんだ⁉

今回はフランスのレドゥク010をモチーフとさせていただきました。

すっごい特撮感がありますが操縦はしたくないですね。

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