6話
「ご主人様っ、依頼達成しましたよー」
「おお、ありがとう」
この前雇ったシノだが、案外優秀なようで隠密技術のレベルが6あり、体術のレベルも4あるという。
あの森でのできごとは依頼で植物を採取しにきたところ寝ていた巨人を踏んで起こしてしまった故だそうだ。馬鹿なんじゃないだろうか。
まあレベルはかなり高いこともあって触媒の採取などを頼んでいるがすぐに持ってきてくれる。訓練がはかどるため、非常にありがたい。
「ご主人様ー。こんなの何に使うんですかー?」
「ああ。これはヘンリーの第2魔法法則に基づいて考案されたトレーニング方法に必要でね。触媒を用いて体内の魔力の属性を濃くすることによって…」
「????すいません、よくわかんないですー」
「そっか。まあトレーニングに使うってことさ」
「そうなんですかー」
最近は色々心労ができる相手との関わりが多かったから何も気にせずに会話できるというのがとても楽に感じる。
そうして町で少し話していると、闇神が口を開いた。
「おや。おぬしの妹が歩いて来るぞ」
本当だ。…なんか怒っている顔だ。いや、僕の前では大体怒っているのだが…。
リンドは俺の前まで来るとシノを眺め始めた。
「…カイニックが冒険者を雇ったっていうのは本当だったのね。まさか女だったなんて…」
「なんだ。別に僕の勝手だろう。文句でもあるのか?」
シノを雇った判断は我ながら英断だと思っていたので少し語気が強くなる。
「っ…!文句なんかないわよ、好きにすれば。…冒険者のあなた。契約を解除することをお勧めするわ」
そう言うとリンドは立ち去って行った。
「なんなんだあいつは。シノ、あいつの言うことなんか気にしなくていいぞ」
「あ…はい。なんか複雑な感じなんですねー」
「色々すれ違っとるのー」
「………あっ、そういえば知ってますかー?この前発見された遺跡のことですけど」
気まずくなった空気を変えようとしたのかシノが話題を変える。
「どうも見つかっていなかった闇神の封印を中心にできているみたいですよー?そのせいでかなり魔物が活性化していて推奨レベルは8あるらしいですねー。まあ専属になった私には関係ない話ですけど」
「ほう…」
余計な事を、聞かせてくれた。
「決めたぞカイニック!妾自ら核を回収しに行こうではないか。ほれ、発見されて間もない遺跡とか宝もいっぱいあるじゃろう!」
「…僕は絶対行かないからな」
わざわざコイツの体を取り戻す必要がどこにあるというのか。
「おぬしに拒否権は無いっ!断ったらこの街の人間を皆殺しにするのじゃー!」
「…このクソ神…」
「んー妾悪口は聞こえなーい。それじゃあパーティーを組まねばならんな。とりあえずエリゼを連れて行くとして…」
コイツはこの前読ませた冒険系の物語にでも気に入ったのだろうか。いつもに増してやる気に満ち溢れている。
「どうでもいいから勉強するか…この前買った本は、と…」
「あ、コレですかー?どうぞ!」
「うん、『闇魔法入門』では確実に無いね。アリス、何でここにいるんだい?」
「えへへ…今日は、闇神様の封印されたお体を持ってきたのです!」
褒めてくださいと言わんばかりにアリスが何か威圧感を感じる箱を掲げる。
最近会わなかったのは封印体を手に入れるのに時間がかかっていたのだろう。厳重に守られているか未発見かの2択だからな。その未発見のものも多くを組織が集めた。
奪い取ったならば正直返して欲しい。そういうことが起こる度国中の封印を所持している所は緊張するのだ。一般人にはそもそも封印体を国が管理していること自体明かしていないため一見あまり影響が無いように見えるが実際はかなりみんな動く。組織に対して実は色々国も手を打っているのだ。構成員が優秀過ぎてあまり意味を成していないだけで。
ローリック家も当然動く。まあウチはどれだけ警戒してももう無意味なのだが…。
「むっ。この幼女…」
幼女(見た目だけ)が幼女(ガチ)をジロジロと眺めだす。
「こやつ、かなりの力を有しておるな!決めたぞ。こやつも含めた3人で攻略するのじゃ!」
本当に勘弁してほしい。
「はあ、遺跡攻略ですか…私は全く構いませんが…」
「私も参加するんだよー!」
「げっ…第二位じゃない…何でこんなところにいるのよ」
エリゼがアリスを見ると同時にとても嫌そうな顔をする。同じ組織なのだから面識があるのは不思議ではないが何かあったのだろうか。
「ふふふ…それでは遺跡探検隊、出発なのじゃー!えい、えい、おー!」
当然ぼく以外には見えないし聞こえないため僕だけがやることになる。
「えいえいおー」
するとアリスも僕を見て真似をする。
「えい、えい、おー?」
エリゼも慌てて腕を上げる。
「あっ…えいえいおー!」
さて。急に腹痛でも起きないだろうか。もしくは雨でもよし。
…いや、雨くらいなら何とかされそうだな…。