1話
初投稿です。
僕、カイニックはちょっと周りとは違う。
勿論、個性とかそういう話じゃなく、明確な違いがある。なので人間誰しも多少の違いはあるものだ、なんては言わずに少し話を聞いて欲しい。
まず、僕は王国にかなり昔から仕える貴族の名家、ローリック家の長男である。とは言っても、貴族なんてのは別に僕が通う魔法学院じゃあ珍しくはない。多少は威張れるけど、上には上がいる。それに、僕はこの学院では落ちこぼれだ。家の名前なんて恥ずかしくて口には出せない。
違いというのは家のことではなくこの僕の後ろに浮いてるやつ。
褐色の幼女の姿をしたこのコンチキショウだ。
「ほれ、おぬし。そんな光神の生み出した光魔法の勉強なんぞやめて妾の闇魔法を使うのじゃ。こっちならおぬしは世界最強じゃ。なんせ生み出した本人がついているんじゃからの!」
闇神――原初の世界を支配していた6柱の神の1柱、かつて偉大なる光神との闘争に負け、世界各地に封印された忌むべき神――それが、僕の背中にいる。10年前から続くことだ。
「もー、無視はやめるのじゃ!妾、傷ついちゃうー」
「うるさーい!!僕は、この課題を成し遂げて、光魔法レベル2の認定をもらうんだー!」
「おー、頑張るのじゃ、頑張るのじゃー。レベル2とか、『レベル2が許されるのは中学生までだよねー!』『レベル2…あっ、そうですか。苦手分野はわかりました。それで、あなたの得意分野は?』みたいなことを言われる領域じゃろうに…」
「いやっ、バカにし過ぎだ!てか中学生ってなんだ!」
レベル――それは、この世界において技術の習熟度を表す指標だ。10段階あり、大体10が世界最高、1が初心者、3あればその技術で生活できるぐらいだ。
それぞれのレベルの間にはかなり大きな差があり、僕は教師から与えられた光魔法のレベル2認定のための課題に挑戦している。
「くっ…『輝け 煌めけ 生命の光よ』………」
「………」
「なんで!この魔導具は!!起動しないんだよ!!!」
「詠唱は合っとるぞー。魔力の流し方が悪いんじゃ」
「ああもう!大体これお前のせいでもあるんだからな!?」
事情があって僕を依代にしているこの闇神だが、当然の如く光魔法と相性が悪い。おかげで僕は光魔法に関してはほぼ無能といっていい。
「だから主要科目選択の時に光魔法、というかまず1次魔法科はやめろと言っておったのにー。素直に皆と一緒の2次魔法科にしておけば妾の力も使えてもうレベル4は固いぞー?」
「うるさいっ!ローリック家は光魔法の名家なんだ!この僕、カイニックもゆくゆくは光神様に仕える神官たちの一員に…」
「妾の前でアイツのことを言うのはやめるのじゃ」
「お前の!前じゃ!ない時が!この10年間いつあったというんだ!」
「だからー、もうソッチの道は諦めてー、素直に妾に仕える道を選べばあの組織の連中に崇められて王様気分を味わえるぞー?」
「あの人たちは…なんかもう色々と怖いだろ!大体いつもあの人たちが何やってるか全然知らないんだけど…。
それにあのヒルダさんとか国から指名手配受けてる大魔術師のヒルデガンドじゃないのか!?顔一緒だぞ!?怖くて聞けないけど!」
「まったくもー、世界中から迫害されてる闇神の信奉者がマトモな訳ないじゃろー」
「だよな!?僕もそう思ってた!」
この闇神のせいで僕はある組織から崇められている。依代様!とか言われてぶっちゃけ超怖い。
「もういい!決めた。僕はこの課題を成し遂げるまで寮には絶対帰らないぞ。そして僕はレベル2に至るんだ…!」
「別にこれクリアしたらレベル2ってわけじゃないがのー」
「うおおおお!やるぞ!『輝け! 煌めけ! 生命の光よ!!』『輝け! 煌めけ! 生命の光よ!!』」
「妾の魔力だからって無駄遣いしおって…まあ頑張るのじゃ。妾はもう寝とるぞー」
「『輝け! 煌めけ!! 生命の光よ!!!』うおおおーっ、起動!!しない!!!」
僕は今、王国立エクスト魔法学院の4年生だ。6年間ここでは学べる。
この学院は王国の貴族を優遇する学院の中では最高峰だ。だから他の国の貴族なんかもよく留学に来たりする。
そして寮制の学院であり(通学生もいるが)、部屋は完全な個室が与えられる。ここら辺も他国の貴族から好まれる理由の一つだ。
「ふふ…成し遂げた後のシャワーは気持ちが良い…」
「おお、カイニック。なんだって?なんで出来ないのかわかんない位努力してるのに出来ないお前が何を成し遂げたって?」
シャワーを浴び終わって体を拭いていると同じ寮に住む同級生のゴードンが話しかけてきた。
「ふっ…そんなことを言っていられるのも今のうちだ、ゴードン。この僕は遂に明日、光魔法レベル2へと至るのだから…!」
「おー、すげー。なんかそのセリフ前にも聞いた気がするけど頑張れよー」
「君は2次魔法科だからわからないだろうけど今の1次魔法科の光魔法の2年の担当はかのアールロイド先生…レベル7の凄腕だ!彼の元で学べばこの僕もすぐにレベル2になるだろう!」
「…お前情熱はあるのになー。何でだろなー」
「今に見ていろ!僕は絶対にレベル2になってみせるぞ!そして、姓を胸を張って名乗れるようになるんだ…!」
「がんばー」
ゴードンも僕のことをこんなにも応援してくれている。
勉強だ、頑張らねば!
「あのー、カイニックさん、呼んでいる人が…」
「ああ、すぐ行く。誰だ?」
貴族というのは家によってかなり力の差がある。さっきのゴードンの家――ランドラゴン家は僕の家とほぼ同格だがそんな家は中々ない。それ故、大概の同級生は僕に敬語で接する。…政治的なものを感じて嫌な気分になる瞬間だ。
「リンドさん――妹さんです」
もっと嫌な気分になった。
僕には1歳差の妹がいる。
そして、彼女は僕と違ってめちゃくちゃ優秀だ。3年生にして光魔法レベル4に至り、地水火風全てレベル2まで習得している。
もしや卒業までにレベル5に至るのではと噂されているくらいだ。そうなったら10年振りの天才である。
2年の最初の学科選択で評価の低い1次魔法科に進学したのをとても残念がられている。本当に何で1次魔法科にしたのだろうか?
ついでに言うと、僕への当たりがかなりキツい。はっきり言ってコンプレックスだ。
「それで…用件はなんだい?」
「光魔法の触媒のあの粉。渡しなさい」
「『ガウィンの鱗粉』か?あれ位リンドの周りのやつだって持ってるだろうに何だって僕に…」
「うるさい。そんな事したら権力を笠に着てるみたいじゃない。黙って寄越しなさいよ」
「はいはい…今持ってくるよ。ちょっと待ってろ」
「早くしなさいよ。春とはいえもう夜で外寒いんだから」
「じゃーわざわざ男子寮まで来なければいいのに…」
こうして大したことないことで妹は僕をいちいち使ってくる。しかし落ちこぼれの僕は妹に何も言えないため大人しく部屋に言われた触媒を取りに行く。
「あれ?どこにやったかな…この前使ったんだけど…」
部屋に戻って鱗粉を探したのだが見つからない。
「あ、ココにありますよ。『ガウィンの鱗粉』ですよね?この前使った後この棚に仕舞っていらっしゃいました」
「ああ、ありがとう…」
ん?今何かおかしかった気がする。
「あれ?ここ僕の部屋だよね?」
「はい!依代様の部屋です!」
「…何でキミがここにいるのかな?」
「はい!アリス、良い触媒を見つけたので依代様に献上しようと持ってきました!」
そう言って取り出したのはおどろおどろしいオーラを纏ったなんか脈動している物体だ。
彼女――アリスは僕、というか闇神を崇める組織のメンバーの1人で、よくこうやって何かを見つけたら持ってくる。
アリスはかなり幼くて、僕の迷惑とかは一切考えない。まあそれは組織共通なんだが…。
「…その、それは?」
「はい!これは魔猿のボスの心臓です!かなり質が良かったので献上に参りました!どうぞ、お納めください」
欠片も受け取る気が湧かない。魔猿と言ったら倒すのに何かしらレベルが6は必要というかなり危険な生物だ。そして知能がかなり高いことで有名で、人間の罠などには絶対にかからない。
その群れを治めるボスといったら…人前には絶対に姿を現さないだろう。メチャクチャ希少品なものの気がしてきた。というかそうなのだろう。毎回こんな感じである。
ただ…魔猿の心臓は、闇魔法の触媒だ。光魔法を修めようと思っている僕には無用の長物である。
「ああ、ありがとう」
でも、受け取らなかったら何されるのかわかんないので受け取る。そして即闇神に押し付ける。闇魔法によるものである。これによって僕は常に色々な荷物を持ち歩いている。
「それじゃあ、またね」
「はい!ここでお待ちしています!」
「…まだ、ここにいるの?」
「えっ。ご迷惑でしたか…?」
そう言うとアリスが涙目になる。幼いアリスにそんな顔をされるとものすごく申し訳ない気持ちになる。
「ああ、いや、違う!うん、すぐに戻ってくるから待っててくれ!」
そう言って僕は急いで部屋を出た。
「リンド!これ鱗粉だ!じゃあな!」
「あっ、ちょっと…。カイニックのやつ…なによ、もうちょっとゆっくりしたっていいじゃない…」
「アリス、戻って来たよ!」
「依代様!」
満面の笑みを浮かべるアリスに僕の心は洗われる。ああ、ただ、この子も闇神の信奉者なんだよなあ…。
もっとマトモな人付き合いがしたい。
切実な願いである。