♯1 異常自演
錆び付いた鉄格子によって遮断された一室。
牢屋と言うには余りにも設備が整っている室内は、異様な空気を放っており……キッチンのシンク、トイレ、しっかりと壁によって区切られている脱衣所やトイレまで、全てが経年や劣化を感じさせない状態に保たれている。
あまりにアンバランスで、異常な光景ともとれる。
外界と通ずる窓が無いためか、明かりによって照らされている室内は何処と無く薄暗い印象を受ける……そんな一室は無音に支配されている訳ではなく、キッチンに立つ一人のプリンショートの少女の料理音が占めていた。
少女は、その身丈に合っておらず扇情的ともとれる肩を見え隠れさせるブカブカのセーター、ベルトで調節できるグレーのスカートを身に纏っている。
その少女は、特徴的な隈の残る猫目に一切感情を込めず無表情で只黙々と料理を作っていた。
そして、暫くすると完成したのか料理していた際と差異を感じる手慣れない手付きでIHのタッチパネルを操作し、終えると少女は食器などが入ってるであろう棚に向かおうと体を右後ろに反転させようとした時、
ギギギイイィィ……
金属同士が強く擦り会わされたような重く響き出す音に、少女は肩を震わせた。
瞳は潤みだし、荒くなる呼吸や動悸を押さえつけるかのように深呼吸をしている。
セーターがずれ落ちるのも気にせず、体も小刻みな振動を起こしている。
それは、カツン……カツン……という音が近づく度に強くなっていったが、少女は覚悟を決めたかのように目をぎゅっと強く瞑ってから鉄格子の方へ小走りで駆けていった。
その際、爪が食い込むくらい手を握り込んでいる所を見ると恐怖は抜けていないのだろう。
しかし、先程までの少女を知らない限りなんの変哲もない満面の笑みを浮かべ、
「お帰り!」
鉄格子の奥……非常階段でみるような鉄製の階段へと、まるで待ちわびたナニカを迎え入れるかのような弾んだ声を音の方向へと掛けた。
すると、それに呼応したように規則正しく刻まれていたリズムが僅かにピッチを上げる。
そして、それは少しずつ姿を現した。
まず、まるで磨き上げられたかのような光沢のあるローファー。
次に、ハイソックスとチェック柄のスカートの間から覗く陶器のように白くも健康的な肌。
更に、緑のリボンが特徴的な制服のような服装に身を包み慎ましくも僅かに膨らみのある胸。
そして、
「彩芽さん、御迎え有難うございます……只今帰りました。」
端麗な顔立ちでサラサラとした濡れ羽色の髪を腰まで伸ばした少女が姿を現した。
少女は、猫目の少女にそう呼び掛け口元を綻ばした。
そして、少女は腰に下げている三つの鍵が掛かったキーリングから最もアンティーク感溢れるウォード錠を取り出し鉄格子の挿入口へと宛がった。
そして、ガチャっ……という解錠の音が響いた後、ゆっくりと鉄格子が開け放たれた。
「雫、おっ帰り~!」
その瞬間、猫目の少女……佐藤彩芽は飛び付くように抱きついた。
そして、首を相手の少女……小鳥遊雫に預け、擦り付けるかのように頭を左右へと激しく振る。
雫は、暫く預けられた頭を撫でた後に頭を引き寄せ
「良い匂いがしますが……夜ご飯は出来てますか?」
「んっ……で、出来てるよ……。」
息を吹き掛けるように耳元で囁いた。
彩芽は耳へと走るくすぐったさに軽く身をくねらせながら、甘ったるくのっぺりとした声色で返した。
その様子に満足したのか、雫は目を細め笑顔を深める。
「そうですか……では頂きましょうか。」
「うん、準備するね!」
雫が続けてそう囁くと彩芽は食い気味に反応をし、離れようとする。
「ただ……その前に……」
しかし、雫は彩芽の頭を固定するように添えていた手を緩め見つめ合うように顔を移動させ、
「んぅっ……!?……ん……ふ……。」
唇を重ね合わせた。
それは、年相応の青く軽い接吻ではなく……クチュクチュと舌や唾液が絡み合う艶かしい音が響くような深く激しいキス。
彩芽は一度目を見開き、抵抗するように両腕を雫との体の間に割り入れたが雫の睨み付けるような視線を間近に受け力を込めるまでに至らなかった。
暫く続く濃密なキスによって滴り落ちた唾液が服に染み込み胸を濡らし、彩芽の思考が蕩けきった頃、
「ん……愛してます……彩芽さん。」
雫は僅かに顔を離し……上気した顔、虚ろな瞳でそう呟いた。
有無を言わさぬ圧力のような物を発する雫に対し、
「……うん……私も……雫を愛して……るよぉ……?」
彩芽は、舌っ足らずの口で辿々しくも雫への愛を必死に告げる。
雫は目を細め視認できるか分からない程度に口角を上げ、「そうですか。」と返し先程までの深いキスではなく啄むような軽いキスを頬に落としてから、
「じゃあ、ご飯にしましょうか。」
腰が抜け、床に経垂れ込んだ彩芽を尻目に雫は鉄格子を施錠した。
その際の顔は、キスをする際よりも歪み、扇情的な表情であった。
彩芽は泣きたくなる気持ち、蕩けきりまともに思考することができない脳、ガクガクと震える足腰を押さえつけるように食事の準備を始めるために立ち上がる。
これは佐藤彩芽が社会から消え、小鳥遊雫に監禁された五日目の夕方の光景である。
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