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竜の涙  作者: 雨森あさひ
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第四話 友達

 パレードの日、パレードは夜行われるので、薫は地上の学校にちゃんと行って、授業を受けていた。悠ちゃんも一緒のクラスだ。私たち勇者の子ともなるとお金もたくさんあり、地上の学校に通うこともできる。ただ地下都市民だから差別はあった。今日も女子のグループにひそひそと陰口を叩かれている。いじめ、というより怖がられているというほうが正しいかも。それは悠ちゃんも同じだった。私たちは、ただ気にしないようにするしかなかった。でも、今日に限っては、

 「やめなよ! そうやって怖がるの。同じ人間なんだよ」正義感の強い生徒、このクラスの委員長でもある吉田絵里が声をあげた。

 「私、ずっと我慢してたけど、こんなのおかしいよ。みんな仲良くしようよ」


 吉田さんの言葉に、女子のグループの一人が答える。

 「えー、でもやっぱり何か違う世界の人と言うか。ちょっと怖いというか。仕方ないじゃん」

 吉田さんと女子のグループのそんなやりとりを、少し離れた窓際の席で、聞いているとばれないように窓の外にある青空を見ながら耳だけで聞いていた。

 悠ちゃんが、前のほうの席から、ちらっとこちらを振り返る。

 そう、女子のグループの言う通り、違う世界の人間なのだ。特に勇者殺しを計画している私はそうだ。

 ひとりひとり違う人間なんだから、みんな仲良くなんてできっこない。

 竜と人間が出来なかったように、人間同士もできないのだ。


 「ねえ、薫ちゃん」

 突然話しかけられて、しかも下の名前を呼ばれたのでびっくりして自分の世界から急激に現実世界へ引き戻される。吉田さんが薫の机に両手をついて、こっちを真剣な眼差しで見ていた。


 「な、なに……」

 「私、初めてだけど、地下に行って薫ちゃんのパレード見に行くよ。そして絶対凄かった、綺麗だった、かっこよかったって言ってやるんだ」

 「あ、ありがとう」


 吉田さんは澄んだ強い眼差しで薫を見つめて、席を離れた。

 吉田さんとはそれほど親しい仲でもなかった。でも、他の人と違って私に普通に接してくれていたから気が楽な相手でもあった。二人で組んで行う体育の授業などは吉田さんがいつも声をかけてくれた。こんな私に優しくしてくれるなんて何て良い人なんだろうと思った。


 放課後、帰り道で吉田さんに声をかけられた。

 「薫ちゃん。確かパレード今日の夜だったよね? ごめん、悪いんだけど地下行ったことないから、道がわからなくて、今日このまま行くから案内してくれない?」

 「うん、いいよ。でもパレードが始まるまでどこにいるつもり?」

 「あー、どっかその辺散策してようかと」

 「地下は危ないよ。パレードが始まるまで私の家にいなよ。それからお母さんにパレードも安全な場所で見れるように頼んであげる」

 「わあ、ありがとう。そこまでしてくれるなんて、やっぱり薫ちゃんは良い人だね!」

 「うん」

 私は良い人なのだろうか?


 さび付いているが人の往来もそれなりにある地下へ続く大型エレベーター。そこに着いたが、エレベーター前は大混雑で、なかなか乗れそうにない。


 吉田さんが感動したような声をあげる。

 「へえー。これが噂に聞く大型エレベーター。こんなに乗る人いるんだね」

 「うん、地上に働きに出ている人もいるから」

 薫と吉田さんは、しばらく人の波に揉まれていたが、やがて満員のエレベーターに乗ると地下へ降りて行った。


 地下に着いての吉田さんの初めての感想は、意外と明るいんだねだった。

 「なんだか都市全体が工場みたい。いたるところに明かりがあって、鉄の建物がいっぱいある」

 「じゃあ、まっすぐ家に向かうから」

 「うん、でも、ちょっとだけ寄り道しない?」

 「いいけど、本当にちょっとだけだよ」

 「ありがとう」


 吉田さんの足の赴くまま立ち寄ったのは地下都市の食べ物屋が集まるところだった。

 「ちょっとあそこのお店でたい焼き買って行こ」吉田さんは軽い気持ちで言う。

 吉田さんは結構こういう雑多で汚い場所でも平気なんだ。意外だと思った。それを言ってしまえば地下都市自体が基本的に汚いのだから、地下のことを擁護してる吉田さんが、この汚さに引いてしまわなくてよかったと薫は安堵した。


 「うん、でもちょっとここは危ないから早めにしてね」

 薫がちらっと横目で通行人を見ると、剣や銃など武器を携帯している人も少なくない。人が大勢いて賑わっているけど危険だ。いったん喧嘩などが始まれば街が戦場になることも珍しくない。薫は母親と一緒でなければ、あまりこういうところにはこない。


 「はい、たい焼き」

 「ん、ありがとう。お店じゃなくて家に帰ってから食べようか」

 「そうだね」吉田さんは何かを察したのかちょっと小声で言った。

 「そういえば」吉田さんはたい焼きを持ちながら言う。

 「竜ってまだ他にもいるの?」

 薫の心臓の鼓動が早くなる。そして少し気分が悪い。吉田さんは不思議な顔をして黙ったままでいる薫を見ている。

 やがて絞り出すような声で、いるよと言った。ここ最近竜による被害はない。ずいぶん前に食料貯蔵庫やスーパーなどを襲って保存のきく大量の食糧を奪っていき、しばらく姿を見せていない竜がいるそうだ。薫がそれを話すと吉田さんは、

 「地下の人たちって大変なんだね」と呑気に言ってから、慌てて他人事みたいに言っちゃって、気に障ったらごめんねと付け足した。


 やがて、家が見えてくると。綺麗な家だねと吉田さんは単純な感想なのかさっきの罪滅ぼしもあるのか褒めてくれた。

 吉田さんを家に入れて、母親に事情を説明すると快諾してくれた。

 「はい、これで良し」

 真由美さんは薫にきれいな白いドレスを着せる。まるで、竜と過ごしていた時に来ていたやつみたいだと思った。吉田さんは薫の部屋でマンガを読んで待っている。

 薫は鏡を見ながら自分の来ている白いドレスが真っ赤な血に染まるのを想像した。それはまるで、竜と過ごしていた時の綺麗な心を持っていた自分を殺したかのようだった。


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