拘束されて……
「こ、ここは」
目覚めると、知らない部屋の中に居た。
「ん、ん!」
私は、椅子に縛り付けられている。手足の自由は全く効かなかい上に、首にもベルトが巻かれている。
ベルトは椅子の背もたれに固定されているので、首の自由も一切効かない状態だ。
椅子は地面にがっしりと接着されているのか、暴れてもびくとも動かない。
部屋は薄暗く、目の前には柱時計があって、不気味に”カチカチ”と音を立てていた。
「お目覚めになりましたか」
「ひぃ!」
全く気配のしなかった背後から、急に声が聞こえたので、私は心臓を捕まれたような心地になった。
私はカラカラになった喉を震わせる。
「わ、私をどうするつもりだ」
「ふふ、そんなの決まってるじゃありませんか」
”ジョキ、ジョキ”とハサミが鳴く音が男の手元から、聞こえた。
私は思わず体を捩らせ、叫んだ。
「待て、待ってくれ!頼む、まだ幼い子供がいるんだ」
「そんなことは関係ありませんよ」
そう言うや否や、男のハサミが、私の体を切り裂いた――。
髪の毛を。
「へっ」
男は小動物の咀嚼のように素早い手さばきで、私の髪の毛を梳いていく。
そういえば、私は出張先のこの地で、髪を切ろうと小さな理髪店に入ったのだった。
窓や入口がカーテンで覆われており、全く中が見えない店で怪しかったが、時間が惜しい私はその店に入った。
そして、入ってすぐに意識を失って……
「ど、どういうことなんだ。ここは何なんだ?」
「理髪店ですよ。勿論」
男は手を止めることなく、さも当然だ、というニュアンスで私の質問に答えた。
「どうして、私の手足を縛っているんだ!」
「お客様に動かれてしまうと手元が狂ってしまい、繊細な私のカットにミスが出る可能性があります」
「この首のベルトは!?やりすぎだろ!」
「顔を見られるのが恥ずかしいというのもあります」
それから、私は散々に文句を漏らしたが、男に対しては暖簾に腕押しだった。
何を言おうが軽くいなされてしまう。
「はい、完成致しました。お疲れ様です」
「ここを出たら警察に行かせてもらうからな!覚悟しろよ!」
「お代は結構ですので。本日のご利用、ありがとうございました」
男がそう言うと、私の視界は照明のスイッチを切ったようにスッと暗くなったのだ――
再び意識が戻った時、私は見知らぬ土地に一人で立っていた。
理髪店があった場所は驚いたことに更地になっている。
「そ、そんな。まさか」
腕時計を見ると、理髪店に入った時間から30分経過していた。
なんだか夢を見ていたようだ。
私は近くの店のショーウィンドウに自分の姿を映してみた。
「おぉ、すごくいい髪型だ」
私は彼の腕に脱帽した。