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未知のウイルスは強い感染力を持っていた。
ウイルス感染者を出した都市は、誰一人残らず消し、破滅させなければならない。
完全極秘の特殊部隊に配属され、次々と都市を破滅させた。子も妻も、消した主人公。
心は完全に無くしたはずだった。
それなのに。
主人公の苦悩と逃亡劇を描いたSFです。
酷な表現ありです。
初投稿なので色々至らない点あります。ご了承ください。
「や、やだ………………助けて、助けてください…!!!」
涙と泥にまみれてぐしゃぐしゃになった顔が歪む。
彼女の腕の中の個体は、まだ小さく幼い。無垢な丸い大きな目がこちらをじっと見つめていた。事態を理解できるような年齢には達しているようには見えない。実際、理解していないだろう。横に倒れている血まみれになった父も、全て崩れ落ちもはや瓦礫の山となった家も、震える手で自分を抱く母も、何もかもが不思議で仕方が無いだろう。
そして目の前で銃口を向ける完全武装した男も。
「私はいいから………………この子だけはっ……………!!」
振り絞った声。
抱かれた腕がきつくなったのだろう。子供は苦しそうに手足をばたつかせていた。
「ま、ま!!うーー!!」
あまりに苦しいのだろう。子供は高く可愛らしい呻き声をあげて、母親の腕を解こうと奮闘している。それでも母は、意思のある強い目をこちらに向けたまま、子供を強く抱き締めていた。
幼い命と、守る親。
人間の本能だ。生命の繋がりだ。
ここにあるのは命だ。簡単に奪っていいものでは無い。奪ってはいけないものだ。
それでも。
「や、やめて…………やめ……」
ズガン。
響き渡る銃声。
母親は目を見開いたまま、後ろに倒れた。突然倒れた母親を、遊びかなにかだと勘違いしたのだろう。腕が解かれて自由になった幼子は、きゃっきゃっとはしゃいで倒れた母親の上をハイハイで歩き始めた。
「まっま!!!…………ま……???」
顔のところまで行くなり、動きを止めて不思議そうに首を傾げた。なにせ、母親の額には穴が開き、かっと目を見開いたまま動かないのだ。さすがに驚くのも、当然だろう。
一向に起きない母親の頬を、ぺちぺちと叩いていた。
愛らしい小さな手。
自分もこの手の柔らかさを、愛おしさを、温もりを知っているはずだ。
しかし、思い出してはいけなかった。
「………ま」
ズガン。
二発目の銃声が響いた。
振り向いた幼子の、助けを乞う泣きそうな瞳を見た瞬間に、引き金を引いた。
痛む心など、ある筈が無い。そんなものは、とうの昔に捨てた。
ジジっと、耳元の機械のスイッチが入る音が聞こえた。
『こちらルートFー3。殲滅完了した。そっちはあとどれくらいだ?』
「…ああ、今ちょうど終わった。すぐ合流する。」
目の前にあるのは、ついさっき奪った命。
気づけば辺りは静まり返っていた。周りを見渡すと全てが荒廃しており、それはもうすっかりと、まさに破滅していた。
何も残っていなかった。
ただ瓦礫が山になり、死体が転び、血が飛び散っていた。
空を見上げた。酷くどんよりしており、まるで今の自分の心を映し出したようだった。重苦しく、今にも降り出してきそうな空。
ひとつ、ため息をついた。
雨になんて振られたら、帰るのが面倒になるじゃないか。
久しぶりに疲れた。
『任務完了だ』
続きます