第89話 奇跡の使い手
入園して一年半が経過しようとしているが私達の学園生活は順調だった。クリスと絆を結ぶものは徐々に増えていき天の回廊を攻略する仲間が増えていったし、フロウラの話に従ってトラブルを防ぐことが出来たり、起こると言っていた厄介ごと自体が起こらなかったこともあった。フロウラ自身もあまりに状況が違いすぎているからもうどうなるかわからないと言っていたしな。
それは良いとして問題は私の方だ。シャルルのために死神の薔薇の治療法の手がかりを探し続けているがそれは一向に見つからなかった。訓練を天の回廊で出来るようになったので調べに時間をかけることも出来るようになったし、持ち出しの可能な本などは借りて天の回廊で読んで時間の節約をしているのだがそれでも見つからない。
私の調べものが出来るようにクリスも協力してくれているのにそれでも手がかりすらないのだ。司書が書きだしてくれた本のリストの残りも少ない。だから私は決断した。
「死神の薔薇かー」
「治せるのか? 聖女ならば治せるという話を聞いたことがあるのだが」
スカーレット家のフロウラの部屋を訪れてそう聞いた私にフロウラは難しそうな顔を見せた。部屋の雑多さは相変わらずだが私やアレックスの教育の成果もあり、ぎりぎり人を招いても大丈夫な程度に納まっている。格好は相変わらずだが。
「シエラちゃんは覚えてないらしいけど私って正確に言えば聖女じゃないんだよね」
「そうなのか?」
「そうそう。確かに治癒魔法は使えるし、それで聖女って呼ばれるのならそうなんだけど多分シエラちゃんが聞いたのは天然ものの話でしょ。私は祈祷魔法だからなぁ。わからないように細工はしてるけど」
フロウラの言う祈祷魔法と言うのは神へと祈りをささげることで魔法を行使するというイムル聖国独特の魔法だ。フロウラに言わせると祈りに気持ちが乗っていなくても発動するらしいが。
「私もそれなりの腕をしているし、天の回廊でレベルも上がっているから治癒魔法使いの中では上位だと思うけどそれでもそんな重病の人を治せる自信はないなー。むしろレオンハルト様の方が可能性はあるんじゃない?」
「レオンハルトか……」
「うん。育て方次第だけどゲームの中では最も強力な治癒魔法が使えたはずだし。まあ今のところ治癒盾系列に育ってるけど」
確かに王家の血筋であるレオンハルトは治癒魔法が使える。しかし現状は治癒魔法よりもクリスを守る盾となろうとしているしな。クリスもそれを喜んでいる節があるし、さすがに私の都合で替えさせるということも出来ない。
「あっ」
「なにかあるのか!?」
何かを思いついたように声を上げたフロウラの様子に、思わず身を乗り出す。
「えっと。たぶん治癒魔法が最も得意な人の事を思いだしたんだけど……」
「誰なんだ?」
なぜか言いよどむフロウラにさらに詰め寄る。フロウラは少しの間考えるように視線を巡らせそして口を開いた。
「うん。クリスルートのボス。対カラトリア連合の盟主がたぶん最も優秀な治癒魔法使いだと思う」
その言葉にさすがの私も沈黙せざるを得なかった。
フロウラが話したゲームと言う物語の中でクリスは主人公として様々な困難に立ち向かっていくわけだが、そのフィナーレとして起こる出来事が学園の3年始まってすぐに起こるカラトリア王国が周辺国から一斉に戦争を仕掛けられると言う出来事だ。
これがイムル聖国やローラン帝国などの敵対している国々ならば私も納得はいくのだが、今1つ信じ切れていない理由は現在の友好国であるバジーレ王国やユーファ大森林もそれに加わると聞いたせいだ。
そもそもイムル聖国やローラン帝国と敵対しているはずのユーファ大森林がそいつらと同盟を組むなどと思えないし、バジーレ王国はカラトリア王国としか陸地では接していない国だ。そんな国が戦争を仕掛け、そして失敗でもしたら自国が干上がるしかないのだ。さすがにそこまで馬鹿なことをするはずがない。
「敵として登場するんだけどね。味方がひん死になると即座に治癒魔法を使って来るんだ。せっかく苦労して削ったHPが1回の治癒魔法で全快になるし。だから雑魚を倒すにはHPが3割以上残っている状態から一撃死させるしかないんだけど最終面だけあって敵も硬いんだよね。はぁー、1周目とか苦労したなぁ」
感慨深そうにそんなことを言うフロウラを眺めながら頭を巡らせていく。こいつが今更嘘をつくとは到底思えない。本当によくわからない奴だが、それでもこれまで過ごしてきて悪い人間ではないと思わせるほど善良だ。
未来がどうなるかはわからないが少なくともフロウラはそうだと思っているんだろう。
フロウラの話通り、戦争が起こるとしたらあと半年しか猶予はない。そんな状況下で敵国になるかもしれない場所へ行くなんてことは出来るはずがない。クリスの護衛だってあるのだから。
しかし、もしフロウラの言った出来事が起こらなかったとしたら。無事に学園を卒業しクリスが幸せになったと確信出来たのならその使い手の元に行くのも良いかもしれない。
「バジーレ王国か。まさか故郷に戻ることになるかもしれないとはな」
そんな皮肉な運命に私は静かに息を吐いた。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(╹ω╹) 「あの、お嬢様。学園の表記がほとんどないのですが」
(●人●) 「学園編はエタの巣窟だからな」
(╹ω╹) 「あの、エタってなんですか?」
(●人●) 「作者、読者両方にとっての悲劇だ」
(╹ω╹) 「そうなんですか」
(●人●) 「うむ。天の回廊攻略とか各種イベントなどもあるが……」
(╹ω╹) 「あるが?」
(●人●) 「うまくまとめられず助長になった挙げ句エタる気がしたらしい。せっかくイベントの概要とか時系列まで作ったのにな」
(╹ω╹) 「見通しが甘いですね」
(●人●) 「どちらかと言うと馬鹿だな」