第88話 回廊の検証
名残惜しそうにレオンハルトとの別れの挨拶を済ませたクリスと共に天の回廊へと続くらしい扉を開く。開いたのだが、その先は一面真っ白で何も見えなくなっていた。
「僕が先にいきます」
「いや、私が先だ。私なら不意打ちでも対応できるからな。アレックスはクリスの背後を守ってくれ」
いの一番に声を上げたアレックスを押しとどめ、入り口へと向き直る。フロウラに事前に聞いた話通りであれば入り口近くにいるモンスターはそう大した強さではないはずだが、それでも油断は禁物だ。
アレックスは確かに強い。魔法の展開速度ならば私たちの中でも随一だ。しかしその一方で私たちの中で最も近接戦闘が弱いのもアレックスだ。あくまで私とクリスと比べればということで弱いというわけではないのだがな。それでも不測の事態が起こるかもしれないことを考えると私が行くのがベストの選択だ。
悔し気な顔をしているアレックスの頭を背を伸ばしてひと撫でしてやり、そして入口へ1歩踏み出す。その直後に少しだけ酔ったような感覚を受けたがすぐにそれは回復し、そして目の前には薄い青色の通路が広がっていた。
即座に周囲を確認するが少し遠くにモンスターの姿は見えるものの襲ってくる様子もない。ひとまずは安全と言っても良いだろう。
「これは、すごいわね」
「うわぁ。これどうなっているんでしょうか?」
私に続いて入ってきたクリスとアレックスの感嘆の声が背後から聞こえてくる。まあそれもそうだろう。目の前に広がっているのは薄い青色の通路だが、その通路が黄色、赤色、白色と、色を変えながららせん状に上へと昇って行っているのがはるかな高さまで見えるのだから。
通路を固定してるはずの壁や柱など全くない。ただ通路だけがあるその景色はどこか神秘的でもあり、その延々と上に登っていくかのごとき姿は確かに天の回廊という何ふさわしいと思わせる場所だった。
「どうする。確かクリスの鍵を使えばどこでも帰れるという話だったがまずは試してみるか」
「そうね。でもどう使うのかしら」
「とりあえずさっきみたいに差し込む感じで使ってみたらどうでしょうか?」
クリスとアレックスが話しながら試そうとしているのを周囲を警戒しながら待っていると、クリスの目の前に先ほどと同じ扉が突然現れた。開いても先ほどと同じように外を見ることは出来ないが、話に聞いていた通りだな。
「よし、一度戻れるか確認するぞ」
頷いた2人の先に立ち扉をくぐっていく。再び少々の酩酊感を覚えながらも、視界の先は先ほどまでいた花園であり、そしてレオンハルトとフロウラがいることに安堵する。そして私に続いてクリスとアレックスも姿を現した。
「クリス、無事か?」
「ええ。フロウラの話は本当だったわ。この扉の先にはこの世のものとは思えない光景が広がっていたの」
「危険はないのか?」
視線を私に向けてそう聞いてきたレオンハルトに小さく首を縦に振って答える。
「モンスターの姿は確認したが入って早々に襲われる距離ではなかった。それにゴブリンだったようだしな。問題はないだろう」
「レオン、次は時間のずれを確認しようと思うの。一応10分で帰ってくる予定よ。そのついでにモンスターとも戦ってくるわ。こちらの計測をお願いね」
「わかった。気をつけて」
「ええ」
再び見つめあってどこかへ飛んでいきそうな雰囲気だったので、少々強引にクリスの手を引いて扉へと入っていく。「あぁ」となぜかクリスともレオンハルトとも違う者の声が聞こえたような気がするが無視しておこう。あいつ、帰ったらいっぺん徹底的な教育をほどこしてやる。
一応先ほどと違うかもしれないと警戒していたのだが、特に何が変わるでもなく付近に危険がある様子もなかった。3人で視線を合わせ、そしていつも通り私が先頭、そしてクリスとアレックスが横並びになる縦長の三角形の体形でモンスターへと向かって歩いていく。
フロウラの話を信じるのであれば罠はないということだが、さすがにそれを信じて無警戒に進むのは馬鹿のすることだ。見たところあるようには見えないがそれでも慎重に進んでいく。
そしてある程度進んだところで通路の奥にたむろしていたゴブリンたちがこちらへと気づき一斉に襲い掛かってきた。
「まずは私が試す。見ていてくれ」
2人に指示を出し、私自身もゴブリンへと向かって駆ける。ゴブリンの速度は普通の奴らと同じ程度で特に気になるようなところはないが、警戒しつつ拳で1匹のゴブリンの腹を殴る。
抵抗も出来ずに地面を転がっていったゴブリンがドロップアイテムを残して消えていくのが見えた。特に問題はなさそうだな。倒したら消えるのも他のダンジョンと同じようだし。
向かってきた5匹のゴブリンを手早く倒し、ふぅと息を吐く。
「お疲れ様です」
「問題はなさそうね」
「そうだな。ゴブリンの強さは外と変わらないようだ。次はアレックスとクリスで魔法で対応してみてくれ」
「はい」
「わかったわ」
その後、2人にも魔法でゴブリンと戦ってもらったが結果としては私と全く同じだった。そして約束の10分が経過したため私たちは扉を開きそして外へと戻った。
「ただいま、レオン」
「無事でよかった。しかしもう10分経ったのか? こちらでは5、6秒しか経っていないが」
「とするとだいたい100倍速いってことかしらね。もしそうならいろいろと使い道があるわね。勉強に使っても良いわけだし。入れる人が限られるというのがネックだけれど」
「モンスターについては外のモンスターと同様の強さだと思われます。まだ先へはあまり進んでいないので推測ですが」
クリスとアレックスがレオンハルトに中の様子を報告しているのを横目で見つつフロウラのそばへと寄っていく。少し暇そうにぼーっとしていたフロウラが私の接近に気づきいつも通りの笑顔を浮かべる。
「確かに戦うには良い場所だな」
「そうですよ。ある程度行けば装備とかも出てきますし。最終階層まで到達できれば強力な専用武器まで貰えるんですよ」
「それは初耳だな」
見上げた限りはキリがあるようには見えなかったのでおそらくそこに到達するには並大抵の努力では無理だろう。しかしその程度をやってのけなければフロウラが示した悲劇の未来は乗り越えられないはずだ。やれて当然と思わなければな。
さてどこまで高みに上ることが出来るかな。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(●人●) 「ポルポル、以下略!」
(╹ω╹) 「ええっ、いきなり何ですか?」
(●人●) 「いや、後書き忘れの上に同じものを二重投稿すると言う失態への驚きを表現したのだ」
(╹ω╹) 「それがポルポルなんですか?」
(●人●) 「うむ、お約束と言うやつだな」
(╹ω╹) 「えっと、そこで倒れてるのも……」
(●人●) 「お約束だ」
_(。_°/ 「……」
_(。_°/ 「……すみませんでし」
パシュン
_(。_°/ 「……」