第77話 欠点の先へ
一昨日は更新できず申し訳ありませんでした。
「つまりお前が言いたいのは私がその場、その場に応じて無意識のうちに自分の力を調整している。だがそのスイッチが他人任せになっているので危険だということと、自分の能力を超えている状況を理解できずに無理を通そうとすることが危険、ということだな」
「だから最初からそう言ってるだろうが」
「どこがだ!」
いけしゃあしゃあと言い放ったランディの言葉に、反射的にレオンハルトが怒鳴り返す。実際ランディの明らかに説明の足りない言葉をレオンハルトが理解するのにかなりの時間を要したのだ。
しかし言われてみればレオンハルトにも思い当たることがあった。そして今回のダンジョンの探索においてはそれが顕著に表れていたのだ。
「自分ではそんなつもりはないのだがな」
「普通そうだろ。むしろ俺にはお前がどうしてこんな変な状態になっているのか理解できないな。まるで他人の望む自分を作っているみたいだ」
「他人の望む自分か……確かにそうなのかもしれないな」
優秀な兄であるヴィンセントがいたため、その兄に少しでも近づけるように、比較されて落胆させないようにとレオンハルトはいつも気を張っていた。他人の目を気にして城内でずっと過ごしていたのだ。
シエラから言われた言葉で兄は兄、自分は自分だと気づかされ、そしてクリスという自分を愛してくれる存在を改めて知ったことで少しずつではあるが変わり始めていたが、幼少期からそうして過ごしてきたのだからその性質は根深かった。
レオンハルトが自嘲の笑みを浮かべ、そしてため息を吐く。
「心当たりがありそうだな」
「まあな。優秀な兄を持つ弟は大変ということだ」
「優秀な弟を持つ兄も大変だけどな」
どこか遠い目をしながら寂しげにそんなことを言うランディの姿にレオンハルトはかける言葉が見当たらなかった。踏み込んで良いものかどうか判断することが出来なかったのだ。
しばらくして、ハッと笑いランディが普段の表情へと戻る。
「お前の欠点はさっき言った2点だ。それを克服できるかはお前次第だな」
「わかった。努力する」
「努力するってのは意識が低すぎだな。必ず克服するくらい言ってくれねえと」
「無論だ。私はクリスに見合う男にならねばならないからな」
「へいへい、格好良いですね」
手をひらひらと振って、そしてランディがごろんと地面に転がる。そよそよと風が芝生を揺らす中、大の字に寝転んだランディの横にレオンハルトが座った。
「先ほどの言葉の意味を聞いても良いか?」
「んっ? 何のことだ?」
「優秀な弟を持つ兄も大変、という言葉だ。もちろん言いにくいことであれば言わなくて良い」
ランディが目をつぶり黙り込む。レオンハルトも言葉を発することなくただ待った。
「獅子族についてどこまで知ってる?」
「ユーファ大森林の7大氏族の1つ。我が国と友好関係にあり、特にイムル聖国との戦争においては共同戦線を張ったことも多く、近接戦闘においては他の氏族を寄せ付けない強さを誇る。初代族長はラミレス・ルイ・ユーファ。族長となったものはルイという名を……」
「あー、お前の知識がすげえのはよくわかった。もしかして俺より知っているんじゃないか?」
「スカーレット領とは特に友好関係にある国だからな。勉強もする」
「そうか。でもこれは知らないだろう。獅子族の歴代の族長の中で老衰で死んだ者はいない」
その言葉の意味を正しく理解したレオンハルトが押し黙る。そして神妙な顔でじっとランディを見つめた。ランディはレオンハルトへは視線を向けず、ただ青空を眺め続けていた。
「獅子族の族長は戦場において一族の先頭に立って戦う。その武をもって味方を鼓舞し、敵を薙ぎ払い、そして死んでいくのが役目だ」
「死ぬ必要は……」
「もちろん自分から死ぬわけがないだろう。だが絶望的な戦場というのはどうしてもある。だからこそ死ぬのも役目だ。その覚悟を出来るものだけが族長に選ばれるのだから」
「……」
その重みのある言葉にレオンハルトは何も言えなかった。それはつまり次期族長であるランディ自身が死ぬ役割を受け入れているということに他ならなかったからだ。レオンハルトも戦争を経験しに行ったことはある。だがそれでも自分自身の死をここまで意識したことはなかった。
ひときわ強い風が吹き、二人の髪を揺らす。そしてその風が沈黙まで運び去っていったかのようにランディは口を開いた。
「言っておくが、俺は死を受け入れているわけじゃない。俺は強くなる。誰よりも何よりも強く。そして歴代初の老衰で死ぬ族長になってやる。そうすれば優秀な弟たちが族長なんかになる必要はないんだしな」
そう言って初めてランディはレオンハルトの方を向きにかっと笑みを浮かべた。その笑顔は、家族を思い強くなろうとするその姿はレオンハルトにはとてもまぶしく見えた。今までのランディの評価を一変させるほどに。
レオンハルトが姿勢を正して膝をつき、そして頭を垂れる。
「今までの失礼な態度、謝罪させてもらいたい。ランディ・ルイ・ユーファ殿。あなたは尊敬に値する人物だ。カラトリア王国の第3王子として、そしてこのスカーレット家を将来支える者としてあなたの夢の実現に力を貸すことをここに誓おう」
「そのかしこまった話し方をやめるなら力を借りてやってもいいぞ」
ランディが立ち上がりそして膝をついたままのレオンハルトに向かってその手を差し出す。その頬は少し赤く、そして柔らかく微笑んでいた。その顔を見つめながらレオンハルトは手をとり立ち上がる。
「ああ。これからよろしく頼む。手伝えることがあったら言ってくれ」
「なら早く自分の欠点を直せ」
「そうだな」
2人の笑う声が響き渡った。それはレオンハルトにとって初めての気の置けない友人が出来た瞬間だった。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(;´Д⊂) 「うおぉぉぉん」
(╹ω╹) 「あの……」
(;´Д⊂) 「殿下を見守り苦節15年。やっと、やっと殿下にも友人が……うおぉぉぉん」
(●人●) 「ふむ、良かったな」
(╹ω╹) 「あの、お嬢様。この方はどなたですか?」
(●人●) 「れおんはるとの専属従者のはらぺーにょだ」
(╹ω╹) 「えっ、そんな人いましたっけ?」
(●人●) 「この度、初登場だな」
(╹ω╹) 「後書きで初登場させないでください!」
(;´Д⊂) 「うおぉぉぉん。本編出たいよー」




