第71話 ランディとの探索開始
翌日、晩餐時の宣言通りランディは私たちのダンジョン探索に同行することになった。城内のダンジョンについては機密扱いなのでユーファ大森林の7大氏族の跡取りという立場とは言え、他国の者であるランディを拒否することも出来たはずだ。しかしその判断をすべきエクスハティオはそれをしなかった。なぜならこのスカーレット家とランディの獅子族は過去から続く交友関係があったからだ。
スカーレット家と接する国の中で最も緊張関係が高いのはイムル聖国だ。人間こそ唯一神から認められた種族であるというイムル教を国教とする宗教国家で、獣人やエルフが多いユーファ大森林だけでなく、それを認めるカラトリア王国をも神に背く愚かな国としていた。
イムル聖国は聖戦としてしばしば他国へと戦争を仕掛けてくるため、それに対抗するためにスカーレット家とユーファ大森林の7大氏族が共同戦線を張ると言うことも珍しくはなかった。そう言った経緯からその交友を絶やさぬためにスカーレット家当主とユーファ大森林の7大氏族の族長は毎年会合を開いている。
つまりランディの父親とエクスハティオは知り合いと言うことだ。そう言った理由からランディのダンジョンへの探索の動向が認められたという事らしい。
「少々好戦的でやんちゃではあるけれど悪い子ではない。ユーファ大森林にあるダンジョンにも探索に入っているそうだし、足を引っ張ることは無いと思うよ、ですって」
「やんちゃ、ですか? あれが?」
「ふふっ、私もそう思いますけれど、少なくともお父様はそう仰っていましたわ」
昨夜、私とアレックスがクリスの警護から外れた後にエクスハティオから聞いたというクリスのその言葉にアレックスが目を見開いて驚いている。
「シエラは驚かないのね」
「実家の商売上、獣人に関してはある程度の知識はあったからな」
少し不思議そうにこちらを見てきたクリスにぼやかして答える。今までの繰り返しの人生で何度も関わってきたからな、なんてことは言えるはずがないし仕方がない。
それにクリスもアレックスも昨日のランディの様子を見て驚いているようだが、あれはまだ抑えている方だ。本当のあいつのしつこさを知ったらもっと驚くことになるだろう。
そんな話をしながらダンジョンへと向かっていると、その視線の先に当の本人が立っていた。ランディもこちらを見つけたようで手を上げてこちらへと合図をする。ランディの他に誰もいないところを見ると本人だけが同行するつもりのようだ。跡継ぎなのにそれで良いのかと思わないでもないが、ランディには兄弟がたくさんいるはずだからそれが獅子族としては普通なのかもしれない。
ランディの装備は心臓など重要な場所は金属で保護しているがそれ以外は革で作られた動きやすそうな軽鎧だ。武器は腰にショートソードを備えているが、あれはほとんど飾りだ。
実際に戦う時は自前の爪を使うし、スカーレット城のダンジョンには少なくとも15階層までには触っただけで害になるモンスターはいないからな。
「よお、絶好の探索日和だな」
ニヤッと笑いながらランディが発したその言葉にちらっと空を見上げるが、あいにく今日はどんよりとした曇り空だ。クリスとアレックスの顔を伺うが2人とも意味がわからないようでどう返して良いのかわからず困った顔をしている。そんな俺たちの思わしくない反応にランディも首を傾げる。
「あれっ? 意味がわからないのか?」
「そうですね。曇りが絶好の探索日和なのですか?」
「あー、国の違いって奴だな。気にしないでくれ」
問いかける私を無視してランディは自分だけ納得したようにうなずき、そして面倒くさそうに手を振ってその話題を終わらせた。まあおそらくユーファ大森林で通じる符丁のようなものなのだろう。
しばらくしてレオンハルトたちもやって来て、ダンジョンへ入る前に役割の分担を話し合おうとしたのだが……
「ああ、今日は俺は見学させてもらう。いきなり入っても迷惑にしかならないからな」
というランディの言葉で今まで通りの探索をするということになった。レオンハルトがその発言に少し顔をしかめていたので何か思うところがあるんだろうが流石にそれを口にすることはなかった。
ダンジョンに入ると私たちが探索する様子をランディはギネヴィアの隣で本当に何もせずに眺めていた。武器も持たずキョロキョロと周囲を物珍しそうに見る姿は、傍目から見れば完全に気を抜いているように見える。
まああいつのことをよく知っている私からすれば、武器を持っていないのは自分の爪が最大の攻撃方法であるためだし、周囲をキョロキョロと眺めているのは先導する私たちを完全には信用せず自分の目で確認しているからだとわかるのだが。
「ふんっ」
先導していたレオンハルトがちらっと後ろを振り返り、苛立たしげに鼻を鳴らす。後ろから見ていても不機嫌さが伝わる程度にランディのことが気に入らないようだな。
まあ真面目なレオンハルトからすればこちらの迷惑を考えずに勝手についてきた挙句、何もせず、それどころかときおりギネヴィアやクリスに話しかけるランディという存在は邪魔でしかないだろう。実際注意力が散漫になっている結果、罠の報告が遅くなったり、モンスターの倒し方が若干乱雑だったりしているしな。
今のところなんとかなっているのは、これまで何度も通ったルートだからだ。先へ進んでレオンハルトが知らない新しい場所へと進んだときにどうなるか。積み重なった疲労、散漫な注意力。それらから考えればその行き着く先は半ばわかったようなものだ。
(もしかしたらギネヴィアはこれを見越していたのかもしれないな)
そんなことを考えながら私はいつでも動けるように心構えを新たにする。レオンハルトが怪我をしようが私としてはどうでも良いが、クリスが悲しむからな。まあレオンハルト自身が癒せる程度の怪我で止められれば問題はないだろう。
レオンハルトの後に続き、ダンジョンを進んでいく。訪れるであろうその時に一歩一歩近づいていくように。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(╹ω╹) 「あのー、昨日更新だった気が……」
(●人●) 「……」
スチャ
(╹ω╹) 「無言で釘打ち機を構えるのはどうかと思います」
(●人●) 「ふむ、お前も動じなくなったものだな」
(╹ω╹) 「まあ、あらゆる惨劇を見てきた経験ですね」
(●人●) 「やはり経験は人を成長させるな。成長しないやつもいるが」
(╹ω╹) 「嫌な予感が……」
(●人●) 「レビューもらってビビって推敲しまくった挙げ句意味がわからなくなったらしいぞ。今は戻ったらしいが」
(╹ω╹) 「あー、褒められ慣れてないですもんね」