第67話 突然の来訪者
レオンハルトたちとのダンジョンの探索は連日に渡った。その都度されるギネヴィアのお願いを聞きいれながらだが。そしてそのお願いの内容とレオンハルトの様子からギネヴィアがレオンハルトの何を危惧しているのかが私にもわかってきた。
レオンハルトは確かに優秀だ。王族であるからそれに見合った教育をうけているのだろうし、クリスを除けば文武ともに学園でも抜きん出た存在だったのだから当たり前なのだと思っていた。
しかし実際にダンジョンを探索してみてそれがある種の危うさの上で成り立っていたものだと気づいた。レオンハルトの危うさ。それはレオンハルト自身の気構えだった。
レオンハルトはその物事に集中している時にはふさわしい能力を発揮する。私から見ても文句のつけようのないほどだ。だがその一方で何でもないようなことで小さなミスを犯したりしていた。その後の対処は完璧であるため大きな問題にはなっていないがミスはミスだ。
そして今も……
「ふぅ」
「大丈夫、レオン?」
「ああ。大丈夫だよ」
13階層のモンスターを倒したレオンハルトへとクリスが心配そうに声をかける。レオンハルトは笑って返しているが、最初のような余裕はそこにはなかった。クリスもそれに気づいているからこそ心配しているのだろうが。
短い会話と武器の簡易な整備を終え、レオンハルトが再びダンジョンを歩き始める。その足取りは慎重でそしてどこか重く感じられた。
「ギネヴィア様。休憩を早めませんか?」
私の背後でアレックスがギネヴィアへとそんな提案をしていた。アレックスは使用人だけあって人の表情を読むのが得意だからな。付き合いがそこまで深くなくてもレオンハルトが疲労していることに気づいたんだろう。
「そうねー。レオン、どうかしら?」
「いえ、大丈夫です。予定通り進めます」
「だ、そうよ」
「……わかりました」
ギネヴィアの問いかけにレオンハルトはそう返して断った。アレックスも本人にそう言われてしまってはどうすることも出来ずしぶしぶ引き下がっていく。そして予定通りの時間の休憩までレオンハルトは重い足を引きずりながら歩き続けていた。
昼食を兼ねた大休憩に入り、レオンハルト、クリス、アレックス、ギネヴィアが先に食事をとって休憩していた。私とシルヴィアは先に警戒だ。食事中はどうしても気が緩むからな。
しばらくして食事を終えたクリス、アレックス、レオンハルトと交代して私たちも休憩しているギネヴィアの元へと向かい食事を始める。私もシルヴィアもそこまで休憩する必要は感じていないため手早く黙々と食べ続けていた。
視線の先では交代した3人が別々の方向を見ながら警戒している。休憩をとったおかげかレオンハルトの表情にも余裕が戻ってきていた。
「中途半端に優秀なのも考えものね」
明らかに私に聞こえるようにつぶやかれたその言葉に視線を上げギネヴィアを見る。私と視線を合わせたギネヴィアは小さく笑い「そう思わない?」と同意を求めてきた。
確かに現在のタンジョンの探索方法はレオンハルトにとっては明らかに負担が大きすぎる。普段このダンジョンを探索しているクリスやアレックスでさえ多少の疲れが見えるほどなのだ。慣れていないレオンハルトにとっては言わずもがなだ。しかしそれでも探索し続けられてしまったのはレオンハルトが優秀だからに違いない。
だがそれにも限度があるし、それは遠いことではない。
「限界までやらせるつもりですか?」
「その前に気付いて欲しいのだけれどね」
ギネヴィアは意思を変えそうになかったため、ちらりとシルヴィアへと視線を向ける。私の視線を受けたシルヴィアはあいまいな笑みを浮かべた。
「不服そうね」
「はい。口で伝えれば理解するはずです」
「そうね。確かにそうかもしれないわ。でもそれじゃあダメなのよ。それじゃあ何も変わらない。レオンには自分の足で1歩踏み出してもらわないといけないのよ」
「私には理解できません」
私の言葉にギネヴィアとシルヴィアが微笑ましいものを見るかのような不快な視線を向けてきた。そのイラつきをごまかすように食事を乱暴に口へと放り込ませて終わらせる。
ギネヴィアがレオンハルトに気付いて欲しいこと。それは自分を管理するのは自分だと気づかせることだ。
レオンハルトが小さなミスを繰り返すのは、心のどこかで他人に頼っている部分があるからだ。もちろん他人に頼るのは悪いことではない。私だってクリスやアレックス、マーカスたちをとても頼りにしているしな。
しかしレオンハルトと私とは決定的な違いがある。私は人に頼っているが、レオンハルトは人任せなのだ。
レオンハルトはいわば籠の中の鳥だ。安全に大切に保護されて育ってきたのだ。もちろん勉学も武術の訓練もしっかりと受けてきたから実力はある。それに王城のダンジョンに潜った経験もあるだろう。だがそれにしてもしっかりとした護衛をつけたもののはずだ。
王族ということを考えれば仕方のないことなのかも知れない。でもその教育はレオンハルトに甘えをもたらした。
レオンハルトのことを考え、決められた環境で設定された目的に向かっている時であれば何も問題はないだろう。しかしそうでなくなった時どうなるかは今の状況が示している。
今までの6度のクリスとの学園生活ではそんなことには気付かなかったんだがな。うまく隠していたのか、それともヴィンセントが死んだことで何か変化があったのかわからないが。
まあそれは今更どうでも良いことだ。それより気に食わないことはギネヴィアの対応だ。欠点に気づいているのだから教えてやれば良いのだ。教えられて理解できないほどレオンハルトは馬鹿ではないだろうに。
自分で気づくことが大事なのかもしれないが、それで取り返しのつかないことにでもなったら意味がない。そんなことを考えていてふと既視感を覚える。誰かと以前に同じようなやり取りをしたような……
「さて、休憩は終わりよ。じゃあ行きましょうか」
立ち上がったギネヴィアの言葉に思考を中断させられる。
まあ良い。とりあえず私はクリスの安全を確保することに全力を注げば良いだろう。レオンハルトの教育は勝手にギネヴィアがなんとかするはずだからな。
予定通りの探索を終え地上へと戻る。レオンハルトも疲労は溜まっているようだがなんとか今日は乗り切ったようだな。とは言えあと数日のうちに限界は訪れるはずだ。それまでに気づくのか、それとも……
「ギネヴィア様! お待ちしておりました」
「どうしたの?」
地上に出たところでギネヴィアと共にやってきた騎士の1人が血相を変えて駆け寄ってきた。
「詳しい事情はこれから説明しますのでとりあえずお着替えください。レオンハルト殿下もです」
騎士は有無を言わさぬ様子で半ば強引に2人を連れて行った。その後にシルヴィアも続いて去っていく。取り残された私たちには全く意味がわからないが何かがあったことは確かだ。アレックスに目配せし、情報の確認に行かせようとしたところでスカーレット家の執事がこちらへと駆け寄ってきた。普通ならありえない行動に嫌な予感が膨らむ。
「クリスティ様。お客様がお見えになりましたのでお召しかえください」
「どなたかしら?」
「ランディ・ルイ・ユーファ様でございます。ユーファ大森林7大氏族の1つ、獅子族の後継者であらせられます」
「事前の使者が来たという話は聞いていませんが?」
「我々にもなぜ突然こちらにいらっしゃったのかはわかりませんが……それよりもお早く!」
執事に伴われてクリスが部屋へと早足で立ち去っていく。そんな後ろ姿を見ながら私は動けないでいた。その名前には聞き覚えがあったからだ。いや聞き覚えどころではない。ランディは今までのクリスとの人生において幾度となく決闘を申し込まれた因縁の相手だった。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(●人●) 「新キャラ登場だな」
(╹ω╹) 「キャラとか言っちゃうんですね。別にいいですけど」
(●人●) 「最近はれおんはるととダンジョンに潜ってばかりでマンネリ化していたからな。きっとそのてこいれ……」
(╹ω╹) 「ワー、ワー!」
(●人●) 「なんだ? うるさいぞ」
(╹ω╹) 「お嬢様、危険な発言はやめてください。きっと当初の計画通りなんですよ」
(●人●) じー
(╹ω╹) 「えっと、たぶん」