第66話 願いの先は?
ギネヴィアとの話し合いを終え、休憩をとったクリスたちを引き連れて2階層を進んでいく。6度のクリスとの人生を含めれば何百と通った道だ。道を間違えるなんてことはないし、その道中の罠を見落とすなんてことはありえない。モンスターさえ出なければ目をつぶっていても攻略できるかもしれないくらいだ。
逆に言えばどの罠が危険が少なく、そしてわかりにくいかも知っているということだ。罠を見逃すというギネヴィアの要望から考えて、その時のレオンハルトの対応を見るためという意図が透けて見える。それを満たすためにはわかりにくい罠の方が良いだろう。そして万が一にも危険がクリスに及ばないことを考えればその候補は絞られる。
夕食のメニューなどについてギネヴィアがレオンハルトとクリスを話に巻き込んでいるのを耳にしつつ、目的の罠へと一歩、また一歩と近づいていく。
目的の罠はこの先の曲がり角を曲がった直後にある落石の罠だ。特定の床を踏むと頭上からこぶし大の石が3つほど落下してくる罠なのだが速度もそこまで速くないので命に関わるほどの怪我を負うことはほぼ有り得ない。ポーションもあるし万が一ということもないはずだ。
低層階の罠は危険度が高いほど罠があることがわかりやすくなっていることが多いのだが、この罠についてはそれなりにわかりにくくなっているという面から見ても危険度は低いと判断できる。
しかし改めて考えるとこんなことが本当に必要なのだろうかという考えが浮かんでくる。それに罠を見逃すにしてもそれなりにわかりにくいとは言え低層階の罠は注意深く見れば素人でも発見できるほどのものなのだ。私の好き嫌いはともかくとして能力としては優秀だったレオンハルトがむざむざ引っかかるとは思えないのだが。
そんなことを考えつつ曲がり角を曲がり、注意喚起することなく罠のそばを素通りする。どうせすぐにレオンハルトが見つけて声を上げるのだろうと考えていた。しかしそんな私の予想は外れ、私に続いて曲がり角を曲がったレオンハルトは罠を踏んだ。
天井からカタッという小さな音が響き、そして石が落ちてくる。
「くっ!」
踏んだ足の感触と上から聞こえた音で罠を踏んだと察しただろうレオンハルトの反応は早かった。盾を即座に頭上に掲げながらその場から身を逃したのだ。1つの石だけが盾の端に当たって弾かれ、あさっての方向へと飛んでいく。残り2つの石は誰もいない地面へとそのまま落ちていた。
「レオン!」
「大丈夫だ。すまない油断した」
クリスが慌ててレオンハルトに駆け寄り怪我がないか確かめている。そんなクリスに大丈夫だとアピールしながらレオンハルトが少し恥ずかしげに笑っていた。そんな2人のやり取りの奥でギネヴィアが小さくため息を吐いている。どうやらこの結果はお気に召さなかったようだな。罠には引っかかったが、落石をできるだけ回避したし弾く方向も人がいない方へ向かうように調節していたことを考えればその後の対応としては十分だと思うのだがな。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「ああ、すまんな。私も油断していたようだ」
心配そうな顔で近づいてきたアレックスに謝る。後で他の皆にも謝らなくてはな。ギネヴィアのお願いで見逃したわけだがそれを言う訳にもいかないからな。
私の謝罪を受けたアレックスは眉根を寄せた表情のままもごもごと小さな声で何かを呟いていたが、しばらくして無理やり作ったような笑顔を浮かべて私を見た。
「無理はしないでくださいね」
「あ、ああ」
初めて見るアレックスの表情に少し戸惑いながらもそう返事をするとアレックスは元の位置へと戻っていった。そのどこか寂しそうな背中に胸がざわざわとざわめく。なぜかこのままアレックスが去っていってしまうのではないかと有り得ない考えが頭に浮かび、その背中へと伸ばしてしまいそうになる手をなんとか抑える。
何を馬鹿なことを考えているんだ。私は。
ふぅ、と息を吐き気持ちを切り替える。
まずは皆に謝らなくてはな。そしてさっさと地上へと出て夕食を食べて寝てしまえばこのもやもやとした気持ちも、回らない頭もましになるはずだ。きっとそうだ。
そう考え、私は皆のもとへと足を進めるのだった。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(●人●) 「そういえばあれっくす。今日の晩御飯はなんだ?」
(╹ω╹) 「いやいやいや。お嬢様前回の続きはどうしたんですか!?」
(●人●) 「んっ? 何のことだ?」
(╹ω╹) 「えっ、次回に続くってお嬢様が……」
(●人●) 「んっ? 何のことだ?」
(╹ω╹) 「いやいやいやいや、どうしたんですか?」
(●人●) 「あれっくす、ナニモ ナカッタンダ」
(╹ω╹) 「どういうことですか?」
(●人●) 「ネタがな」
(╹ω╹) 「それは仕方ないですね」