第64話 初日の終わり
その後、昼の休憩を挟みながらしばらく11階層で戦い続けた。私も時々レオンハルトと交代したが、多くの時間はレオンハルトが先頭に立って戦っていた。
レオンハルトの戦い方は堅実という一言に尽きる。防御を第一に考え、怪我をしないようにして着実にダメージを与えていく。その分1回の戦闘にかかる時間は長くなりがちだが継続して戦闘するという意味では怪我をしないということは非常に重要だから間違ってはいない。まあ私にはじれったく感じるが。
戦闘時間が長くなりがちな原因としては他にもある。最初から違和感はあったのだが、ギネヴィアがクリスとアレックスの魔法を放つタイミングを指示していたのだ。
クリスとアレックスの魔法陣の構成速度はかなりの速さだ。ダンジョンに入るようになってその重要性を思い知った2人はより早く、より正確に魔法陣を構成できるようにと努力し続けていた。そのおかげであのオークのスタンピードに対処できたと言っても過言ではないかもしれない。
クリスとアレックスが現在魔法を放っているタイミングは本来ならば何度も放つことが出来るほど遅いし、それにクリスもアレックスも魔法陣の同時発動をせず単発の魔法しか放っていない。それも戦闘時間が長くなる原因だ。
ダンジョンを探索するという面で見ればギネヴィアの指示は不可解極まりないものだが、夕食時に言っていたようにレオンハルトを鍛えるためのものだと考えれば得心はいく。ただ何を鍛えているのか、何が不足しているのかはいまいちよくわからないが。
「そろそろ時間ね。帰りましょう」
「わかりました。シエラ、お願いね」
昼食をとり3時間ほど11階層で戦ったあたりでギネヴィアが見切りをつけた。若干連戦していたレオンハルトの息が荒いがまだまだ余裕は感じられる。しかしクリスは心配そうにその様子を見ていた。
クリスの指示に従い先導して良いか視線でギネヴィアに確認したが特に何も反応はなかったので私が先導することにした。てっきりここでもレオンハルトに先導させるのかと思っていたのだが……本当に読めないな。
解けない疑問に多少の引っ掛かりを感じつつ帰り道を歩いていく。あまりゆっくり歩きすぎると夕食の時間が大幅に遅れてしまうのでついてくる皆のペースを確かめつつ速度を調節していく。
「レオン、格好良かったわよ」
「クリスもすごい魔法制御だね。これは私も頑張らないと」
ときおりそんな会話が後ろから聞こえてくる。ダンジョン内での油断は死の危険を招くのは確かだが緊張状態をずっと保つなんてことが出来るはずもない。だからモンスターも罠もない時にはこういった軽い会話を挟み、気持ちをコントロールする必要があるのだ。とは言え先頭で罠とモンスターを警戒しながら進む私が話すのは警告くらいなものだが。
「弓矢、左前方床、出っ張りに注意」
後ろに続く皆からの返事を聞きつつ歩いていく。まあ今歩いている最短ルートは私たち3人にとっては何度も歩いた道だし、レオンハルトたちにしても行きに通った道なのだから覚えているかもしれないけどな。
2時間半ほどかけて2階層まで戻ってきた。ここまでくればあともう少しだ。やはり行きにモンスターをある程度倒している分、多少疲れていても帰りの方が早いな。
スカーレット城のダンジョンは1から5階くらいの低層階は比較的安全だ。出てくるモンスターもそこまで強くなく、命に関わるような罠もない。一般的な兵士であれば、よほど運が悪くなければ怪我を負うことはあっても仲間とフォローしあえば死ぬということはない。まあ私の場合は罠やモンスターの攻撃に当たったとしても怪我を負う事さえない程度なのだが。
「シエラ。ちょっといいかしら?」
「なんでしょう?」
2階層へと上がり、さてもう一息と進もうとしたところでギネヴィアに呼び止められる。ギネヴィアが皆に少し休憩するように指示を出し、そして私を部屋の隅へと呼んだ。そして皆に聞こえないように声を潜めて話し始める。
「シエラ、ちょっとお願いがあるのよ」
うっすらと笑いながらそんなことを言うギネヴィアを無礼とは知りながらうろん気に見つめる。レオンハルトを鍛えるためのことだろうとは理解しているがどうも私はこういった裏から策謀を巡らすようなことは好きではない。敵を嵌めるためと言う理由ならわからなくはないのだがな。
そんな私の視線を笑って受け流しながらギネヴィアは発した言葉は私の予想外のものだった。
「ちょっと罠を見逃してくれないかしら」
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(●人●) 「ダンジョンに食料を求めるのは間違っているのだろうか!」
(╹ω╹) 「ええっと、そこはかとなく危険な香りがしますがどうしたんですか?」
(●人●) 「うむ。私達はある意味で非常時の食料庫としてダンジョンを扱っているだろ」
(╹ω╹) 「まあ、そうですね。もちろん城の外のダンジョンに潜っている冒険者の人なんかは財宝目当てだったりしますけど」
(●人●) 「うむ、人それぞれ、色々なダンジョンがあるということだな」
(╹ω╹) 「はい」
(●人●) 「という訳でステルスマーケティングだ。新連載でダンジョン物を書き始めたらしいから興味があれば下のリンクから飛んでみてくれ」
(╹ω╹) 「お嬢様、意味が全く違います」