第60話 王妃の護衛騎士
さっとアレックスが私へと視線を送ってきたので小さく頷いて返す。そしてアレックスが立ち上がりにこやかな顔をして女性の騎士のために椅子を引いた。
「どうぞ、シルヴィア様」
「すまないな」
シルヴィアが腰掛けるのに合わせてアレックスが椅子を押し込むのを見ながら観察を続ける。シルヴィア様ね。
確かに座るだけだがその所作には気品のようなものを感じられるし、泣きぼくろのせいもあってか柔和に感じられるその顔はとても整っている。騎士という職に就きつつもその透き通るような淡い金髪はきちんと手入れされているようだし、これはどこぞの貴族だろう。これからのこともあるし挨拶はしておくべきだな。
「シエラ・トレメイン名誉赤女男爵です。シエラとお呼び下さい。これからよろしくお願いいたします。シルヴィア様、でよろしいのですよね?」
「はい。シルヴィア・アレナスと申します。シエラ様のご活躍はよく耳にしております」
「シルヴィア様のアレナス伯爵家はサルファー侯爵家の分家です。現在はギネヴィア様の護衛騎士をしていらっしゃり、ご自身も名誉子爵の貴族位をお持ちです」
「王妃様の護衛騎士とは……シルヴィア様はお強いのですね」
「いえ。名前が似ているということで王妃様に気に入っていただけただけで、私などまだまだです」
シルヴィアは謙遜しているがそんなはずはない。アレックスの紹介でおおよそのシルヴィアの立場は理解した。確かに伯爵家の一員という立場は強みではある。しかし護衛騎士に求められるのは第一に純粋な武力なのだ。護衛対象を守りきれなければ意味などないのだからな。
王族についている護衛騎士なのだから国の騎士団長であるオージアス程ではないにしても化け物クラスの強さを持っているはずだ。まだ20代の前半に見えるがこれほどの地位に就くとは天才なのかもしれないな。
しばしシルヴィアを交えて会話をしつつ食事を続けた。話してみると言葉遣いは丁寧だが気位は高くなく自然に会話をすることが出来た。学園にいたさして実力もないのに気位だけは一人前の馬鹿貴族たちとは比べるまでもないな。
そういえば学園に行けばあいつらもいるんだな。本当に面倒だ。クリスが行くのだから私が行かないという選択肢は無いんだがため息が出そうだ。
シルヴィアは楚々とした仕草で食事をしているが食べるスピードは遅くはない。これも騎士としてこれまで培ってきたものだろう。先に食事をしていた私たちをほぼ同時に食事を終え、そして感謝の祈りを捧げると改めて私たちへと視線を向けた。その顔は今までになく真剣なものだった。私とアレックスも姿勢を正す。
「シエラ様、アレックス様。明日からのダンジョン探索についてなのですがおそらく6名で探索することになります。私たちにクリスティ様、レオンハルト殿下、そして王妃様という構成です。そこでお願いがあります」
ここまで言われれば大体の内容は予想がつく。レオンハルトとギネヴィアに危険が及ばないように取り計らって欲しいということだろう。安全を期すのならもっと大人数で探索したほうが良いとは思うが6人と数が限られているのはギネヴィアの指示があったんだろう。
まあスカーレット城にあるダンジョンにはある程度慣れているし問題はない。アレックスも私と同じ結論になったのか「殿下と王妃様をフォローすれば良いんですね?」と聞き返していた。
シルヴィアが首を振る。しかしその方向は私とアレックスが思い描いていた方向とは違った。
「違います。お2人にはできる限り何もしないでいただきたいのです」
「私たちでは力不足ということですか?」
「いえ。ただギネヴィア様がレオンハルト殿下に何を経験させたいのか、それを考えるとそれが最も適当だと思うのです」
「シルヴィア様にはそれが何かわかっているのですね?」
「ええ。おそらくですが。しかしこれは自ら体感することでしか本当の意味では理解できないことですからこうしてお願いをしているのです」
小さく頭を下げるシルヴィアから視線を外しアレックスと視線で会話を交わす。多少困惑気味だが反対ではないようだ。私へと最終的な判断は任されたのでゆっくりと口を開く。
「わかりました。私とアレックスはいつもどおりクリスティ様の護衛としての仕事に専念します。それで良いですね」
「はい。いざという時は殿下と王妃様の命は私の一命に代えても守ってみせます」
そう言い切ったシルヴィアの顔は晴れ晴れしていた。王妃の護衛騎士がここまで言うのだ。それを信頼するしかないだろう。
シルヴィアの実力は現時点では我々の中で一番高いはずだ。そんな彼女が対処できない事態になったら誰も生きてはいないだろうしな。ある程度の怪我であればレオンハルトが治療できるし、ハイポーションなども常備している。なんとかなるはずだ。
奇妙なお願いに少し疑問を抱きながらシルヴィアと別れ、私とアレックスは仮眠室で眠りに入った。暑くも寒くもなかったのだが何故か寝苦しく、なかなか眠りにつくことは出来なかった。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(●人●) 「な、なんだと!」
(╹ω╹) 「どうしたんですか、お嬢様!?」
(●人●) 「忘れられたのだ」
(╹ω╹) 「えっ?」
(●人●) 「本編より重要と一部で話題のこの後書きが忘れられて投稿されたのだ」
(╹ω╹) 「うわっ、やっちゃいましたね」
(●人●) 「仕方ない。釘打ち機の用意だ」
(╹ω╹) 「了解です。行ってらっしゃいませ」




