第59話 レオンハルトに足らないもの
ギネヴィアの発言に固まった中で最も早く対応したのはエクスハティオだった。
「王妃様、今回のご訪問は殿下とクリスティの仲を深めるためと聞いておりますが。流石にダンジョンに、しかも王妃様自身も向かわれるのはいかがなものかと」
「相変わらずエティは固いわね。それにヴィア姉さまで良いって言ってるでしょ。昔みたいにヴィアお姉ちゃんでも良いわよ」
「いつの話ですか!?」
エクスハティオの言葉にもギネヴィアはからからと笑ったままだった。しかしその様子からは先ほどの発言を取り消すつもりなど毛頭ないことがわかった。それを感じ取ったのは私だけではなかったようでレオンハルトがギネヴィアと視線を合わせる。
「お母様、なぜなのか聞いてもよろしいですか? 兄上たちには普通に親睦を深めただけと聞いていますが」
真剣な表情を向けてきたレオンにギネヴィアは柔らかな笑みを浮かべて返した。
「レオン、あなたに足りないものがあるからよ」
「えっ?」
「先の戦争時のスタンピードの話は聞いているわね。ここにいるあなたと同年代の3人が活躍したことも知っているわね」
こくりとレオンハルトが首を縦に振る。まあクリス自身も話していたし、王家の人間なのだから詳細な報告なども見る機会があっただろう。今回はそれに遭遇した人間が多く生き残ったから以前の生でクリスが見たものよりも詳しく正確なものになっているはずだ。
学園へと行けばまた見る機会もあるかもしれないが、自分のことが書かれているかも知れないと考えるとこそばゆい感じもするな。
いや、今はそんなことはどうでも良いか。
「その話をもちろん私も聞いたわ。そして思ったの。このままでは学園であなたは他の3人の足を引っ張ることになるかもしれないって」
「そんな! 何が足りないと言うのですか?」
「それはね……」
声を低くして溜めるギネヴィアをレオンハルトが身を乗り出して見つめる。そしてギネヴィアはそんなレオンハルトへとデコピンした。パチーンと良い音が部屋へと響き渡る。
「それを教えるためにダンジョンへ行くのよ。ちなみにこれは王妃としての決定だから、反論は受け付けません」
おでこを押さえるレオンハルトを笑いつつもギネヴィアがそう言い放つ。その言葉に反論できる者などいるはずもなく明日からのダンジョン探索を決定して食事は終わったのだった。
夕食を終え、部屋へと戻ったクリスはドレスを脱いで部屋着へと着替えるとメイドの入れた紅茶を飲み、ふぅと息を吐いた。
「ダンジョンの探索になってしまって残念だな」
クリスがどれだけ今回の訪問のことを楽しみにしていたのかを私は知っているだけにギネヴィアの提案に思うところがなかったわけではない。しかしあの場面では私に発言権などない。無理に発言をしてしまえば私だけでなくクリスというよりスカーレット侯爵家としての立場が悪くなってしまうからな。
落ち込んでしまったのかもしれないと心配したのだが、クリスは少し笑って首を横に振った。
「私はレオンと一緒にいられれば幸せだから」
「そうか」
あの男にはもったいないほどの言葉だが、まあ仕方がない。クリスがそれで幸せというのならそれを守ってやるのが私の務めだしな。そんなことを考えていると「でも」とクリスが言葉を続ける。
「レオンに足りない物って何かしら?」
「さあな。文武に優れているとは聞いているが、実際に見たわけではないからな」
悩ましげに眉を下げるその可愛らしい姿を眺めつつ私も考える。
実際問題レオンハルトに足りないものと言われても私も思いつかない。クリスを見限る見る目のなさとか思慮の足りなさなどは考えつくが今回のこととは関係はないだろう。
実際、レオンハルトは強い。とは言えそれは私やアレックスとは違う強さだ。私の場合は魔法が使えないため物理に特化しているし、アレックスは魔法に特化して強いと言える。
誰の強さに一番近いかといえばクリスなのかもしれない。魔法、物理ともに扱える万能型とでも言えば良いのか。まあクリスが攻撃寄りであるのに比べ、レオンハルトは防御寄りであるという違いはあるが。
2か月後に入る事になる学園には王国中から様々な才能の持ち主が集まってくるがその中でも全てにおいて上位に入るだけの才能をレオンハルトは持っているのだ。私たちの足を引っ張るということはないと思うのだがな。
結局答えが出ることもなく、私は食事の時間になったためクリスの部屋を辞した。そして使用人用の食堂へと向かうとそこにはアレックスがおり、私を見て駆け寄ってきた。
「お嬢様、お疲れ様です」
「アレックスもな。別に待っていなくても良かったんだぞ」
「いえ、そんなわけにもいきませんから」
そんな会話を交わしながら用意されている料理を自分でよそっていく。スカーレット城でとるこの食事も最初の頃はアレックスがしようとしていたが面倒なのでやめさせた。何より今はアレックスと私は同格だからな。
私もアレックスも名誉貴族ではあるものの住んでいる家は相変わらずソドスの家だ。家を買うまでは出来なくとも借りる程度であれば十分に出来るだけのお金はあるのだが、私にとって建物としての家の価値はあまりないからな。
ダンが食事を作り、ヘレンが笑い、マーカスが仕切るその場所が私にとって重要な場所なのだ。ソドスも今の生活を気に入っているようだし当面はこのままで良いだろう。
夜勤の者や私たちと同じように夜間の待機要員として城で眠る当番の者が多くを占める中、見覚えのない者の姿もチラホラと見える。ギネヴィアたちに同行してきた騎士やお付の者たちだろう。若干いつもとは違う少しの緊張感が漂う食堂でアレックスと向かい合い食事を進めていく。
「隣、良いだろうか?」
そんな言葉に視線を向けるとそこにはクリスたちの食事の時に顔を合わせた女性の騎士が食事を乗せたお盆を片手に立っていた。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(●人●) 「ふふっ」
(╹ω╹) 「あれっ、いつになくご機嫌ですね」
(●人●) 「当たり前だろう。れおんはるとの野望を防いだのだからな」
(╹ω╹) 「野望ですか?」
(●人●) 「1か月もくりすといちゃつくなどだいそれた野望だろう」
(╹ω╹) 「いや、それは婚約者だから当然なんじゃあ……」
(●人●) 「うらやまけしからんだろうが!」
(╹ω╹) 「お嬢様がしたかっただけですよね?」