第58話 晩餐と意外な提案
なんとか何事もなくスカーレット城へとついたギネヴィアとレオンハルトの2人はエクスハティオとメリッサの歓迎を受けていた。道中を護衛していた騎士たちは既に解散しているが私と騎士団長は引き続き警備だ。エクスハティオのそばにはソドスも控えている。
会話を続ける5人を少し離れたところから見守っていると私へと近づいてくる者がいた。
「お嬢様、ただいま戻りました」
「ご苦労だったな。道中変わったことはなかったか?」
「変わったこと、というか王妃様は変わった人だなとは思いました。何度も声をかけられましたし」
「そうか」
やってきたのは私と同じ騎士服を着たアレックスだ。
アレックスは王家から名誉男爵の爵位はもらったが、引き続きスカーレット家というか私に仕えている。まあ私を監視するという隠れた命令も下されているし当たり前か。
アンドレアにそのことについては教えてもらったので既にアレックスには私がその事実を知っているということは暗に伝えてある。その上でなんでも報告してしまえと言っておいた。私はクリスが幸せになれば良いのであって後ろ暗いことがあるわけでもないしな。
まあそんな感じで私たちの関係は相変わらずではあったのだが、今回ギネヴィアとレオンハルトがやって来るということで王家から爵位をもらったアレックスは領の境からずっと護衛についていたのだ。
しかしアレックスの話を聞く限り、やはり変わった人物であることは確かなようだ。実家でもあるスカーレット家へ悪意があるわけではないだろうが妙なことが起きなければ良いがな。
挨拶を終え、ギネヴィアとレオンハルトが用意された客間へと向かったところでクリスも自室へと戻ることにしたようだ。私もアレックスと別れてクリスの後を追う。
歓待の食事の時間まで幾分かの余裕はあるが徒歩での移動は予定外だったのでメイドによってクリスの身だしなみが入念に整えられていく。ドレスも変更する必要があるかと思ったがそこまでではなかったようだ。
全てを整え終えたところでメイド達は出ていき、部屋に私とクリスが残される。そしてそれを待っていたかのようにクリスがこちらへと視線を向けた。
「お父様から聞いてはいたけれど王妃様は変わった方ね」
「どんな風に聞いたんだ?」
「予定通りに行くと思うな、と言われたわ。聞いた時は意味がわからなかったけれど納
得ね」
「私は騎士団長からおてんば姫と呼ばれていたと聞いたぞ」
「ふふっ、確かに。でも領民からは好かれていたみたい」
ここまでの道のりの領民たちのギネヴィアに対する反応を思い出したのかクリスが微笑む。確かに領民たちはギネヴィアを歓迎していた。しかもその中の一部は王妃としてではなく一個人としてギネヴィアを歓迎していた。つまりそれはギネヴィアと何らかの関係があったということだろう。
ギネヴィアが王妃となったのはクリスが生まれる2年前だ。だからこれまでギネヴィアと直接会ったことはない。今までの6度の人生を含めてだ。まあ私の意識の覚醒する3歳までの間に会ったことがあるのかもしれないがそんなに小さければクリスも覚えていないだろう。
そんなギネヴィアがスカーレット領へ訪問してくるということはクリスの運命が大きく変わっていることに他ならないが、それが全て良い方向へと向かうと考えるほど私は楽観的ではない。
「本当に何事もなく終われば良いのだがな」
自分でも叶わないであろうことがわかっている望みを小さく呟きながら食事の準備が終わるまでクリスとたわいもない話を続けるのだった。
食事の準備が整ったとメイドに告げられ、案内されるままに向かった先は迎賓用の部屋ではなく普段クリスたちが食事に使っている部屋だった。その部屋も決して狭いわけではないがやはり身内が使用する部屋ということで迎賓用の部屋と比べればグレードは一段落ちる。まあ落ち着いた雰囲気でまとめられているので私としてはこちらのほうが好みだが。
部屋に入ると既にエクスハティオとメリッサが座っていた。メリッサはカリエンテの授乳などの関係で食事の時間がずれることもあるのだが流石に今日は合わせたようだな。
テーブルへと向かうクリスを見送り、私自身は壁際に立ち待機する。程なくしてアレックスに連れられギネヴィアとレオンハルト、そして1人の女性騎士が入ってきた。エクスハティオたちに歓迎されつつテーブルにギネヴィアとレオンハルトが着き、アレックスと女性の騎士が私と反対側の壁際に立った。アレックスがこちらを見ながら少し嬉しそうな顔をしている。何か良いことがあったのか?
何か波乱があるかもしれないと思っていた食事は、場所が意外だったことを除けば穏やかに進んでいる。ギネヴィアが料理を懐かしんだり、エクスハティオとメリッサが昔のギネヴィアの話をしてクリスとレオンハルトが驚いていたりと和やかだ。もしかして警戒しすぎたのかもしれないな。
今回の訪問にしても別にスカーレット侯爵家だけへの訪問ではない。名目としては婚約者との仲を深めることを目的とした視察であり、サルファー侯爵家、セルリアン侯爵家にも既に第1王子、第2王子をそれぞれ伴ってギネヴィアが向かい1か月程度滞在しているのだ。
スカーレット家が最後なのはレオンハルトが第3王子であることもあるが、あと2か月後にはクリスが王立学園に入学するため一緒に王都へと向かえるようにという心遣いもあるそうだ。いよいよあいつと会わなくてはならないと考えると面倒なことこの上ないが、あの悪魔をどうにかしない限りクリスの幸せを確実には出来ないからな。
そんな風に別事へと思考を巡らせていた罰が当たったのか、穏やかに終わるかと思われた食事はギネヴィアのたった一言で様相を変えた。
「そうだ。明日からレオンとクリスちゃんはダンジョンへ向かうこと。もちろん私も行くわ」
ガラスにヒビが入ったように空気が一変し、皆が動きを止めた。レオンハルトでさえそうなのだから誰にもそんなことは言っていなかったのだろう。そんな皆の反応をニマニマとした表情でギネヴィアが見回していた。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(●人●) 「傍若無人な王妃だな」
(╹ω╹) 「ええっと、お嬢様がそれを言いますか?」
(●人●) 「なんだ? 私ほど相手のために心を砕いているものなどいないだろう? お前も砕いてやろうか?」
(╹ω╹) 「その手に持ったハンマーの意味って……いえ、なんでもありません。遠慮しておきます」
(●人●) 「仕方ないな。もし砕いて欲しかったら言えよ」
(╹ω╹) 「たぶんそんな日は来ないと思います」




