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シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む  作者: ジルコ
第ニ章 シンデレラになった化け物は戦争の悲劇を回避する
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第56話 アンドレアとの密談

遅れて申し訳ありません。

「ぷっ」


 私がそう言った途端その女が吹き出し、そして笑いをこらえるように顔を歪ませる。しかし我慢が出来なかったようで最後には笑いだしてしまった。どういうことだ?


「坊ちゃん、坊ちゃん。待ち人が来ましたよ」

「坊ちゃんはやめてくれ」


 後ろを振り返ってそう呼び掛けた女にそんなことを言いながら奥からアンドレアが姿を見せる。いつものニコニコした嘘くさい笑顔ではなくどこかやりにくそうな顔をしながら女のことを見つめていた。

 そして私の方へとアンドレアが向き直る。


「こちらへ」


 アンドレアの案内に従って店の奥へと入っていく。背後からの好奇の視線を感じつつもとりあえずはその背中を追う事にした。

 アンドレアに連れられて行ったのは店の奥にある一室だった。ご丁寧に隠し扉になっておりそこに部屋があると知っていなければわからないほどのものだ。もちろん部屋の大きさ自体もそこまで広くなく、小さなテーブルと2脚の椅子があるだけでそこに私とアンドレアが入ったことで少々手狭に感じる程度だ。

 アンドレアが私に座るように促してきたのでその椅子へと腰を下ろす。そしてアンドレアも私の対面に腰を下ろし私に向かってにこやかに微笑んだ。


「来ていただいてありがとうございます」

「わざわざ暗号まで使って呼び出されたのですからそれなりの用事があるのでしょう?」

「暗号ですか……」


 そう言うとアンドレアはふっと息を吐き小さく笑った。馬鹿にされたようで腹が立つがとりあえずは我慢だ。

 アンドレアから送られた褒美についての手紙には暗号が仕組まれていた。そこに書かれていたのはこの店の場所と名前、そして先ほどの合言葉だ。暗号自体はクリスが学園で習ったことのあるもので、手紙の特定の部分を2種類の記号へと変換しその組み合わせによって文章を作ると言う暗号の難易度としてはそれなりのものだった。難しいとまでは言えない程度とも言える。だから解読に失敗したというわけではないはずだが。


「何がおかしいのですか?」

「いえ。それより話し方を元に戻していただいても良いでしょうか。あなたもその方が楽でしょう」

「……誤魔化されたような気もするが、まあいいだろう。それで何の用だ? 私も忙しいんだが」


 そのアンドレアの言葉に猫かぶりをやめ、クリスやアレックスに対するように話し始める。こいつを脅すために一度本性を見せているからな。今更取り繕ったところで意味などほとんどないだろう。態度を変えた私の様子を見ても、表情を変えないところを見てもそれがうかがえる。


「それは申し訳ありませんでした。私を助けていただいた謝礼に関してお話しておこうかと思いまして。あぁ、そう言えば従者の方が名誉男爵になられたそうですね。おめでとうございます」

「自分で手を回しておいて良く言うな」


 皮肉を言った私にアンドレアは心外だとばかりに首を横に振って応えた。


「私にそんな権限はありません。正当に彼が評価された結果です」

「どうだかな」


 聞く耳を持たない私の態度にわざとらしくため息を吐いたアンドレアはすぐに元の表情へと戻り話を始めた。


「彼について謝礼と関係ないとはいえませんがね。少し裏事情をお話ししましょう。彼が爵位を与えられたのは確かにその働きが認められたからという事に違いありませんが、他にも要因があります。まあ最も大きなものはあなたですね」

「私か?」

「ええ。今回の騒動においてあなたの戦い方ははっきり言って異常でした」

「本当にはっきりと言うやつだな」

「その方が好きでしょう」


 その問いかけに鼻を鳴らして応えておく。実際そうなのだがこちらを見透かしてくるこいつに肯定を返すのは嫌だったからだ。

 しかしアレックスが名誉男爵になったことと私の働きに関連性が浮かばない。とりあえず話を聞くかとアンドレアを睨めあげるようにして見る。そんな私の態度にアンドレアは肩をすくめた。


「簡単に言ってしまえばあなたは危険視されたんです。あなたと言うよりはあなたを抱えるスカーレット家が。まあ、先日オージアス様になすすべなく負けたことで多少はましになったようですが」

「王家……じゃないな。他の2侯爵家か」

「ええ。バランスが崩れるのを嫌ったのでしょうね。最初はあなたを名誉赤女男爵から女男爵にして王家の騎士団へと編入させようとしていましたし。あぁ、そんなに怒らないでください」


 ぎりぎりと噛み締めていた歯と力んで赤く染まった握り込んだ手をゆっくりと緩めていく。そうだ、これは過去の動きだ。今とは違う。クリスと離れるわけじゃない。

 大きく息を吐き怒りを散らしていく。


「すまなかった」


 思わず八つ当たりで睨んでしまったがこいつのせいじゃない。しかも話しぶりからすれば、おそらくそうならなかった理由にこいつが噛んでいるようだしな。そうならばある意味でこいつは恩人だ。

 私の謝罪にアンドレアは珍しくキョトンとした表情で私を見ていた。


「なんだ?」

「いえ、なんでもありません。こほん。まあこの流れは予想できましたし、あなたの意向も既に聞いていましたのでそうならないように根回ししたわけですが、その代わりとしてあなたを監視する者が必要になりました。普通ならば必要ないと突っぱねられたかもしれませんがあなたは、その……」

「この国出身ではないから、という訳だな。そしてその役目を負ったのがアレックスか」


 言いにくそうに言葉を止めたアンドレアに代わりその続きを紡ぐ。他国出身の名誉貴族がクリスのそばにいると言うことでスカーレット領でもそれなりに陰口を叩かれているし、その程度気にはならない。

 確かに端から見れば怪しいだろうしな。他国からの間者と疑われている可能性さえあるだろう。


 アレックスが選ばれたのは自然に私を監視できるからだな。アレックスも私の仲間で他国出身であることに変わりはないが行動を縛る方法がないわけじゃない。むしろ縛らずに私をクリスの騎士にしたスカーレット家の方が異端なんだが。

 今日、アレックスがわざわざ城に呼ばれたのはそのためでもあると言うわけか。繋がってきたな。しかし……


「そんなことを伝えて良かったのか?」

「だから言ったでしょう、謝礼だと。まあ私だけの判断と言う訳ではありませんがね。この甘さが不安材料でもありますが人を見る目は確かですので大丈夫でしょう」

「そうか、感謝すると伝えてくれ。大事な従者を悩ませてしまうところだったからな」


 言葉の背後に透けて見えたヴィンセントへと謝意を伝え、これ以上話すことはないようなので部屋を出ることにする。

 こいつの命を助けた謝礼としてはクリスと離れないように手を尽くしてくれただけでも十分だからな。これ以上は必要ない。


 部屋を出ていこうとしてふと思い浮かんだことを聞いてみることにした。今までの6度のクリスとの人生でこいつの考えだけは良くわからなかった。クリスを嫌っている訳でも聖女に心酔しているようでもなかったからな。今は少し理解できる気がするが直接聞いてみたいと思ったのだ。


「もし今回ヴィンセント殿下が亡くなり、お前が奇跡的に生き残ったとしたらお前はどうしていた?」


 振り返ってそう聞いた私にアンドレアはニコニコとしたいつもの表情のまま答えた。


「質問の意味がわかりかねますが、まあ答えましょう。私は変わらず王家を支えるだけです。レオンハルト殿下は少々問題を抱えていますが、愚者と言う訳ではありません。皆で支えればそれなりの王となることは可能でしょう」

「そうか」


 やはりこいつはレオンハルトの問題について気づいていたのか。そしてそれを利用してレオンハルトをうまくコントロールするためにはクリスより聖女の方が適確だった。レオンハルトはある意味で聖女に依存していたからな。それを無理に引き離すよりはクリスをレオンハルトから遠ざけることに協力し、聖女と手を結ぶ方がはるかに楽だと考えたんだろう。

 その答えに満足し部屋を後にする。今となってはもう知る必要のないものだったが気持ちの整理はついた。これからこいつと道が交わることはまずないだろう。こいつは王家を、私はクリスを守るだけなのだから。


 扉を閉める瞬間、何かアンドレアが呟いた気がしたが大したことではないだろう。さて帰るか。きっとアレックスが複雑な顔で待っているだろう。主としてそれを解消してやらなければいけないからな。

この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。


【お嬢様と従者による華麗なる後書き】


(●人●) 「あれっくす、宿に泊まる時楽しみにしていることはあるか?」

(╹ω╹) 「楽しみですか……あっ、食事とかは楽し……」

(●人●) 「しえらぱーんち!」

(╹ω╹) 「ぐぺぇ。何するんですか!?」

(●人●) 「そんな建前を聞いているんじゃない!」

(╹ω╹) 「いや、建前って……本心ですけど」

(●人●) 「違うだろ! 宿と言えば有料チャ……」

(╹ω╹) 「ストップ! それ以上は言ってはダメです」

(●人●) 「ほう、最新の映画から古い映画まで見ることが出来る有料チャンネルのどこにやましいところがあると言うのだ? ほら言ってみろ」

(╹ω╹) 「くっ、二重の罠でしたか!」

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わりとゆるゆるな現代ダンジョンマスター物です。殺伐とはほぼ縁のないボケとツッコミのあるダンジョンの日常を描いています。

「攻略できない初心者ダンジョン」
https://ncode.syosetu.com/n4296fq/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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