第51話 王城への招待
令和、初投稿です。これからもよろしくお願いします。
崖の上のオークのダンジョンは予想通りそれから間もなく見つかり、今回の騒動についてはとりあえず落としどころが着いた形だ。しかしそのダンジョンからモンスターが溢れる可能性は限りなく低かったはずである。まあダンジョンについて完全に理解など出来るはずがないのでたまたま珍しいケースだったと言えばそうなのかもしれないが。
崖上に投げた私のバトルアックスもしっかりと回収されて戻ってきた。地面に突き刺さっていたようで抜くのが大変だったそうだ。あの時確かに何かを感じたはずなんだがそんな情報は全く聞かされなかった。
その後は原因が判明したということもあり物々しかった警備体制も若干緩んでいった。今後このダンジョンをどう扱うかはわからないがオークの出現するダンジョンならば利益の出るダンジョンということになる。国境に近すぎるということが難点ではあるが、ダンジョン目当ての冒険者、その冒険者目当ての商人などが集まってくるだろうからいきなり町とまではいかないが小さな集落ぐらいは早々に出来るかもしれないな。
そんな感じで翌日を過ごし、さらに体が回復して多少のぎこちなさは残るが普通に戦える程度に戻った私は行きと同様にクリスの馬車へと乗り込み帰途へとついた。
大したトラブルもなく戻った王都のスカーレット家の屋敷を見たときはほっと胸をなでおろしたものだ。王都も城壁に囲まれていて安全といえば安全なのだがそれでも心安らげる場所というわけではないからな。
「ふぅ、やっと着いたな」
「いろいろあったわね。シエラもアレックスもお疲れ様。数日後には王城に招かれる予定だからそれまで体を休めておいて」
「わかりました」
屋敷の自室へと向かうクリスを見送り私とアレックスも宛てがわれた部屋へと向かう。行きと同じ部屋へと入り、アレックスと2人どちらからともなく息を吐く。
「大変だったな」
「ええ。予想外のことばかりでした。生き残れて本当に良かったです」
「そうだな」
やはりここに戻ってきたことで終わったことを強く実感したのかアレックスの表情も柔らかなものだ。馬車での帰りの道中も危険があったわけでもないのだが、あんなことがあったのだからどこかピンと張り詰めていたからな。
アレックスの言葉に同意はしたものの私とアレックスとでは予想の内容自体が違うのだろうがまあそれはこの際どうでも良いか。結果的に目的は達成されたんだからな。
しかし……
「褒美の下賜か。面倒だな」
「面倒って……確かに僕も気が重いですけど」
ベッドに体をポスンと倒れ込ませながら言った私の言葉にアレックスが苦笑しながら応える。
今回のオークの襲撃に関して戦った者全てに王家からの褒美が出されることは既に決まっている。それだけの重大事だったからな。とは言え王城へと参内する者はほんのひと握りでありそれに私とアレックスは選ばれていたのだ。まあ非常識な戦い方をした私は別として、最初に襲撃を知らせたのはアレックスだしその後の戦いでもかなりの活躍をしたそうだから当然とも言えるが。
ちなみにスカーレット領から王城へと向かうのはクリス、私、アレックスの3人である。他の領については知らされていないので総勢何人になるかはわからないが10人を超えるというようなことはないだろう。
さて褒美は何が与えられるのだろうな。そんなことを考えながら私はベッドへと体をずぶずぶと沈ませていくのだった。
王城への参内は3日後に決まり、私たちはそれまでの期間をゆっくりと過ごした。まあアレックスが王城へと着ていく衣装がなかったためその準備に多少の時間はかかったがなんとか問題なく用意することが出来た。
出発前に注文しておいた私の衣装が出来上がっていたので着せ替え人形のごとく扱われたことが最も大変だったかもしれない。クリスの笑顔が見られたのだから安いものだったがな。
そしていよいよ王城へと参内する日がやってきた。
「あの、どうでしょうか?」
「ふむ……」
不安げな顔をしているアレックスを見る。昨日出来上がったばかりのアレックス専用の濃紺の礼服はしわ1つなくぴったりと合っている。中のシャツも新しい白く清潔なものであるし、まだ着慣れていないため着られている感は残っているが問題はないだろう。
「似合っているぞ」
「ありがとうございます。そう言って貰えて良かったです」
にぱっと笑みを浮かべるアレックスと共に部屋を出る。そして玄関付近でクリスと合流し私たち3人は王城へと馬車に揺られながら向かっていった。
城を囲む城壁を抜けて私たちを乗せた馬車は王城の中でも中央の扉の前で止まった。ここに入る機会など数える程しかない。クリスがレオンハルトに会うために王城を訪れるときはこの前のように東の迎賓用の区画にしか基本的には行かないからな。
しかし今回に関しては王家からの褒美の下賜という言わば式典のようなものであるため、この場所になるわけだ。謁見室があるのはここだからな。
案内役の執事に連れられて謁見室手前の小部屋で待たされる。まあ小部屋といってもスカーレット城のそれと比べて1.5倍程度の広さはあるだろう。そもそもスカーレット城の待合用の部屋も小さくはなかったのだ。表現的には間違っているかもしれないな。
馬車の中で私やクリスと話し、多少は緊張がほぐれたかと思ったアレックスだが王城に入った瞬間に鈍重なゴーレムのごとくカチカチに緊張し始めた。見ているこちらの方が緊張してしまいそうなほどだ。
「おい、大丈夫か?」
「え、ええ。問題はあり、ありません。だ、大丈夫です」
完全に大丈夫でないことが丸わかりのそんな答えにクリスと顔を見合わせて苦笑する。アレックスの態度も仕方のないことだ。平民が王と直接会う機会など普通はないからな。
「アレックス。心配しなくても大丈夫ですよ。練習通りに動けば良いだけです」
「は、はい」
クリスが少しでも緊張を和らげようと声をかけてくれたがアレックスの動きがスムーズになることはなかった。今も両手と両足をそろって動かしたりと不自然極まりない。
向こうもアレックスが平民だということは知っているから軽い失態をしたとしても大きな問題になるとは思えないが、このままのアレックスの様子ではスカーレット家が舐められてしまう可能性もある。それはいささか気分が悪いな。仕方がない。
「アレックス、私を見ろ」
「痛っ……えっ、はい」
つかつかとアレックスへと歩み寄り、その頭を掴んで私の目の前に持ってくる。少々骨が鳴るような音が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。アレックスの鼻と私の鼻がぶつかりそうな距離感で見つめ合う。最初は泳いでいたアレックスの目が次第に動きを止め私としっかり目が合うようになった。
「自信を持て。お前は私の自慢の従者だ。黙って私の背中を見ていろ」
「自慢の従者……はい、わかりました」
アレックスの目に落ち着きが戻ってくる。呼吸も規則正しいいつものものに戻っているし多少の緊張はあれどこれで問題はなさそうだ。いつもどおり頭をくしゃっと撫でようとしてさすがに自重する。謁見前だしな。
「ふふっ、仲が良いわね。妬けちゃうわ」
私たちのやりとりを見ながらクリスがくすくすと笑っていた。アレックスの顔が赤く染まる。確かにこんな姿を他人には見られたくはなかっただろう。クリスに対してアレックスが何か言おうと口を開いたその時、部屋の扉がノックされ執事が入ってきた。
「準備が整いました。ご案内いたします」
「では行きましょうか」
そう言い立ち上がったクリスに2人で頷き返して部屋を出る。さてどんな褒美がもらえるんだろうな。変なものでなければ良いが。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き】
(╹ω╹) 「お嬢様、今は白王歴248年ですよね」
(●人●) 「そうだな。カラトリア王国ではな」
(╹ω╹) 「そういえば僕たちが生まれたバジーレ王国の暦は違いましたね」
(●人●) 「基本的に国ごとで違うからな。とは言えそれを意識するのは国を跨いで商いをする商会や国の上層部くらいだが」
(╹ω╹) 「確かに僕も国を出るまで違うことすら知りませんでしたし」
(●人●) 「町を出ること自体が危険な行為だからな」