表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む  作者: ジルコ
第ニ章 シンデレラになった化け物は戦争の悲劇を回避する
49/118

第44話 野戦病院への慰問

 ここへ来てから今日で4日目だ。休息日が10日の間に2日入るので実質半分までやってきたということになる。今日は負傷兵への慰問という内容だ。まあその言葉通りになるはずはないんだがな。


「うっ」

「うげぇ」


 負傷兵たちがまとめられたテントを訪れた貴族の子女たちのうち、いくらかが気分悪そうに口を押さえている。2,3人は我慢できなかったようで従者や兵士の手を借りながらテントの外へと出て行った。そこまではいかなくともほとんどのものの顔色は良くない。平然とこの光景を見ているのは私とヴィンセントくらいのものだろう。


 一昨日は遠目から戦場を眺め、昨日は兵士の生々しい話を聞いた。戦争ということについての知識は多少なりとも誰しもが出来ていたはずだ。しかしそれはあくまで知識に過ぎない。

 半身を炎で焼かれドロドロと溶けたような皮膚を晒しながら気を失っている者、肩からすっぱりと切断されて虚空を見ながら涙を流す者、運び込まれたばかりで治療を待つ者のうめき声が響くここは戦場ではないとは言え確かにその空気を感じられる場所だった。


「大丈夫ですか? クリスティ様」

「ええ。彼らは私たちを、国を守る為に戦ってくれている英雄です。しっかりと慰問しなければいけませんね」

「はい」


 気丈にもそう言って微笑むクリスへと私は静かにうなずいて返す。ふと視線を感じそちらへと目を向けるとヴィンセントがなぜかこちらへと目を向けていた。しばらく視線が合い、そしてあちらが自然に視線を逸らした。


 私を見ていた? いやクリスか?


 私自身はヴィンセントに会うのは今回が初めてだ。クリスにしてもそこまで会ったことは多くないが弟の婚約者の様子が気になったのだろうか?

 まあ気にしても仕方のないことだな。私がヴィンセントと話す機会などあるはずもないし。

 気持ちを切り替え、やってきた女性の衛生兵からの注意事項に耳を傾ける。今回はいつもに比べて少々重症患者が多いそうだ。その分死者数は少ないらしいが。


 カラトリア王国では戦争において死亡した兵士の遺族には十分な報奨が支払われるし、後遺症の残るような怪我をした兵士の生活を保証するような恩給制度もある。そういった制度がしっかりしているからこそ兵士たちの士気も高く維持されているのだ。

 他の国では犯罪奴隷などを無理やり戦わせたり、盾がわりに使ったりすることもあると聞くのでそういったことをせずに済んでいるというのは素晴らしいことなんだろう。


 衛生兵の話が一通り終わり、何か質問はないかと聞かれた。特に質問が必要な話ではなかったし誰も手を挙げるとは思わなかったのだが、意外な人物の手が高く掲げられた。


「な、なんでしょうか?」


 衛生兵が戸惑った声を上げるのも無理はない。その手を挙げたのはヴィンセントだったからだ。


「私の魔法で負傷したものたちを治療しようと思うがそれは問題ないか?」

「ええっと……」


 衛生兵の目が何かを探すように泳ぐ。おそらく上官の姿を探しているのだろう。彼女自身も私たちに説明を任されるくらいなのだからそれなりの立場なのだとは思うがヴィンセントがした提案を判断できるほどの立場ではないようだな。

 そんなことを考えながらことの推移を見守っていると衛生兵が上官を見つけるより早く、ヴィンセントへと口を挟む者がいた。


「殿下、なりません。殿下の力はいざという時に必要なものです」


 そう言ってヴィンセントを諌めたのは本当に見えているのかわからないほどの細目の優男だ。ニコニコとした表情を崩さないまま、しかしその言葉はヴィンセントの提案をきっぱりと否定していた。


「休めば回復する程度のものだ」

「しかしここは戦場です。万が一ということもありますし、なによりここで働く方々の仕事を奪うことになります。それは宜しくないと考えますが」


 ヴィンセントに対して真っ向から意見を言うこの男の名前はアンドレア・イース・アンダーウッドと言う。カラトリア王家に仕える宰相を代々排出する名門アンダーウッド伯爵家の長男であり私にとっても非常に印象に残る男だ。むろん悪い意味でだが。

 いつもニコニコとした笑みを浮かべているがそれ故に心中では何を考えているのか読み取らせない厄介さがこの男にはあるからな。裏で悪巧みをしてもそれを証拠として残すほど馬鹿ではないし。


 2人の話し合いの決着はなかなかに着きそうになかった。どちらの言い分も間違っているというわけではないからな。どちらかといえば優勢なのはアンドレアの方か。次期国王の安全よりも優先されることなど数える程しかないだろうしな。まあそれがわかっているからこそヴィンセントも強硬にそうすることが出来ないでいるのだが。

 間に立っている衛生兵の顔色が青ざめていき、もうすぐ看病する立場から看病される立場に変わるんじゃないかと思う程のところでふたりの間に割って入る者がいた。


「お2人ともいい加減になさいませ。我々は慰問に来ているのであって醜い争いを見せるために来たのではないのですから」


 赤い髪をなびかせながらそう言い放ったクリスへと2人の視線が集まり、そして反論すべき言葉がなかったのか押し黙る。衛生兵が救いの神を見るかのように手を組んでクリスのことを崇めていることに笑いが浮かぶ。

 クリスは2人のことをゆっくりと交互に見ると先にヴィンセントの方へと向き直った。


「殿下。お心はご立派ですが殿下を慕う者の気持ちをくみ取るべきです。御身の大切さは重々ご承知でしょう」

「そうだな」


 噛み締めるようにそう言い、ゆっくりとうなずいたヴィンセントに笑顔を向けると、クリスは反転しアンドレアへと向き直る。そんなクリスの様子をアンドレアは黙ったままニコニコと眺めていた。


「アンドレア様もアンドレア様です。危険があるとは言ってもそれは限りなく低い確率でしょう。殿下の優しいお心を受け止めるのも臣下の役目ではありませんか?」

「しかし低いからといって無視して良いわけではありません」


 その言葉にクリスもうなずく。あらゆる可能性を考慮し危険な芽が大きく育つ前に対処してしまう。それが理想だろうしな。宰相となるべく教育を受けているのであれば当然そういった判断になるだろう。

 しかしクリスはにっこりと笑うと首を横に振った。


「無視はしないわ。私たちがいかなる危険からも殿下をお守りする。それで万事解決でしょう。それともあなたは殿下を守りきる自身が無いとでも言うつもりかしら」

「理想論ですね」

「ええ、でもスカーレット家は王国の盾、つまり私は殿下の盾なのです。いえ、ここにいる全ての貴族家、そして兵士たちが殿下の盾となることでしょう。これ以上に硬い盾はなかなかないのではないかしら?」


 クリスの言葉に周囲で白い顔をして様子を見守っていた貴族の子女たちの瞳に炎が宿るのを私は確かに見た。そしてその視線がアンドレアへと向かっていく。

 数十の視線が集まりさすがに居心地が悪いのかこめかみを人差し指でアンドレアが軽く掻いた。


「いかがでしょうか?」

「そこまで言われて反対できるはずがないでしょう。私も殿下の盾なのですから」


 ニコニコした顔を崩すことなくそう言ったアンドレアの心中はやはりわからなかった。

この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。


【お嬢様と従者による華麗なる後書き】


(●人●) 「なあ、糸目てニコニコしている奴は腹黒だと思うんだがどう思う?」

(╹ω╹) 「また盛大に喧嘩をふっかけましたね。確かにそういったイメージはなんとなくありますけど。やっぱり表情を読ませないところがそう思わせるのかもしれませんね」

(●人●) 「ほほぅ、なかなか良いことを言うじゃないか」

(╹ω╹) 「いやぁ、それほどでも」

(●人●) 「つまりそういう奴はすべからく悪ということだな」

(╹ω╹) 「えっ!」

(●人●) 「じゃあちょっと逝かせてくる」

(╹ω╹) 「行ってくるじゃあなくてですか!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わりとゆるゆるな現代ダンジョンマスター物です。殺伐とはほぼ縁のないボケとツッコミのあるダンジョンの日常を描いています。

「攻略できない初心者ダンジョン」
https://ncode.syosetu.com/n4296fq/

少しでも気になった方は読んでみてください。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ