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シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む  作者: ジルコ
第一章 シンデレラになった化け物は悪役令嬢と再会する
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閑話:苦悩する父親

 机の上に山のように積まれた書類から目をそらしつつその報告書へと目を通していく。積まれた書類は今回の疫病騒ぎに関するものが多くあるので処理はしなければいけないのだがさすがに何時間も疫病のことばかりでは気が滅入ってしまう。

 それに今、目を通している報告書も重要度で言えばそれと比肩するほどのものだ。断じて仕事から逃げようとしているわけではない。


 ゴンゴンゴンという荒いノックの後に間髪入れずに開けられたドアから入ってきた顔に苦笑する。スカーレット侯爵である私の執務室でそんなことをする人物の心当たりは私には一人しかいない。


「やつれてんな、エクス」

「君は元気そうだね、ソドス」


 口の端を上げながらこちらへと近づいてくるのは言うまでもなくソドスだ。疲労困憊の私とは逆に随分と小綺麗になっているし、心なしか以前よりも血色がよくなっているような気がする。


「随分とご機嫌そうだね」

「おお。シエラの従者のおかげで屋敷も綺麗になったし、飯もうまいしな」

「だから使用人の5,6人くらい雇えって言ったんだよ。それだけの報酬は出しているよね」

「俺一人しかいないのに無駄に大きな屋敷を与えるからだろ」


 全く悪びれもしないその態度に、はぁーと深いため息を吐く。普通なら侯爵である私にこんな態度を取れば不敬罪にあたるかもしれないがソドスは別だ。そう言うことをしなくても良いという条件でスカーレット家に仕えているのだから。

 むしろそういった条件があるにも関わらず公式な場ではそれなりの態度をとってくれることを喜ぶべきか。


 そんなことを考えつつ執務室にあるソファーへとどかりと腰を下ろしたソドスの対面へ書類を持ったまま私自身も行き、腰を下ろす。


「で、どうなんだ。お嬢様(・・・)の様子は?」

「いたって普通だな。見知らぬ男の家に住むなんてもっと警戒されるかと思ったがなぜか懐かれているみたいだ。先日は斧で戦う方法を教えてくれって言われたぜ。自分よりこんな大きな斧を持ってよ」


 手を高く上げてその大きさを示すソドスの仕草から見ておそらくバトルアックスと呼ばれる類の武器だろう。重さもある武器であるし普通なら使うとしても大柄な男性が使うようなものだが、シエラなら可能なのだろう。謁見室で見たあの力があれば。


 クリスとメリッサに半ば押し切られるようにして爵位を与えることが決まり、彼女はシエラ・トレメイン名誉赤女男爵(バロネス)となった。

 世襲できる准女男爵(バロネテス)にしようかとも思ったのだけれど、貴族としての付き合いが半ば強制的に発生する世襲貴族よりも一代限りで気軽な名誉貴族の方が良いと言われてしまえばそうする他なかった。

 確かに貴族の付き合いと言うのはとかく面倒なことが多いのは確かだしね。そのことをシエラは良く知っているようだった。


「で、こっちはそんな感じだが、そっちはどうなんだ?」

「軽い調査報告は来たよ。見るかい?」


 報告書の束を見せるとソドスが嫌そうに首を横に振る。予想通りの反応に苦笑しながら差し出した報告書を机の上へと置きその内容を思い出しながら話していく。


「シエラ・トレメイン。10歳。バジーレ王国のトレイシーの町出身。父はフレッド、トレメイン商会の商会長だったが4年ほど前に商会の船とともに消息不明になっている。母はシャルル、こちらも5年ほど前に病死したそうだよ」

「天涯孤独の身ってことか?」

「いや、シャルルの死後にフレッドが再婚した義母がいたようだが現在はトレメイン家と縁が切れているらしい。まあ聞く限り評判の良くない者のようだし義理の子のシエラにもかなりきつくあたっていたそうだね。ちなみにその縁切りをしたのがシエラのようだ」


 ヒューとソドスが上機嫌に口笛を吹いた。確かにソドスの好きそうな話ではある。しかしわずか10歳で法律を熟知し、そんな決断と行動が出来ると言うのは恐ろしくもあると私自身は感じるのだが。


「その後はトレメイン商会の権利を譲り渡してバジーレ王国からカラトリア王国へ。セルリアン領をしばらく旅してそしてスカーレット領へとやってきたようだ」

「聞いた話の裏付けが取れたって感じか」

「まあね。引き続き調査はするけれどこれ以上の情報は難しいだろう」


 カラトリア王国の3大侯爵家とは言え他国の情報を易々と得られるはずがない。今回の調査にもそれなりの経費と時間がかかっている。しかし調べないという選択肢はない。いかに領を救った功労者と言えどもカラトリア王国を害する可能性は排除しなければならない。


 とは言え、あのまま治療薬が開発されなければスカーレット侯爵家は多大な被害を出していたはずであり、それを防いだということからもその可能性は薄いと言えるのだが、シエラ自身の異常さ、そして従者が我が国の魔法を一般の魔法兵以上に使えるという不自然さを考えれば警戒は続ける必要があると判断せざるをえなかった。だからこそ理由をつけてソドスの家へ住むように仕向けたのだけど。


「とりあえず引き続き監視は頼むよ」

「ああ。それはいいけどよ……お姫様の方はどうすんだよ。会わせろ、会わせろって言われて困ってるんだが」

「クリスか……それも頭が痛いな。調査報告が来たのが救いだが」


 愛娘のクリスなんだがどうやらシエラのことをかなり気に入ってしまったようで何かにつけてシエラを呼ぼうとするようになっていた。さすがに身辺調査を終えるまではおいそれと会わせるわけにもいかず、機会を見て会わせていたのだがソドスに直接言っているとは思わなかった。申し訳ないことをしたな。


 そしてクリスの変化はそれだけではなくここ最近は収まっていた弟か妹が欲しいという可愛いわがままも再開していた。

 確かに今回の疫病のことを踏まえて夫婦間でもそういった話は出ていたが、娘から「お父様は領の安定のためもっと子供をつくるよう努力すべきだと思います」と真剣な表情で説かれるのはなかなかに堪えるものがあった。昔はただ「弟か妹が欲しい」と可愛く言うだけだったのだが、妙なところで成長を感じてしまった。


「わかった。私から言っておこう。調査結果を見る限りおそらく大丈夫だろうしね。クリスの騎士なのだから会わせないわけにもいかないし」

「娘に嫌われたくないからとかじゃないよな」

「い、いや。そんなことはないよ」


 核心を突かれて冷や汗を流しながら視線をそらす。こんなことでは誤魔化すことなど出来ないだろう。

 しかしもしクリスに「お父様なんて大嫌い!」なんて言われたら私はどうすれば良いんだ。そんな想像をしただけで胸が苦しくなって転げまわりたくなるのに。実際に言われたら数日は何も出来なくなりそうだ。


「まあいいけどよ。とりあえず報告はそのくらいだな。じゃあ俺は用があるから帰るぞ」

「あ、ああ」


 そう言い残してソドスが出て行った。最初はどうなることかと思ったが思いのほかソドスはうまくやっているようだ。調査結果も良いしそろそろ自由に会うことを許可するようにしようか。


「まずは私かソドスどちらかと一緒と言う条件が必要だな。そうすると近衛騎士も必要か。しかしあまり物々しくしてはクリスの機嫌が悪くなるし……」


 どれだけ考えても最適な答えが見つからず私は頭を抱えることになるのだった。

4月1日より二章開始します。書き溜めは……心もとないですがしばらく毎日投稿しますのでよろしくお願いします。

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わりとゆるゆるな現代ダンジョンマスター物です。殺伐とはほぼ縁のないボケとツッコミのあるダンジョンの日常を描いています。

「攻略できない初心者ダンジョン」
https://ncode.syosetu.com/n4296fq/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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