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シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む  作者: ジルコ
第一章 シンデレラになった化け物は悪役令嬢と再会する
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第31話 拝命

「さて、堅苦しいのはこの辺りにして今回の疫病騒動に多大な貢献をしてくれた君たちにはそれなりの褒賞を出そうと思うのだが何か欲しいものはあるかな?」


 いきなり表情を崩し軽い口調でこちらに問いかけるエクスハティオの変化にエンリケやラミルが少なからず動揺する姿を見てこっそりと苦笑する。エクスハティオの姿はこちらが元来のものだ。


 領主として普段は威厳のある態度を取ってはいるし、厳格な判断も下すことは出来る。大を取って小を切り捨てるような判断を迫られることも珍しくないしな。今回コーラルの街を完全に封鎖したように。

 しかしクリスから見たエクスハティオは優しく良き父であり、愛妻家であった。そこだけを見ればフレッドとよく似ている。そして妻を亡くしてしまった深い悲しみで変わってしまったというところも同じだった。


 妻であるメリッサを亡くしたエクスハティオは変わった。家族を、クリスのことを忘れてしまったかのように領主としての仕事に没頭していった。

 確かに疫病の後始末やスカーレット領の立て直しなど、するべき仕事は多かっただろう。それでもメリッサを亡くす前のエクスハティオであれば無理やりにでもクリスとの時間を確保したはずだ。だがそうはしなかった。そして仕事が落ち着いた後もそれが元に戻ることはなかったのだ。

 私から言わせればエクスハティオは逃げていたのだ。失う辛さを知り、愛すべき存在を遠ざけるようにと。


 もしクリスが会いたいと、寂しいと自分の心を言葉にすることが出来ればそれも変わったかもしれない。しかしクリスはそうはしなかった。自らの感情を押し殺し、領主として懸命にその道を突き進む父の負担にならないように、逆に少しでもその助けになれるようにと考えてしまった。

 まあそう考えたのはエクスハティオのそんな姿を素晴らしいと褒めたたえる新しい家庭教師の影響もあったのだが。


 母親であるメリッサの死。そしてこの親子のすれ違いがクリスの思想を、運命を変えてしまったのは確かだ。元薬師のその家庭教師はおらずエクスハティオも変わっていない今の状況から考えれば今までの運命とは違う方向へと進んでいるはずだ。

 子供好きのエクスハティオがおそらく私とエンリケの為にこうやって気さくに接しようとしてくれる。そのことだけでも私には運命が変わっていくことを感じさせた。


「ふむ、要望が無いのであれば適当にこちらで見つくろうことも出来るけど……」

「よろしいでしょうか?」

「おやっ、何か希望でもあるのかな?」


 声を上げた私を謁見室にいたほとんど全ての人が驚きの表情で見ていた。驚いていないのはエクスハティオと事情を知っているマーカスぐらいだろうか。

 まあ驚いて当たり前だ。領主からの褒章に口を出すなんてことは不作法以外の何物でもないからな。

 しかし私には目的がある。クリスを見守り、彼女を傷つける何ものからも守ると言う目的が。そのための機会を逃すことなど出来るはずがない。


「我々がバジーレ王国からこの国へとやって来たのは不治の病と言われる死神の薔薇の治療方法を見つけるためです。今回このコーラルで発生した疫病の治療薬を知っていたのもその過程で知った知識によります」

「ふむ」

「この大陸一の国であるカラトリア王国の首都、そこにある大図書館にはありとあらゆる書物が集まっていると聞きました。死神の薔薇の治療方法の手がかりが見つかる可能性が最も高いのはそこでしょう。だからこそ私にその大図書館へと入ることのできる権利を、調査する権利をいただきたいと思います」

「それがどういった意味かわかっているのかな?」


 笑みを消し、真剣な表情と低い声でこちらをじっと見つめるエクスハティオにしっかりと首を縦に振り承知していると伝える。

 大図書館へと入ることが出来る者はカラトリア王国の爵位を持つ者のみ。つまり私の要望は故郷であるバジーレ王国を捨てるから、カラトリア王国の爵位を授けてくれと言うことなのだ。

 爵位を授けられるのは基本的に王家だけだ。しかし3大侯爵に限ってはその限りではない。限度はあるが自らの裁量で爵位を与えることが出来る。それがたとえどんな身分の者であったとしても。

 私の心を覗き込むような瞳をじっと見返す。そらすことなど絶対にしない。


「君に爵位を与えて得になることはあるのかな。確かに薬の知識はあるようだけどそれだけで爵位を与えるわけにはいかないよ。爵位を持つと言うことはこの領に貢献し続けるということを意味しているんだから」

「マーカス」

「はい、お嬢様。すみませんがどなたかこちらを預かっていただけませんか。そして中身を確認いただきたいのですが」


 マーカスが取り出した冊子を壁のそばで待機していた執事が受け取りその中身を確認する。そして驚きの表情をするとエクスハティオのそばへと寄りぼそぼそとその耳元で話し始めた。


「今、渡した資料は今回の疫病騒ぎに関する報告書です。発生原因と思われる店、感染の拡大経路、症状、患者数とその構成、そして治療方法とその経過をまとめた物です。おそらく領主様の従者の方も調査していらっしゃるかとは思いますがおそらくそれよりは詳しいかと」

「ふむ、そのようだね。こういった調査も出来ると言うことか」

「そうですね。後は……そこの方、こちらまで来ていただけませんか?」

「私ですか?」

「はい、あなたです」


 身長が190センチはありそうな、金属の甲冑を着た騎士を呼ぶ。騎士がエクスハティオに良いのか確認を取り、そして了承を得た騎士が私の傍へとやってきた。

 さて見たところ体重は90キロを超えているだろうし甲冑を含めれば100キロは軽く超えているか。まあ余裕だろう。


「隠し事をするのはあまり好きではありませんので……あなたは動かないでくださいね」

「何を? えっ?」


 騎士の足を抱きかかえるように掴み、そして持ち上げていく。重さはそこまで気にならないが騎士が動くのでバランスが悪いな。どうしても私の体重が軽いのでふらつきが出てしまう。


「なんと、これは……」


 ざわめきが謁見室に広がっていく中でエクスハティオのそんな言葉が私には聞こえた。思った通りの反応だ。


「私は特異体質のようでして容姿はこの姿から成長しませんが、このように常人をはるかに超えた力があります。もし爵位をいただけるのであればこの力をもってスカーレット家を、領を守る剣となりましょう」


 騎士をおろし再び頭を下げ、エクスハティオの裁可を待つ。そして声を発するために息を吸い込む音が聞こえた。しかしその次の言葉を聞くことは出来なかった。


「すごいわ。あの子、すごいわね、お母様!」

「こらっ、クリスティ。お父様のお仕事の邪魔をしてはいけませんよ」


 そう言いながら謁見室へと入ってきた3人は私にとって特別な者達ばかりだった。


 1人は言うまでも無くクリスだ。父親と同じ赤い髪を揺らしながら楽しげにこちらへと歩いてきている。

 そしてもう1人は母親のメリッサだ。その姿は元気な姿を知っている私からすればまだまだ本調子では無い事がわかるが、初見でわかる者はいないと断言できるほど足取りもしっかりしたものだ。


 そして最後の1人。クリスとメリッサを守るように歩いてきた男。その腰には愛用の手斧が2本携えられており、面白いものを見つけたかのようにニヤニヤした顔でこちらへと近づいている。6度の人生で1度もクリスを裏切らず、死ぬまで付き合ってくれた大切な仲間ソドス・ノーフィールドだ。


「あなたすごいわね。私のお友達になってくださらない?」

「いや、クリスティ。今はね、とても大切な……」

「諦めなさい。子供好きなあなたの事だから危険の多い爵位なんかではなく平穏な暮らしをして欲しいと思ったんでしょうけど、シエラは本気よ。あなただってわかっているんでしょ」

「いや、しかし……」

「しかしもありません!」


 反論しようとしたエクスハティオの言葉をメリッサがぴしゃりとしめてしまった。そして改めてメリッサがこちらを向くと全員に向かって優雅に一礼した。


「このたびは私の命を助けていただきありがとうございました。そしてこの街を救ってくださってありがとうございます」

「私からも。お母様を救ってくださってありがとう」


 メリッサに続くようにしてクリスも同じように礼をして感謝を示した。メリッサとは違いどこかぎこちないけれど、クリスの感謝の気持ちが伝わるその笑顔と仕草に胸がいっぱいになる。

 思わず出そうになる涙を必死でこらえる。私の涙の理由など説明できるものでは無いのだから。


 礼を終えたクリスへとメリッサが耳打ちし、そして満面の笑みを浮かべたクリスが私の目の前へとやって来た。そしてこほんと咳をしてその白く細い手をこちらへと差し出す。


「シエラ・トレメイン。あなたを私の騎士に任命します。いついかなる時も私のそばでこの領の為に尽すことを期待します」


 澄ました顔で、しかしその瞳に楽しげな色を隠しきれないままこちらを見てそう言ったクリスの手を私は取った。


「拝命します。この命、領の為、そしてクリスティ様の為に。いついかなる時もあなた様の幸せの為に尽すことを誓います」


 顔を上げそして笑いあう。離れ離れになってしまったクリスとの絆が再び結ばれたことにどうしても我慢できずに私は涙を流し、結局クリスを驚かせてしまうのだった。

この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。


【お嬢様と従者による華麗なる後書き】


(●人●) 「ということで一章が終わったな」

(╹ω╹) 「クリス様に会えて良かったですね。次はどうなるんですか?」

(●人●) 「次章は私とクリスのラブラブな日常をお届けする予定だ」

(╹ω╹) 「嘘ですよね」

(●人●) 「チッ、勘が鋭くなったな。まあちょっと暴れるだけだ。今度は暴力方面で」

(╹ω╹) 「それでこそ、お嬢様です」

(●人●) 「………お前の発言に思うところはあるがまぁ良い。で作者からのお知らせがあるそうだ」


年度末で忙し過ぎて書き溜めがなくなっちゃいました。

毎日更新は一旦中止して2、3日に1度閑話をしばらく投稿しつつプロットと書き溜めしてきます。しばらくお待ちいただけると幸いです。


(●人●) 「……パイルバンカーはどこだっけな?」

(╹ω╹) 「……結局買ったんですね」

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わりとゆるゆるな現代ダンジョンマスター物です。殺伐とはほぼ縁のないボケとツッコミのあるダンジョンの日常を描いています。

「攻略できない初心者ダンジョン」
https://ncode.syosetu.com/n4296fq/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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