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シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む  作者: ジルコ
第一章 シンデレラになった化け物は悪役令嬢と再会する
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第16話 カラトリア王国へ

 クリスのいるカラトリア王国には3つの盾があると言われている。もちろんそれは比喩であり、それが示すのは王家を外敵から守るように存在している3つの侯爵家のことだ。

 王領の東部を守るクリスの生家である赤のスカーレット侯爵家、北西を守る青のセルリアン侯爵家、そして南西を守る黄のサルファー侯爵家それぞれが単独でも接する他国との戦争に耐えられるだけの力を持っているのだ。この3つの盾がある限りカラトリア王国は安泰だというのが大陸でも共通の認識である。


 ちなみに私が生まれたバジーレ王国はカラトリア王国の北に位置し、カラトリア王国とのみ接している。広い海岸線に恵まれているため塩の産出や交易によって栄えている国だ。

 接している国がカラトリア王国だけということもありその王都も北へ寄っているのだが、それでも直接クリスのいるスカーレット領を目指せば2、3ヶ月で着くことができたかもしれない

 しかしそれでは意味がないのだ。ただクリスのもとへと向かっても助けになることは出来ない。それがわかっているからこそ私はセルリアン領へとしばし寄り道し、そして時期を調整してクリスが住んでいる街、スカーレット公爵領最大の都市コーラルへと向かって進んでいた。


「お嬢様、そろそろスカーレット公爵領へと入ります」

「ああ、わかった。引き続き注意を頼む」


 御者台に座ったアレックスから掛かった声に返事をしつつ目を閉じる。旅程の関係上、今日は町や村ではなく野営する必要があるのだ。一応余裕を見ておいたはずなのだが、セルリアン領で思いのほか時間を取られてしまったので仕方がない。まあそうする必要があったし、その結果手に入れたものもあるので無駄な時間だった訳ではないが。


 荷台では私の他にダンとヘレンも目をつぶって休んでいるがおそらく寝てはいないだろう。さすがにガタゴトと揺れる荷馬車では寝るのは至難の業だしな。まあ慣れれば眠れないこともないらしいがそこまで慣れたくはないものだ。

 それでも夜の見張りのためには体を休めておく必要がある。私については見張りなどしなくても良いと言われているがこの仲間のうちの最大戦力は紛れもなく私とアレックスだ。それはこの旅の間に誰しもが実感している。どちらかが休んでいる間はどちらかがすぐに動けるようにしておく。旅の安全を、仲間の安全を考えるなら夜の見張りをするなど大したことではないからな。


 それからどれだけ時間が経っただろう。寝入りはしていないが起きてもいない半覚醒の状態でうとうととしていた時のことだ。御者台から荷台へと誰かが入ってくる気配を感じてゆっくりと目を開ける。そこにいたのはアレックスだった。

 アレックスの表情に焦っている様子はないので緊急というわけではないらしいがその真剣な表情から考えてそこまで余裕が有る状況でもないのだろう。頭を振り眠気を飛ばしてアレックスを見つめ返す。


「どうした?」

「野営予定の小川のある広場へもうすぐ到着するのですが、先程から2名ほど後ろをついてくる者がいるんです。こちらを監視しているみたいに」

「盗賊か?」

「わかりません。それとなく見てみたんですけど……」

「そうか……」


 しばし考え込む。アレックスが誰かが居るというのであればそれは確かだ。

 アレックスがしているのは私が赤ん坊の時にしていたような魔力を薄く放出させて周囲の状況を探るという魔法使いがよく行う索敵の方法だ。

 私が長い眠りについていた間も、そして私と別れてからも魔力制御の訓練を欠かすことなく行っていたアレックスのそれは既に一級品だ。市井の魔法使いなどとは比べ物にならないほどの広範囲を探すことができ、そしてその範囲内の魔力を持つ存在を見逃すことはない。


 外を眺めると太陽は昼から夕方へと変わり始めている。今から速度を上げて走ったとしても夜になるまでに次の町へと着くことは不可能だ。夜通し走り続けるという選択肢がないわけではないが、その道中に何か仕掛けられていても発見しづらい夜に馬車を動かすというのは逆に危険だ。


 仕方がないな。


 視線をダンとヘレンに向けるとやはり起きていたのかこちらを向いてコクリと首を縦に振った。


「野営地についたらすぐに食事の準備を頼む。小川の水は使用せず積んだものでな。アレックスは少し休んでおけ。今夜は長くなりそうだ」

「はい」


 アレックスに自分の寝転んでいた場所を譲り、アレックスの代わりに御者台へと向かったダンの後ろ姿を確認してから私自身は景色を眺めるようにして後方を警戒する。アレックスの言葉通りならこちらにいるはずなのだが一見して誰もいるようには見えない。


「厄介だな」


 そんなつぶやきが口から漏れる。こちらを監視する目的は不明だがもし盗賊であるのならばかなり練度の高い盗賊ということだ。気づいていると知らせてそれで引くような者共なら喜んで知らせるのだが、警戒されて周到な準備をされても困る。それなら気づいていないと勘違いさせて油断させたほうがマシだ。

 野営地に着くまで後方を警戒していたが、結局私は誰ひとり見つけることができず、馬車が襲撃を受けるようなこともなかった。





 野営地へと着き、ダンとヘレンを中心に急いで夕食の準備を行って日が落ちる前に食事を終えた。そしてダンとヘレンを見張りに残し3人で荷馬車の中へと戻る。見張っている者たちには眠りについたと思われるはずだ。

 料理に使った焚火は既に消したのでもうすぐ辺りは暗闇に包まれるだろう。下手に明かりがついていれば良い的になるし、月明かりもあり寒くもないこの時期にモンスターを呼び寄せてしまう火をつけておくメリットがないから不自然でもないしな。


「さて、どうだ?」

「ちょっと待ってください……さっきと変わらず12人ですね。位置も動いていません」

「倍以上の人数なのに慎重ですな」

「厄介だな。まあすることは変わらないが」


 自信満々にそう言い、心配そうに私を見つめる2人に不敵な笑みを浮かべて返す。これまでの旅で私の強さについては十分2人も知っているはずなのだがそれでも心配をしてくれるのだ。私は幸せ者だな。


 この野営地は小川のそばの開けた土地を均して野営のしやすいように整えられた場所だ。カラトリア王国の街道では所々にこういった休憩と野営の出来る場所が確保されている。

 もちろん野盗の類やモンスターの脅威も十分考慮されているので襲われにくいように周辺についても整備が行われており、この野営地も身を隠せるような場所は300メートルほど離れた位置にあるちょっとした森くらいだ。まあその森に何者かが潜んでいる訳だがな。

 今までの経緯と今の状況を考えればほぼ盗賊だと判断して間違いない。まあ違ったとしても間違われるような行為をしているのだから半ば自業自得だ。


 日が落ちて闇が深くなっていく。ときおりアレックスに確認してもらっているが動くような気配はない。向こう見ずなことの多い野盗にしては本当に慎重だ。まあだからこそ生き残っているのかもしれないが。

 さて、そろそろ良い時間だな。黒く染められたマントを羽織り立ち上がる。


「では行ってくる。アレックス、皆の守りは頼むぞ」

「はい、お嬢様もお気をつけて」


 悔しそうな表情をしながらついて行きたいと言う自分の気持ちを押しとどめて、殊勝にもそう言って私の指示を聞こうと我慢するアレックスの姿が愛おしくて思わず抱きしめる。アレックスが座っているので高さ的にちょうど胸に頭を抱えるような形だ。


「お、お嬢様!?」


 アレックスが慌てたように声を上げ、ぎくしゃくと手を動かしている。

 ふふっ、アレックスの背が私よりはるかに高くなってしまったのでこんな位置関係になるのは久しぶりだな。懐かしい。昔、魔法制御がうまくいかずに泣きついてくるアレックスを良くこうしてあやしてやったものだ。


 しばらくしてアレックスが大人しくなったので抱きしめるのをやめて、その頭をいつかのようにくしゃっと撫でてやる。息苦しかったのか顔を赤くしているがアレックスの顔には気負いも悔しさも見えない。これなら大丈夫だろう。


「大丈夫だ。お前がいるから私は気兼ねなく戦えるんだ。自分の力に誇りを持て」

「……はい!」

「マーカス、いざと言う時の判断は頼んだ」

「わかりました。手に入る報奨の算段でもしてのんびり待っております」

「ふふっ、そうだな。久しぶりに豪遊するか」


 私の言っていることを理解しつつも軽口で返してきたマーカスに笑い返し、交代のために馬車から降りるアレックスとマーカスの陰に隠れる形で馬車を飛び出し不審者がいる森とは反対方向へとマントを羽織り、夜闇にまぎれながら走っていく。

 そして十分に離れたところで方向転換し大きく弧を描くようにして不審者のいる森へ向かって走り始めた。


「さあどちらが狩られる立場か私の大切な者を狙う愚か者どもに教えてやろう」


 そんなことを呟き、にやりと笑みを浮かべながら私はさらに走るスピードを上げた。

この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。


【お嬢様と従者による華麗なる後書き】


(●人●) 「オジュウのなぜなに質問コーナー!」

(╹ω╹) 「えーっと、いきなりどうしたんですか?」

(●人●) 「シエラぱーんち」

(╹ω╹) 「うわっ、危ない。何するんですか、お嬢様!?」

(●人●) 「チッ、避けたか。ふぅ、わかってないな、アレックス。こういう時は訳がわからなくてもはやし立てるものだぞ」

(╹ω╹) 「ええー」

(●人●) 「シエラぱ……」

(╹ω╹) 「わ、わかりました。ドンドン、ヒューヒュー」

(●人●) 「盛り上げ方が古いな」

(╹ω╹) 「放っておいてください! それより質問コーナーはわかるんですがオジュウってなんですか?」

(●人●) 「お嬢様と従者だからオジュウだ。美味しそうで良い名前だろ」

(╹ω╹) 「なんで基準が美味しそうなんですか? まあ別に良いですけど」

(●人●) 「では今回はここまでだ」

(╹ω╹) 「えっ、何も答えてなくないですか?」

(●人●) 「お前の質問に答えただろう。ではまた次回だ」

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わりとゆるゆるな現代ダンジョンマスター物です。殺伐とはほぼ縁のないボケとツッコミのあるダンジョンの日常を描いています。

「攻略できない初心者ダンジョン」
https://ncode.syosetu.com/n4296fq/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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