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シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む  作者: ジルコ
第一章 シンデレラになった化け物は悪役令嬢と再会する
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第15話 後始末

 舞踏会の翌日の昼近く、トレメイン家の屋敷に1台の馬車が戻ってきた。御者台に乗っていた男が扉を開くよりも先に荒々しく開け放たれた扉からトリゼラとアナスタシアが憤まんやる方ないという態度を隠そうともせず荒々しく降りてきた。


「本当に何なのよ、あの女! 遅れてきたくせに王子様を独り占めにして」

「そうですわ、そうですわ!」


 そしてその後にその母親が続く。母親は2人ほどには態度には出していないが、その心中はなんら変わりなかった。


「なぜ出迎えが誰もいないのかしら?」

「今、探してまいります!」

「結構! やはり不出来な者しか屋敷に残してはダメね。これはきついお仕置きが必要だわ」

「そうですね、お母様!」

「特にシンデレラなんて真っ先に出迎えてしかるべきなのに。きっと舞踏会へ行けなかったから拗ねているんですわ」

「あら、そんな分不相応なことを考えるなんて私、甘すぎたかしら。やはり躾はしっかりしないとダメね」


 3人の顔が嗜虐的に歪む。それを見た御者の男がその視線に入らないようにと少しずつ離れていた。3人がシンデレラで憂さ晴らしをしようとしていることは明らかだった。それに巻き込まれてしまってはたまらないと考えたからだ。

 3人がどんな罰が最もふさわしいかとその場で楽しげに話しているとゆっくりとそこへ近づいてくる1人の若い男がいた。そしてそれに3人が気付く。


「誰かしら?」

「トレメイン商会、代表のレイモンドと申します。ごきげんよう、トレメイン夫人、トリゼラ様、アナスタシア様」

「なーんだ、商会の従業員か」


 レイモンドの接近に少し外面を取り繕っていたトリゼラとアナスタシアがわかりやすく気を抜き、そして見下すような目でレイモンドを見た。2人にとって商会の人間は下々の者たちであり、お金を貢いでくることだけの存在だったのだ。


「商会の人間が何の用かしら? それにあなた先ほど代表と言ったけれど代表は私よ。身の程を知りなさい」


 母親が扇子をレイモンドに突きつける。そんな母親の姿をトリゼラとアナスタシアがはやし立て同意する。そして金を寄越せと露骨にアピールを始めた。

 そんな3人を何も言わずにじっと見ていたレイモンドの様子に3人はさらに調子に乗り、好き勝手に要望を言い始めたところでレイモンドがその表情を歪めた。それは掃きだめのゴミを見るかのような冷徹な表情だった。


「既に商会の権利は全て私に移っております。あなたの無駄で的外れな方針を聞く必要はもうありません。そして我々があなた方にお金を払う事も今後はありません」

「何を馬鹿なことを!」

「「そうよそうよ!」」


 激高する3人をよそにレイモンドが胸元から紙の束を取り出す。それはトレメイン商会の権利書だ。そこに書かれているのはレイモンドの名前でありどこにも3人の名前など見ることは出来なかった。


「何なの、それは!?」

「きっと偽造したのですわ、お母様!」

「そうね。いい加減にしないと官憲に訴えるわよ。訴えられたくなければそれなりのお金を……」

「どうぞご自由に。これは正当な手続きを元に行われたものです。当商会はあなた方と既に関係がありませんので訴えられたとしてもお金を払うつもりはありません」

「キー!!」


 トリゼラとアナスタシアが地団駄を踏んで憤る。この屋敷に来てから、特にフレッドがいなくなってからは2人のわがままが通らなかったことはなかった。何をしても叱られず、イライラしたと言うだけでシンデレラや他の使用人に当たり散らしては発散していたのだ。

 我慢すると言う言葉とは縁遠い生活を送るうちに少しのいら立ちも許容できない狭量な心へと育ってしまっていた。


 しかし母親は少し違った。娘2人と豊かな生活を送るためにあらゆる男を誑し込み、ついにはフレッドさえも落としたのだ。頭は良くないが回転が速くない訳では無い。そうでなければいかに傷心と言えどフレッドの再婚相手に収まることなど出来なかったはずだ。

 母親はレイモンドの毅然とした対応からその言葉が真実であると確信を持っていた。しかしそうなった理由がわからなかった。母親は内心の焦りを隠すように扇子を広げて口元を隠すとレイモンドに妖艶に微笑みかけた。


「どうやったのかしら。商会の権利はトレメイン家が持っていたはずよ」

「その通りですね、夫人。私は正規の手順に従い権利を譲っていただいたのですよ」

「そんなこと、出来るはずが……」

「我が親友フレッドの正当な後継者、シエラ様からね」

「「シエラですって!」」


 トリゼラとアナスタシアの2人が悲鳴のような声を上げるとキッと屋敷の方を睨みずんずんと屋敷へと向かって歩き始めた。2人が何をしようとしているかは明らかだったが、それを遮るように広げられたレイモンドの手によって歩みは止められた。


「何よ!」

「何するのよ!」

「申し訳ありませんが既にシエラ様は旅立たれ屋敷にはいらっしゃいません。そして更に言うのであれば既にあの屋敷もあなた方のものではありませんので無断で侵入するようなことがあれば罪に問われますよ」

「「何ですって!?」」


 2人がレイモンドを憎々しげに睨みつけるが、当のレイモンドは柳に風で受け流していた。そしてレイモンドが淡々と経緯を伝えていく。フレッドの財産の相続権はシエラにあること。そして10歳になりそれを行使できるようになったシエラが商会の権利を譲り、家の管理をレイモンドへと任せ去って行ったことを。


「何よそれ!」

「私たちの物はどうなるのよ!」

「あなたたちの財産となる所有物は庭へと分けてありますよ。あなた方の雇っていた執事の方と以前この屋敷で働いていた執事のマーカスさんがしっかりとあなた方の財産分を残して下さいました。良かったですね」


 その言葉にトリゼラとアナスタシアが庭へと向かって走って行き、そして悲鳴を上げて崩れ落ちた。残っていたのは彼女たちからすればいつ買ったのかも覚えていないくらい昔のサイズの合わない古臭いデザインの服や装飾品ばかりだったからだ。その悲鳴にレイモンドはニンマリと笑みを浮かべ、目の前でどうにか自分をたらし込もうと考えてシナを作っている厚化粧の中年へと視線と思考を向けた。


「さてそれでは最後にシエラ様からの伝言です。「この数年間大変(・・)世話になった。私は諸用で国を出ることにしたが健やかに過ごされるよう願っている。一応1年は普通に生活できる程度の金は残しておいた。まあ端的に言えば手切れ金だがその金がもつ間に新しい生活の目処を立てると良い。立てられればだがな」とのことです。こちらがそのお金になります」


 レイモンドが差し出した袋を受け取った母親がその中身を見て目を見開く。そこには確かにお金が入っていた。しかしそれは今までの屋敷で生活していた時に使っていたような金額ではなく、庶民としての生活ならば1年もつという程度の金額だったからだ。

 去ろうとするレイモンドへ母親はしなだれかかった。この獲物を逃してなるものかとその手にはかなりの力が込められていた。


「離していただけますか?」

「まあ、そんなこと言わずにゆっくり話をしましょう。そう大人同士の話を……」


 豊満な胸にレイモンドの腕を挟み込みながら甘い声で母親が囁く。そして上目遣いで妖しく瞳を潤ませながらで見上げてくる母親を見てレイモンドが息を深く吐き、そして柔らかな笑みを浮かべた。

 母親の顔に喜色が浮かび、さらに体重を預けようとしてたたらを踏んだ。抱いていたはずのレイモンドの腕がいきなり抜けたのだ。唖然としている母親の視線を受けつつ、レイモンドは掴まれていた腕に視線をやり舌打ちすると、その汚れを落とすように何度もはたいた。


「あいにく売女は間に合っているんだ。はぁ、我が親友ながらなぜフレッドはこんな女を選んだんだ。そのせいでシエラ様も……」


 そこまで言い、レイモンドか言葉を止める。彼は思い出していた。なぜそのような酷い扱いを受けても我慢しているのかと、代理の保護者を指定することも出来ると伝えた時にシエラが浮かべた壮絶な笑みと言葉を。


「信頼している者から裏切られるほどの絶望などないからだ。その信頼が深ければ深いほどにな。あの3人は私を見下しているが同時に信頼しているのさ。絶対に、何をしても裏切らないと。なぁ、最高の復讐だろう」


 笑みを深めながら発せられたその言葉に対してレイモンドは何も言えなかった。それだけの凄みを幼い少女から受けていたのだ。

 そしてそれ以降レイモンドはシエラ様と呼ぶようになった。そうしなければならないと本能で理解したのだ。


(シエラ様を助けられるのはフレッド、お前だけかもしれない。生きていてくれよ)


 レイモンドは踵を返し3人が乗ってきた馬車へと向かっていった。残っている使用人たちに解雇の通知とそれに伴う保証金と給金を支払うために。

 その後ろ姿を眺めていた母親は手に持っていた扇子を地面へと投げつけるとそれをぐりぐりと足で踏み潰した。その顔は今までにないほど醜く憎悪をまとっていた。


「許さない、許さないわよ。シンデレラ!」


 その怨嗟の声は風に乗り、そしてどこに届くこともなく消え去っていった。

この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。


【お嬢様と従者による華麗なる後書き】


(●人●) 「アレックス、そろそろ真面目にコーナーをやらないと苦情が来るぞ」

(╹ω╹) 「今のところ苦情どころか反応もありませんけど」

(●人●) 「うむ。まぁその通りだ」

(╹ω╹) (なんで偉そうに言ったんだろう?)

(●人●) 「何か言ったか?」

(╹ω╹) 「いえ、何も!」

(●人●) (何か言っただろう)

(╹ω╹) 「心に直接語りかけないで下さい!」

(●人●) 「注文の多いやつだ。まあ適宜真面目にやれば良いだろう」

(╹ω╹) 「あの、適宜ってどのくらいの頻度なんですか?」

(●人●) 「1か月に1度あるかないかだな。喜べ、レア物だぞ」

(╹ω╹) 「感想、お待ちしてます」

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わりとゆるゆるな現代ダンジョンマスター物です。殺伐とはほぼ縁のないボケとツッコミのあるダンジョンの日常を描いています。

「攻略できない初心者ダンジョン」
https://ncode.syosetu.com/n4296fq/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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