最終話 本当に幸せな未来へ
カラトリア王国を巡る一連の騒動だが、被害は少なくないものだった。外敵の侵入を完全に防ぐことが出来たのはスカーレット領のみであり、サルファー領、セルリアン領はその一部の土地を奪われることになった。しかしそれも一時のことであり、態勢を立て直し、王軍の援護を受けた2領は元の国境線まで侵略軍を押し戻すことに成功した。
周辺国全てからの侵略を受けるという一大危機にも関わらず、かなり早くそれを治めることが出来たのはアンドレアの注進を受けたヴィンセントが軍事演習と称していつでも王軍を出撃できるようにしておいたことが大きい。これにより、今までも評価の高かったヴィンセントではあるが次代の王としての地位を盤石にすることになった。
また各地に散らばっていたシエラたちと学園時代にともに鍛えた仲間たちへ事前に情報が回っていたおかげで被害が抑えられたところもあり、その者たちはその地位を高めていくことになる。
そして復興に関しては比較的被害の少なかったスカーレット領のクルーズ商会が大きな役割を果たした。その陣頭指揮に立つのはエンリケだった。学園で培った縁を繋ぎ、クルーズ商会はその版図をスカーレット領から伸ばしていくことになる。
各国との講和も進み、その中には今回の混乱をもたらした魔女へ対抗する項目も含まれた。残っているといわれる魔女の分体への警戒網は大陸中へと広がっていった。
そして新たな聖女シンディは各地の慰問に合わせ魔女の分体の捜索を密かに行い、その数は減り続けていった。
そして平和な時が大陸へと広がり、10年余りの月日が経過した。
「お父様、さっさと仕事に行ってください。レイモンドが待っていますよ」
「えー、いいじゃないか。もうちょっとくらい……」
「駄目です。マーカス、連れて行って」
「はい、お嬢様。旦那様、行きますよ。そろそろこの老骨を休ませてほしいものですな」
いつも通りの父子のやり取りを微笑ましそうにシャルルが見守る。まるで市場に連れていかれる子牛のようなさみしそうな目をしたフレッドをマーカスが有無を言わせずに引っ張っていく。
「旦那様もそろそろ落ち着かれれば良いのにねぇ」
「ああいう子供っぽいところもフレッドの魅力でしょ」
「はいはい」
のろけるシャルルの姿に呆れたような顔をしながらヘレンが食事の皿を下げていく。入れ替わりにダンがスフレの載った皿を2人分だけ持ってやってくる。
「おいしそうね」
「ありがとう、ダン」
感謝を述べる2人に軽く笑い、一礼してダンが厨房へと下がっていく。元々は数十人で維持していた屋敷だが、今はそこまで雇う余裕がフレッドにはない。今は商会の主ではなく雇われの身であるし、この屋敷にしても借りているものなのだから。
大きさに関わらず質素な、しかしセンスの良いその屋敷に1人の男が近づいてくる。鍛えられた体に、渋みがかった表情。しかし青葉のように瑞々しい緑色の髪に、どこか幼さを感じるその顔の造りが年齢をわかりにくくしていた。
男は見知った家に入るように門を通り抜け、そして玄関ドアのノッカーをコンコンと鳴らす。近づいてくる気配を感じつつ、男はその扉が開くのを待っていた。そしてその扉が開き、目的の人物を見つけた男が片膝をつき頭を下げる。
「お迎えにあがりました。シエラお嬢様」
「よく来たな、アレックス。クリスの子との顔合わせはまだまだ先だし、お前も数日はゆっくりしていくんだろ。堅苦しい挨拶はいいから早く入れ」
黒目黒髪の可愛らしい少女に手を引かれ、まるで年下のように扱われながらアレックスは笑みを浮かべて懐かしいトレメイン家の屋敷へと入っていく。
皆が待っている広間へと歩きながら、シエラが頬を染めながらそれを見せないように振り返らずに告げる。
「アレックス、大好きだぞ」
「そういうのは目を見て言って欲しいですね。でも僕もだよ、シエラ」
回り込み、赤くなったシエラの顔を覗き込みながらアレックスが笑い、そして目を見合わせながらお互いに頬を染める。
「えっと、後5年か。長いな」
「30年近く待った僕から言わせてもらえばあっと言う間にですよ」
「そうだ! この国ならすぐにでも結婚できるぞ。もう成人だしな」
「魅力的な提案だけどこれでも貴族だからね。シエラもクリスティ様に花嫁衣装を見せたいって言っていただろう」
「それはそうだが……」
ほんの少しだけ頬を膨らまし不満を訴えるシエラにアレックスは微笑み、そしてその唇に軽くキスをする。瞬間、シエラの顔が沸騰したように赤くなった。
「な、な……」
「大丈夫。まだ結婚は出来ないけど愛することならいくらでも出来ますよ」
「……うん」
シエラがこくりとうなずき、その繋いだ手を握り直しながら広間の方へと顔を向ける。そして広間へと続く扉の少し開いた隙間から覗く3つの瞳に動きを止めた。
「こんなことで息子の成長を感じるとはねえ」
「ねえ、やっぱりアレックス君の泊まる部屋はシエラちゃんの隣でどうかしら。あそこならちょっと離れてるから音も聞こえないわよね」
「そうですね。部屋の準備をし直してきます。あんた、晩餐は精力のつくものに変更だよ」
「わかった」
勝手に楽しそうに相談をしていた3人がいそいそと動き始めようとする。その様子にシエラはぷるぷると震えながら羞恥に耐え、アレックスは苦笑いしていた。
そしてキッとシエラの視線が3人を貫く。
「お母様、ヘレン、ダン! ちょっとそこになおりなさい!」
「わー、シエラちゃんが怒った。逃げるわよ」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出した3人を追いかけてシエラが走り去っていく。そんな愛する人の後ろ姿を眺めながらアレックスは微笑みその後を追って歩き出した。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き ふぁいなる】
(╹ω╹) 「何というか遂に来ちゃいましたね」
(●人●) 「うむ。当然ではあるがな」
(╹ω╹) 「わかってはいたんですけど、感無量と言うか」
(●人●) 「だな。ここまで応援してくれた皆に感謝だ」
(╹ω╹) 「はい、本当にありがとうございました」
(●人●) 「では、また本屋で会おう」
(╹ω╹) 「えっ?」
(●人●) 「んっ? 何を驚いている?」
(╹ω╹) 「ま、まさか書籍化の連絡が来たんですか?」
(●人●) 「何!? 我々の後書きコーナーの書籍化連絡が来たのではないのか?」
(╹ω╹) 「いえ、僕が言ったのは最終話が来たと言う話ですけど。と言うか後書きに書籍化は普通来ないと思います」
(●人●) 「…………」
(╹ω╹) 「……では、皆様読んで下さりありがとうございました」
(●人●) 「待てっ、逃げるな! 仕方ない。究極奥義 しえら……」
(╹ω╹) 「さよならー」
最後までお読みいただきありがとうございました。終わり直前に3ヶ月も更新が止まるという失態、申し訳ありませんでした。
回収できなかった伏線がちらほらありますが結末は当初の予定通り書き上げることができました。それもこれも読んでくださった皆様のおかげです。
本当にありがとうございました。
しかし、やはり後書きのアレはやりすぎでしたかね? キャラのイメージというか……
パシュン
_(。_°/ 「……」