第104話 絶望の先へ
投稿が遅れて申し訳ありませんでした
アレックスの放った魔法は【風の十三式】と呼ばれるカラトリア王国の陣式魔法の中でも最高難度の魔法だ。要求される魔力は膨大で、さらにその陣が複雑であるためアレックスが使えるようになるまで何百年もの間使い手さえいなかったある意味で幻の魔法だった。
その威力は上空へと巻き上げられ、100メートル以上飛んでいく兵士たちの姿からも察することができる。難点としてはかなりの広範囲に影響を及ぼす魔法ではあるが、魔法が着弾した地点を中心として一定範囲にしか効果を及ぼさないため広範囲に兵士が広がっているような状況では使いにくい魔法であるという点だが、王子妃を倒すという目的を考えればこの魔法以外選択肢はなかった。
アレックスが最後の力を振り絞り、視線を上げ続ける。猛威を振るった竜巻がゆっくりと速度を落としていき、細切れになった肉片が辺りへと降り注いでいく。まんべんなく広がった血の赤に染まった肉片の絨毯という吐き気を催すような光景が円形に広がっていた。だが……
「なんで……」
アレックスが呆然とそれを見つめる。赤く染まった中心にぼっかりと空いた土色の地面を。そしてそこには王子と王子妃、そして護衛の騎士たちが平然とした姿で立っており、その手前の地面にはシエラがごろんと転がされていた。
「おやおや、懐かしい魔法を使うもんだねえ」
耳元で突然囁かれた声にアレックスが視線を上げる。しかしそこには誰の姿もなかった。そして最後の力を使い切ったアレックスがそのまま地面へと崩れ落ちそうになったところでその体がふわりと浮き上がるとそのまま王子妃の前、裸のままぐったりと横たわるシエラの隣へと運ばれた。
アレックスはなんとか体を動かしてシエラへと自分の服をシエラへとかけようとし、そしてその場にいた騎士に剣の鞘で体を地面に縫い付けられた。そんなアレックスへ王子妃が興味深そうな視線を向ける。
「若い。若いねえ。その若さで【風の十三式】を使いこなすなんて稀有な才能の持ち主だ。このまま殺しちまうのは惜しいねえ」
そう言うと王子妃がアレックスに向かって液体を振りかけた。アレックスの顔色が少しだけ色を取り戻していく。アレックスはキッと視線を向け、抵抗を試みたが取り押さえられたまま動くことは出来なかった。
「なぜお前が【風の十三式】を知っている? カラトリア王国の中でも知るものはほとんどいない魔法のはずなのに?」
「そりゃあ自分の開発した魔法なんだから当たり前だ。その効果も弱点も知り尽くしているさ」
「そんな馬鹿な話が……」
「あるんだよ。坊や。世の中にはお前が知らないことがたくさんあるんだ。まあもちろん体は衰えちまうから取り替えなくっちゃあならないけどずっと生き続けることもできるのさ。さて、じゃああんたの今後についてだ」
有無を言わせぬその迫力にその言葉が真実だと感じ取ったアレックスが口を閉じる。その様子を見ながらニンマリと王子妃が笑った。
「あんたの才能はかなりのものさ。そうだね、数百年に1人と言っても良いだろう。私の目的に協力するなら生かしておいてやるよ」
「カラトリア王国に仇なせということか?」
「違うよ。これは手段に過ぎない。私の目的は魔法の探求。この魔法という不可思議な現象をとことんまで突き詰めたいのさ。でもねえ、1人ではどうしても限界がある。極めるには気づきってものが必要なんだよ。そしてそれは人数が多い方が可能性が上がるのさ」
「つまり魔法の研究を手伝えば良いってことか?」
「まあ有り体に言えばそうだね」
アレックスが頭を必死に働かせる。相手が自分の才能を買っていると言っているのだ。もしかしたら諦めかけていた希望を繋ぐことが出来るかも知れないと考え、そして決断を下した。
「わかった。でも条件がある。お嬢様を、シエラを助けてくれ。それが僕が協力する条件だ」
アレックスの言葉に王子妃は目をぱちくりとさせて少しの間動きを止め、そして面白くて仕方ないと言わんばかりに笑い始めた。王子や護衛の騎士が全く反応を示さない中で笑い続けるその姿は異様で、自分はとんでもない勘違いをしていたのではないかとアレックスの心の中で嫌な予感が膨らんでいった。
そしてひとしきり笑ったあと、王子妃は口が裂けんばかりの邪悪な笑顔でアレックスを見下ろした。
「そんなにその娘が大事かい。じゃあちょうど良いね。お前たちそいつを裸にするんだ」
「なっ!?」
王子妃の発言にアレックスが驚いている間にも、騎士たちがアレックスの服を強引に脱がせていく。そして下着まで全て剥ぎ取られた状態で再び地面へと縫い付けられたアレックスの目の前に飛び込んできたのは、気を失いだらんとした体を騎士に持ち上げられ、そして今まさに自分の腰へと下ろされそうになっているシエラの姿だった。
「や、やめろ!!」
「良いじゃないか。好きなんだろ。ほんの私からのお礼さ。お前のお粗末なモノも魔法でちょいと勃たせてやったし問題ないだろう? これからお前は私を殺すために必死で魔法を研究してくれるんだからねえ。まあご覧のとおり死にかけだが、良い思い出になるだろ」
「お前!! ぐあぁ」
王子妃に対して突き出されたアレックスの手を取り押さえていた騎士が短刀で刺し貫いて地面へと縫い付ける。完成しかかっていた魔法陣が消えさるのを見て、王子妃はまた笑った。
「発動がわかりやすいのと、発動までに時間がかかるのが陣式魔法の弱点だ。その分自由度は高いんだけどねえ。この課題をお前がどう解決するのか楽しみにしてるよ。やりな」
「やめろー!!」
アレックスの叫び声が辺りに響き渡る。しかしその叫び声に誰も反応することもなく無常にもシエラの体が下ろされそうとしたその時、突然シエラの体が眩いばかりの光を放った。そしてその光が辺りを包み込んでいく。
そんな奇跡のような光景を目の前で見ながら、アレックスは「大好きだよ」と言う自分の愛する人の言葉が耳元で聞こえたような気がした。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き’】
(●人●) 「ふむ、どこぞの同人誌のような展開だな」
(╹ω╹) 「えーっと……どこから突っ込むべきか困る発言は控えて下さい」
(●人●) 「うむ、ではとりあえず題名を考えよう」
(╹ω╹) 「控えて下さいって言いましたよね!」
(●人●) 「シンデレラは灰かぶりだからそれをもじったものが良いと思うのだが……」
(╹ω╹) 「わかっていましたけど、やっぱり無視ですか。もう、どうでも良いので好きにして下さい」
(●人●) 「うーむ……はっ、そうだ。あれっくすの特徴を表した良い題名が浮かんだぞ。その名も『皮か……」
(╹ω╹) 「わー!!」