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シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む  作者: ジルコ
第四章 シンデレラになった化け物は聖女と相対する
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第101話 隔絶した力

 シンデレラ。その名前で呼ばれていたのははるか昔のことだ。そしてその名を知っているのは義母、義姉たち、そして屋敷で働いていた使用人たちぐらいのはずだ。しかし目の前のこの女の姿はそのどれでもない。年齢的に言えばおそらく義姉たちと近いのであろうがあの2人の顔とは似ても似つかなかった。


「なぜその名を知っている?」

「それは……」


 王子妃が律儀に答えようとしたところで、地面を蹴って手に持ったハンドアックスをその脳天に向かって振りかぶる。なぜ知っているのか気にはなるが、それよりもこいつを殺すことの方が先だ。この好機を逃すか!

 王子妃は動くどころか笑ったまま表情を変えることもなかった。


 これで終わりだ!


 ハンドアックスがその頭に届くかと思われたその時、王子妃の笑みが深くなり、そしてその口から言葉が紡がれた。


「ピピデバビデブゥ」

「ぐあっ!」


 言葉と共に一瞬で現れた魔方陣が私の周囲を包み、そして跳ねていた私の体がまるで何かに押しつぶされるように地面へと縫い付けられる。口からこぽっと血が流れるのを感じながらも立ち上がろうと力を入れるが、体が思うように動かない。

 魔力をまとい無理やりに動かそうとしてもそれがどういう訳か霧散してしまう。


「おやおや、躾がなっていない娘だねえ。せっかく説明をしてあげようと思っていたのに。それに王子妃にしてやろうとした恩も忘れて襲い掛かってくるとはねえ」


 地面に伏しながら睨み付ける私を、ニヤニヤとした顔で見下ろしながら王子妃が近づいてくる。やはりその顔に見覚えはない。しかしこいつが唱えた不可思議な魔法の言葉は忘れようもない。そして先ほどの発言から考えれば……


「お前はあの時の魔女か?」

「ご名答。可哀想なシンデレラに魔法をかけてあげた良い魔女ですよ」

「ふん、ずいぶんと若返ったようだな」


 その発言自体、予想していたとはいえ驚きはあった。とは言えそれを正直に見せるのも癪で憎まれ口を叩く。イラつき集中力が切れれば少しは動けるようになるかもと期待してのことでもあったが、魔女は余裕の表情を崩すことなく近づき私の目の前までやって来た。


「そうねえ。お前が魔法をかけた服なんかを売り払ったおかげで、こんな出来そこないの体しか手に入らなくてね。幸い魔法の適正はあったし、若さが得られただけましかねえ。本当はお前の体を奪ってやるつもりだったんだがね」


 笑顔の中におぞましいほどドロドロとしたものを含ませながら私の頭に魔女の靴が落ちてくる。こめかみに靴のヒールの先が突き刺さり、さらに衝撃で頭を揺らされ意識が一瞬飛びかけた。そのままぐりぐりと踏み潰される痛みで何とか意識を保てている状態だ。

 おそらくこめかみが切れたのだろう。流れ出た血が右目へと伝って入り視界の半分が赤く染まる。すぐそこに殺す相手がいるのに、少しでも動けば届くのに、私の体は言うことを聞かなかった。


「ギ、ギッ」

「ははっ、良い姿だねえ。お前が大人しく私の物になっていればあと2,3年は計画を早められたんだがね」

「グッ、何を企んでいる?」

「ただちょっとこの大陸に混迷を与えたかっただけさ。そういった中でこそ魔法というものは発展するからねえ。より凶悪で、より私の好みに合った魔法が産まれるのさ。自分だけだとどうしても限界があるしねえ。新しい発想を得ることは魔法を極めるのに必要なのさ」


 その言葉と共におろされた足が私の顔面を蹴りつける。その細い脚から繰り出されたとは思えないほど重いその一撃に視界がぼやけ、意識が遠くなっていく。踏みとどまろうとする意思はあるもののそれを止めるだけの気力も体力も、そして魔力も私の中には残されていなかった。


「楽に死ねると思わない方が良いよ。私の計画を邪魔したお前はこれから兵士たちに犯されるのさ。もちろん死ぬまで、いや死んでからもね。そうだ、お前の仲間たちの前でお前の艶姿を見せつけてやろうじゃないか。きっと喜んでくれるだろうよ。興奮してくれるかもしれないねえ。お前の体に興奮するような変態がいればの話だがね」


 徐々に薄くなっていく意識の中でそんな魔女の言葉が耳へと届く。魔女が言う私への恥辱の言葉などどうでも良かった。ただこのまま目的も達成できずに死んでしまう。そのことが悲しかった。


 アレックス、すまない。やはりお前より先に逝くことになりそうだ。

 そしてシャルル。結局お前を助けることは私には出来なかった。化け物の私にあれだけ愛情を注いでくれたのにその恩を返すことさえ出来なかった。


 本当にごめんなさい、お母さま。


 シャルルの声で「そんなことないわ、シエラちゃん」などと言う自分に都合の良い幻聴を聞きながら私の意識は闇へと落ちていった。





 気がつけば私は暗闇の中で立ち尽くしていた。私はもう死んでしまったのか、それもとまだ生きているのかそれさえわからない。自分の体さえ見えないその場所は、どこか懐かしく私がいるべき場所はここだったのだと感じられた。


 私は今までのように生まれ変わるのだろうか。それともこれで終わりなんだろうか。生まれ変わるとしたらクリスとして、それともシエラとして? そしてまた繰り返すのだろうか? 結局は変えられない運命を。


 嫌だ。繰り返すことがではない。この世界から離れるのが嫌なんだ。

 大切な人がたくさん出来た。クリスだけじゃない。アレックスやダン、マーカスにヘレン。フレッドも帰って来たし、シャルルもいる。師匠のソドスもいるし、スカーレット家やスカーレット領の人たちは化け物の私を受け入れて優しくしてくれた。初めて、初めて私に出来た大切な人たちと別れたくない。

 もし別れるしかないとしても、せめて大切な人たちの未来があいつに侵されることのないようにしなくては。


「しかしどうする。どうすれば良い?」


 私はあの魔女に手も足も出なかった。片手を失った状態であったからという訳ではない。もし私が万全の状態で戦ったとしても敵わなかっただろう。それほどの隔絶した実力差が感じられた。成長しない私には届かない領域にあの魔女はいるのだ。


 無力だ。


 その想いが、悲しみが私の中を埋め尽くしていく。結局私に出来ることなどもうないのだ。大切な人が傷つくかもしれないとわかっているのに天に運を任せるしかない。矮小な存在。

 役立たずの化け物なんて消えてしまえば良い。そうすればこの苦しみや悲しみから開放されるんだから。化け物なんて誰にも……


 パンッ


 頬に感じた小さな痛みに伏せていた顔を上げる。そこには泣きそうな顔でこちらを見る懐かしいシャルルの姿があった。未練だな。こんな時になって幻想を見るとは。

 シャルルはしばらく私をじっと眺め、そして涙を決壊させながら私を抱きしめた。それはとても温かく安心する匂いがした。


「シエラちゃん。たくさん頑張ったわね。ずっと見ていたわ。シエラちゃんが嬉しいときも悲しいときもずっと。大変な時に支えてあげられなくてごめんね」

「お母さま……」

「あなたはたくさんの人に愛されているわ。だからそんな顔しないで」


 なんて自分に都合の良い幻想だろう。でも最後の最後でシャルルともう一度会い、話すことが出来た。これで少しは……

 そんなことを考える私をよそに、シャルルは私から身を離すと太陽のような笑顔を私に向け、しっかりと私の手を握った。


「行きましょう。もう1人のシエラちゃんに会いに。きっと何とかしてくれるはずよ」

「えっ?」


 幻想だと思っていたシャルルに手を引かれながら私は暗闇の中て小さく星のように輝くその場所へと向かって歩き始めた。

この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。


【お嬢様と従者による華麗なる後書き’】


(╹ω╹) 「まさかの再登場ですね」

(●人●) 「うむ、一応予定通りらしいぞ。まあ前回の終わりで気づいた者も多いと思うがな。ボスには既に会っていたと言うやつだ」

(╹ω╹) 「あぁ、確かにありますよね。実は父親が、とか親友がとか」

(●人●) 「しかしな。1つ問題があるのだ」

(╹ω╹) 「なんですか?」

(●人●) 「魔法の呪文が違和感しかない。ピピデバビデブゥだぞ」

(╹ω╹) 「確かに深刻な場面では合いませんね。ピピデバビデブゥって」

(●人●) 「だろう。ピピデバビデブゥ」

(╹ω╹) 「ピピデバビデブゥ」

(●人●) 「ピピデバビデブゥ」

(╹ω╹) 「……」

(●人●) 「……」


「ピピデバビデブゥ!」

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わりとゆるゆるな現代ダンジョンマスター物です。殺伐とはほぼ縁のないボケとツッコミのあるダンジョンの日常を描いています。

「攻略できない初心者ダンジョン」
https://ncode.syosetu.com/n4296fq/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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