第99話 防衛戦
「来ました!」
「……あぁ」
壁を背に目を閉じて休んでいた私に、兵士が駆けてきながら大声で合図をする。脇に置いておいた漆黒のバトルアックスを掴み、そして兵士を追い抜いて防壁へと駆け上ると、下の状況を確認し即座に飛び降りる。
私を狙って矢や魔法が飛び、それに対抗するために防壁の上からもお返しの矢が飛んでいく。私は当たる軌道のものだけをバトルアックスで打ち払い、そして地面へと降り立つと蹂躙を開始する。
もう何度目だろうか。何十、何百? どれほど繰り返したのかもう私にはわからない。それどころかどれだけ戦い続けているのかさえわからない。蹂躙し、少しでも体力を回復させるために体を休め、そしてまた呼ばれ蹂躙する。その繰り返しだ。
少なくとも2日は経過しているはずだがそれ以降があいまいでよくわからない。でもいい。私はこの門を守るために戦い続けるだけだ。
門の周辺にいた兵士たちを倒し終え、そしていつも通り戻ろうとしたところでぞくっと背中に寒気が走る。バジーレ王国軍の兵士の壁が割れ、そして姿を現したのはその予感通りイオスだった。
「やっとお出ましか。話し合いという訳ではないな?」
「……」
イオスは口を開くことはせず、ただ剣を私に差し向けて私への答えとした。その態度に私自身も黒く、黒く魔力を身にまとっていく。こいつを相手にするのであれば全力でなければ到底太刀打ちできないからだ。
(短期決戦に持ち込むしかないな)
覚悟を決め、バトルアックスを握りなおす。
魔力を最大限にまで身にまとえばワタシはかなりの強さを得ることが出来る。しかしその状態を長く続ければ反動で動けナクなってしまう。ソレでは意味がナイノだ。
あぁ、ワタシのレベルが上がればコンナことはなかったのダロウナ。ソンナことをイマサラ言ってもシカタないのだガ。
「ガァ!」
ひと吠えしてバトルアックスを振るうが、イオスに受けナガサレる。ヤハリこいつの実力ハ想像イジョウだ。コノ状態のワタシと対等にタタカエルなんて……
「ハハッ、アアアアア」
止まらなケレバ。ワカッテイル。デモ、楽しインダカラ仕方ない。ワライがトマラナイ。コイツをコレヲぐちゃぐちゃにコワシタラどんなに楽しインダロウ。
「狂った化け物が!」
「ハハッ、バケモノ、タシカニ私はバケモノだ。デモ狂っテイルのはオマエだろう。平和をミダシ、ワザワザ戦争をオコシタノだからナ」
「知ったような口を!」
イオスの剣が速度をマシ、ワタシへと襲いカカル。ソレハ黒の魔力をコエテ、ワタシの体へと傷をツケテいく。デモ、その分ワタシの攻撃モ、イオスにアタルようにナッタ。
モウスグ、モウスグ、モットタノシク……
「シエラさん、戻ってください! 南門が壊滅状態です。アレックスさんやフロ、ぐふっ……」
壊滅?
防壁の上から叫ばれたその言葉に高揚していた気持ちが一気に冷え、そしてわずかながらに動きが止まってしまった。
ザンッ
そんな音と共に視界に入ったのはバトルアックスを持っていたはずの私の右手が赤い液体を滴らせながら地面へと落ちていくところだった。
「若いな。味方が死んだ程度で動揺を見せるとは」
イオスがそんな言葉と共に私の顔めがけて剣を放つ。右手がないためバトルアックスで防ぐことは出来ない。でもそんなことはどうでも良い。こいつは今何を言ったんだ。
死んだ? 誰が?
死ぬはずがないだろうが。あのアレックスだぞ。
あいつの強さは本物だ。レベルアップできない私なんかよりも、遥かに強くなっているんだぞ。ヴィンセントが直々に宮廷魔術師に招聘しようとしたほどの逸材だぞ。
ずっと私と一緒に育って、私のわがままを聞いてくれて、これからも私と共にいてくれるんだぞ。
ずっと私のそばで笑っていて、私と一緒に……
「あぁぁああああー!!!!」
「なにっ!?」
突き刺さる寸前の剣を黒が止め侵食していく。イオスが顔を赤くしながら力を込めているようだがもはやこいつなどどうでも良い。
「お前は死んでいろ」
「!?」
黒を操り、捻りとった剣をイオスの心臓めがけてぶん投げる。胸に自分の剣を突き立てながら信じられないような顔をしてイオスは倒れていった。死んだかどうかはわからない。でも本当にどうでも良い。
「アレックス」
防壁へと駆け、そのまま壁を蹴りあがる。先ほどの伝令だろう兵士が口から血を吐きながら他の兵士たちに介護されていた。これは、毒か?
「シエラさん、我々はどうしたら?」
「ここを維持しろ。南門へは私が行く」
問いかけてくる兵士へと言葉短かに返し、そして私は防壁の上を走り始めた。
南門へと近づくにつれて徐々に陰惨な風景を目のあたりにするようになった。防壁の上にいた兵士たちはすべからく血を吐き倒れている。まだぴくぴくと動いているところを見ると死んでいるわけではなさそうだが。
私も毒に侵されるかもしれない。そう考えないわけではなかった。しかしアレックスの姿を見るまで足を止めるつもりなどなかった。
そして南門の真上の防壁にあともう少しでたどり着くといった所で私はそれを目撃した。見覚えのある緑の魔法球が異常な速度で魔方陣を描き、近づこうとする軍隊へと攻撃を行うところを。あれはアレックスの魔方陣だ。やはりあいつが死ぬはずなどなかったんだ。
さらに速度を上げそして、私はその目に入って来た光景に呆然と立ち尽くしてしまった。多くの兵士たちが倒れる中、防壁に寄りかかるようにして血に体を濡らし、なんとか頭だけを上げて魔方陣を描くアレックスとその足元でアレックスに手を伸ばしたままうつ伏せに倒れているフロウラの姿だった。
「アレックス!」
声を上げながら駆け寄って行くとアレックスがゆっくりとこちらを向き、少し微笑んだかと思うとその口からゴフッと大量の血を吐いた。
この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。
【お嬢様と従者による華麗なる後書き’】
(╹ω╹) 「お、お嬢様。手が!」
(●人●) 「んっ、これか? 戻ってこい、ミギー」
(╹ω╹) 「うえぇ、な、なんで腕が走ってるんですか? しかもくっついたし!」
(●人●) 「うむ、最近やっと分離できるようになったのだ。むっ、汚れているな。フキフキ」
(╹ω╹) 「分離!?」
و 「ツメタイ、シン○チ」
(╹ω╹) 「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!!」
(●人●) 「名前を間違えるのが珠に傷だがな」