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シンデレラになった化け物は灰かぶりの道を歩む  作者: ジルコ
第四章 シンデレラになった化け物は聖女と相対する
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第98話 戦争の始まり

 イオスは黙したままじっとこちらを見ている。少しでも気を抜けば一瞬でこちらへと詰め寄られそうなプレッシャーを受けながら、ニヤリとした笑みを浮かべてそれを受け流す。


 フロウラからコーラルがバジーレ王国の軍によって落とされたという話を聞いた時、私はどうやったらそんなことになるのかを考えた。コーラルは領都だけあって堅牢な造りになっている。それを落とすとなれば圧倒的な兵力で包囲するか、もしくは内部から崩すかどちらかだろう。

 そして友好国という立場を利用して戦ったと考えるのが自然だから十中八九内部からの切り崩しだろう。しかし内部から切り崩そうとしたとしても、イムル聖国との戦いで兵の数は減っているとはいえかなりの数の戦力がコーラルには残っているのだ。


 無理なくコーラルを占領するためにはある程度の規模の兵力が必要だ。しかもその戦力を万全の状態でコーラルまで維持する必要がある。道中で無駄な損耗をするわけにはいかない。

 そのためにはどうしたら良いか、何が必要かを考えたときにぱっと思いついたのが許可証を偽装することだった。


 今回こいつらが理由として使った戦争の援軍として、王子とその妃の護衛としてというのもそのための方便だったはずだ。しかしいくら理由を述べたとしても許可証は必要になる。友好国とは言え他国の軍が国境を越えるのだから当たり前だが。

 正規の手続きを踏んだ行軍ならばコーラルへと向かう途中の町などで補給や休息をとることも出来るからな。軍用物資の消耗も抑えられるし良いことづくめだ。


 だからもし本当にバジーレ王国がやってくるのであれば絶対に許可証を偽造してくる。だから私は一計を案じた。コーラルからラクスルへと向かう途中の町々の冒険者ギルドへと寄り依頼を出しておいたのだ。コーラル、ラクスルどちらに何かがあっても即座にわかるように。

 まあ冒険者だけに任せるのは心配なのでその町の領主に協力依頼して兵士も同行するようにしてもらったがな。冒険者を雇うだけでなく領主へも協力の対価として金を払ったからかなりの額になったがそれが報われた形だ。


「スカーレット領の戦時体制を把握しきれなかったか。いや、しかし……」


 ぽつりとイオスが呟きながら、こちらに向けていた剣を鞘へとおさめようとする。


「このまま帰れば戦争になることはない。友好国という関係はどうなるか……」

「お嬢様!」


 ギンッ、という金属同士がぶつかる音とともに掲げたバトルアックスに重い衝撃が走る。その先には剣でバトルアックスを弾き飛ばそうと力を込めているイオスの姿があった。


「よほど戦争がしたいらしいな」

「ほう、これに反応するか」


 感心したような顔で私を見るイオスを睨み付けながら足と腕に魔力をさらに集中させ、踏み込みと同時にバトルアックスを振り払う。イオスもそれに対抗するかと思ったのだがあっさりと力を抜き私が振り払った勢いを利用して大きく距離をとった。

 そして今度は本当に剣を鞘へと納めると私たちに背を向けてバジーレ王国軍へと向かって歩き始めた。


「どこへ行く?」

「この軍を率いているのは殿下だ。我々は殿下のお心のままに動くのみ」

「そうか。アレックス、上げろ。バジーレ王国はもはや敵だ」

「はい」


 私の問いかけに肩越しにこちらを振り返ったイオスの言葉と態度に覚悟を決める。そして指示に従いアレックスが上空へと向かって連続して3度魔法を放った。この合図はバジーレ王国が敵国として侵攻してきたことを伝達する合図だ。

 今日中にもコーラルへとこのことは伝わるはずだ。これで易々と陥落することはないだろう。


 バジーレ王国軍の動きに注意を払いながら私とアレックスもラクスルへと戻っていく。幸いなことに私たちを攻撃する様子はなかった。

 そしておよそ1時間後、私は防壁の上で、バジーレ王国からカラトリア王国への宣戦布告を聞くことになるのだった。





 ラクスルに属する騎士と兵士の数は合わせて百程度、それに対してバジーレ王国軍はおよそ7千もの数になる。そのうえコーラルを侵略するために選ばれたものばかりだろうからその質も大きく劣っているはずだ。

 防壁があるから数的優位を覆せるという話ではない。はっきりと言ってしまえば勝てる目算などまずないというのが現状だ。唯一の希望と言えばコーラルへバジーレ王国が裏切ったという報告が伝わったことで援軍が送られてくるかもしれないということだが、援軍が来るにしても最低でも20日はかかるだろう。そこまで籠城し続けることが出来れば良いのだが。


「可能性は限りなく薄いな」


 魔法を受け、ミシミシと音を立てる門の扉を眺めながら息を吐く。ボロボロだった防壁の補修は金に糸目をつけずに大盤振る舞いした結果、完全に近い状態にまで戻すことが出来た。しかしさすがに扉にまでは手が回らなかったからな。

 バジーレ王国が攻城兵器などまでは持ってこなかったこともあって現状はバジーレ王国側の出入り口とコーラル側の出入り口の二手に分かれてどうにかして門を破壊しようしている。対応するのが2か所で良かったと考えるべきか、集中しすぎて早く破壊されそうだと嘆くべきか。どちらだろうな。とは言えこうなった以上やるしかないのだが。


 私がいないもう一方の門はアレックスとフロウラに任せたからどうにかなるはずだ。アレックスには大量の人を殺すという辛い経験をさせることになる。それが残念だが、殺さなくてはこちらが殺されるのだから仕方がない。

 私にできるのはそのアレックスの思いが無駄にならないようにこの門を死守することだけだ。


「行くか」


 全身を黒の魔力で染め上げ、そして防壁から下へと飛び降りる。そこにいた兵士たちは上からの投石や弓矢、魔法などには気を付けていたようだが、まさか人が落ちてくるとは思っていなかったようで一瞬その動きが止まった。それは戦時においては致命的すぎる隙だった。

 バトルアックスを振り回してそこらにいる兵士たちを蹂躙していく。血煙があがり、鉄の匂いが体へとしみついていく。それが私の黒をさらに深く淀んだものへと変えていく。


「くっ、ククク、カカカッ」


 もろい。もろすぎる。この程度の戦力でコーラルを落とそうとしていたなんて、クリスを殺すつもりだったなんて。悲鳴を上げながら地面に転がる兵士の顔を踏み潰しながらも、あまりの弱さに笑いが止まらない。

 門の前にいた兵士たちを一掃し顔を上げると、まるで化け物を見るかのような恐怖を抱いたいくつもの視線が私へと突き刺さった。そちらへ向けて1歩踏み出すと、じりっとワタシを囲む包囲も下がり広がっていく。さらにもう1歩進むと包囲がさらに広がった。


「この程度の覚悟か……」


 高揚が消え去り、そして頭が急激に冷えていく。これ以上無理をする必要はない。あまりに長時間この状態で戦うのは私の体がもたないからな。

 戻ろうと視線を移したところですぐそばでこと切れている敵兵の持っていた槍が目に留まる。

 元持ち主の血にまみれたそれを拾い上げ、そして包囲している敵兵に向けて思いっきり投げた。槍は一人目の腹部を貫き、そのまま後ろにいた兵士も貫くと、3人目に半ば突き刺さったところでその勢いを止めた。

 3人の人間を貫いても壊れないとはなかなか良い槍だったな。


「門に近づけば死ぬ。覚えておけ」


 防壁の上から垂らされたロープを利用して駆けあがるようにしてその上へと戻る。私を狙って矢も放たれたようだが私の速度にはついてこられなかったようで、防壁に突き刺さっただけだった。


「お見事です」

「世辞は良い。それより見張りを頼む。何か動きがあったら教えてくれ。私は少し休む」


 出迎えてきた兵士に言葉を返しながら少しでも体力を回復させるために私は体を休めるのだった。

この後書きは本編のイメージを壊す恐れがあります。そういう事が嫌いな方は飛ばして下さい。


【お嬢様と従者による華麗なる後書き’】


(●人●) 「喜べ。無双の時間だぞ」

(╹ω╹) 「やってることはまごうことなき虐殺ですけどね」

(●人●) 「戦争とはそういうものだ」

(╹ω╹) 「それはその通りですけど」

(●人●) 「まあ本編では人が死ぬが、ここでは死んだとしてもお湯をかければ生き返るから安心だな」

(╹ω╹) 「そういえばそんな設定ありましたね」

(●人●) 「生き返るから安心だな」

(╹ω╹) 「えっと、とりあえず不穏な言葉を言いながら近寄らないでください」

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わりとゆるゆるな現代ダンジョンマスター物です。殺伐とはほぼ縁のないボケとツッコミのあるダンジョンの日常を描いています。

「攻略できない初心者ダンジョン」
https://ncode.syosetu.com/n4296fq/

少しでも気になった方は読んでみてください。

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